【第五話「雷幕と狙撃の金曜日」】
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望。
学校間対抗戦で年下の女の子に負けて現在新技を開発中。
精霊:名前はぴーちゃん。孔雀の精霊。曜日ごとに性格や見た目が変わる。
金曜日のぴーちゃんは、派手好きのパリピ。
イメージカラーは黄色。
役者ががかった口調で、リゲルの生活を舞台化してくれる。
親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
【第五話「雷幕と狙撃の金曜日」】
――今日は、背中がほんの少しだけ軽い。
◆ 金曜日の朝/登校直前
目が覚めた瞬間、リゲルは天井の明るさがいつもより白く感じられることに気づいた。
体は静かだった。痛みも、だるさもない。
それ以上に――心の奥に、昨日とは違う「芯」がある気がしていた。
ピッ、と端末の通知が光る。
「おはよう、リ・ゲ・ル!」
唐突にきらびやかな声が響き、空間に黄色の光が弾けた。
金曜日のぴーちゃんは、今日も相変わらずだった。いや、今日は一段と派手だった。
まるで舞台のスポットライトそのものが羽根に宿ったかのように、目が痛くなるほど明るい黄色の羽を全開にして、ぴーちゃんは空中に舞い上がっていた。
「さあ! 愛と勝利について一緒に歌わないか!」
半円形に尾羽を広げ、空中で回転するぴーちゃん。
その色は、レモンと電飾を煮詰めたような蛍光で、陰影が乏しく、目がちかちかする。
「……朝から光害……」
リゲルは枕に顔をうずめて呟いた。
けれどその声には、どこか穏やかさが混じっていた。
昨日の午後――ハクとの連携は、思った以上にうまくいった。
輝水とビットの反射角の同期、羽のかすかな乱流を使った撹乱戦法。
そして何より、ハクが“楽しんでいた”あの瞬間の空気が、リゲルの中に残っていた。
「ふふっ、今日は勝負の日。君と彼の舞台だ。感情と理性と、ちょっぴりの奇跡を信じる朝にしようじゃないか!」
ぴーちゃんの声には冗談めかしながらも、どこか本気の響きがあった。
「――あれだね、君と彼は風と水の舞踏。さしずめ今朝の私は、その舞台監督ってとこかな♪」
ぴーちゃんは空中で軽くターンしながら、まぶしい黄色の羽を翻す。
まぶしい。うるさい。軽い。
――でも、不思議と嫌じゃない。
「……ありがとう、ぴーちゃん」
リゲルは自然とそう言っていた。だが直後、胸の奥でふと張りつめる感覚が戻ってくる。
午後には、模擬戦がある。
観客がいる。評価される。結果がついて回る。
そう思っただけで、喉の奥が少し乾いた。
……大丈夫。たぶん、大丈夫。
けれど“たぶん”の中に、わずかな針のような不安が混ざっていた。
「ふっ……緊張かい? でも、それも舞台のうちさ。観客がいるから、芝居は本物になるんだよ」
まぶしい朝。空気が乾き、光が少し硬く感じられる。
布団を出たリゲルの顔に、一瞬だけためらいの影がよぎったが、すぐに制服のシャツに腕を通した。
派手ではない一連の動作に、彼なりの“準備”が滲んでいた。
◆ 一限目/戦術学基礎II
教室には、いつもより張りつめた空気が漂っていた。
今日の授業は“戦術評価模擬”とだけ予告され、具体的な形式は知らされていなかった。
教官ミリア=ラントは、無表情のまま黒板に一行だけ書いた。
《構造適応評価型模擬戦》
「本日から学校代表の最終選考もかねて、授業外の模擬戦についても評価の対象とする。
この構造適応評価型模擬戦は、単純な勝ち負けだけで成績をつけない。
重視するのは、“いかに相手の構造を読み、自分たちの構造を成立させたか”」
「たとえば“撃破勝利”でも単なる正面突破なら高評価は出ない。
逆に敗北しても、戦術の連動性や構造的な抑制が認められれば高得点につながる」
「“強い魔法”や“派手な演出”は不要だ。今日求めるのは、思考の正確さと、戦況把握の精度だ。
試合の中でどこで読み合いが起き、どう応答し、どう制御したか――それがすべてだ」
教室が静まり返ったところで、ミリアは一言、付け加えた。
「……なお、正式な代表選抜は、“3人1組での構造完成度”が最も重視される。
個人戦や2on2は、あくまで“チーム候補としてのアピール機会”と見なされることが多い」
その瞬間、教室の空気が変わった。誰かが息を呑む音が響いた。
リゲルは、隣でハクがわずかに姿勢を正す気配を感じた。
◆ 休み時間/教室の角
