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犬が転生したら飼い主と同級生になった件  作者: さく
第三章

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24/43

8

 自宅に着いて、ご飯を食べて、シャワーを浴びて。日々のルーティンをこなしたら、夜になった。本でも読もうかとベッドに転がったところで、スマートフォンの通知に気付く。


 夏澄からだ。


 ……この時間まで、彼は女子たちと遊んでいたのだろうか。


 なんとなく憂鬱な気持ちになりながら、楪は通知を開く。



『楪! さっきはごめんね!』



 なぜ、夏澄は謝っているのだろう。


 謝るのは俺のほう。――それは、楪も理解していた。


 楽しい雰囲気をぶち壊しにするようにあの場から逃げ出して。夏澄が追いかけてきてくれたのに、彼の気持ちに応えることもなく。彼は何度も手を差し伸べてくれたというのに、一度も彼の手を掴もうとしなかった。


 けれども、怖い。


 もしも、夏澄と友達になったとして。親友になったとして。いずれ彼が自分のもとを離れてゆく未来が怖い。


 失うのが怖いから、はじめから突き放す。


 そんな楪の性分は、べったりと心の奥にこびりついていて。今更、変えることなんてできなかった。



『何が?』



 ああ……。


 なんで、こんな言葉しか返せないのだろう。


 どしりと重石がのしかかってくるかのような自己嫌悪。自分自身がどんどん嫌になる。


 はやく、夏澄。俺のことなんて嫌ってよ。離れていってよ。


 ぐるぐると冷たい霧が心のなかに立ちこめたとき――るるる、とスマートフォンが鳴る。夏澄から電話がかかってきたのだ。


 ドクンドクン、と高鳴る胸を押さえて、楪はそっとスマートフォンを手に取る。



「……はい」


『楪ー! 怒ってる? 怒っているよね。ごめんね、楪ー!』


「いや、怒ってなんか……」


『さきに楪と約束していたのに……いやだったよね、楪。あっ、あの子たちは悪くないんだよ、ちゃんと説明できなかった僕が悪いんだ。ごめんね、楪』



 本当に、夏澄は素直なやつだ。


 こんなにいいやつが、どうして俺なんかと一緒にいるのだろう。


 夏澄が好きなればなるほど、苦しくなる。


 夏澄にはもっと相応しい人がいるんだろうな、と考えて。


 ずっと自分の傍にいてくれるわけがないのだと考えて。



「夏澄。俺のことなんて、放っておいていいよ。俺と遊ぶより、あの子たちと遊んだほうが絶対に楽しい。俺は気が利かないし、話もつまらない。だから――」


『楪! なんでそんなこと言うの? いやだよ、そんなこと言われたら……』


「? 何が?」


『僕は楪がいい。楪と一緒にいたいから、楪と一緒にいる。それに、楪が楪のこと悪く言うのもいや。僕が好きな楪を、否定しないでほしい」


「……」



 ああ、眩しいな。


 そう思って、ふ、と楪は笑う。



「……電話、きるから。おやすみ、夏澄」


『えっ……、うん。おやすみ!』



 ブツ、と通話を切る。


 その音と共に、心の中にシャッターがドスンと落ちたような気がした。


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