【第六話「2on2」】②
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
戦術家だが感情に流されやすい。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望。
現在3人目のチームメンバーを探している。
親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
お嬢様:名前はライサ。太陽しし座、月牡羊座、鞭と強烈な雷を使う。
アレッタのチームメンバー。
防御手段は、雷幕結界。近接すれば近接するほど相手は大ダメージ。
長く美しい髪と強烈な釣り目が特徴。気品がある。
相手を不快にしないお嬢様言葉が特徴、作中5本の指に入る美人キャラ。
精霊は雷雲を纏ったユニコーン型。
幸運娘:名前はアレッタ。太陽いて座、月双子座。精霊はニワトリ型。
アバターはニワトリっぽい大きめのフードのライサのチームメンバー。
武器は大弓、防御手段は高硬度の卵型のシェルターを使う。
高火力なので遠距離戦でアレッタを倒そうと思うのはやめた方がよい。
陽気な性格の頭残念キャラだが、作中5本の指に入るラッキーキャラ。
口を閉じて髪を伸ばして上品な服を着たら超絶美人。
◆合流地点
崩れかけた高層ビルの裏路地で、リゲルとハクは静かに合流した。
「……遅かったね。けど、読めたよ」
ハクが低く呟きながら、リゲルに小さく目配せを送る。
「アレッタの位置、わかった。……たぶん、北東最奥のスナイパーポイント。こっちの風が、一枚だけ“引っかかった”」
「羽、か。……本当に、ついたんだな」
リゲルが頷く。
そこは、廃墟群の地形の中でも最も射界と遮蔽のバランスに優れた“強ポジ”。
アレッタなら必ず取る、と予想していた場所だった。
リゲルは瞬時に戦術構成を切り替える。
「ハク、……君の“分身”、今出せる?」
「俺もそれを考えてた。
もし、本体が一撃でも食らったら僕も危ない。あれ、直撃したら普通に“即退場レベル”の火力だ」
アローレインを間近で目の当たりにしたハクの声に、珍しく緊張が滲む。
それもそのはずだった。
リゲルたちはまだ知らないが、アレッタの矢は、リゲルが全ビットを一点に集中して形成する防壁よりも、容易く貫通する。
精密狙撃というより、貫通力特化の“超質量弾”。
しかもそれを、ほぼ無音で撃ち出せる。
「それでも、撃たせなきゃ進まない。狙撃主の矢は“撃った後”に隙が生まれるから」
「了解。……囮、出すよ」
ハクが掌を前にかざすと、煌めく水の粒子が一体の“自分”を形作る。
その動きは本物と遜色なく、あえて重心を少しずらし、“手負いの兵”のように振る舞わせた。
リゲルから共有された“羽の反応位置”――それを中心に、まるで「油断して立ち止まった敵兵」のような挙動をさせる。
――そして。
ヒュッッッッ――!!!
空気が引き裂かれた。
直後、閃光にも似た白い軌道が分身の眉間を穿つ。
ズバァァァァンッ!!!
分身が砕け、水飛沫のように四散する。
だが、それだけでは終わらなかった。
分身の爆裂の余波――水の粒子がマナごと吹き飛ばされ、近くの瓦礫に閃光反応が跳ねた。
熱波と衝撃が一瞬だけ領域を包み、リゲルが咄嗟に身を低くする。
「っ、危な……っ!」
リゲルの肩をかすめるように、熱の残滓が滑っていった。
もし防御ビットを一枚でも使っていなければ、今ので肩ごと吹き飛ばされていた。
「これが……アレッタの矢……」
リゲルは冷や汗を垂らしながら、矢の到達角と射線を即座に再計算する。
◆北東高台、狙撃主アレッタ。
「……よし、やった!」
白いフードの奥で笑みを浮かべる彼女は、分身が崩れたのを見て、“狙撃成功”と確信した。
だがその瞬間――
ヒュッ……!
静かに、だが確実に、一矢が上空から降ってきた。
ハクの“分身矢”。
その角度は、リゲルの羽から得た精密座標に基づく、地形ごと読み切った反撃。
「っ――」
まさか。この場所が読まれた?
