表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/60

【第十二話 『暗雲と焦燥の月曜日』】②

主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。

    戦術家だが感情に流されやすい。

    この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いが進路に志望。

    現在3人目のチームメンバーを探している。

 親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。

    知らない物の値段を当てる特技がある。

    裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。

 不良:名前は、シャウラ。太陽蠍座、月天秤座。見た目や雰囲気が怖い。

    よくトラブルを起こしている場面をリゲルに目撃される

    リゲルからの第一印象は最悪、関わりたくないと思われている。

    実は、誰よりも仲間重い。実力よりも軽くみられることが多い。

   


◆シャウラの戦闘


『――構造適応模擬戦・第三区画/崩落テラスフィールド』


電光掲示板に浮かび上がる、シャウラ一人の名前。

その右側に空白のままの二枠が並んでいる。


それは、この3on3形式の模擬戦において、彼だけが単騎で出場していることを示していた。

誰も、彼が“勝ちに来た”と思っていなかった。


仲間割れを起こし、あえてチームを組まずに戦う選択をした生徒は彼一人だった。

理由は明かされなかったが、昼休み――試合直前の時間帯に、準備室前での激しい口論が一部の生徒たちに目撃されていた。


「……じゃあ、おまえらは次から来なくていい」

それが彼の最後の言葉だったと、噂は続く。


だが、今この瞬間――その理由を知る者は誰も必要としていなかった。


風が、吹き抜けていた。

金属とコンクリートの匂いが混ざったその空間は、四方を高層廃ビルに囲まれた、人工の峡谷のような構造だった。


階層ごとに崩落した床、ねじれた梁、軋む配管。

その中心、むき出しの鉄筋とひび割れた床材の上に、一人の少年が立っていた。


シャウラ。

黒い制服に、黒いジャケット。

左肩には、カラス型の精霊がじっと止まっている。


アバターはメタリックな黒金属と漆黒の羽根を思わせる装甲で構成され、全体にカラスのような雰囲気をまとっていた。

手には巨大なクロー型の金属武器――それは鋭く湾曲し、まるで“斬る”というより“喰らう”ような形状だった。


彼を取り囲むように、三人の対戦者が散開していた。

それぞれが異なる方向から接近し、距離を一定に保ちながら、動きを探っている。


「気を抜くな。あいつ、こっちを見てないだけで、こっちの位置全部把握してる」

「わかってる。……ただの乱戦型じゃない。間合いは極端に短い。逆に言えば、そこに踏み込ませなければいい」

「でも、回避も防御も……してこない。さっきの接近戦も、全部“受けてた”」


会話は抑制され、必要な情報のみが交わされていた。

この3人は、即席の組み合わせではなかった。

防御・撹乱・瞬間火力――それぞれの役割が明確に分担され、連携も取れている。


だからこそ、彼らは油断しない。

戦術的な“警戒”が、常に全身に張り巡らされている。


それでも――違和感だけが、確かにあった。


「なんで、あんな戦い方、してる?」


シャウラは微動だにせず、目も細めず、ただまっすぐ立っている。

右腕には切創の痕があり、そこからは淡く青白いマナが漏れ出していた。

だが彼は、それを気にする素振りすら見せなかった。


一瞬、風が吹き抜ける。

その時――シャウラのカラスが、低く鳴いた。


「……来るぞ!」


刹那、3人のうちの一人――最速型の射撃役が先手を打った。

魔力による瞬間着弾型の投擲――三点同時。

一点目は目線、二点目は足元、三点目は背後からの跳弾角。


動かなければ避けられない。


しかし――

シャウラは、動かなかった。


瞬間、魔力弾がシャウラの胸部と腹部を正確に撃ち抜く。

光が弾け、鋭い着弾音とともにアバター装甲に亀裂が走る。

青白いマナがそこから漏れ出し、シャウラの周囲にゆらりと揺らめく粒子の尾を残した。


「っ……!」


思わず、リゲルは目を見張った。

遠巻きに見ていた彼の中で、何かが“ズレた”。


(……なにやってんだよ、あいつ……)

(……なんで、あんな戦い方するんだ。勝ちたい、だけじゃないのか……?)


