【第二十話『校内散策』】③
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
戦闘スタイルは、①しなる剣、②複数の種類の孔雀目ビット、③鋭利な大量の羽根
戦術家だが感情に流されやすい。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望している。
今は、自分の目指すべき「誠」という人格態度を磨いている。
親友:現在スランプ中
名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
戦闘スタイルは、①軽弓、②双剣、③分身
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
仲間:名前はサダル。太陽水瓶座、月蟹座。早生まれで少し体が小さい同じ学校同級生。
戦闘スタイルは、①氷の双銃②魔方陣型迫撃砲③自律型bot④ガジェットの作成
リゲルとハクのアバター戦の3人目ののチームメイト。
万能支援をやってくれる。現在はやや二人より実力は上。
最低限の単位だけ取ってゲームセンターに入り浸っている。
あまり仲のいい人がいないが、すごい才能をもっている。
一度リゲルの誘いを拒絶した。
――校内散策後半
研究エリアを抜けた廊下は、昼下がりの静けさに満ちていた。
白い床の奥、曲がり角のそばに設置された自販機の前で、三人は自然と足を止める。
手には、それぞれ別の飲み物。選んだ理由は、たぶんどれも適当だった。
沈黙。
どこかの教室から、小さく弾けるような笑い声がこぼれる。
内容までは聞こえない。でも、楽しそうだった。
それが“何かの実験に成功した”とか、“ちょっとしたお菓子の話”だったとしても、どちらでも成立するような、そんな笑い声だった。
リゲルは缶の口を開けかけて、ふと手を止める。
ハクはキャップを開けて、炭酸の泡が静かに弾ける音を聞いていた。
サダルだけが、無言のままストローを咥えている。
誰も急がない。誰も喋らない。けれど、その沈黙は妙に落ち着いていた。
さっきまで見てきた部屋――
実験棟、詠唱室、素材開発、精神制御。
どれも“自分たちのエリア”ではない。でも、誰かにとっては確かにそこが世界の中心だった。
リゲルは、静かな思考の波に包まれながら、心の中で何かが変化し始めているのを感じていた。
戦うこと。勝つこと。評価されること。
それ以外の“価値”を、ようやく肌で理解し始めたような気がする。
そのとき、ハクがぽつりと漏らした。
「……なんか、すげーな。みんな、自分の“場所”にいたって感じ」
誰も答えなかった。
けれど、その言葉は三人の間に、なにか静かな線を引いたように感じられた。
【薬理設計・応用調合室】
ガラス越しに見えた白衣の輪の中、ひときわ落ち着いた声が響いていた。
端末の中で光る構造式を前に、女子生徒が淡々と指示を飛ばしている。
リゲルは、思わず立ち止まった。
「あれ……あのとき、突っ込んできて、俺のビットに弾かれた子……?」
彼女はひるむことなく、別の生徒が口ごもった数値の誤差を即座に訂正し、代替処方案を提示した。
そのたびに、生徒たちはうなずきながら作業を続ける。誰も、異議を挟まない。
リゲルの記憶にある“負けた姿”とはまるで別人だった。
「俺、名前すら覚えてなかったのに……」
横で、ハクがぽつりと漏らした。
【音響詠唱・共鳴試験室】
廊下の奥から、かすかに音が流れてくる。
扉の隙間から覗いた先――中央のステージに立つ男子生徒が、ひとり、詠唱を重ねていた。
低音から始まり、旋律が折り返し、また高音で巻き上がる。
空気中に漂う粒子がその音に共鳴し、音の高さごとに異なる魔法陣が空間を編んでいく。
誰もいないはずの教室が、まるで楽器の内部のように震えていた。
「あれ、正確には“演奏”じゃない」
サダルが、思案するように呟く。
「“構築”だよ。あれ、できるやつ、そういない」
リゲルは、その姿をただ黙って見つめていた。
模擬戦では一言も発さなかった男子が、今は言葉の魔術で世界を織っていた。
【応用物性研究室】
視察中の教員たちが、誰ともなく一歩引いた。
それは、実験モニタの前に立つひとりの女子生徒の前だった。
リゲルは、思い出す。
確か、選抜前にアバター志望を出してはいたが、初期試験でリタイアしたはずの子だ。
だが今、その子は数式とグラフをほぼ同時に読み取り、実験データを即座に上書き入力していた。
次の圧縮指標の候補を口にする前に、もう数値が端末に反映されていく。
「圧縮率、98.4%……。この数値、今期の最適解だ」
別の研究員が呟く。
ハクが低く言う。
「“活躍”って、場所で全然違うんだな……」
