【第十二話 『暗雲と焦燥の月曜日』】③
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
戦術家だが感情に流されやすい。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いが進路に志望。
現在3人目のチームメンバーを探している。
親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
戦術家だが感情に流されやすい。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望。
現在3人目のチームメンバーを探している。
親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
お嬢様:名前はライサ。太陽しし座、月牡羊座、鞭と強烈な雷を使う。
アレッタのチームメンバー。
防御手段は、雷幕結界。近接すれば近接するほど相手は大ダメージ。
長く美しい髪と強烈な釣り目が特徴。気品がある。
相手を不快にしないお嬢様言葉が特徴、作中5本の指に入る美人キャラ。
精霊は雷雲を纏ったユニコーン型。
幸運娘:名前はアレッタ。太陽いて座、月双子座。精霊はニワトリ型。
アバターはニワトリっぽい大きめのフードのライサのチームメンバー。
武器は大弓、防御手段は高硬度の卵型のシェルターを使う。
高火力なので遠距離戦でアレッタを倒そうと思うのはやめた方がよい。
陽気な性格の頭残念キャラだが、作中5本の指に入るラッキーキャラ。
口を閉じて髪を伸ばして上品な服を着たら超絶美人。
破天荒:名前は、シェラ。太陽牡羊座月双子座。
性格は、破天荒、ツンデレ、暴力的。
ライサとアレッタに会って、2日で転校を決めた行動力の化身。
すさまじい運動神経を持っている。
精霊はオッドアイの白猫のしろっこ。
◆曲がり角の爆発。
シャウラの姿が、廊下の奥に消える。
リゲルはしばらく、その背中があった空間を見つめていた。
(……なんなんだ、あいつ)
胸の奥で、感情がざらつく。
恐怖でもない。悔しさとも違う。
ただ――“届かない”という感覚だけが、鈍く残った。
小さく息を吐いて、足を進める。
曲がり角に差し掛かった、そのとき――
「うわっ、ちょっと、どいて!!」
視界が赤い何かに染まった。
次の瞬間――ドンッ!と、音のない衝撃。
リゲルの体が仰け反り、肩にぶつかった何かが、そのまま地面に転がった。
「……いったあああ!? どこ見てんのよ、あんた!!」
高くて鋭い声が、廊下に響く。
地面に座り込んだ少女は、制服の上にパーカーを羽織り、赤茶のボブヘアを跳ねさせていた。
目元は鋭く、左右で瞳の色が違う――オッドアイ。
肩の上では、白猫が「シャー!」と声を上げ、リゲルを敵のように睨んでいる。
「避けないほうが悪いに決まってんでしょ!? それともなに? わざと!?」
完全に喧嘩腰だった。
まったく見覚えのない顔なのに、距離が近い。言葉も強い。猫も睨む。
リゲルは、一瞬だけ、シャウラの余韻を忘れていた。
「……誰?」
そう問いかけたリゲルに、少女はパッと笑って、信じられない一言を放つ。
「シェラ。今日から転校生。で、模擬戦にも参加するから、よろしく!」
拳を握って立ち上がるその姿は、廊下の空気を吹き飛ばすようだった。
「――あんた、名前は? あ、言わなくていいや。もう覚えたから!」
そう言い捨てて、シェラは得意げに鼻を鳴らした。
パーカーの肩で、白猫が「ニャ」と鋭く鳴いて、リゲルを睨む。
リゲルは何も返せなかった。
さっきまでのシャウラの残像も、心のざわめきも、すべてが吹き飛んでいた。
(……なんなんだ、こいつ)
あまりにも唐突で、あまりにも一方的。
「いたっ、いたいたー!」
甲高い声とともに、廊下の奥から誰かが駆けてくる。
顔を上げると、栗色のショートヘアが跳ねた少女が、全力で手を振りながら近づいてきた。
「やっぱりシェラじゃん! ほんとに来たんだー!」
「アレッタ!」
アレッタの隣に並んだその瞬間だけ、シェラの眉がほんの少しゆるんだ。
二人にしかわからない、何かがそこにあった。
シェラが振り返ると、口元がわずかに緩む。
