【第十六話『特別になる日』】①
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
戦闘スタイルは、①しなる剣、②複数の種類の孔雀目ビット、③鋭利な大量の羽根
戦術家だが感情に流されやすい。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望している。
今は、自分の目指すべき「誠」という人格態度を磨いている。
現在3人目のチームメンバーを探している。
親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
戦闘スタイルは、①軽弓、②双剣、③分身
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
◆火曜日のピーちゃん
カーテンの隙間から光が差し込んでいた。
まだ朝というには淡すぎる色だったが、リゲルはその光を見て、すぐに“今日”が始まったことを理解した。
――屋上での、少年とのやりとり。
端末を挟んで並んで座った時間。
目の前で数式を読み取った少年の驚いた顔。
そして、立ち上がって去っていく後ろ姿。
(……ほんとに、調整やってくれるのかな)
リゲルは布団の上で横になったまま、ぼんやりと天井を見つめていた。
――「まだ。まずは調整から」
あの言葉を、何度も思い返していた。
そんな静けさを――
「リゲーーール! おはよー!!」
破ったのは、あまりにも元気な声だった。
「……声がでかい」
「だって今日、なんかすっごくいいことありそうな気がするんだもん!」
まるで跳ねるように、ぴーちゃん(火曜日ver)が机の上から飛び上がる。
昨日までのしっとりした月曜日人格とはまるで別人――いや、別鳥だ。
「ねえねえ、今日ってさ! なんか、“世界が変わる日”っぽくない!?」
「どこが……。普通の火曜日だろ」
「いやいやいやいや、リゲル、わかってない! 今日は“勝手に特別になる日”っていうやつだよ!」
リゲルはため息をついて、ようやく体を起こした。
寝癖がついた髪を手で押さえながら、制服の上着を引き寄せる。
「もうちょっと静かにしてくれ。うるさい」
「えー、でも大事なこと言ってるよ!
今日はね、リゲルがぜったい『あ、今日って最高だったかも』って思う日だよ!」
「……何それ、詐欺みたいな売り文句」
「詐欺じゃないもん! ぜったいだもん!
ていうか、なんか知らないけど、そういう日って、決まってるんだよ!」
ぴーちゃんは、自分でもわかっていないテンションをそのまま口にしているようだった。
「はいはい……朝からうるさいな」
リゲルは寝ぼけた頭をかきながら、立ち上がる。
制服の裾を整え、机の上にあった端末を手に取る。
「行くぞ、ぴーちゃん」
「おっけー! 今日はね、いいこと起きるから、準備しといた方がいいよ!」
「ちゃんと笑顔になる準備!」
「……そういうの一番苦手なんだけど」
「でも、今日はできる気がするでしょ? でしょ? するでしょ!?」
「……うるさい」
笑いながら、リゲルは鞄を肩にかけた。
◆学校見学
チャイムが鳴り終わる前に、教室の扉が軽くノックされた。
「リゲルくん、ちょっといい?」
声をかけてきたのは、職員の女性だった。
資料を抱えたまま、ちらっと手元の端末を確認している。
「午後は奉仕作業の予定になってるわよね。……ちょっと頼みたいことがあるの」
廊下に出ると、隅の壁際に小さな影が立っていた。
制服ではなく、柔らかなグレーのワンピース。年の頃は六歳くらい。
見学者タグのついたプレートが胸元に提げられている。
「この子、就学前の体験見学で来ててね。本当は担当の案内係がつくんだけど、急な呼び出しが入っちゃって」
職員は困ったように笑いながら、そっと子供の背を押す。
「少しの間だけでいいから、案内と昼食、お願いできないかしら? ハクくんにも声をかけてるから、2人でなら負担にならないはず」
リゲルは一歩、子供の前に出て軽く会釈した。
子供は真っ直ぐな瞳で見上げてきた。
「こんにちは! わたし、ユリです!」
リゲルは一瞬だけ目を細め、それから小さくうなずいた。
「……リゲル。よろしく」
「ふたりで案内してくれるの?」
「まあ、もうひとりはそのうち来ると思うけど」
職員は安堵の笑みを浮かべて頭を下げる。
「助かるわ。ありがとう。ユリちゃん、いっぱい見て楽しんできてね」
そう言って、職員は足早に廊下を去っていった。
取り残されたのは、リゲルと、ユリと名乗った子供。
「ねえ、ねえ、ロボットの授業って今日ある?」
「……たぶん、ない」
「えーっ、じゃあ光のやつは? 空に絵を描く授業とか!」
「それは……午後に案内できるなら」
「やったー! あのね、わたしね、今日いちばん楽しみにしてたの、それなの!」
ユリはくるりと回り、まるでリゲルの周囲の空気ごと踊らせるように足を弾ませた。
(……元気すぎるな)
そう思いながらも、リゲルの足取りは、さっきよりもほんの少しだけ軽くなっていた。
◆宝石のような目
「リゲル~」
昼食会場の前に差しかかったところで、ゆるく伸びた声が響いた。
振り返ると、制服をゆるく着崩したハクが、片手でトレイを持ちながら手を振っている。
「案内役、お疲れ様。って、うわ、めっちゃ元気そうな子!」
「こんにちはー!」
子供が跳ねるように手を挙げた。
ハクはしゃがんで視線を合わせると、にこっと笑って、
「お名前、なんて言うの?」
「ユリ! ユリちゃんって呼んで!」
