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第24話 前途多難を打ち砕け

 まず、千尋は教師によって配られた名簿で、自身のメンバーの名前を知った。


 二年生:ビリー・ロングスティア。

 三年生:クロス・クエラ・クルル。

 三年生:ノエル・エインズワース。


 見覚えの無い名前であり、間違いなく初対面。

 ただ、二年生のビリー・ロングスティアに関しては、一つだけ引っかかるものがあった。

 それはロングスティアのファミリーネームである。

 確か、四年生のマイクと同じファミリーネームであると千尋は記憶していた。


「兄弟? いや、でも、苗字が同じってことは割とあるからな」


 その時の千尋は、少し引っかかっただけで特に気にすることは無かった。

 それよりも、この後から始まる冒険祭の準備に関して気を向けていた。


「三年生が二人配置されている……うん、悪くない。本当は友達と一緒にやりたかったけど、流石にそれは偶然に期待し過ぎだし。可能な限り学年の被りは少なくするようにランダム配置されているらしいから、三年生が二人も入っている班は当たりの部類のはず」


 冒険祭に於いて肝心なのは、メンバーのバランスである。

 少なくとも、千尋はそう考えていた。

 戦闘特化だけで固まっても、宝の地図を解読できない。

 宝の地図を解読しても、戦闘力のある面子が居なければ妨害者を突破できない。

 故に千尋としては、三年生の一人が戦闘特化。もう一人が座学特化。自身と二年生の班員が、その二人をフォローしていく形式で進められればいいと考えていた。

 もちろん、これはあくまでも理想。

 例え、自分も含めた全員が戦闘特化だろうとも。自分以外が座学特化だとしても。

 千尋は自分の成果を勝ち取るため、全力を尽くすつもりだった。


「ひゃはっ! 堅牢極まりない鎧だなぁ、おい!!」

「…………」


 班員たちとの顔合わせの場所として指定された地下闘技場で、紫髪の男子生徒と白銀の全身鎧を纏う騎士が戦っている光景を見るまでは。


「ぶっ飛びなぁ!」


 紫髪の男子生徒は、機関銃の如く魔弾の雨を降り注がせる。

 しかも、無詠唱。魔弾の一つ一つが千尋のそれよりも遥かに強力の上、属性も同じものだけではなく多種多様な代物。雑多に見えて、一つ一つが精緻な魔力操作によって放たれた魔弾だ。


「…………」


 魔弾の雨に対抗するのは、無言の騎士。

 無言のまま、手のひらを前に向ける。

 ただそれだけのことで、魔弾の雨は消し飛ばされた。


「…………は? いや、嘘!? あれって……ただの魔力!?」


 千尋は魔弾の雨よりも、その現象にこそ驚愕した。

 何故ならば、精緻な魔弾の雨を吹き飛ばしたのは、酷過ぎるほどの力押しだったのだから。

 膨大過ぎるほどの魔力を押し付けて、無理やり魔術の形を崩壊させる。

 それによって、騎士は魔弾の雨を消し飛ばしたのだ。


「やっぱりなぁ! 明らかに人が溜め込めるオドの量を越えているだろ!?」

「…………」

「となると、手数よりもスピード勝負ってわけだ!」


 紫髪の男子生徒は、魔弾が効かないと理解すると、その場から消えた。

 否、違う。

 動き出したのだ、音速で。


「あれは、【韋駄天】!? どうして……いや、違う! 師匠も言ってた! 新しい魔術は解析されて、対策されるって!」


 紫髪の男子の男子は音速で騎士へと殴りかかり、騎士はそれを平然と受け止める。

 直後、凄まじいほどの衝撃波が闘技場内へと吹き荒れて。


「危ないっ!」

「ふへっ!?」


 その衝撃波が辿り着く前に、ぐいと手を引かれて千尋の体は一気に上空へと飛び上がった。


「駄目だよ! 超人同士の戦いを近場で見学するなんて! 普通は真っ先に逃げないと! それでも、どうしても見学したいなら、僕みたいに余波が届かない場所まで飛ばないと!」

