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昼休みになると、相変わらず楪は屋上へ向かった。特に楪は夏澄のことを待ってくれているというわけでもなかったので、夏澄は勝手に楪に着いていく。
屋上に着くと、楪はちらりと夏澄に視線をやった。「なんでいんの?」と言われたので、「着いてきた!」と返す。
楪は昨日と同じように、コンビニの袋を持っていた。なかには、昨日とは違うパン。ソーセージパンとあんこバターコッペパン。楪がソーセージパンを食べ始めたので、夏澄も弁当箱を開いてご飯を食べ始める。
「おまえはさ、俺と昼休みを一緒に過ごす必要ないだろ」
楪から話しかけてきたと思えば、なんとも後ろ向きな言葉。しかし、夏澄は話しかけられたことが嬉しかった。嬉々としながら答える。
「なんで? 僕は楪と一緒に食べたいよ!」
「クラスの女子にあれだけきゃーきゃーされているんだから、女子とも食べればいいじゃん」
「……女の子? べつに、興味ないし……」
「おまえ、なにげに酷いやつだな」
ひどいやつ、と言われてもピンとこない。
興味ないものは興味ないのだ。今まで、彼女もできたことがなかった。だって、元々は犬なのだ。人間の雌に興味を抱けるかといったら……。夏澄は体こそは人間の男性なので、やろうと思えばことに及べるだろうが、女性を好きになれるかどうかは別の話だ。
――あれ、そう考えると。誰かと番になるって、結構難しいのでは!?
「楪!」
「うわっ、急になんだよ!」
「僕、彼女できないんだけど! どうすればいいかな!?」
「はあっ? 作ればいいだろ。いくらでも相手いるんだから、おまえは!」
「無理だよ! 僕が興味を持てる人間なんて……人間、……」
ぐるぐると考える。
このまま、誰とも番にならずに生きるのだろうか。
とはいっても、人間に興味を抱くのがどうしても難しい。
――いや、興味を抱ける人間が一人だけ……
「楪!」
「いちいちうるさい! なんだよ」
「僕と番になってくれませんか」
「……な、なんだって?」
「僕、きみのことなら好きになれるんだ。だから、僕と番に――」
スパーン!と何かで頬をひっぱたかれた。あんこバターコッペパンだ。
痛くはないが衝撃を受けて、夏澄はぽかーんとしてしまった。なんだか自分がとんでもなく変なことを言ったような気がする。
「おまえ、怖いんだよ! 昨日の今日で番ってなんだんだ!」
「……な、なんでしょうね」
「なんでしょうねじゃねー! 俺が聞いているんだよ!」
番……番!?
本当に僕は何を言っているんだ?
番といったら……交尾を、楪と……
「うわああああああああああああ!!!!!!」
「うるさっ! おまえキモいって!」
「すみません、すみません、僕はご主人さまでなんてことを考えて……」
「だからそのご主人さまってなんだよ!」
「あああああ……自己嫌悪で頭がおかしくなりそう……」
楪はドン引きといった様子で、ずりずりと夏澄から距離を取り始める。
夏澄はというと、頭を抱えてうずくまっていた。
一瞬でも楪と「そういったこと」をする妄想をしてしまった自分が忌まわしい。敬愛するご主人さまになんたる不敬。「ちょっとアリ」とか思ってしまったのだから、本当に罰当たりな犬だ僕は。
楪はそんな夏澄を軽蔑するような眼差しで見つめながら、夏澄を殴ったあんこバターコッペパンを開封して食べ始める。
「ねえ、楪……ゆるして……ほんの一時の気の迷いなんだ」
「どうでもいいよ。キモいのはもとからわかっていたし」
「ホント!? 許してくれる!? うれしい!」
「うざ……」
ぴよっ! と顔をあげた夏澄を無視して、楪はパンを食べていた。夏澄はそんな楪の隣にニコニコ顔で座り直して、お弁当を食べ始めるのだった。




