【第六話「2on2」】③
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望。
現在3人目のチームメンバーを探している。
親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
お嬢様:名前はライサ。太陽しし座、月牡羊座、鞭と強烈な雷を使う。
アレッタのチームメンバー。
防御手段は、雷幕結界。近接すれば近接するほど相手は大ダメージ。
長く美しい髪と強烈な釣り目が特徴。気品がある。
相手を不快にしないお嬢様言葉が特徴、作中5本の指に入る美人キャラ。
精霊は雷雲を纏ったユニコーン型。
幸運娘:名前はアレッタ。太陽いて座、月双子座。精霊はニワトリ型。
アバターはニワトリっぽい大きめのフードのライサのチームメンバー。
武器は大弓、防御手段は高硬度の卵型のシェルターを使う。
高火力なので遠距離戦でアレッタを倒そうと思うのはやめた方がよい。
陽気な性格の頭残念キャラだが、作中5本の指に入るラッキーキャラ。
口を閉じて髪を伸ばして上品な服を着たら超絶美人。
◆リゲルとライサのタイマン
風が止んでいた。鞭が、雷だけでなく空気そのものを支配していた。
雷の海のただ中に、リゲルはひとり立っていた。
瓦礫の残骸がちらつく視界の向こう――
白銀の鞭を手にした少女が、微笑を浮かべて待っている。
「……まさか、本当に一人で来るとは思いませんでしたわ」
ライサの目には、あきれと、わずかな興味が交錯していた。
「そんな剣一本で、私に勝てるとでも?」
彼女の手元、紫に光る鞭がまるで重力を拒むように浮かんでいた。
それは、強者の余裕を纏った動きだった。
一方のリゲルは、両腕を構え、呼吸を深く沈めていた。
「……勝てるなんて、思ってないよ」
「……でも――食い込ませるくらいは、できる」
彼の声は震えていなかった。
ただ、内なる緊張だけが、汗に変わって頬を伝う。
ライサの眉がわずかに動いた直後、鞭が閃く。
ビシィッ!
電撃を帯びた白銀の軌跡が、空気を裂いた。
リゲルはギリギリの間合いでそれを受け流す。
しなる剣の特性――刃の中心が柔軟に曲がり、衝撃を吸収しつつ反動で跳ね返す――を活かした防御だった。
そして、剣が返る――
風を裂くように、ライサの右肩を狙った一閃。
「……ッ!」
ライサは即座に身をひねって回避する。
服の布がわずかに裂け、淡く白い肌が一瞬のぞいた。
リゲルの狙いは、確かに鋭かった。
「これが実物の、しなる剣、ね。なるほど……少しは遊べるかもしれません。」
だが、彼女は涼やかに鞭を振るう。
雷光がその軌跡にまとわりつき、結界内の空気を震わせる。
「でも――甘いですわ」
次の一撃。鞭が大きく振るわれ、しなる剣と激突する。
衝撃は互角に見えたが、鞭の長さがわずかに勝る。
――剣が、届かない。
リゲルは体勢を崩しながらも剣を回し、再び急所を狙う。
だが、読み切られていた。
バシィッ!
鞭が絡み、剣の動きを封じた。
(まずい……)
防戦一方に追い込まれていく。
鞭の軌道はまるで“見えていた”かのような精密さで、彼の攻め筋を封じていた。
さらに――
(……体が、重い)
リゲルは小さく歯を食いしばる。
雷幕結界の内周に踏み込むたび、魔力の流れが不自然に鈍る。
微細な指先のコントロールが、まるで雷場に吸い取られているかのようだった。
腕がしびれる。呼吸が浅くなる。
何より、体表を這う微細な放電――
(この結界、いるだけで、アバターが削られる……!)
無防備に突入すれば、接触前に“焼かれる”。
ライサの本質は鞭ではない。
この雷場そのものが、彼女の「武器」だった。
スッ――
ライサの鞭が、空気を裂いた。
その軌跡を見切って、リゲルが最小限のステップで踏み込む。
「……ッ!」
鋭く突き出されたしなる剣が、雷結界の外周に触れかけた瞬間――
ビシィッ!!
