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【第十二話 『暗雲と焦燥の月曜日』】①

主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。

    戦術家だが感情に流されやすい。

    この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いが進路に志望。

    現在3人目のチームメンバーを探している。

 親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。

    知らない物の値段を当てる特技がある。

    裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。

 精霊:名前はぴーちゃん。孔雀の精霊。曜日ごとに性格や見た目が変わる。

    土曜日のぴーちゃんは、寝坊助でネガティブ。

    イメージカラーは紫色。

    ゲームで夜更かしすることが多く、7匹の中で唯一リゲルに起こされている。

◆月曜日のぴーちゃん


ジリリリリ……


目覚ましの電子音が、ぼんやりと耳に届いた。

リゲルは、ゆっくりとまぶたを開けた。


カーテン越しの光が、やけに白く、広がっている。

空は晴れているはずだった。風はない。雲も、朝の段階では見えなかった。

けれど、どこか、空気がざらついている気がした。


(……午後には、崩れるかも)


そう思ったのは、天気のことだけではなかった。

胸の奥に、何かが“溶けずに残っている”感覚があった。


――日曜、夕暮れの静寂にて。


自分の剣は、何度やってもわずかに届かなかった。

ビット、羽、風、角度。すべて理屈どおりにやっているのに、先端がかすらない。


その後に見た、ザビの動き。

斬撃すら音を立てない、異様な静けさと美しさ。

完璧な流れの中で研ぎ澄まされた、あの“到達不能”の精密さ。


(あれを……本当に、越えられる日が来るのか?)


羽ばたきと剣の軌道が完全に同期し、火花がオーラとして凝固し、

ただ動くだけで空間が従っていくような“均整”が、そこにはあった。


(……無理だろ)


初めて、心の中でそうつぶやきかけた。

それは声にならなかったけれど、思考の形になっただけで、もう十分だった。


(俺は……このまま、一生、届かないんじゃないか)

(“最高の状態”なんて、俺に来るのか?)


焦りとか、嫉妬とか、羨望とか、そういう言葉ではうまく拾えなかった。

ただ、胸の奥が静かに沈んでいくのを感じていた。


「……ぴーちゃん?」


部屋の静けさに、違和感を覚える。

いつもなら、目覚ましよりも早く起きて出てくるはずのぴーちゃんが、今日に限って姿を見せなかった。


「……おーい?」


羽の器に手をかざす。ようやく、淡く光がにじむ。

ふわりと空中に浮かび上がった羽は、半分だけ開いていた。


「んあ……リゲル……? ……朝……?」


声はくぐもり、目はほとんど開いていない。

いつもの元気も、切れ味も、まるでない。


羽根の輪郭がぼやけたまま、ぴーちゃんは枕元にゆっくり降りてきた。


「夜更かししたの。動画見てたら止まんなくて……」


「また?」


「日曜だし、つい……ゲームもちょっと……」


まるで濡れた洗濯物のように、ぴーちゃんはリゲルの肩にだらりと羽を伸ばす。

やる気というものが、物理的に重たくなって落ちてきたような姿だった。


「学校……? 今日……?」


「……月曜です」


「そっか……」


うめくように言って、羽で自分の顔を覆う。


「俺が寝坊してるわけじゃないのに、なんで起こす側なんだよ……」


リゲルは制服の襟を引きながらつぶやいた。

その声にも、気だるさがにじんでいた。


ザビの言葉が、また浮かぶ。


――いつか、お互い最高の状態で戦えることを、楽しみにしてる。


(……あれは、社交辞令じゃなかった)

(だからこそ……遠すぎて、苦しい)


目覚ましがもう一度、控えめに鳴った。

窓の外はまだ晴れていたが、遠くの空の端に、薄い雲がじわじわと広がっているのが見えた。


まるで、何かが静かに近づいてくるような朝だった。


◆不足エントリー


寮に出ると、空は、一応、晴れていた。

けれど、どこかひっかかっていた。

風はなく、音もなく、なのに空全体が張りつめているように感じた。


遠くの空には、何本もの雲の筋が斜めに伸びていた。

それは、ただの高層の薄雲だったのかもしれない。

でもリゲルには、それが何かを引き裂いた跡のように見えた。


(……午後には、絶対崩れる)