「あ、え、すみません…………ええと、貴方は?」


 千尋は自分を庇い、上空まで引っ張り上げてくれた人物を見上げる。

 第一印象は、気弱な猫みたいなものだった。

 中性的な顔立ちに、猫背の低身長。

 くすんだ金髪に、常に何かを恐れているような鈍色の瞳。

 その態度はどこか、千尋の友達であるヒカリを連想させたが、何故か、心の中では『正反対だ』という印象を抱いた。その印象を抱いた理由もわからずに。


「僕はビリー・ロングスティア。二年生だよ」

「アタシは一年生の鈴木千尋です!」

「ああ、なるほど。君が例の最強の弟子か」


 千尋の名乗りに、猫背の先輩――ビリーはどこか納得したように頷く。


「確かに。君は師匠であるクロウ様を知っているから、あの超人たちにあまり恐れをなさないのかもしれないね。でも、まだ君の実力だと、あの二人の相手は難しいと思うよ?」

「いや、アタシは最初から戦うつもりはないというか……冒険祭の班の顔合わせに来たんですけど?」

「そっか。ちなみに僕は、班分けが発表された後にバックレようと思ったけど、ええとね、君が律儀にここに来る可能性も考えて、待機してたってわけだよ」

「……ええと、つまり? 心配してくれたんですか?」

「そりゃあね? 僕は君より弱いと思うけど、流石にほら、先輩だから」


 へにょり、と気弱に苦笑するビリー。

 強さとは正反対のその姿に、けれども千尋は好感を抱いた。

 少なくとも、闘技場で戦い続けている三年生二人よりは。


「でも、班の顔合わせは多分、無理。だって、クロスとノエルが顔を合わせちゃったからね」

「……問題がある先輩たちなので?」

「ノエルの方――白銀の騎士の方は無害だよ。ただ、その強さは三年生の中でも最強でね? それで、紫髪の男子の方……いや、性格には完全な男子じゃないんだけど、今は置いといて、あの突っかかっている男子の方がクロスって奴でね? 強い奴に挑みたがる戦闘ジャンキーなわけなんだよ」

「つまり?」

「あの戦いの決着が付かない限り、まともな話し合いにはならないよ」

「…………その、決着は?」

「少なくとも、今日中には終わらない。どっちも強いから」

「………………あの、明日の冒険祭って――」

「あははは」


 千尋の心配そうな視線に、ビリーは乾いた声で応える。


「僕と君の二人だけで行動する方が、はっきり言って無難だと思うよ?」


 それは、闘技場で戦う二人の問題児っぷりを窺わせる、諦観交じりの言葉だった。



●●●



 作戦を立てねばならない。

 千尋はクロスとノエルの力量を考えて、今の自分では仲裁することも出来ないだろうと判断した。

 仮に、不意打ちで【黒】を使ったとしても、余裕で対処される。

 今の千尋の練度では、一定以上の強者に対して、何の策も無しに【黒】を使っても無意味だということは、師匠であるクロウとの鍛錬で嫌というほど思い知っていた。


「二人を止める方法? ええと、正確に言うなら、クロスを止めればノエルは勝手に止まると思うから。そうそう、問題はどうやって戦闘ジャンキーのクロスを止めるのか? だと思うよ。え? 先輩二人の名前を呼び捨てにしている理由? 色々な理由で尊敬できないからかなぁ」


 だが、遠い目で呟くビリーの助言により、千尋は問題の核心を掴めている。

 戦闘ジャンキー、クロス。

 三年生の中でも、かなり強い戦闘特化の生徒。

 生憎、冒険祭の前日のため、さほど情報は集まらなかったが、周囲から危険人物扱いされていることと、自分よりも弱い相手とは戦わない。この二つについては調べ上げることができた。