午後のチャイムが鳴った瞬間、教室はざわめきに包まれた。
けれどそれは、いつもの授業前の緊張とは少し違っていた。
今日はこのあと――模擬戦がある。
正式な評価対象として、観客の目に晒される試合だった。
生徒たちは背筋を崩し、友人同士で小声を交わし始める。
中には、他クラスの仲間を呼びに走る者もいた。観戦場所を確保するためだろう。
リゲルは無言のまま立ち上がり、教室の隅へと向かう。
そこには、壁にもたれて立つハクの姿があった。
「午前のブリーフィングの告知、ずいぶん急だったな」
リゲルが声をかけると、ハクは肩を軽くすくめて答える。
「最初から“選ばれた感”が強すぎたら冷めるだろ? こういうのは、急に来るくらいがちょうどいいんだよ」
その口調は飄々としていた。けれど、目の奥には光が射していた。
「……俺たち、まだ“構造”って言えるほどのもん、あるのかな」
リゲルの問いに、ハクが目を細める。
「ビットと輝水の連携は悪くない。でも“3on3で機能する”って意味なら、今のままじゃ足りないな」
そう言って、ハクは三本の指を立てて見せる。
そのまま、空中に円を描くようになぞった。
「円になるには、あとひとつピースが必要なんだよ。欠けたまま回すと、どこかで軸がぶれる。……それが“構造”の怖さなんだ」
リゲルは口元をわずかにゆるめたが、すぐに表情を引き締める。
「……本当は、“試す”くらいのつもりでいたんだけどさ。たぶん、もう逃げ場はないよね。今日は“証明”の日だ。ハクと二人で、どこまでやれるかな」
「“試す”って言ってる時点で、もう全力でやる気だね」
ハクの声に、リゲルが苦笑する。
そのとき、視界の端で金色の羽が閃いた。
「ハーイ! 愛と勝利の補助精霊、登場です!」
深く通る声が響く。舞台俳優のような艶と威厳を帯び、中性的で、不思議と心を揺さぶる声だった。
ぴーちゃんが、尾羽を広げて空中を舞う。
天井の光をそのまま背負ったように、まばゆい黄色が教室の一角を満たしていく。
「いやあ、君たちのこの悩める背中! まるで楽屋裏の主役級だよ!」
張りのある声でそう言い放ち、尾羽をたたみながら優雅に着地する。
その所作には、舞台を知り尽くした役者のような誇りがにじんでいた。
「二人の連携が真の輝きを放つのか、それとも“あとひとつの欠片”を見つけるのか――」
ぴーちゃんが空中でくるりと一回転する。
「観客席は整ったよ。あとは演じるだけさ!」
「観客って誰のことだよ」
呆れたようにハクが言うと、ぴーちゃんが軽く羽を震わせる。
「ふふ、それはね――君たち自身の“未来”さ♪」
「今ここで見せた芝居が、きっといつかの君たちに――評価されるのさ」
その言葉の直後、廊下のスピーカーが声を響かせた。
『第二区画で行われる本日午後の模擬戦――代表チームは集合を開始してください』
ざわつく廊下。生徒たちの足音が教室にまで届いてくる。
ハクが体を伸ばし、ちらりとリゲルを見る。
「行こうか。“二人だけの構造”ってやつを、試してみるか」
「……うん」
リゲルは一瞬だけ尾羽を見上げた。
何かを決めたように、まっすぐ前を向く。
金色の羽を背に受けながら、二人は静かに教室をあとにした。
◆ 模擬戦会場・転送直前
観客席のざわめきが一段と高まった。
「来た! 女子ペア四位、女子内じゃ一位!」
「ライサとアレッタだ……!」
白い転送ブースの扉が、ゆっくりと開く。
まず一歩を踏み出したのは、気品をまとった少女――ライサだった。
制服とドレスの中間のようなアバター。
白い生地に見事な銀の刺繍が施され、洗練された美しさと威厳を放つ。
続いて現れたのは、顔が隠れるほど大きな白いフードに身を包んだアレッタ。
真っ白な布地の中央、赤いとさかのような装飾がちょこんと揺れている。
「うわ、とさか……」
「なんか、フェニックスっぽいっていうか……」
観客席の前列で、女子生徒たちがひそひそと笑った。
けれど――
「ニワトリだよっ!」
アレッタはくるりと振り返り、フードを少し上げて、ぴしりと声を上げた。
その頬はわずかに赤く染まっている。けれど、その姿勢には屈しない強さがあった。
「応援ありがとう! とさかは天然記念物なんだからね!」
ライサはそのやりとりを軽く制するように、正面の対戦相手――リゲルとハクに向き直る。
「――受けてくれて、ありがとう」
丁寧に、けれど凛とした口調だった。
「今日の模擬戦を、心から楽しみにしていたわ」