「当たり前でしょ。言ったじゃん。来るって」
「いや、マジで来ると思わなかったからさー! てかさ、リゲルくんにもう会った?」
「ぶつかった」
「えぇ……」
リゲルは、ぽかんとしたままの表情で、アレッタと視線が合った。
彼女は申し訳なさそうに笑って、小さく手を合わせた。
「ごめんねー、うちの新入りが」
その言葉に、シェラが「は?」と眉を吊り上げる。
「新入りってなによ。あたしは“対等”でしょ?」
「はいはい、はいはい」
アレッタが笑って誤魔化す。
そして――その後ろから、もう一人の少女が現れた。
足音は静かで、姿勢はまっすぐ。
ウェーブのかかった長い髪が、冷たい風に揺れている。
制服は完璧な着こなしで、一切の乱れがない。
「まったく。少し目を離すと、すぐに騒ぎを起こすのね」
ライサだった。
リゲルも、ハクも、思わず背筋を伸ばす。
女子ペア二人、いやこれらは三人の中で、唯一“場を締める”気配を纏った存在。
ライサの登場で、その場の空気にようやく静けさが戻る。
けれど、完全に落ち着いたわけではなかった。
「ふーん」
シェラがリゲルの方を向いたまま、腕を組んで視線を滑らせた。
見ているようで、見ていないような――そんな挑発とも観察ともつかない目だった。
「で、アンタ……この前、ライサとアレッタに勝ったんでしょ?」
不意に、言われた言葉にリゲルのまぶたがわずかに動く。
「……確かに、そうだった気がする」
リゲルは、視線を外さずに小さく答えた。
「へぇー……」
シェラは口元だけで笑った。
「それで、その顔なの?」
「……何が言いたい」
「いや、ほら。普通さ、“あたしら倒した男”って言ったら、もうちょっと自信満々でドヤってるもんじゃない?」
そう言って、くるりと指を回すようにリゲルの顔を指差す。
「でも、アンタ。顔、迷子だったよ」
「……」
「なのに勝った。――だから、ちょっと興味湧いただけ」
リゲルは何も言わなかった。確かに、あの時の自分は、戦っていたというより、ただ必死に喰らいついていただけだった。何が正しかったのか――まだ、わからないままだ。
アレッタが「それ、褒めてんの?けなしてんの?」と苦笑すると、シェラは肩をすくめた。
「さあ? 自分でもわかんない。でもさ――」
シェラはもう一度、まっすぐリゲルを見る。
「“思ってたより”って言葉、あんたに使う日が来るかどうか。それは見たいなって思っただけ」
目つきは鋭く、口調はラフで、でもそこには奇妙な真剣さがあった。
そして彼女はひらりと後ろを向いて、白猫しろっこを肩に乗せると、軽い足取りで廊下を去っていく。
「――ま、期待しすぎて損するのは、こっちの勝手だしね」
そう言いながら、どこかで「始まり」を確信しているような背中だった。
その背中を、誰も言葉で追わなかった。
ただ、足音だけが妙に耳に残っていた。
シェラの足が止まる。
振り返るでもなく、片手を腰に当てて、ふっとため息を吐いた。
「……ほんとはさ、あたし、弱い男に興味ないんだよね」
唐突なその言葉に、リゲルがわずかに眉を動かす。
だが、シェラの語調に敵意はなかった。ただ、言葉の奥にある“判断”だけが明確だった。
「でも――ライサとアレッタに勝ったって聞いたときだけは、ちょっと考え直した」
ようやくリゲルの方に顔を向け、片目だけを細める。
その瞳は、左右で色が違っていた。オッドアイの奥に、微かな興味の火が灯っている。
「だったら、自己紹介ぐらいはしてやってもいいかなって」
そう言って、手を軽く挙げる。
「私は、シェラ。仮転校生。正式な手続きは……まあ、まだこれから。でも、もう来ちゃったからには戻らないよ」
アレッタが「え、やっぱりまだなんだ」と笑うと、シェラは「うるさいな」と軽く睨んだ。
「二日前――この二人と出会ったの」
「最初に見つけたのは、しろっこ。あいつが急に走り出して、その先に――ライサがいた」
「アレッタもすぐに現れてさ。……その時、なんか、すごく不思議な感じがした」
「初めて会うのに、そうじゃない気がしたんだよね。……たぶん、ライサもアレッタも、そうだったと思う」
「あと――精霊たちが、なんか変だった。しろっこも、ライサのユニコーンも、アレッタのニワトリも」
「言葉じゃないけど、空気みたいなもので……お互いを“確認した”みたいな感じ」