そんな気がしたのは、気圧でも天気でもなく、自分の内側の問題だった。


校舎に入ると、いつもより人の密度が高かった。

昇降口横――3on3選抜戦の仮登録端末に、人だかりができていた。


生徒たちの視線は、自然とその画面へと吸い寄せられている。


「もう組んだのか、あの3人」

「うわ、もう10チーム超えてるじゃん」

「やば、あの3人で固めたんだ。強そ……」


そんな声の間を縫うように、リゲルとハクは人混みの中を抜けた。

彼らの姿を見つけて、少しだけ周囲の空気が揺れる。


「……あの2人、女子最強ペアに勝ったんだよな」

「この前の試合、見た?」

「うん……すごかったけど、なんか……怖くない?」


囁き声は追ってこないが、残響だけは耳に残る。

祝福ではない。避けられているのだと、肌でわかる。


パネルの前に立つ。

画面にはすでに十数組の仮登録が表示されていた。

同じ戦術系統で組んでいるのもいれば、仲良し組で固まっているのもいた。


記号的で、私的で、でも、全部が有機的に繋がっているように見えた。

そこに、自分たちの名前は、まだなかった。


「……ほとんど、もう埋まってるじゃん」


リゲルがぽつりと漏らす。

すぐ横でハクが、端末の表示を無言で見つめていた。

すべての登録状況を、ひとつひとつのパターンとして、何かを読んでいるようだった。


「……あとは、登録状況見て予測するだけか」


ハクが低くつぶやいた。

その声には、淡々とした“作戦脳”の気配があった。

いつもの軽口の裏で、常に何かを計算している――それが、この男の本性だった。


「……俺たち、なんかもう“余り物”っぽいな」


リゲルはそう言った。

苦笑ではなかった。感情の端が、もう冷えていた。


「……たぶん、誰も“誘ってもらえる存在”だと思ってないんだろうな、俺たち」


言ってから、自分で気づく。

勝ったはずなのに――何も変わっていなかったことに。


「やるしかないか」


ハクが静かに言って、カードを2枚同時に差し込んだ。

端末が反応し、画面に2人の名前と顔が浮かび上がる。


【リゲル・ハク(2/3)――仮登録完了】


表示は一瞬で確定され、すぐに一覧の下段に追加された。

その瞬間、近くにいた生徒が、小声でつぶやいた。


「あ、2人だけか」

「やっぱ1人足りないんだ……」


それはただの観察に過ぎなかった。

けれど、リゲルにはその一言が、胸の奥にまで沈み込んでくるのを感じた。


「……出遅れたのは、俺たちの方じゃなかったのに」


浮かび上がった仮登録の表示を見つめながら、リゲルは思った。

それでも、気づけば“余った側”に立たされていた――そんな感覚だけが、確かだった。


◆最悪の初対面


昼休み、廊下の奥で、金属ラックが倒れるような音が響いた。

少し遅れて、怒鳴り声がそれを追いかける。


「ふざけんなよ!なんで勝手に突っ込むんだよ!」


リゲルとハクは階段へ向かう途中で立ち止まり、音のする方へと視線を向けた。


準備室前の陰になったスペースで、3人の影が言い争っていた。

中央に立っていたのは、黒いジャケットを羽織った男子生徒。

肩にはカラスのような黒い精霊を乗せ、顔は半分、長い前髪に隠れていた。


シャウラ。


名は知れている――不良グループの中心格、無口で、喧嘩が強いと噂されていた。

彼の前に立ち塞がっていたのは、同じく不良であるレサトとジュバ。

いつも3人でつるんでいる姿を見かけることが多かった。


「言ったよな、“合わせる”って。あれ、合わせる動きだったかよ?」


レサトが肩をすくめながら言うと、ジュバも追い打ちをかける。


「てめえの動き、無茶苦茶すぎて読めねえんだよ。まじでついていけねえって!」


シャウラは、黙ったまま2人を見ていた。

何かを言い返す様子もなく、ただ目だけが静かに据わっている。


やがて、低い声で一言だけ落とした。


「……じゃあ、おまえらは次から来なくていい」


まるで感情のフィルターをすべて捨てたような、まっすぐな音だった。


「……は?」

「いや、待て、それは――」


言葉を詰まらせるレサトとジュバの間で、

シャウラの肩にとまっていたカラス型の精霊が「カァ……」と鳴いた。

低く、長く、意図を持ったようなタイミングで。


リゲルは、その光景を遠巻きに見ていて、反射的に口を開いた。


「……うわ、最悪なやつだ……」


シャウラは2人の間を無言ですり抜けて、廊下を奥へと歩いていった。

制服の裾が揺れ、靴音だけがやけに響いた。

背中には、誰にも触れさせないような雰囲気が張りついていた。

けれどその歩き方には、一切の迷いもなかった。


昼休みの終わり。

校舎裏へとつながる通路は、人通りも少なく、午後の光が壁に斜めの影を落としていた。


リゲルとハクは、なんとなく教室に戻る気がせず、階段下の旧設備棟の近くまで足を伸ばしていた。


このあたりは今、立ち入りが厳しく制限されているわけでもなく、

古い模擬戦用の練習区画が一部まだ稼働していると聞いたことがある。


「……なあ、あれって、稼働中?」


ハクが、廊下の先にある電子パネルの光を見て言った。


点灯していたのは、古いタイプの模擬戦フィールド用インジケーターだった。

赤く滲む“戦闘中”の表示が、誰もいないはずの空間に、不釣り合いな存在感を放っている。


そのとき、かすかに――鈍い衝撃音が響いた。

何かが弾かれ、壁に激突したような音。


続けて、低い唸り声と、羽音のような不気味な風の音が、コンクリートの向こう側から流れてくる。


「戦ってる……?」


リゲルは思わず声を低くした。

視線の先には、旧模擬戦フィールドの端――その影の中に、何かの気配がある。


精密なスキャン音とともに、煙のようなエフェクトが浮かび、

何人かの影が動いているのが見えた。


「……あれ、シャウラじゃないか?」


ハクの声が落ち着いているのに対し、リゲルの心臓は、ほんの少しだけ早くなっていた。


なぜ、彼はこんなところで一人で戦っているのか。

誰と、何のために。


それは、彼らにとって“知る必要のないこと”のはずだった。


けれど、足が止まった。

――まるで、何かを見てはいけない気がした。


なのに、目を逸らすこともできなかった。

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