ハクが軽く手を挙げて返す。
その瞬間、観客席から女子たちの声援がひときわ大きく響いた。
一方、ライサに向けられる視線は男子のものが目立っていた。
だがそのどれも、遠巻きで、どこか敬意を含んでいる。
「私たちは、おとといのあなたたちの模擬戦を拝見しましたわ。
そのとき、大体の能力を把握しました。けれど、それでは“正式”とは言えないわ」
ライサは淡々と続ける。
「私たちの編成は、近・中距離の鞭と遠距離の大弓。星座は、私がしし座、アレッタがいて座です」
「あなたたちの開示は不要よ。これは、私たちの主義だから」
そう告げられたにもかかわらず、ハクが一拍置いて口を開いた。
「こっちも教えるよ。フェアプレイで行きたいからね」
肩をすくめながら笑う。
「俺がてんびん座で、リゲルが――ふたご座」
その言葉に、ライサが意味ありげに視線を細める。
そして――
「なるほどー。こっちの人、頭良さそうだもんね」
アレッタがリゲルの顔を覗き込んだ。
「……つまり、属性相性は完全に五分五分ってことだな?」
ハクが確認するように言う。
だが、リゲルの胸中には、隠せない重さがあった。
(格上だ……)
それはただの噂じゃない。ライサの立ち姿だけで、痛いほど伝わってくる。
「そういうことになります」
リゲルの鋭い眼光に、ライサは平然と応じる。
観客席がざわめいた。
星座は、この世界において戦闘傾向、魔法の属性、そして相性に深く関わる――
それは小さな子供ですら知っている、戦いの前提条件だった。
ふと、リゲルが視線を横にずらす。
観客席の一角。そこに、ラピスがいた。
彼女の視線には、リゲル自身すらまだ知らない“何か”を期待するような、深いまなざしがあった。
(……見られてる)
そのことに気づいた瞬間、緊張が全身を貫いた。
だが、ラピスは目が合うと、ひとつだけ静かにうなずいた。
それはまるで、「わたしは、ちゃんと見てるから」と言っているかのようだった。
次の瞬間――
足元に、光が差す。
転送魔法陣が、静かに展開されていく。
ハクは、肩に乗せた水鏡の白鷺――ルミレナをそっと撫でながら呟いた。
「……さて、集中しようか」
淡く光る魔法陣を見下ろしながら、呼吸を整える。
アレッタの肩元には、小さな光の羽が舞い降りた。
その羽根の持ち主――ニワトリ型の精霊、こっこちゃんが、堂々とした低音で言う。
「うむ。結果はどうであれ、悔いのないようにな」
その横、ライサの背後に現れたのは――ユニコーン型の精霊、ユニコだった。
一言も発さず、ただその存在だけで、強い魔力の気配を放っている。
ライサがそっと手を伸ばし、ユニコの首筋を静かになでた。
その指先に応じるように、魔法陣の光が淡く波打ち、ユニコの体を幾重にも包み込む。
四体の精霊の中で――最も強く魔力に共鳴していたのは、間違いなくユニコだった。
まもなく転送が完了する。
白く、静かな光が、四人を包む。
リゲルの体を包む光が、孔雀の尾羽のような紋様を描く。
やがて――風とともに一閃。
衣装全体が、金色の孔雀をあしらった黒いアバターへと変わる。
しなる剣の刀身が宙に出現し、リゲルの右手に吸い込まれるように収まった。
次にその姿が現れるのは、廃墟群のフィールドだ。
「――幕が上がるよ、リゲル。さあ、華麗に“開幕”といこうじゃないか♪」
ぴーちゃんの声が、頭の中に響く。
――もう、引き返せない。
リゲルは、転送陣の中心へと、静かに歩を進めた。
【Hint】
●リゲルは、ふたご座なので、やぎ座の攻撃が弱点。おうし座に攻撃が通りにくい。
●ハクは、てんびん座なので、おうし座の攻撃が弱点。おとめ座に攻撃が通りにくい。
●ライサは、しし座なので、うお座の攻撃が弱点。かに座に攻撃が通りにくい。
●アレッタは、いて座なので、かに座の攻撃が弱点。さそり座に攻撃が通りにくい。
牡羊座は自身から見て8番目の蠍座が弱点。
牡牛座は自身から見て8番目の射手座が弱点。
双子座は自身から見て8番目の山羊座が弱点。
蟹座は自身から見て8番目の水瓶座が弱点。
獅子座は自身から見て8番目の魚座が弱点。
乙女座は自身から見て8番目の牡羊座が弱点。
天秤座は自身から見て8番目の牡牛座が弱点。
蠍座は自身から見て8番目の双子座が弱点。
射手座は自身から見て8番目の蟹座が弱点。
山羊座は自身から見て8番目の獅子座が弱点。
水瓶座は自身から見て8番目の乙女座が弱点。
魚座は自身から見て8番目の天秤座が弱点。