「あの瞬間だけは――自分が決めたっていうより、“決まっちゃった”って感覚のほうが近かったかも」
ライサとアレッタをそれぞれ指さす。
「――あたし、ずっと一人でやってきたし、それでいいと思ってたけど。……この二人見たときだけは、ちょっと違った」
「しろっこがね。珍しく、降りなかったんだよ」
「普段なら、あたしが近づくと勝手に逃げるのに。この二人にだけは――なぜか、肩から動かなかった」
「理由? そんなんいらないでしょ。直感。あたしの勘は、間違わない」
その言い方はぶっきらぼうで、なのに不思議と温度があった。
「おかげで手続きが後回しになってるんだけどね」
ライサが冷静に補足すると、シェラは鼻を鳴らした。
「細かいことはいいの。わたしは、ここでやるって決めたの」
しろっこが「にゃ」と鳴いて、シェラの肩の上で尻尾を立てる。
まるで、本人より先に敵味方を見分けているようだった。
「模擬戦に出るのも、そのため。あたしがどこまでやれるか、まずは見せる。……ついでに、アンタらも見ておく」
その視線は、リゲルとハクを真っすぐに射抜いていた。
軽さの奥に、かすかな牙の気配を隠し持っている。
「じゃ、控室どこだっけ。あたし、道わかんないんだけど」
その言葉で、アレッタが「しょうがないなあ~」と笑いながら先に立つ。
ライサは一歩遅れて歩き出し、すれ違いざまにリゲルの方を見て、静かに言った。
「シェラは、少しだけ変わってるけど――本物よ」
「……それに、ああ見えて。誰よりも、相手を見るのがうまいわ」
そして、三人の背中が並んで廊下を進んでいく。
制服のすそが揺れ、肩の上の白猫が後ろをちらりと振り返った。
リゲルは、思わず息を飲んだ。
(……あれが、チームなんだな)
それは、形も理由も揃っていない。
けれど、妙に確かに“まとまっていた”。
目の前にあったのは、バラバラなのに、不思議と噛み合う――そんな三人の背中だった。
その時、隣で立ち止まっていたハクが、ぽつりと呟いた。
「……あれは、やばいね」
「やばい?」
リゲルが思わず聞き返す。
ハクは、前を見たまま、小さく息をついた。
「完成度じゃない。精度でもない。……あれは、ただ“止まらない”やつらだよ」
そこには、驚きでも賞賛でもない。
少しだけ、心底からの“手をつけたくなさ”が滲んでいた。
リゲルは返す言葉が見つからず、ただ、その背中をもう一度見つめ直した。
何かを追いかけたいと、少しだけ思った。でもそれが何なのか、今の彼にはまだ、言葉にならなかった。
◆雨音と決意の部屋
夜。
窓の外からは、静かな雨音が聞こえていた。
午後ににじみ始めた雲は、とうとう空全体を覆い尽くしたらしい。
リゲルは机に向かいながら、ほとんど手を動かしていなかった。
開いた端末の画面には、模擬戦の勝敗データと、登録一覧の情報。
けれど目は、それをただ“見ているだけ”だった。
静かだった。
ぴーちゃんも、すでに眠っている。
月曜の精霊は、こんなふうに“翌日に持ち越さない”のが習性なのかもしれない。
――それなのに。
(……まだ、残ってる)
胸の奥が、わずかにざらついたままだった。
シャウラの黒炎。
シェラの目線。
ライサたちの連携。
そして、あの言葉。
「でもさ――“思ってたより”って言葉、あんたに使う日が来るかどうか。それは見たいなって思っただけ」
(……そうか)
ようやく、自分の中にあった感情の正体がわかった気がした。
焦りでも、嫉妬でも、羨望でもない。
もっと手前の――“期待されることへの恐れ”。
自分が、誰かに何かを言われて期待されること。
それに対して「違った」と言われること。
それが、怖かった。
だからこそ、あの言葉は刺さった。
「……顔、迷子だったよ」
(――だろうな)
自分でも、そう思っていた。
静かに端末を閉じる。
窓の外を見つめると、街灯の明かりが雨粒に揺れていた。
少しだけ、窓を開けてみる。
ひんやりとした夜風が、肌に触れる。
けれど、もう寒くはなかった。
「――やるしかないか」
誰に言うでもなく、そう呟く。
すぐに“強く”なれるわけじゃない。
でも、“逃げない”ことなら、今この瞬間から始められる。
リゲルはゆっくりと目を閉じ、深く呼吸した。
その奥で、ほんのわずかに羽根が揺れた気がした。




