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楪の家は、街の中心から離れた田舎町にあった。
楪が引き戸をガラガラと開けて、なかに入る。「ただいま」と言った彼のうしろに、夏澄はそろそろと着いていった。
そのときだ。
チャカチャカと聞き覚えのある音が聞こえる。
――こ、この音は……!?
爪がフローリングをひっかく音。
犬だ。犬がいたのである。
「んなっ――……」
思わず夏澄は声をあげる。
楪が「あれ、おまえ、犬ダメ?」と聞いてきた。
――ダメに決まっている。ご主人さまの犬はこの僕・マメだけなのに! この犬め、ご主人の寵愛を一身にうけて……! ご主人さまは、この犬をどう思っているの? 愛していたりす、
「よしよし、パン介。おっと、舐めるのはダメだって」
「あー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うわっ、なんだよ」
べろんべろんとそのコーギー――パン介は、楪の顔を舐めた。
強烈な嫉妬心を覚えて、思わず夏澄は叫んでしまう。
このイヌ! 舐めるな僕のご主人さまを!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
パン介は夏澄の殺気を感じ取ったのか、はたまた同族嫌悪か。うー、と唸って夏澄をにらみつける。
そんな二匹(?)の事情を知らない楪は、どうどう、と二人をたしなめるばかり。
「おまえ犬だめだったんだ」
「だっ……だめではないけど」
ここで引き下がるわけにはいかない。
この犬に知らしめてやるのだ。人間体を手に入れた僕こそが、楪の愛を受けるのだ!と。
夏澄がすたすたと家に入っていく楪についていけば、パン介がうー、と威嚇してくる。夏澄も負けずに声を出さずに威嚇仕返してやれば、パン介に「ワン!」と吠えられてしまった。それでも楪は二匹の攻防を無視している。
楪の家に行く途中に、居間があった。楪は居間に顔をだして「ただいま」と声をかける。そうすると、居間でくつろいでいた、楪の祖母と祖父と思われる二人が「おかえり」と返してくれていた。
「おや……ゆずちゃん。お友達かい」
「……ちがう」
「ふふ。ゆっくりしていってない」
嬉しそうな笑顔。
楪は居心地が悪そうな顔をして、そそくさと自分の部屋に向かっていった。




