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【第十一話 『麻雀』】④

主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。

    戦術家だが感情に流されやすい。

    この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望している。

    今は、自分の目指すべき「誠」という人格態度を磨いている。

    現在3人目のチームメンバーを探している。

 親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。

    知らない物の値段を当てる特技がある。

    裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。

 少年:太陽水瓶座、月蟹座。早生まれで少し体が小さい同じ学校同級生。

    最低限の単位だけ取ってゲームセンターに入り浸っている。

    あまり仲のいい人がいないが、すごい才能をもっている。

    一度リゲルの誘いを拒絶した。

◆南三局 一本場


【南三局 一本場・親は青年】


 流局のあと、場にひそやかな湿り気が残っていた。

 命拾いをしたリゲルの呼吸が浅くなったことを、誰も気づかなかった。

 けれど、それでも次の局は始まる。


 配牌は、どこか鈍かった。

 重くはないが、軽くもない。

 誰の手からも、突出した勢いは感じられなかった。


 リゲルは静かに一索を切った。

 それは、先ほどの局とまったく同じ一巡目。

 何の迷いもなかった。

 ――だからこそ、その意味には気づけなかった。


 八巡目。

 少年が、やや鋭い速度で6索を切った。

 その直後、牌を引いた瞬間に宣言が飛ぶ。

「リーチ」


 その声は、切先のようだった。

 河の流れは自然。中張牌が早めに捨てられ、浮くような端牌もない。

 リゲルは一度、少年の手をなぞるように見た。

(……きれいすぎる)


 リーチ直前に捨てられたのは6索。

 つまり、“筋”で言えば3,9索は比較的安全な牌になる――誰もがそう思った。


 だが、次に3索を切ったのは――青年だった。

「ロン」


 刃が落ちたのは、一発目。

 少年が手を開く。

 リーチ・一発・123の三色。裏ドラ1。満貫、8000点。


 きれいな形だった。

 ただし、その3索待ちは、直前に通った6索に隠れた“筋ひっかけ”だった。


 場の緊張が一度、弾けるように解けた。

 だが、リゲルの心には、別のものが張り詰めていた。

(……俺、これ、切るつもりだった)


 一巡目。またしても一索を切っていた。

 その影響で、中盤に引いた3索が浮いていた。

 もし、青年があそこで踏まなかったら――

(いずれ俺が、あの3索を切ってた)


 助けられたという感覚は、なかった。

 ただ、“死にそこなった”という事実だけが、静かに胸に沈んでいった。


 清算が終わり、表示が更新される。

 少年:31300点

 リゲル:29500点

 ――点差は1800点。


 とうとう追い抜かれた。

 リゲルは小さく唇を引き結ぶ。

 あとは、最終局。

 もう、守るだけでは勝てない。


 どちらが本当に“勝ちきる”のか、

 すべてが次に決まる。


◆南四局 一本場


 配牌で「中中」の対子を見たとき、少年は確かに思った。

(これは――いける)


 一翻作れる! これを鳴いて形にすれば、押し切れる。


 こちらはトップ。相手は親――差は1800点。

 ツモられれば負け、出和了りでも2翻以上なら逆転される。

 だが、自分の手が先に間に合えば、それでいい。それで全部が終わる。


 ――そのはずだった。


 だが、巡目は進んだ。

 思ったよりも、形が寄らない。

 孤立牌は離れ、対子はばらけ、萬子も筒子も落ち着かない。

「中」はまだ場に出ない。

(……遅い)


 五巡目。ハクが少しだけ捨て牌を整え始める。

 リゲルは索子をゆっくり回しているようだった。


 重たい。嫌な空気。

 なぜか中が出ない。誰かが持っている――いや、押さえている。


 八巡目、九巡目、十巡目。

 形はようやく寄り始めるが、まだ中が引けない。

(おかしい……イーシャンテンのはずなのに)


