5
わたあめ、かき氷、焼きそば。ずらっと並ぶ屋台には、ずらっと人が並んでいた。夏澄と楪は離ればなれにならないようにお互いのことをチラチラと確認しながら「たこ焼き」を目指す。理由は夏澄がたこ焼きを食べたいからだ。
「楪。僕、きみに何か嫌なことしちゃったかな。あのときのこと、怒っている?」
「怒っていないって」
「でも……あれから、楪がよそよそしいっていうか」
「気のせいだろ」
夏澄の認識では「少し前に、楪と二人でスタバに行こうと言ったのに、女子たちの誘いを断れなかった」から楪が怒っている、というところだった。というより、あれから楪の態度が変わったのだから、それ以外に理由が考えられなかった。
しかし、楪は「違う」「怒っていない」という。もうわけがわからない。
「ねえ、楪。教えてよ。なんで、僕を避けるの」
「……」
夏澄が何度も何度も「どうして」と尋ねる。
楪もそろそろ白を切ることができなくなったのか。ぐ、と唇を噛んで、すねたような目で夏澄を見つめてきた。
「……俺より、女子と一緒にいたほうが、おまえは楽しいだろ」
「え?」
「さっきだって、女子に囲まれて楽しそうにしていたじゃないか」
「えっ……い、いや、それは……みんな、僕によくしてくれるし……楽しいといえば楽しいけれど……」
「……」
楪は言ったあとで後悔したのかもしれない。ばつが悪そうに視線を泳がせて、夏澄から目を逸らしてしまった。
「あッ……」
そのとき、どん、と楪に誰かがぶつかる。この大行列のなか、誰が誰にぶつかっているのかもわからない状態。少し距離ができてしまえば、あっという間に人の波に流されてしまう。
楪は波に逆らえなかったのか、どんどん夏澄から離れていってしまった。夏澄はハッとして、一歩、足を踏み出す。慌てて人ごみをかき分けるようにして、少し強引ながらも道を進み、そして、ハシッと楪の手を掴んだ。
「人っ……すごいね。あっという間に離ればなれになっちゃいそう」
「……」
はーっ、と夏澄が安心したように息を吐いて、あはは、と笑う。
楪はそんな夏澄を凝視して、ぽそ、と
「いなくなると思った」
と呟く。
「あはは、たしかに! 目を離したらお互いいなくなっちゃいそうだよね」
「俺はいなくならない」
「え?」
「俺はいなくならないよ。おまえが、いなくなると思った」
なぜだか、楪は何かを恐れるような顔をしている。
それほどに離ればなれになるのが怖かったのだろうか、と夏澄は焦ってしまった。気を抜いた自分が悪い。こんなに人がいるのに、ぼんやりとしていたから。謝らなきゃ、そう思ったけれど、口をついて出た言葉が、
「いなくならないよ」
だった。
「がんばって楪のこと捕まえたでしょ? いなくならないって。僕、人よりちょっと鼻がいいし! どんなに離れても、絶対に楪のことを捕まえるから!」
「……――き」
「え?」
「……うそつき」
楪の手が震える。
夏澄はとうとう楪の考えていることがわからなくなってしまった。
何を「うそ」だというのか。こうして手を掴んでいるというのに。
わけがわからなくなって。けれども、怒りはわいてこなかった。
楪は夏澄に手を掴まれたまま、大人しくしている。うつむいていて、その表情はわからない。それでも感じるのは、彼と出会ったときから感じていた、さみしさ。彼はいつも、どこか寂しそうだ。
「ねえ、楪。手、繋ごうよ」
「え……?」
「僕がいなくならないように、手、掴んでいて」
「……、」
楪が、そっと夏澄の手を握る。どこか、泣きそうな顔をしながら。
楪の手の熱を感じて、夏澄はニッと笑った。そんな夏澄を見て、また、楪は瞳を震わせる。その瞳には、屋台の光が差し込んで。きらきらと輝くその瞳は、夜のなかで輝く星のようだ。
「いこう、楪。たこ焼き売れきれちゃうかも! あ、そうだ。楪は何を食べたい?」
「……わたがし」
「じゃあわたがし優先しよっか!」
「……いい。先、たこ焼きで……」
きゅ、とお互いの手に力がこもる。
二人は夜を泳ぐように、お祭りに紛れていった。




