1
おいで、マメ。こっち、こっち。
手招きをする少年に向かって、犬が駆ける。
名前は、マメ。犬種は柴犬。年齢はおそらく5歳。
わんわん、と吠えて、マメは少年に抱きついた。少年はくすぐったそうに笑っている。
マメにとって何よりも大切なもの。それが、少年だった。マメは少年と二人きりで、一緒に生きてきたのである。
少年には親が居なかった。少年の親は、流行病で二人とも死んでしまった。マメは少年にとって、たった一人の家族だった。
「おい、待て、クソガキ!」
生きるために、少年は必死だった。食べ物を盗んだこともある。ちょんまげを結った男がかんかんに怒って、少年に暴力を振るったこともあった。それでも、そうしなければ、少年は生きていけなかった。
必死に、必死に、生きて。そして。マメは、病にかかってしまう。
少年が顔をずるずるに濡らしながら大泣きした。
どうして、どうして。どうして、おれよりも早く死んじゃうの。ねえ、おきて。おきてよ、マメ。おれをおいていかないで。
遠くなる意識のなか、マメはずっと少年の顔を見つめていた。
ごめん。ごめんね、ご主人さま。もしも生まれ変わったら、また、ご主人さまに会いにいくから。今度は、一人にしないから。ごめんね、ごめんね。
神様に祈る。今度こそ、ご主人さまを幸せにしてくださいと。