再び歩き出した廊下には、人の気配がなかった。
夕方の光がガラスを透かし、淡く床を照らしている。
誰も何も言わない。けれど、その静けさは、さっきまでと少し違っていた。
言葉の代わりに、それぞれの足音だけが続いていく。
リゲルは、ひとつ深呼吸をする。
さっき見た、あの音魔術の詠唱が、まだ頭のどこかで響いていた。
「……俺、やっぱり、魔法そのものが好きなんだと思う」
ぽつりと漏れた言葉に、ハクとサダルがゆっくり振り向く。
「言葉を重ねるだけで、空気が震える感じ。
詠唱がきれいに響くと、それだけで嬉しくなる。
あれは戦いとか勝ち負けじゃなくて、“ただ、そういうのが綺麗だな”って……そう思うだけなんだ」
歩きながら、リゲルは足元を見た。
光が、靴の先を半分だけ包んでいる。
「でも、それだけじゃ、アバター戦でやってく理由にならない気がするんだ。
最近わかった気がする。
“好き”って、何かを全部やめたあとに、それでも残ってるものなんだ。
だったら、ちゃんと向き合ってみてもいいのかもしれない。
“好き”って気持ちだけで、戦いに向き合っていいのかなって。」
ハクが、ペットボトルを持ち直して小さく首をかしげた。
遠くの壁に貼られた素材実験の告知ポスターが、わずかに揺れている。
通路に足音だけが続いていた。
さっきまでの部屋――誰かが“その道”を本気で進んでいる部屋――が、脳裏に焼きついて離れない。
リゲルも、ハクも、サダルも、自然と口数が減っていく。
それは沈黙じゃなくて、問いが沈んでいく音だった。
やがて、ハクがぽつりと呟いた。
「……俺さ、素材研究とか、好きだと思ってた。
実際、アバター戦目指してなかったらそっちの進路もあると思った。
あのころは、“好き”って言えることが自分の強みだと思ってた。
でも、今日の光景を見たら――そんな甘さじゃ到底、追いつけないって痛感した。」
その言葉に、誰も返事をしない。ただ、歩みを止めた。
「けど、“好き”ってだけじゃ、全然足りない気がしててさ。
アバター戦……ぜんっぜん活躍できてないし、今さら“素材が好き”ってだけで逃げたら、それこそ言い訳みたいじゃん」
ハクは、軽く肩をすくめて笑った。けれど、その顔は少し曇っていた。
「しかも、今日見たじゃん? 他にもすごい人いっぱいいて。
あの子とか、材料の圧縮率だけで“神”とか言われてたし……俺じゃなくても、ああいう人がいればいいんだろうなって」
言い終えてから、ハクはリゲルとサダルを見た。
二人とも、何も言わずに、ただその言葉を受け取っていた。
その静けさの中で、サダルが口を開く。
「俺たちがてっぺんを目指している、アバター戦ってさ――この世界で、いちばん狭い門なんだよ。
この世界で圧倒的に一番重要な職業であることには変わりはない。」
突然のことに、リゲルもハクもわずかに目を見開く。
「ほとんどの職業は、たとえ替えが利かなくても“世界の中側”の話なんだ。
でも、アバターだけは違う。
この世界の“外”に触れる唯一の方法で、同時に、そこで生き残るための“武器”でもある
外の存在に触れられるのは、“戦場”だけ。
だから、アバター以外の職業では、そこに立つことすらできない。
実際、この世界の外側の異形的な存在と対峙して対話しようとしたり、場合によっては戦ったりする。
唯一無二でかっこいいよ。」
サダルの声には、感情の熱よりも、構造を知っている者の重みがあった。
「だから、アバターになるってことは、“好き”とか“向いてる”とかを超えて、
『その一番狭いところに行ってでも、それをやる理由があるか?』って、自分に問うってことなんだよ」
ハクがわずかに眉を寄せた。
「じゃあ、サダルは……答え出てるの?」
少しの間をおいて、サダルは淡く笑った。
「俺? ……出てないよ。
本音言えば、技術開発だけで食っていきたかった。
生活が保障される。
実際、最低限の戦闘単位だけ取って、グランゼコールみたいなとこ目指すつもりだったし」
「でも、たぶん――
それだけじゃ、俺はいつか、“知らないもの”に負ける気がした。
研究職って、安全で、理屈が通ってて、先が見えてる。
でも、外にいる何かと戦うには、それだけじゃ足りない。
“自分が見てない領域”に触れるには、戦わなきゃ届かないこともあるんだよ」
その言葉に、リゲルは何かを考えるように、ゆっくりと呼吸を整えた。
ハクも、目線を下げて、何も言わなかった。
けれど、三人の心には、それぞれの“問い”が確かに生まれていた。
模擬戦の敗北よりも深く、自分だけの問題として沈み込む、進路の分岐の痛み――。
そのとき、遠くからふわりと、甘い香りが漂ってきた。
リゲルはふと立ち止まった。
さっきの詠唱教室の空気と、どこか似ていた。
胸の奥が、ほんの少しだけ震えた。