背筋に、氷のような汗が這い上がる。
完璧だったはずだ。
地形も、カモフラージュも、射線も。
なのに、今――
矢は、真上から降ってきた。
ほんの一瞬、思考が崩れる。
そのわずかな隙に、アレッタの体勢が傾き、右足が瓦礫に引っかかった。
「きゃっ……!」
崩れる。
倒れる。
その衝撃で、白いフードの肩口にくっついていた小さな羽――
《風印羽》が、砕けた。
ピシリ。
割れた羽の破片が、繊維の奥にさらに深く食い込む。
しかし幸い、フードには最低限の防御魔力があったため、アバターへのダメージには至らない。
アレッタはそれに気づかず、急ぎ姿勢を立て直す。
「……ふ、ふーっ……さっきの矢は何?アバターにパッシブ能力でもついてた?でも、もうこっちは仕留めたから……」
そう、彼女はまだ“自分が優勢だ”と信じていた。
だが――リゲルは、その破片の位置を、すでに“魔力感知で特定済み”だった。
次の一手が、刺さるべき場所に向かうまで、もう――あと少し。
「リゲル、正確な位置を特定したよ」
ぴーちゃんが脳内でそう呟くと、背中の孔雀模様が一瞬だけ光を放つ。
風が流れ出す。だが、それは耳に聞こえるような風音ではない。
意志ある微風――指先で操れる精密な風だった。
散布してアレッタのいる高台の奥に集合させていた大量の羽を、アレッタのいる建物の周辺に移動させて、正面以外から包囲するのだ。
(正面から狙ってるなら、背後と左右の意識は甘いはず)
リゲルはそう確信し、静かに羽を移動させた。
風は、羽を決して揺らさない。
あくまで“漂わせる”ように――だが、その場に“いる”という気配だけは、確実に残るように。
(この気配は、いつか“本物”に変わる)
リゲルにとって、戦術とは“情報と空気のゲーム”だった。
アレッタは、相変わらず建物の正面窓から、ライサの周囲を警戒している。
完璧な射線、射界、距離――だが潜伏する建物の正面以外の全ての窓の外に羽が漂っている。
本人はまだ気づかない。
けれど、ほんのわずか、背中に“風のような気配”が忍び寄る。
そう思って、再び前方に意識を戻す。
だが、リゲルの掌では、すでにアレッタを無効にするスイッチが完成していたのだ。
包囲は完成した。
あとは、“動いた瞬間”を――刺すだけだった。
◆制圧ポイントの正面にて。
瓦礫の影から、一人の少年がゆっくりと歩み出た。
まるで“自分が標的である”と知っているかのように、遮蔽もとらず堂々と。
「……待たせたな」
その姿に、ライサの目が細まる。
「スナイパーの射線が通っているのに、正面から、来るなんて愚かね。それも一人で。」
「それとも何か秘策でもあるのかしら?」
白く光る鞭が音もなくほどかれ、雷光がその軌跡に沿って弾ける。
――アレッタの射線に、入る直前。
ぴたり。リゲルが足を止めた瞬間、リゲルの右手に魔方陣が描かれた。
《羽、発動》
高台、北東上空の一点から、風に乗って舞う羽がアレッタへと収束を始める。
しかし、ライサはそのことに気づかない。
目の前のリゲルだけに集中していた。
リゲルがアレッタの射線に入る。
直後、制圧ポイントの少し遠くで、アレッタの矢が炸裂する音がした。
リゲルが、再度狙撃されないことがわかると、
「アレッタになんかしたの?」
「まあいいわ……でも、私の鞭の間合いに入ったら感電するわよ」
ビシィ――ッ!!
鞭が空気を裂き、リゲルに雷の照準が突きつけられる。
直後、ライサの背後――瓦礫の中から、もう一人の影がすっと現れる。
「俺もいるよ」
ハクだった。手には光の分身弓、リゲルのビット光線と同時に――
ズガァァァンッ!!
二方向からの一斉射撃がライサを襲う。
だが――
パァァァァン……!!
