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花火大会が始まるころになると、さらに人が増えてきた。花火の観覧席は有料だったので、夏澄たちは少し離れたところで見ることに。人ごみはすごいし、花火からは離れているしで、花火を楽しめるかというと微妙なところだった。とはいえ、この人混みのなかで小さく咲く花火を眺めるのもまた一興というところだろうか。
夏澄と楪がほかのメンバーたちと合流すると、案の定「なんで手を繋いでいるの」と笑われた。夏澄は「いやあ、離ればなれになりそうだったから」と照れながら言っているなか、楪は無言。それでも振りほどこうとはしなかったので、彼は照れていないのだろうか。
手を放すタイミングもつかめないまま、そのまま花火大会へ。ぎゅうぎゅうの人混みのなか、みんなで花火を見上げる。
ひゅう、ドン。ドンドン。ぱらぱら。
花火があがるたびに、わあ、と歓声があがった。遠く遠くで小さく見える花火も、なんだかんだで美しい。まとわりつくような暑さのなか、伝う汗も気にならないくらいに、花火に目を奪われる。
「――なあ、夏澄」
ぼそ、と楪が呟く。
夏澄はハッとして楪を見つめた。
ひゅう、ドンドン。ぱらぱら。ひゅう、ひゅう、どんどん。
「俺、最近夢にみるんだ」
「え?」
「小さな犬が、俺の周りでワンワンワンワン。それだけの夢」
――犬の夢?
それって、僕のこと?
「え、なんで……そんなこと、僕に?」
「べつに」
ひゅう、ドンドン。ぱらぱら……
花火がちらちらと瞬いて、夜空で万華鏡が回っているみたいだ。その光を浴びて、楪の顔は色とりどりに濡れる。
花火を眺めていた楪が、そ、と夏澄に顔を向ける。
「おまえが、あの犬に似ているってだけ。それだけの話」
そんな夢を見るのは、きっと。
まさかその夢が前世の話だなんて、楪は気付いていないだろう。自分の周りをぐるぐる回る犬が、自分の周りをぐるぐる回る夏澄みたいだと、そう思っただけ。
そんな話を、どうして今、したのだろう。
花火を見上げながら、夏澄は考える。
ぱち、と楪と夏澄の視線が交差して。ふい、と楪が視線を逸らしてまた花火を見て。
繋いでいた手がほどかれる。「あ」と夏澄が小さく声をあげたそのとき、ぽん、と夏澄の頭にその手がのった。
ぽんぽん。
久しぶりの、なでなで。大切な犬を撫でるときのような手つきで、楪が夏澄の頭を撫でる。
「……へへっ」
久しぶりで、嬉しくて。夏澄は零れるような笑い声をあげる。
それを見て――楪も、小さく微笑んだ。