「了解、ユリちゃん。オレはハクって言います。今日よろしくね」
「……顔、めっちゃかっこいい」
ハクが一瞬だけ目を見開いたあと、いたずらっぽく笑った。
「うわ、ストレートで刺してくるタイプだこの子……」
リゲルはその横で、ちょっとだけ顔をそらす。
ユリの視線が、次にリゲルの方に向いた。
「このお兄ちゃんは……顔がおもしろくて、やさしそう!」
リゲルはふっと苦笑する。
「表面的だけ、だよ」
あっさりと、でもどこか少し照れをにじませて返す。
「ふーん……あ、でもね」
ユリが顔をぐっと近づけて、リゲルの目を覗き込んだ。
「このお兄ちゃんの目、赤ちゃんみたいにキラキラしてる。……宝石みたい」
リゲルは、何かを言いかけて止まり、
――それから、少しだけ目を伏せた。
「……それは、初めて言われたな」
ハクが肩をすくめながら笑う。
「リゲル、モテ期来たんじゃない? 6歳限定で」
「……うるさい。昔から子供と老人にはモテるんだよな・・・」
ほんのわずかに耳まで赤くなっていたリゲルに、
ユリが「はやくたべよー!」と叫び、駆け足で食堂へ入っていく。
◆食事シーン
「……うーん」
カレー皿の前で、ユリがスプーンを止めたまま、うなっていた。
「どうした?」
「なんかちょっと、からい……」
リゲルが小首をかしげて見ていると、横からハクが「あー、なるほど」と頷いた。
「このカレー、たまに唐辛子ガチャあるんだよね。ちょっと待ってて」
そう言って、ハクはトレイを置き、食堂の奥へ走っていった。
調理スタッフに声をかけ、何やら調味料の入ったパックをいくつか受け取って戻ってくる。
「はい、これ。トマトピューレと中濃ソース。混ぜると甘くなるよ」
「すごい!」
ハクがスプーンで丁寧に混ぜてあげると、ユリはさっきまでの迷いが嘘のように目を輝かせた。
「……いっただきまーすっ!」
そして――
「おいしいーーーーーっ!!」
食堂中に響き渡るような声で叫んだかと思えば、
椅子の上で体をくねらせ、両手を空に掲げ、踊り出した。
「おいしい! おいしい! おいしいっっっ!」
「元気だなあ……」
ハクが苦笑しながら、リゲルに小声で言った。
「獅子座だな」
「何それ」
「いや、なんか……全身で“肯定”してくる感じ? 舞台が似合うっていうか」
リゲルは答えず、わずかに笑った。
食後、トレイを片付けた3人は、空いたテーブルに残ったデザート皿を囲んでいた。
そこには、艶やかなチョコムースと、よく冷えたオレンジスライスが並んでいた。
「よーし、チョコからいく!」
スプーンを手に取ったユリが、勢いよくチョコムースに突入しようとする。
「待った」
リゲルが即座に制止する。
「チョコのあとにオレンジ食べると、絶対に酸っぱくなる」
「えっ」
「果物の酸味が強調されて、味覚がバグる。まずオレンジから食べた方がいい」
「え~~~チョコが一番おいしいのに!」
「だからこそ最後にする。順序は味の計算なんだ」
ユリは頬をふくらませて「むー」と唸る。
その隣でハクは、すでにチョコを半分食べ終えていた。
「オレはチョコ先派。理由? おいしいから」
「……感情じゃん」
「うん。でもね、幸せって“おいしい順”じゃなくて、“うれしい順”で食べるものだと思うなあ」
リゲルは何か言い返そうとしたが、ふっと口を閉じた。
ユリは両手にスプーンを持って、しばし葛藤していたが――
「うーん……じゃあ、リゲルくんの言うとおり、オレンジから!」
素直にスプーンを持ち直すと、ちゅっと音を立てて一切れを頬張った。
「……すっぱあい!!」
「ほら見ろ」
「でも、これ、“おいしいすっぱい”だった!」
リゲルは思わず噴き出した。
だが次の瞬間、ユリの目がきらりと光った。
「じゃあ……チョコと一緒に食べたらどうなるかな!?」
「……やめたほうが」
もう遅かった。
ユリはオレンジとチョコムースを同時にすくい、ぱくりと口に放り込んだ。
一秒、二秒――
「うっっっわあああああああ!!!!」
ユリの両手が跳ね上がった。
顔がぎゅっとしかめられ、全身をぐらぐらと揺らす。
「すっぱいすっぱいすっぱいすっぱい!!
チョコなのにすっぱい!! オレンジなのににがい!! なにこれ!!」
ハクが腹を抱えて笑い転げる。
リゲルは、肩をすくめて、静かに言った。
「だから言っただろ」
「リゲル、めちゃくちゃ勝ち誇ってるじゃん……!」
ユリはなおも手足をばたばたさせながら、口の中を両手で仰ぎ、
「お水!お水くださーい!!!」と叫んでいた。
「水、おいしい……生き返った……」
ユリは紙コップを両手で抱えて、ほっと息をついた。
食堂脇の水飲み場に3人で並んで座り、昼食の余韻に包まれていた。
「味覚チャレンジは命がけだね」
ハクが笑いながら紙コップをくるくる回す。
「ふたりとも、すごく詳しいね。カレーも甘くなったし、オレンジもすっぱかったけど……楽しかった!」
「……ユリちゃんより少し長く生きているだけさ。
おれは、与えられた物が一番役割を活かせる形で食べたほうがいいと思ってるだけだよ」
リゲルがぼそっと言うと、ユリは笑いながら立ち上がった。
「ねえ、午後って、もう授業ないんでしょ? なんかすっごい面白い場所ないの?」
「面白い場所……」
ハクが一瞬だけ考える素振りを見せて、
「あるかも」と軽く手を上げた。
「この校舎の裏手に、昔のマナ実験棟があるんだ。今は使ってないけど、立ち入りは禁止されてない……はず」
「わーい、行こ行こ行こ!!」
「完全に探検モードだな……」
リゲルはため息まじりに立ち上がり、
トレイを返却口に返しながら、微かに口元を緩めていた。




