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【第十五話『挫折と結成』】①


主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。

    戦闘スタイルは、①しなる剣、②複数の種類の孔雀目ビット、③鋭利な大量の羽根

    戦術家だが感情に流されやすい。

    この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望している。

    今は、自分の目指すべき「誠」という人格態度を磨いている。

    現在3人目のチームメンバーを探している。


 親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。

    戦闘スタイルは、①軽弓、②双剣、③分身

    知らない物の値段を当てる特技がある。

    裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。



【第十五話『挫折と結成』】

◆揺らぐ足場


時間が――過ぎた。

何かが進んだわけではない。ただ、過ぎたのだ。


あの日、女子チームが控室を抜けていった午後から、もう二週間。

リゲルたちは変わらず模擬戦に出場し、最低限の規定を守り続けている。


週に二戦。二週間で四戦。

そして、結果は――二勝二敗。


負け越してはいない。だが、勝ち越してもいない。

数字の上では生き残っている。それだけだ。


「……まだ終わったわけじゃないって、ちゃんと思えばいいんだよ」


ハクが、どこか楽しげに言った。

指の先で空中に文字をなぞるようにして、リゲルの目の前に仮想スコアを浮かべる。


二勝二敗。勝率五割。


「ね? まだ五分。あと二敗までは許される。残り二十六戦で二十二勝、いけなくもない」


口調は明るい。表情も変わらない。

でもリゲルは、その「変わらなさ」に、今はいら立ちすら感じていた。


ハクは焦らない。

いつも通りの笑顔で、崖の縁を歩いている。

深刻になれない。なろうとしない。それが、蠍座の欠損。


(本当に、このままで間に合うのか?)


数字が物語っている。

選抜戦の代表入りには、例年勝率八割程度が求められる。


総試合数が三十戦前後だとすれば――二十四勝六敗が基準。

すでに、二敗。


つまり、残り二十六戦中、二十二勝が必要。

この一戦一戦の重みは、もはや「巻き返し」という言葉では済まされない。


そして、構造的な不利も残っている。

リゲルとハクは、まだ二人チームだ。


アバター戦は三人一組が前提。

攻撃・支援・制圧、それぞれの役割を分担し、補い合う構造。

それがこの競技の“完成形”であり、審査されるべき“構造適応力”の評価対象でもある。


その点で、自分たちは未完成だ。

どんなに工夫しても、どこかに「穴」がある。


そして、それは観客にも審査員にも――何より、自分自身に伝わってくる。


「……結局、人数が足りないって、戦術じゃどうにもならないのかな」


リゲルが小さく漏らすと、ハクは少しだけ視線を逸らした。


「でもさ、たとえばシャウラは――」


リゲルの思考が、その名前に自然と接続された。

シャウラ。

かつて「黒炎の不良」と呼ばれていた、あの特異な前衛。

今は、チームを組んでいるという噂だ。


実際、どんなメンバーかは知らない。

だが、周囲の空気は明らかだった。


「うまくいってるらしい」「今、すごく強いらしい」――

そんな言葉だけが、確かに耳に届いてくる。


構成も、戦術も、戦果も、実は誰も知らない。

それでも、リゲルの胸には明確な焦りだけが残った。


(先に行かれた。シャウラですら、チームを組めたのに――)