鞭がしなる剣に絡みついた。
「……さようなら」
雷が弾けた。
雷が剣を伝ってリゲルのアバターを焼き、空気が瞬時に乾いた。
空に漂っていた羽も、黒い砂のように崩れ落ちた。
剣から腕、胴体へと、電撃が一気に流れ込む。
「ぐ、あっ……!」
リゲルの体がのけ反る。その一撃は、想定以上に深く、鋭かった。
剣に絡みついたままの鞭から、追撃の雷が奔る。
直後――
ヒュン……パラパラ……。
空に漂っていた“羽”たちが、ふっと力を失い、消えていく。
そのことは、苦労してスナイパーに付着させた羽をも消滅させることを意味していた。
「……っ、羽が……?」
ライサがわずかに眉を動かす。
雷撃が直撃したことで、リゲルの魔力出力に大きな破綻が生じた。
アレッタの周囲に展開されていた撹乱用の《風印羽》の大部分が、構造維持を失って霧散したのだ。
「一発でこれ……本体に、来たわね」
「これで、アレッタも動けるようになります。そうなると、貴方の相棒もこれで返り討ちね」
ライサの目が、冷たく光る。
「終わらせてあげますわ。今度こそ、跡形もなく」
リゲルは膝をつきかけながらも、しなる剣を構え直した。
(まだ、立てる……まだ、剣は――)
「……まだ、震えてない。手は……まだ、離してない」
そう口にしてはいたが、剣の切先が、震えているのか、視界が歪んでいるのか、もはや判別がつかなかった。
雷の干渉、鞭の直撃、そして羽の喪失――
リゲルは、今、限界の縁に立っていた。
あと一度――鞭が振るわれれば、確実に意識を落とす。
そのことを、誰より彼自身が理解していた。
アバターが、もう限界に近い。
だがそれでも、彼は退がらなかった。
「いいわ、その目。絶望の味が、見え隠れしてきた」
ライサの声は、あくまで優雅だった。
その指先には、再び雷光が集まる。
「次で終わらせてあげる。せいぜい、悔いのない一瞬を味わって」
……せめて、アレッタについている1枚だけは……
風が止み、空気が張り詰めた刹那、リゲルが両腕を広げた。
肩口から、全ビットが一斉に展開される。
まるで空間そのものを制圧するかのような、輝きの群れ。
紫電を纏ったライサが冷笑する。
「……その程度の数撃、意味などありませんわ」
だが、リゲルは応じない。
彼はゆっくりと指を握り、すべてのビットを――一点へ集束させた。
その照準は、明らかに高台の“味方”、ハクの分身に向けられていた。
「……!?」
ライサの目がわずかに揺れる。
それでもリゲルは、静かに囁いた。
「無駄なんかじゃない……これは、“合わせる”ための一撃だ」
瞬間、蒼白の光が収束し、一直線の閃光が空を裂く。
狙いは確かに、ハクの“輝水の分身”。
アレッタの眼前で、それはひとつの水面のように揺れ、次の瞬間――
鏡のように跳ね返された。
疾走する光の軌道が、アレッタの視界いっぱいに広がる。
◆クライマックス
《エッグ・ドーム》の内側で、アレッタはじっと息を潜めていた。
外の世界は、なおも羽の粉塵が漂っている。
(……落ち着いて、落ち着いて……視界が、まだ歪んでる)
ゆっくりと呼吸を整え、ドームの外を一瞥する。
空間は静まり返っていた――ように、見えた。
(撃たなきゃ。……でも、本当に見えてる?)
やがて、突然、ほとんどの羽が消滅する。
ライサがリゲルを今度こそ倒したのかもしれない。
そこでようやく、彼女はドームを解除する。
再び高台の縁へと這い出し、震える手で弓を持ち直す。
引き絞ったその先にあったのは――撃破したはずの“分身を張り直したハクの影”。
(なんで……?)
