【第十二話 『暗雲と焦燥の月曜日』】②
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
戦術家だが感情に流されやすい。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いが進路に志望。
現在3人目のチームメンバーを探している。
親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
不良:名前は、シャウラ。太陽蠍座、月天秤座。見た目や雰囲気が怖い。
よくトラブルを起こしている場面をリゲルに目撃される
リゲルからの第一印象は最悪、関わりたくないと思われている。
実は、誰よりも仲間重い。実力よりも軽くみられることが多い。
◆シャウラの戦闘
『――構造適応模擬戦・第三区画/崩落テラスフィールド』
電光掲示板に浮かび上がる、シャウラ一人の名前。
その右側に空白のままの二枠が並んでいる。
それは、この3on3形式の模擬戦において、彼だけが単騎で出場していることを示していた。
誰も、彼が“勝ちに来た”と思っていなかった。
仲間割れを起こし、あえてチームを組まずに戦う選択をした生徒は彼一人だった。
理由は明かされなかったが、昼休み――試合直前の時間帯に、準備室前での激しい口論が一部の生徒たちに目撃されていた。
「……じゃあ、おまえらは次から来なくていい」
それが彼の最後の言葉だったと、噂は続く。
だが、今この瞬間――その理由を知る者は誰も必要としていなかった。
風が、吹き抜けていた。
金属とコンクリートの匂いが混ざったその空間は、四方を高層廃ビルに囲まれた、人工の峡谷のような構造だった。
階層ごとに崩落した床、ねじれた梁、軋む配管。
その中心、むき出しの鉄筋とひび割れた床材の上に、一人の少年が立っていた。
シャウラ。
黒い制服に、黒いジャケット。
左肩には、カラス型の精霊がじっと止まっている。
アバターはメタリックな黒金属と漆黒の羽根を思わせる装甲で構成され、全体にカラスのような雰囲気をまとっていた。
手には巨大なクロー型の金属武器――それは鋭く湾曲し、まるで“斬る”というより“喰らう”ような形状だった。
彼を取り囲むように、三人の対戦者が散開していた。
それぞれが異なる方向から接近し、距離を一定に保ちながら、動きを探っている。
「気を抜くな。あいつ、こっちを見てないだけで、こっちの位置全部把握してる」
「わかってる。……ただの乱戦型じゃない。間合いは極端に短い。逆に言えば、そこに踏み込ませなければいい」
「でも、回避も防御も……してこない。さっきの接近戦も、全部“受けてた”」
会話は抑制され、必要な情報のみが交わされていた。
この3人は、即席の組み合わせではなかった。
防御・撹乱・瞬間火力――それぞれの役割が明確に分担され、連携も取れている。
だからこそ、彼らは油断しない。
戦術的な“警戒”が、常に全身に張り巡らされている。
それでも――違和感だけが、確かにあった。
「なんで、あんな戦い方、してる?」
シャウラは微動だにせず、目も細めず、ただまっすぐ立っている。
右腕には切創の痕があり、そこからは淡く青白いマナが漏れ出していた。
だが彼は、それを気にする素振りすら見せなかった。
一瞬、風が吹き抜ける。
その時――シャウラのカラスが、低く鳴いた。
「……来るぞ!」
刹那、3人のうちの一人――最速型の射撃役が先手を打った。
魔力による瞬間着弾型の投擲――三点同時。
一点目は目線、二点目は足元、三点目は背後からの跳弾角。
動かなければ避けられない。
しかし――
シャウラは、動かなかった。
瞬間、魔力弾がシャウラの胸部と腹部を正確に撃ち抜く。
光が弾け、鋭い着弾音とともにアバター装甲に亀裂が走る。
青白いマナがそこから漏れ出し、シャウラの周囲にゆらりと揺らめく粒子の尾を残した。
「っ……!」
思わず、リゲルは目を見張った。
遠巻きに見ていた彼の中で、何かが“ズレた”。
(……なにやってんだよ、あいつ……)
(……なんで、あんな戦い方するんだ。勝ちたい、だけじゃないのか……?)