少年のことを思い出す。

日曜日。ゲームセンター。

肩を並べて、いくつかのゲームを一緒に遊んだ。


少し笑ってくれた。

何かが始まりそうな気が、たしかにした。


でも、彼は言った。


「また、勝ったらね」


それがどういう意味だったのか、少年は説明しなかった。

ただ、その一言を残して、去っていった。


「勝ったら」――


条件ではない。でも、リゲルには何かが試されているように思えた。

そして、今の成績は――五分。


“勝った”とは言えない。


そんな中、端末の通知音が鳴った。

模擬戦の予定が、次のカードを表示する。


【模擬戦:水曜午後・構造特化型三人組 vs リゲルたち】

――戦術適応判定対象:高


視界制圧と地形利用に特化した、戦術偏重型のチーム。

あらゆる配置と行動が、構造的優位に裏打ちされた動きになる。


力で押す相手ではない。

構造そのもので、相手を“詰ませてくる”ようなチーム。


「うわ、ここで来たか……」


ハクが額に手を当てた。さすがに苦笑いが浮かんでいる。


リゲルは言葉を返さない。

その表情は、いつもよりも険しく、沈んでいた。


この一戦に負ければ、残り二十五戦中二十二勝が必要になる。

代表戦選抜――それは、負ければもはや努力ではどうにもならなくなる。


「ここは……本当に、落とせない試合だ」


そう呟いた声は、誰に向けたものでもなかった。

だがその瞬間、背後の空気がわずかに張り詰めたように感じた。


焦り。苛立ち。不安。

すべてが蓄積し、次の試合にぶつかっていく。


今、この足場は揺れている。

だが、それでも前に進むしかない。

構造が欠けていても、勝たなければならないのだ。


◆仲良し三人組

控室の時計が、十五時を回った。

静かな空間。

パネルの表示が切り替わり、転送までのカウントダウンが始まる。


【制圧型3on3・午後枠:リゲル&ハク vs Cチーム(仮登録)】

構造完成度:判定対象

評価方式:観戦付き


これは、リゲル達の五戦目の相手である。


「……観戦つきかぁ。また肩こるやつだ」


ハクがストレッチしながら、首を左右に回す。


「評価も“構造完成度判定あり”か。やっぱ、こっちに求められてるのって“完成された三人”ってことだよね」


リゲルは無言で、自分の端末を操作していた。

画面には、前回の模擬戦ログ。

自分の剣の軌道、羽の展開タイミング、ハクの援護のズレ。


「……勝てなきゃ、勝率四割。あと二十二勝しなきゃいけない」


「ってことは……まだ二敗までは許されるってことだ」


ハクが軽く言う。

リゲルは、それには何も返さない。


「いや、さ。たしかに重いんだけどさ。でも、今日勝てば、勝率六割。全然いけるって」


「それ、“全勝したら”の話だろ」


「うーん、そこに突っ込んじゃう? いやまあ、正論だけどさー……」


ドアが音もなく開いたのは、そのときだった。

三人の影が、ゆっくりと差し込んでくる。


最初に入ってきたのは、長身の男子。

無言で、けれど丁寧に一礼してから、壁際に立った。


制服の前ボタンはきっちり留められていて、所作が驚くほど静かだった。


そのすぐ後ろで、「あ、ちょっとセファス、速い」と言いながら入ってきたのは、やや猫背気味の男子。

髪を耳にかけながら、軽く鞄を振って椅子に腰を下ろす。


顔つきは幼く、中性的な印象。


最後に入ってきたのは、少しだけ背の低い少年。

一番若く見える彼が、ふわりと笑ってハクに会釈した。


「こんにちはー。……って、あれ? ハクくんって、去年一緒に合同練あったよね?」


「え、うそ。え、あのときの? あー、ミーアくん?」


「そうそう。ノランもいたよ、ほら」


ノランと呼ばれた少年が、少しだけ手を挙げた。

座ったまま、笑いもせず、ただ「そうだけど?」という顔をしている。


「うちら、ちっちゃいころから一緒でさ。戦い方、たぶん息だけでなんとかなる系かも」


ミーアが冗談まじりにそう言うと、後ろのセファスが小さく咳払いした。


「あ、また先に話しすぎた」


「別にいいだろ。いつものことじゃん」


「そりゃそうだけど……あー、ノラン、見てそれ。転送カウント始まってる」


「あ、ほんとだ。セファス、準備いける?」


「うん」


三人の会話は、妙に自然だった。

無駄なところは省かれ、けれど親しさはにじんでいる。


合わせているのではなく、ただ長く一緒にいたから、そうなった。

そんな空気。


リゲルは、なぜか息苦しさを感じた。

自分たちと、あまりにも違いすぎる。


焦りもなければ、虚勢もない。

“完成されている”という言葉とも違う。


もっと静かで、もっと根っこに近い何かで、繋がっている。


(……なんなんだ、あの空気)