 十二巡目。

 ようやく、テンパった。

 中――3枚目。

 これで、ようやく形になる。


「123萬」「789萬」「3456筒」「中中中」

 待ちは――ノベタン。3筒・6筒の両面単騎待ち。


 だが、3索も6筒も河に6筒が1枚しかないから、有効牌は5枚もある。

 しかもリゲルは索子で染めている。

 引けば切るしかない。


 リーチをかける選択肢もあった。

 けれど、点差諸々の条件を考えれば、ダマでいい。

 このまま押し切れば、自分が勝つ。


 だが、次の巡目――リゲルが「カン」と宣言する。

 一瞬少年は混乱した。

 その刹那、「リーチ」と告げる。


 その声が、全身を撃ち抜いた。

(……来た)


 少年は牌を止めた。

 見るからに“全部入っている”形。

 河は萬子、筒子、字牌ばかり。しかも2索がカンされていた。


 リゲルの手には、索子の4~9がぎっしり詰まっていると考えるのが自然だった。

(清一色。まず間違いない)

(ツモられたら終わり。しかも……多面待ち?)

(カンをするってことは、あの形で“見せてでも勝負に出た”ってこと)


 次巡。自分のツモは――1索だった。

 視界が揺れる。


 ドラ表示牌に1索がある。青年の河にも1枚見える。

(2枚見えてる。ということは、残りは――1枚)


 ――つまり、「地獄」。


 だが、万が一があるから、それでも安心はできない。

 清一色なら、どこに待ちがあってもおかしくない。


 確かに、1索を通せば、筒子の両面待ちで勝てるかもしれない。

 だが、こちらも聴牌を維持できる以上、万が一があるからこれは通せない。


 少年は冷静に、3筒を切った。


 さらに次順、ツモったのは――3索だった。


 聴牌を維持するなら「1索」単騎待ちか「3索」単騎待ちか「2索」のカン張待ちの三つしかなかった。


 アンコの「中」を切れば一応聴牌できる。

 しかし、上がり牌の2索はリゲルが既に「カン」しているので、死んでいる。

 ゆえに、カン張待ちにする選択肢はない。


 では、上がるのを諦めて現物を切るか?

 いや、未だ十四巡で、青年もハクも下り気配だから、おそらく多面待ちのリゲルを自由にさせてしまう。

 俺が攻めなくては勝てない。


 では、「1索」か「3索」か。


 この点、2索がカンされているから、1索には“壁”がある。

 加えて、1索は青年の河に1枚、ドラ表示牌に1枚見えている。


 そしてこの1枚。

 仮に1索が待ちに含まれるならば、その隣の2索をカンするのはこの鉄火場で多面待ちを捨てるのと同義なのだから合理的な考え方ではない。

 普通はあり得る思考ではないのだ。


 他方で、“3索は多面待ちに含まれやすく、最も通りづらい”。

 むしろこの場合は、待ちは索子の上の方の789だけとか?