だが次の瞬間、シャウラの身体がゆっくりと、重心を前へ移した。
姿勢を崩さない。
出力すら、そのまま。
そして、彼の背後で――影が揺れた。
カラスの黒翼が、空間を薙ぐように広がる。
魔力の気流が“集まり”、影が、濃く、深くなる。
そして、それは――黒炎となって、クローを包み始めた。
ぼう、と音もなく燃えるその炎は、風に煽られもせず、ただ重く揺らめいていた。
「……影、動いてる……!?」「距離を取れ!」
二人目の支援役がすぐさま防壁を張ろうと魔力を展開する――
その一瞬前だった。
シャウラの姿が、消えた。
「っ……!?」
次の瞬間、衝撃音。
最初に射撃を仕掛けた一人が、文字通り“吹き飛ばされた”。
黒炎を纏ったクローが胴体に突き刺さり、そのまま振り払われた。
地面を転がる前に、アバターが粒子に変わり、消滅する。
一撃。
ただの一撃で、戦闘不能。
「硬直ッ! 立て直せ!」
即座に防壁が展開される。
だが、遅い。
シャウラはすでに次の位置にいる。
足音がない。気配がない。だが、影が動く。
「くそ、動きが読めない……ッ」
二撃目は、防御魔法を全展開していたリーダーの元へ――
クローが空間を裂いた瞬間、黒炎が凄まじく燃え上がる。
魔力障壁が何重にも重なり、ドーム状の超防御が形成されていた。
バキィン……ッ! キィィイイイン……!
悲鳴のような音を立てて、複層障壁が崩壊していく。
一層目が砕け、二層目が音を立てて歪み、三層目で高周波の魔力反響が空気を震わせた。
「……俺の勝ちだああああああああ!!!」
叫びと同時に、黒炎をまとったクローが防御の中心核に到達。
ドゴォォォォン!!!
破裂音のような魔力爆発がフィールド全体に響き渡る。
「……もういい」
声というより、息のように漏れた音だった。
それが、相手チームに向けられたものなのか、自分が置いていったメンバーに向けたものなのか、それとも別の相手に向けられたのか定かではない。
観客席の一部が光の余波に目を覆い、粒子と黒炎の爆風が戦場を覆った。
防御のドームは完全に粉砕され、リーダー格のアバターが、音もなく崩れていく。
一拍遅れて、観客席がざわついた。
「……あれで勝つんだ」「今の防御、全部割ったぞ……」「どれだけの出力だったんだ今の」
フィールドに、風が戻る。
シャウラは、無言のまま、拳を握りしめることもせず、ただ立っていた。
その手には、まだ黒炎が燻っていた。
右肩からは血が流れ続けていた。
だが、彼の精霊――カラスは、その血を舐めるようにして首をかしげると、再び肩に乗った。
黒い影が、空間に戻る。
まるで最初から、誰もいなかったかのように。
◆観客席側。
遠くの影から、リゲルとハクが静かにそれを見ていた。
「アレ、やばいタイプだな」
ハクが低く呟く。
目元は笑っていなかった。
「……でも、強かった」
リゲルの声には、戸惑いが混じっていた。
恐れではない。
憧れでもない。
ただ――“理解できない”という感覚。
人と交わらない強さ。
傷を受け入れ、そこから“力を出す”という戦い方。
(……あれは、俺たちとは違う)
リゲルは、そう思った。
◆放課後。
空はすでに灰色で、雲の縁が分厚く滲んでいた。
風が冷たく、廊下の窓をかすかに鳴らしている。
校舎の中は、昼の喧騒とはうって変わって静かだった。
リゲルとハクは、無言で並んで歩いていた。
先ほどの模擬戦。シャウラの戦いぶりが、頭から離れない。
あの爆発的な一撃と、あの無言の背中。
ふと、前から歩いてくる影が目に入った。
シャウラだった。
黒い制服に黒いジャケット。
肩の上には、あのカラス型の精霊が止まっている。
すれ違いざま、リゲルの肩が軽く当たった。
だが、シャウラは一言も発さず、顔も向けない。
「……おい」
リゲルが振り返って睨む。
その瞬間、シャウラの足が止まった。
ゆっくりと、わずかにだけ首を傾ける。
「なんだよ?やんのか?」
口元だけが笑っていた。
その肩で、カラスの精霊が羽を広げる。
ぱち、と空気が弾けた。微かな火花が浮かんで、すぐに消える。
威圧ではなかった。
ただ――“違う”という感覚だけが、肌を刺した。
「無理だ、あいつ。絶対無理」
横で、ハクがぽつりとつぶやいた。
シャウラはもう、歩き去っていた。
廊下の奥で、影のなかに溶けていく。
リゲルは、一歩も動けなかった。