彼女の足元から広がる雷結界が、すべての光弾を弾いた。
空間が雷に満たされ、放電が音を吸い込む。
「効かない……っ」
ハクが小さく、苛立ちの演技を見せる。
ビットの光線も光の矢も雷場を抜けきれず、完全に消し飛ばされた。
「いいこと教えてあげますわ。たとえ、私の鞭を回避して貴方の双剣の間合いまで近づくことができたとしても雷結界で致命傷を負います」
この雷幕結界は、単なるバリアではない。内周に近づくほど、魔力干渉が指数関数的に増大する“濃縮型”――あらゆる攻撃を、逆流させて感電させる構造だ。
「近接すれば近接するほど相手は大ダメージを受ける。それが私の『雷幕結界』です」
ハクが軽く万歳のポーズを取りながらライサに背を向ける。
「行動不能のアレッタを狙いに行くのでしょう?」
ライサが冷静に言う。
「ご名答。君の能力は僕の天敵みたいだね。」
そう言いながら、ハクはアレッタのいる高台方向に悠々と歩き出した。
リゲルは、しなる剣を構える。
「……雷女は俺に任せろ。」
リゲルは、自信を持ってハクを見送った。
◆アレッタ視点
北東高台、狙撃体勢のアレッタは、引き絞った弓の指にわずかな抵抗を感じた。
風向き。気圧。耳鳴りのような、微妙な圧迫感。
――そして、胸の奥に、名前のつけようのない“圧”がじわりと染み込んでくる。
矢を放つべきなのに、どこかで躊躇するような、そんな違和感。
(……何かが、違う)
視界の端――空に、ふわりと揺れるものがあった。
白い羽が1枚。それが、風に乗って、ゆるやかに旋回している。
けれど彼女は、その“違和感”に決定的な危機を感じなかった。
(風? ……いや、どうでもいい)
視界の中心には、リゲル。
堂々と現れ、雷結界の正面で立ち尽くす敵――“最後の一人”。
(もう一人は撃破した。いま残っているのは……あいつだけ)
わずかな風の揺らぎも、羽の存在も、意識の中から押し流されていく。
(ここで撃ち抜けば、終わる)
彼女は迷いなく照準を合わせた。
100%渾身の矢を放ったその直後だった――
ズザザザザ……ッ!!
廃墟の正面以外の窓から、羽の束が一斉に襲いかかった。
光のように踊るそれは、視界に、動作に、魔力感知に、同時にノイズを走らせる。
そう、リゲルがハクとの模擬戦でアレッタたちに見せた失敗作。
それが、致命的な形になって自分に襲い掛かってきたのである。
「っ……えっ、何、これ……っ!?」
目の前が、揺れる。
焦点が合わない。魔力の流れがかき乱される。
(見えない……っ!)
身体が反射的に強張る。
その瞬間――
「《エッグ・ドーム》っ!!」
アレッタが叫ぶと同時に、足元から純白の魔力が湧き上がる。
魔法陣が回転し、光の曲面が彼女を包み込むように展開されていく。
瞬く間に形成されたのは、卵型の強靭な半透明なドーム。
殻のように滑らかで、衝撃と魔力干渉を両方遮断する防御空間。
アレッタのアバター固有の特殊防御――《エッグ・ドーム》。
「っ、はぁ……」
床に手をついて、アレッタは小さく息を整える。
空気は静かになった。光の矢も、羽も、音も届かない。
……でも、外から見れば丸わかりだった。
ドームの外では、今なお羽が漂っている。
割れた羽の破片が、照準妨害の粉塵のように舞い、
部屋のあらゆる隙間を埋め尽くしている。
(……でも、なんで? 私、あの分身を撃ったはず……)
意識がわずかに冷静さを取り戻す。
試合が終了しない。
リゲルは今、無傷でライサの雷結界の前に立ち尽くしている。
ハクは……退場したはずだ。
(あの子、撃破したはず。じゃあ……なんでこんなに、こんなに……やり返されてるみたいな空気なの?)
シェルターの内側から見える、歪んだ視界の外で――
羽がまだ“舞っている”という事実が、アレッタの中に微かな疑念を刻み込む。
(あれ……これ、罠? いや、でも――)
リゲルはまだ倒れていない。
どころか、倒れる様子すらない。
ならば――こちらの攻撃は通っていない。
(え、私……外した? いや、そんな――)
魔力と反射神経、精密な照準補正。あれだけ完璧に引いた矢が、なぜ通らなかったのか。
答えは出ない。
でも、部屋の中では、まだ羽が……“飛んでいる”。
アレッタは、ふと気づく。
視界の端に、一つ、また一つ。羽が重力を無視するように緩やかに弧を描いて落ちてくる。
天井から、隙間から、まるで“供給されている”かのように。
(この羽、さっきより……増えてない?)
それは単なる感覚。だが、それが現実でない保証は、どこにもなかった。
そして次の瞬間――ドームの外、どこかで“コツ、コツ”と足音が響いた。
それは、誰かが近づいてきている音だった。
(まさか……)
アレッタの背中に、またしても冷たい汗が走った。