ミーアがふと、リゲルの方に目をやった。


「……リゲルくん、だよね」


「……ああ」


「ビットの動き、前より速くなってた。たぶん、左手の羽展開との連動で速度調整かけてる?」


「……そうだ」


「だよね。全部、見てるから」


その目に敵意はなかった。

でも、それが逆に――胸の内側を刺した。


転送ゲートが明滅する。

ハクが拳を突き出してきた。


「じゃ、いっちょやってみますか」


リゲルは、その拳に無言で応えた。

ただ、掌の内側が少し冷たかった。


光が、二人を飲み込む。


◆不利MAP

光が弾けて、地面の感触が変わる。

白い霧が、足元から立ちのぼっていた。


木々の間を縫うように、無数の枝がせり出している。

空気は湿り気を含み、音が鈍く、遠くが見えない。


「……ああ、ここ、あれか」


ハクが苦笑を浮かべた。


《今回の模擬戦フィールドは“薄霧の密林区域”です》

《防衛側:Cチーム。攻撃側:リゲル&ハク》

《構造認識・視界制御系スキルの効果が上昇します》


リゲルはその場で立ち止まった。

視界は、おそらく半径二十メートルほど。

それ以上離れると、霧が密度を増して、輪郭が曖昧になる。


(ここで、防衛があっち……)


このフィールドは、視界制限と構造認識に依存する。

つまり、地の利は完全にあちらにある。


ハクが少し顔をしかめた。


「……トラップ向きの構造だな。ミーア、仕掛けてくるね、絶対」


「羽、動かしにくい。誘導の精度が狂う」


「俺の輝水も跳ね返しづらいね。木が多すぎるし、距離が見えにくい」


二人とも、構造不利を即座に理解していた。

それでも、やるしかない。

勝たなければ、数字は崩れる。


リゲルは深呼吸してから、羽を起動した。


「……行く。突入ルート、南東。三段展開で範囲制圧」


「了解。俺は中腹で援護。分身は温存して後半に」


「初手で視界マーカーを潰す。たぶん、置いてる」


リゲルの声に、ハクが頷く。

この時点では、まだ二人の呼吸は合っていた。


開始の合図は、静かだった。

ただ霧の奥で、微かな光が弾けた気がした。


その瞬間、リゲルの羽が中量、四方へと飛翔する。

霧の中でも、軌道は鋭い。


ビットが側面に回り込み、角度と深度からミーアの視界を“読み崩す”。

だが――


《視界マーカー:座標固定/捕捉済》


音もなく、羽の一枚が空中で停止した。

次の瞬間、そこから光が噴き出す。


「……っ、見つけられてた?」


ビットの一つが、同じ地点で“強制停止”する。

周囲の空間がわずかに歪み、視線のトレースが強制的にロックされた。


「これ……罠じゃない。誘導されてる」


ミーアの“罠”は、あくまで補助。

本体は視界固定――位置誘導だ。


リゲルの羽が、飛ぶ先を“予測されている”。


ハクが輝水を放つ。

反射弾を横から回し、霧の向こうにいるノランを狙う。


しかし、木の枝と湿気のせいで屈折角が狂う。

レーザーは木肌に吸収され、霧の奥で失速する。


「通んない……」


そこへ――セファスの影が、正面から現れた。


大盾を構え、速度を殺しながらゆっくりと進む。

だが、その歩みは止まらない。


リゲルのビットが警告音を発する。


「――近い!」


剣を振る。

しかし盾が受け止める。硬い。重い。

そのまま押し込まれ、反撃の隙すら潰される。


リゲルが跳躍して距離を取る。

だが、足場の下に――


《トラップ発動:鈍足領域・直径3.2m》


重力が足に絡みつく。


「……はっ……!」


羽で再上昇を試みる。

けれど、空間が“濡れて”いる。

動きが鈍く、羽が展開しきらない。


「これ、視界誘導と空間デバフが重なってる……!」


同時に、霧の上部に浮かんだ光が、ノランの照準であることに気づく。

完全に捉えられている。


「リゲル、右!」


ハクの声と共に、水の盾が飛ぶ。

だが、それも枝に弾かれ、わずかに軌道が逸れる。


リゲルは地面を転がってそれを避けた。

だが、羽は二枚、壊れた。


「……どういうことだ。何で、全部見られてる……?」


その疑問に、答えはなかった。

ただ、**“全部通じていない”**という事実だけが積み重なっていく。


呼吸が荒くなる。

一手一手が、相手にとっての**“想定内”**に収まっていく。


ハクの分身も、地形に阻まれ機能しない。

輝水の跳ね返し角は全部遮蔽される。


連携は崩れないが、通らない。


そして――


「リゲル!」


セファスが再び前に出る。

今度は、盾を構えたまま突進してくる。


リゲルの剣が、またしても止められる。

剣が弾かれ、姿勢が崩れた瞬間――

ノランの照準が、真後ろから光る。


(……届かない)