 ただ、この情報だけでは明らかに足りない。

 クロスを止めるための情報が足りていない。

 更に言うならば、千尋はあまり賢い方ではないので、こういう作戦を立てる能力が足りていない。

 だが、千尋は凡人故に、己の不足を自覚しているのだ。


「ねぇねぇ、ヒカリ。見知らぬ生徒と組まされて、今にも死にそうな顔のヒカリ」

「…………なんですかぁー? これから私は、自分の意識を遮断して、魔道具による肉体の自動操縦だけで乗り切ろうと――」

「助け合おう! アタシがヒカリに無難なコミュの仕方を教えるから、ヒカリがアタシにとっておきの秘策を授けてよ!」


 だからこそ、千尋は自室に戻って来た時、軟体動物の如き有様でベッドに倒れているヒカリに助けを求めたのだ。

 優等生のフレイヤよりも、座学の成績に於いては遥かに上を行くヒカリに。


「えー、秘策を授けるのはいいのですが、そもそも私はコミュなんてしたくないのですが?」

「無難なコミュの仕方を覚えておけば、結果的は最低限の関りで冒険祭を乗り越えられるよ? 大体、魔道具の自動操縦なんて、三年生にバレるだろ」

「…………むぅ」


 千尋の説得により、ヒカリは渋々コミュの仕方を習いつつ、千尋に秘策を授けることになった。


「…………えっと、これで本当に?」

「どれだけ強い力を持っても、所詮は人間ですから。変に力で立ち向かうよりも、変化球の方が意外と相手のストライクゾーンに入るものですよ」


 そして、冒険祭の朝がやってくる。




 冒険祭に参加する者たちの中でのセオリーは、宝の地図を学校側から貰ったら、即座にその場から離れるというものがある。

 何故か? それは、『大外れ』の班の暴走に巻き込まれないためだ。

 意図的か、あるいは偶然か。

 冒険祭の班の組み合わせでは、毎年一組は『大外れ』が発生するのだ。

 そう――――宝の地図を受け取る前に、周囲に被害をもたらしながら戦闘を始める問題児たちが集められた班が。


「さぁ、リベンジだ! ノエル!!」

「…………」


 高速にして無尽の魔術を操るクロスと、堅牢にして不屈の騎士であるノエル。

 この二人の激突から逃れるために、多くの生徒は足早に地図の受け取り場所である校庭から逃げ去った。

 後に残ったのは、激闘を繰り広げる二人の超人と。


「火を完全に支配する! 円運動を極める! それこそがヒカリから教えてもらった料理の極意だぁ!」

「な、なんて美しい……っ! 卵が絡まった米粒が満月を描いている!?」


 何故か、料理漫画みたいなやり取りをしている千尋とビリーだった。


「そして、中華を一番美味しく食べる方法は! 冷める前に出来立てを食べること! さぁ、ビリー先輩! まだ料理の先生には及ばないけど! アタシなりの最高の炒飯だ!」

「お、黄金の輝き…………で、でも、僕は心配だ。こんな超人たちが戦っている脇で食べる料理なんて、いくら上手に出来ても、緊張で美味しく感じな――んまぁあああああいっ!!?」

「当然! アタシが泣いても特訓を止めさせてくれなかった料理の先生――ヒカリが辛うじて合格点を出した味だからな!」


 二人は激しい戦いの余波を魔術でシャットアウトして、中華料理を堪能している。


「「…………」」


 逃げ惑うならともかく、近場でそんな素っ頓狂な真似をされてしまえば、流石の超人二人であっても気にするものだ。

 無論、戦いの手は止めないが、戦い以外のことに関して意識が割かれてしまっている。


「…………あれは班の食料か?」


 しかも、ノエルは気づいた。

 ばくばく、もりもりと二人の腹の中に納まっているのは、学校側から支給された三日間の食料なのだと。

 ――――あれを全部食べられてしまえば、現地調達するしかない。


「はぁ!? マジかよ!? あいつら何をして……いや、止めるよりも、今はこの戦いを最後まで完遂したい――っておい!?」


 クロスは躊躇しながらも、戦闘を選んだ。

 けれども、ノエルは違う。

 ノエルはクロスが突っかかってくるから、仕方がなく相手をしてやっているに過ぎない。


「腹が減った」


 白銀の鎧が解除される。

 すると、そこには非武装のノエル――黒のショートカットに銀眼の美少女が現れて。


「戯れを続ける気はない。さっさと『妹』の方に変われ、狂犬」

「…………ちっ! あーあ、くそったれ!」


 一切容赦ない忠告により、流石のクロスも戦意を引っ込める他なかった。

 仮に、このまま問答無用で襲い掛かったとしても、待っているのは転移によるノエルの逃走のみ。それどころか、あまりにもノエルの機嫌を損ねると、今後は戦うことすらなく、ずっと逃げ回るかもしれない。

 そして何より。


「変わるさ、変わればいいだろ!? だけど、そこの炒飯を食ってからだ! くそが、なんだありゃあ!? 異様に腹が減る匂いを漂わせやがって!」


 千尋が作った料理は、戦意が消し飛ぶほどに美味しそうだったのだ。


 そう、ヒカリが千尋に託した秘策はつまり、こういうことだ。

 腹が減っては戦は出来ぬ。

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