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その日は、教室がいつもよりも騒がしかった。それもそのはず、転校生がやってくるのである。
窓際の席に座る少年は、外を眺めながらぼんやりとしている。朝の時間は清涼で、好きだった。けれどもその日は教室がざわついていて、とてもじゃないが落ち着けるような空気じゃない。本を読もうにも誰かが大声でしゃべっているものだから、集中できなかった。
ガラリと扉が開いて、一斉に生徒たちが入ってきた教師を見つめる。その後ろには、本日の主役――転校生がいた。
「えっ……イケメンじゃない……?」
「背、高ェー……」
少年は、前髪越しに転校生を見つめる。
ああ、ようやく俺がこのクラスでの立ち振る舞いに慣れてきたところだというのに。おまえのせいで、クラスが騒がしくなりそうだ。そんなことを思って。
教師が黒板に転校生の名前を書く。乙津 夏澄。少年が彼の名前を知ったところで――夏澄が、少年を見つめた。
(えっ、俺を見た――……?)
「――ご主人さまっ!」
突然、転校生は声をあげる。「ご主人さま」と。
およそ教室には似つかわしくないその言葉。誰もが唖然としていれば、夏澄がつかつかと少年の前にやってきた。
「へっ……」
「ご主人さまーっ! 会いたかった!」
夏澄が少年に抱きつく。
音を立てて崩れた静かなる日々。わけのわからない転校生に、少年の青春は引っかき回されることになったのである。