避けられない。

距離も、角度も、完璧に“読まれている”。


光が、リゲルを飲み込んだ。


――ジリ貧

霧の中、羽が空気に溶けていく感触があった。

その瞬間、リゲルは悟った。


自分は、もうこの戦場を制圧できない。


(ビット――防御)


四つのビットを、攻撃ルートから引き下げる。

それぞれの面に展開し、リゲルの周囲を守る。


剣を前に出せば、即座に反応して防壁を形成する。

だが、それはあくまで反応だ。


「また……受けに回ってる」


ハクの声が、霧の奥から届く。


彼は双剣を両手に構え、セファスの盾に踏み込みを合わせていた。

本来なら、“とどめ”にだけ使う型。


だがいまは、その双剣で、押し込まれる盾を防がなければならない。


分身を二体展開。

位置を入れ替えながら、斬撃を誘導してかわす。


だが、相手は焦らない。

セファスの突きは、急がず、だが確実に“本体”だけを狙ってくる。


ハクの左の肩に、わずかな裂傷が走った。


「……あー、ちょっとキツいかも」


それでも、軽口をやめない。

だが、リゲルは知っている。

この言葉が出るとき、ハクは本気で集中している。


ビットの残量が少ない。

羽の“量”も、もう半分を切った。

急激な再展開は、精度を落とすだけだ。


ノランがまた照準を構えている。

霧の中でも、あの光だけははっきりと見える。


リゲルはビットの配置を再調整しようとした――そのときだった。


ミーアの声が、霧の奥から届く。


「……読めた」


《トラップ発動:指向性スナップ・三角遮断》


羽が通る軌道に、空間の“引っかかり”が生じた。

そのまま、滑らかに飛んでいたはずの羽が――急激に速度を失い、地面に落ちた。


(羽が……裂かれてる?)


ビットが回収に向かう。

だが、接近の瞬間、空間が跳ね返すように跳ねる。


(吸い込みの制御範囲が……外れてる?)


リゲルの目が見開かれる。


ビットと羽の位置関係が、わずかにズレている。


(なんで……? いや、まさか――)


霧の中で、リゲルの脳裏に浮かんだのは、自分の設計思想だった。


ビットは“最短誘導”を原則とする。

羽が離れていく先に、角度で補正をかけて追跡する。


だが、それは「羽が一定の速度で直線運動をしている」ことが前提だ。


(霧の抵抗で羽の速度が落ちてる……

そのせいで、“補正”が過剰に入って軌道がズレてる)


自動補正システム。

それは、常に“最適化”されるはずだった。


だが――それは今、“過剰制御”として作用している。


本来なら、羽とビットはセットで運用することで制圧力を生む。

けれど、霧の密度と障害物の不規則な干渉で、ビットの制御がズレ始めている。


(……弱点だったのか。ここが)


リゲルは、はじめて気づいた。

この武器は、単体では完結していない。


一定の条件下では、ビットと羽が“互いに邪魔をする”のだ。


(これじゃ、当たらない……どころか、まともに使えない)


地形や霧といった、予測不能の要素が混じるとき、

この設計思想は、むしろ命取りになる。


そのとき――


「明らかに、負けそうじゃん……」


別の場所で、その戦況を見つめていた少年が、つぶやいた。


観戦モニター席。

少しだけ埃をかぶった、後方の一角。


少年は、椅子に座ったまま足を組んで、画面を見つめていた。


「……なにやってんの」


モニターの端に映ったリゲルの羽が、また弾かれる。

その後ろで、ハクの分身が一つ、霧に吸い込まれて消えた。


「そこ、引いたら詰むって。いや、それ、読まれてるでしょ……もう……」


指が、画面の上にかかる。

だが、押せるボタンは何もない。


「ていうかさ、言いたい。言いたくてたまんない。――俺だったらって」


それは声ではなかった。

頭の中に溢れていた言葉。

自分自身の感情だった。


(あの羽とビット、完全に分離しすぎてる。

位置関係の補正が直列型だから、速度と加速度の変動に耐えられてない。

そのせいで、誘導補正が過剰になって、逆に“逃げてる”。

それに――そこまで精度落ちたら、“使わせて潰す”だけでいいじゃん)


ふと横を見ると、教員の一人が観戦メモを取っていた。

彼は何も言わず、淡々と評価だけを記録している。


(何やってんだよ……あんなの、直せるじゃん)


少年は、自分でも気づかぬうちに、爪を噛んでいた。

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