 十秒程度で、脳内で推論が一周し、同じ場所に戻る。

 とにかく、選べるのは、そのどちらかしかなかった。


 少年は、静かに息を吐いた。

 そして、1索を切った。


「ロン!!!」


 ――その声が、すべてを終わらせた。


【終局】


「リーチ、面清、ドラ4――」


点棒の申告が、ゆっくりと空気を割っていく。


「親の三倍満、36000!」


その瞬間、卓の中心に置かれた点棒たちが、電子音とともにごそりと動いた。

得点表示が跳ねるように更新され、リゲルの名前が一番上に浮かぶ。


トップ。逆転。南四局、親の一撃。


勝った――


けれど、その感覚は、胸の中でなかなか降りてこなかった。


卓を囲む全員が、しばし動かない。


少年は、静かに牌を伏せ、点棒を整理するように動き出した。

その手つきは冷静で、整然としていて――


だが突然、その肩が小刻みに震えた。


「――っは、あはは……!」


最初は、噛み殺すような笑いだった。

けれどすぐにそれは、抑えの利かない大きな笑いに変わる。


「はははっ、あはっ、はっ……っく、あーっはっはっ!!」


少年は、本当に楽しそうに、大声で笑った。

悔しさも、照れも、全部を包み込むような、からっとした笑いだった。


「――はー……負けた。こんなに負けたの、ほんと久しぶりだ……!」


やがて笑いの余韻を残したまま、少年はリゲルの方を向く。

その目は、どこまでも澄んでいた。


「――12222345677889の形でカンしたのかよ。

 2索切ってれば1索・3索・6索・9索なら4面待ちだったじゃん。」


リゲルは小さく会釈し、笑いかけた。

その顔には、どこかあきれたような照れも混じっていた。


「……でもさ、たぶんそれじゃ出ると思わなかったんだ。」


言葉を探すように一瞬だけ目を伏せて、静かに続ける。


「なんか……1索が、ずっと、こっち見てたんだよ。」


少年がきょとんとする。


「え?」


「……序盤から、ずっと自己主張が強かった。

 この対戦中、毎回自分の感情が動くのが、この牌だった。

 貯金をくれたのも、危機を回避してくれたのも、裏切ったのも……」


指先が卓の端をなぞる。

その指はもう震えてはいなかった。


「普通なら、あまり価値のない牌だったはずなのに……

 ずっと、最後まで“いるよ”って顔してたんだ。」


そう言いながら、自分でも少しだけ笑った。


「……それに、今思えば多面待ちのフリテンも怖くてさ。」


明確な読みでもなければ、合理的な選択でもない。

けれどあの時、自分の中でだけは筋が通っていた。


少年はしばらく黙っていたが、やがて満足げに頷いた。


「――変なの」


その瞬間、ようやく勝ったという実感が、ほんの少しだけ湧いてきた。

背中には、まだ汗が滲んでいる。

喉がからからだった。


そっと、脇に置いた飲み物に手を伸ばす。


ウーラニックス。


キャップを回し、口元に運ぶ。


ひと口――


冷たくなかった。


(……ぬるい)