だが次の瞬間、シャウラの身体がゆっくりと、重心を前へ移した。

姿勢を崩さない。

出力すら、そのまま。


そして、彼の背後で――影が揺れた。

カラスの黒翼が、空間を薙ぐように広がる。

魔力の気流が“集まり”、影が、濃く、深くなる。


そして、それは――黒炎となって、クローを包み始めた。

ぼう、と音もなく燃えるその炎は、風に煽られもせず、ただ重く揺らめいていた。


「……影、動いてる……!?」「距離を取れ!」


二人目の支援役がすぐさま防壁を張ろうと魔力を展開する――

その一瞬前だった。


シャウラの姿が、消えた。


「っ……!?」


次の瞬間、衝撃音。

最初に射撃を仕掛けた一人が、文字通り“吹き飛ばされた”。


黒炎を纏ったクローが胴体に突き刺さり、そのまま振り払われた。

地面を転がる前に、アバターが粒子に変わり、消滅する。


一撃。

ただの一撃で、戦闘不能。


「硬直ッ! 立て直せ!」


即座に防壁が展開される。

だが、遅い。

シャウラはすでに次の位置にいる。


足音がない。気配がない。だが、影が動く。


「くそ、動きが読めない……ッ」


二撃目は、防御魔法を全展開していたリーダーの元へ――

クローが空間を裂いた瞬間、黒炎が凄まじく燃え上がる。


魔力障壁が何重にも重なり、ドーム状の超防御が形成されていた。


バキィン……ッ! キィィイイイン……!

悲鳴のような音を立てて、複層障壁が崩壊していく。

一層目が砕け、二層目が音を立てて歪み、三層目で高周波の魔力反響が空気を震わせた。


「……俺の勝ちだああああああああ!!!」


叫びと同時に、黒炎をまとったクローが防御の中心核に到達。


ドゴォォォォン!!!


破裂音のような魔力爆発がフィールド全体に響き渡る。


「……もういい」


声というより、息のように漏れた音だった。


それが、相手チームに向けられたものなのか、自分が置いていったメンバーに向けたものなのか、それとも別の相手に向けられたのか定かではない。


観客席の一部が光の余波に目を覆い、粒子と黒炎の爆風が戦場を覆った。


防御のドームは完全に粉砕され、リーダー格のアバターが、音もなく崩れていく。


一拍遅れて、観客席がざわついた。


「……あれで勝つんだ」「今の防御、全部割ったぞ……」「どれだけの出力だったんだ今の」


フィールドに、風が戻る。


シャウラは、無言のまま、拳を握りしめることもせず、ただ立っていた。

その手には、まだ黒炎が燻っていた。


右肩からは血が流れ続けていた。

だが、彼の精霊――カラスは、その血を舐めるようにして首をかしげると、再び肩に乗った。


黒い影が、空間に戻る。

まるで最初から、誰もいなかったかのように。


◆観客席側。


遠くの影から、リゲルとハクが静かにそれを見ていた。


「アレ、やばいタイプだな」


ハクが低く呟く。

目元は笑っていなかった。


「……でも、強かった」


リゲルの声には、戸惑いが混じっていた。


恐れではない。

憧れでもない。


ただ――“理解できない”という感覚。


人と交わらない強さ。

傷を受け入れ、そこから“力を出す”という戦い方。


(……あれは、俺たちとは違う)


リゲルは、そう思った。


◆放課後。


空はすでに灰色で、雲の縁が分厚く滲んでいた。

風が冷たく、廊下の窓をかすかに鳴らしている。

校舎の中は、昼の喧騒とはうって変わって静かだった。


リゲルとハクは、無言で並んで歩いていた。

先ほどの模擬戦。シャウラの戦いぶりが、頭から離れない。

あの爆発的な一撃と、あの無言の背中。


ふと、前から歩いてくる影が目に入った。

シャウラだった。

黒い制服に黒いジャケット。

肩の上には、あのカラス型の精霊が止まっている。


すれ違いざま、リゲルの肩が軽く当たった。

だが、シャウラは一言も発さず、顔も向けない。


「……おい」


リゲルが振り返って睨む。

その瞬間、シャウラの足が止まった。

ゆっくりと、わずかにだけ首を傾ける。


「なんだよ?やんのか?」


口元だけが笑っていた。

その肩で、カラスの精霊が羽を広げる。

ぱち、と空気が弾けた。微かな火花が浮かんで、すぐに消える。


威圧ではなかった。

ただ――“違う”という感覚だけが、肌を刺した。


「無理だ、あいつ。絶対無理」


横で、ハクがぽつりとつぶやいた。

シャウラはもう、歩き去っていた。

廊下の奥で、影のなかに溶けていく。


リゲルは、一歩も動けなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