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電車を降りてからは、楪はぼんやりと歩いていた。
頭のなかは、夏澄のことでいっぱい。
女子と一緒にいたのに、……彼は、彼女たちを振り切ってきたとでもいうのだろうか。この年頃の男子なんて、女子と一緒にいたほうが楽しいだろうに。彼女たちの誘いを断ってまで、なんで追いかけてきたのだろう。
彼も――俺のもとから去る、その一人だと思っていたのに。
「――おっと、楪じゃん」
「……、」
歩いていると、声をかけてくる青年がいた。
午後の日差しに照らされて笑う彼は、[[rb:深紅 > しんく]]という名前の青年。この辺に住んでいるらしい怪しいヤツ。びっくりするくらいに顔立ちが整っているので、見るたびに怖じ気づいてしまう。彼はたまに現われては、楪に声をかけてきた。
「どうしたんだよ、浮かない顔をして」
「べつに……」
「べつにってことねえだろ。彼女にでもフられたか~?」
「彼女なんていませんよ」
「じゃあ、彼氏?」
「はあっ?」
つまらない冗談だ。
冗談だけど――ぱ、と夏澄の顔が頭に浮かんできてしまった。そんな自分に驚いて、楪は言ったのだ。「はあっ?」と。
「あんた、本当になんなんですか。怪しいですよ」
「通りすがりの天使様だよ」
「意味わかんな……」
天使といえば、夏澄も天使の話をしていた。粗雑だなんとかかんとかと。
――ああ、また夏澄のことを考えて。俺はどうにかしている。
「オレさまになんでも相談してみろよ、話くらい聞いてやるぜ?」
「……」
マジで意味不明。
深紅はいつでも怪しさたっぷりだが、今日に限ってはありがたい存在かもしれない。
頭のなかがモヤモヤとして晴れないのだ。自分で自分が何を考えているのかわからなくて、頭がおかしくなりそうになっている。
夏澄のことばっかり考えて。彼がいなくなるのが怖くて彼とは距離を取りたいのに。それなのに、電車のドア越しに見た彼が忘れられなくて。
「……あのさ」
楪はうつむきながらつぶやく。
「友達との関係に永遠ってあるの?」
「ほお?」
「……そいつ、俺にいっつもつきまとってきて。友達になってやってもいいかなって思うんだけど……。どうせ、いつか、そいつは俺から離れていくと思うんだ」
「なんでそう思んだよ」
「……あいつが、男だから。結局、男にとってのイチバンって女だろ。結婚できるのは、女とだけだ。奥さんや、子どもがイチバンになる。そんなやつと、友達になる意味ってあるのか? どうせ、俺のことは忘れていくだろうし……そういうことがなかったとして、……もしかしたら、……事故にあって、死――……」
「――永遠ならあるさ」
楪の言葉を遮るように深紅が言う。
「おまえが夏澄と出会った時点で、おまえと夏澄の永遠が始まる。どんな出会いも、どんな瞬間も、おまえという存在がある限り、それは永遠だ」
「……難しいこと言いますね」
「ふっふーん。簡単に言ってあげよう。今を精一杯生きろ、少年! あとのことなんて考えないでさ!」
「……」
なーはっはっは! と笑って、深紅はどこかへ言ってしまった。
楪は深紅の背中を見つめて、ため息をつく。結局あの人はわけのわからない人だ。
自宅の屋根が見えてきた。あともう少しで着く――というところで、ふと楪は思う。
「あれっ……? 俺、深紅さんに夏澄の名前教えたっけ……?」