すべてが終わったことを、ようやく実感する。

脳を凍らせるためのはずの飲み物が、いまはやさしくぬるかった。


その温度だけが、最後にふさわしかった。


「――いいよ。人間って認めてあげても。

 日曜日のこれくらいの時間。またやろうぜ。

 麻雀じゃなくてもいいけど。もちろん『V-SIM CAGE』でもね。」


ハクが、苦笑いを浮かべながら首をすくめた。


「……それは遠慮しておくよ。百年かけても君には勝てる気がしない。」


そう言って、ちらりとリゲルの方を見てから、脇の自販機に目をやる。


「でも、のど渇いたな……あ、これ。君のやつだよね?」


指差したのは、URANIXウーラニックス

あの、青緑のラベルに銀の縁取り。#C0FFEEと書かれた、あれだ。


「飲まず嫌いしてたけど……まあ、試してみるか」


ハクはコインを入れて、カシャンとボトルを取り出す。

キャップをひねって、そっと口に運んだ。


数秒、無言。


そのまま、ほんの少し目を丸くした。


「え、あれ? チョコ感も乳感も、ないんだこれ。

 思ったより――おいしい、かも」


首をかしげながら、もうひと口。


「すっきりしてるのに後味あるな……なんか、脳が一回まっさらにされる感じ」


口元には、素直な感心がにじんでいた。

予想を裏切る味――でも、それは悪い意味じゃなかった。


「リゲル、これ選んだの正解だったね」


そう言って、ボトルを軽く掲げるように持ち上げた。


【日曜、夕暮れの静寂にて】


訓練室の空調が、ごう、と低く鳴っている。

日曜の夕方。誰もいない練習フィールドに、リゲルのアバターがひとり立っていた。


光線ビットが展開される。

続いて、50枚ほどの羽が空中に浮かび、それぞれが自律的に小さく揺れ動いた。


仮想ターゲットが三体、ランダムな軌道で高速移動を始める。


リゲルは左腕のコントロールパネルをひと睨みしてから、呼吸を整える。

右手の剣――しなる銀の刃がわずかに光を反射した。


ビットが撃ち出される。

光の矢が先行し、ターゲットの進路を阻む。

すかさず羽が展開し、気流操作による誘導を仕掛ける。


相手の動きが微かに歪む。

その一瞬を狙って、リゲルは跳んだ。


剣の先端が、滑るように前方へ――


「……っ、ずれた」


仮想敵の輪郭がすり抜ける。ほんの数ミリ。

追撃も、角度が甘くてフィールドの縁を擦って消えた。


(……先端。最速。正確に、じゃないと)


五秒のクールタイム。肩で息をしていた。


(羽の展開が重なって、視界を邪魔してる?)

(それとも、風の誘導が強すぎて、矯正されてる?)


もう一度。


角度を変えて再挑戦。羽の展開、風の誘導、ビットの封鎖。

――その隙間を縫って、自分が斬り込む。


だが結果はまたも、わずかな誤差。


「……理屈では、合ってるんだけどな」


リゲルは、中央に立ち尽くす。

その背中に、うっすらと夕焼けが差し込む。


訓練ログを保存し、実践訓練室のステータスランプを見る。点灯――使用中。


(……誰か、やってる?)


アクセスパネルに手をかけ、静かに開く扉の先。


そこは、異質な結界のような空間だった。


中央に立つ影――


ザヴィジャヴァ。通称ザビ。学年主席。

黄金の焔を纏うグリフォン型アバター《アウリス》。


その背に広がる巨大な双翼が空間を震わせ、手にした大剣《アウロ=レギア》には、静かに回転する黄金の歯車。


――そして、黄金の火花が舞っていた。


魔力粒子のように弾ける火花が、淡いオーラとなってザビを包む。


ただ、鋼のように硬く、均整の取れた力の気配――


リゲルは思わず壁際に身を寄せ、足を止めた。


剣が振るわれているのに、音がない。

すべてが深く、沈んでいた。


羽ばたきと斬撃が完全に連動し、空間が律されている。

構え、踏み込み、羽の補助、剣閃の流れ。

何度も繰り返されるその反復は、まるで職人のような気迫だった。


黄金の鎧――魔法装甲と生体アーマーの融合。

弱点が、見えない。


(……あれを、貫ける気がしない)


そのとき、歯車が鋭く一瞬だけ回転する。

火花の跳ね方が変わった――まるで、気づかれたかのように。


ザビは一度もこちらを見ず、剣を納め、最後の一歩を静かに引く。


「……前の試合、見てたよ。

 いつか、お互い最高の状態で戦えることを、楽しみにしてる」


飾り気のない声。

そう言うと、ザビはログアウト動作に入る。


――黄金の歯車が、回転を止めた。


最後に飛び散った火花が、空中に一筋の線を描いた。

東一局(親:ハ) リ+12000 ハ-6000 少-3000 青-3000

東二局(親:少)少+7800 リ-2600 ハ-2600 青-2600

ハ+1300 少-1300

東三局(親:青)リ+1500 青+1500 少-1500 ハ-1500

ハ+4300 青-2100 少年-1600 リ-600(少年と青年リーチするが上がれず)

東四局(親:リ)ハ+8000 リ-4000 少年-2000 青-2000

南一局(親:ハ)リ+2000 ハ-1000 少-500 青-500

南二局(親:少)少+1500 青-1500

リ-1100 青+4300 少-2100 ハ-1100        

南三局(親:青)リ-3000 ハ+1000 青+1000 少年+1000

少+8300 青-8300

南四局(親:リ)リ+36000 少年-36000 


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