一度消えたはずの影が、なぜそこに? 混乱が、胸の奥をかすかに刺す。
でも、判断は速かった。
いまこの瞬間、“撃てる”のは自分だけ。
あとは、仕留めるだけ――
「これで、終わり!」
アレッタは矢を放った。
放たれた光の矢は、まっすぐに飛ぶ。
高精度の照準と、魔力干渉に耐えた精神力の結晶。
風を割くように飛翔し、ハクの影に命中した――はずだった。
だが。
分身の表面が、わずかに揺れた。
矢によってもたらされたのとは別の水面のようなその波紋が、次の瞬間――“鏡”へと変貌した。
ひとつの波紋が、アレッタの方へと跳ね返る。
その軌道は――
まっすぐ、アレッタの胸元へと伸びていた。
「――……ッ!?」
反応は、できなかった。
ハクの分身によって反射された高出力の光線が、正面から彼女のアバターを貫いた。
音も、痛みもなかった。ただ、視界の奥が白く弾ける。
(あ……)
視界の奥が白く弾け、意識が遠のく。
その肩に、最後の一枚――白い羽が、ひとひら舞い降りた。
高台に、白い光が収束する。
アレッタのアバターが、静かに光の粒となって消えていく。
「やられたの・・・?」
かすれた声がドームの名残から零れた刹那、観客席がどよめいた。
そして――雷結界の正面に立ち尽くしていたリゲルが、静かに息を吐いた。
その眼前では、ライサが最後の一撃を放つべく、鞭を構えていた。
だが、視界の隅に――
さっきまで見えていた“高台の光”が、もう存在しないことに、ライサは気づく。
わずかに、眉が動いた。
「なにを、したの……?」
リゲルは、答えなかった。
ただ、肩の上に漂っていた最後のビットが、空中でふっと弾けた。
高台に立っていた光が、消えた。
空に舞っていた羽も、すべて霧のように溶けていく。
アレッタのアバターは、もう存在しない。
観客席にざわめきが走る。
そして――ライサの目が、わずかに細められた。
ライサは静かに微笑んだ。
けれど、その声には体温がなかった。
「アレッタを・・・落としたのね。――それで、勝ったつもり?」
だが、その声に感情はなかった。
紫電が再びしなり、鞭の軌道が空を裂く。
「でも、もう遅い。あなたはもう、動けないはず」
事実、リゲルのアバターは、すでに限界に近かった。
腕の震えは止まらず、剣を握る指先からは淡く火花が散っている。
それでも――彼は立っていた。
震える脚で、一歩、前に出る。
「……僕は……まだ終わってない」
しなる剣を、低く構える。
その刃は、さっきまでより――わずかに短く見えた。
ライサの視線が、それを見切る。
「ふふ、そんな短い剣で届くはずが――」
瞬間、リゲルの足が弾けた。
風をまとい、一歩で間合いを詰める。
ライサの脳が反応し、鞭を巻きつけようとした、その刹那――
剣の長さが、視認より一歩分、長く“伸びた”。
「なっ――」
ライサの目が見開かれる。
届くはずのない間合いから、刃が肩口に届く。
ライサは、刹那の反応で身体をひねる。紙一重で刃を避けた――
だが、その一歩が、雷結界の縁だった。
足裏に、空間の“途切れ”が走る。
ほんのわずかに体勢が崩れたその瞬間――彼女の背後に、誰かがいた。
だがそれは――計算された誘導だった。
彼女が後退したその背後、雷結界の縁に。
“誰もいないはず”の場所に。
輝水の被膜をアバターの全身に覆って絶縁処理を施された本物のハクが、待っていた。
ハクの姿は、ライサの視界にすら映らなかった。
それほどまでに、彼の動きは雷場に溶け込んでいた。
その背に、逆手に握られた輝水の双剣。
発動と同時に、水膜がはじけ、雷気を打ち消す閃光が弾けた。
「――見えてるよ、ここだけは」
背中から、鋭く、静かに。
両の刃が、ライサのアバターを貫いた。
紫電が散り、空気が爆ぜる。
ライサの身体が浮き、弾けるように崩れ落ちていく。
彼女の鞭が、地に落ちて、微かに光を残した。
そして――
「試合終了」のアナウンスが、静かに響いた。
廃墟フィールドに、風が、舞台に戻ってきた。
その風に導かれるように、空に残っていた最後の羽が、ゆっくりと円を描いた。
リゲルは、剣を地面に突き立て、ようやく膝をついた。
雷の名残が、まだアバターに刺さるようだった。
「……ギリギリ、だったな」
ハクの声が、背後から聞こえる。
振り返ると、彼のアバターはまだ崩れずに残っていた。
輝水のコーティングは、もう消えかけている。
リゲルは、小さくうなずいた。
「……でも、間に合った」
そして制圧ポイントには、最後の羽がひとつ――
風に乗って、誰にも気づかれず、ゆるやかに旋回していた。




