【第十一話 『麻雀』】②
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
戦術家だが感情に流されやすい。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望している。
今は、自分の目指すべき「誠」という人格態度を磨いている。
現在3人目のチームメンバーを探している。
親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
少年:太陽水瓶座、月蟹座。早生まれで少し体が小さい同じ学校同級生。
最低限の単位だけ取ってゲームセンターに入り浸っている。
あまり仲のいい人がいないが、すごい才能をもっている。
一度リゲルの誘いを拒絶した。
◆東一局
開局の電子音が、卓の下にまで響いた。
【東一局・親はハク】という淡々とした表示が、静かに光っている。
ドラ表示牌は「9索」。
リゲルは目の前に並んだ十三枚の牌を見下ろした。
その並びは、どこか冷たく、整っていた。
索子が八枚。
(……めっちゃツイてる)
そして――「東」が対子で浮かんでいた。
(……染める。たぶん、それがいちばん早い)
体の中に湧き上がる直感に、抵抗はなかった。
流れというより、構造を読む感覚だった。
これを組めば、形になる。役になる。速度もある。
そして何より、強く見せずに、深く刺さる。
一巡目、東をポン――などはしない。
場風であれ、まだこの牌に意味を与えるのは早い。
東は、まだ“無色”であるべきだった。
リゲルは静かに、緑でない牌を切った。
親のハクが一牌、二牌とすばやく捨てていく。
その手付きは軽やかだが、どこか本調子ではないように見えた。
対面の少年は一巡目に「白」、二巡目に「南」を処理する。
目線は一切ぶれない。
数巡後、リゲルの中で構造が“完成に向かう”音がした。
急所の「東」が暗刻になる。
そして十四巡目、山から――「1索」。
(ツモ)
リゲルの指先が、牌をわずかに浮かせる。
まるで、自分が求めていた形を、山が確かに理解していたかのようだった。
手牌は静かに十四枚になった。
「……ツモ」
声は低かったが、卓に響いた。電子卓が和了を感知する。
【東一局・リゲルのツモアガリ】
面前自摸・東・ホンイツ・ドラ1――跳満。
点数表示が点滅する。
ハク、6,000点。
少年、3,000点。
青年、3,000点。
リゲル、合計12,000点加点。
牌山の上で、電子音が和了処理を行う。
卓が一度、明るさを増す。
リゲルは、軽く息を吐いた。
その目の奥にだけ、微かな熱が灯っていた。
青緑の影を裂いたのは、冷たい1索だった。
◆東二局
【東二局・親は少年】
配牌が滑り込むと、卓の空気が再び収縮を始めた。
電子音が止み、指先と目線だけが支配する無音の空間が戻ってくる。
リゲルは、配牌をひと通り並べてから、一枚を抜き取った。
イーソーだった。
索子は4・7・8・8と繋がっていて、この一枚だけが明らかに浮いていた。
(……どこかに引っかかる感触が、ほんの少しだけあったが――)
(初手で残す意味はない)
そう判断して、音を立てずに河へ置いた。
少年は対面に座ったまま、目を伏せるように手牌を整えていた。
その表情は、やはり何も語らない。
けれど、リゲルが捨てたイーソーが静かに落ちる音にだけ、眉がわずかに動いた。
数巡が経つ。
ハクは慎重に索子を整理し、筒子を小さく落とし始める。
青年は序盤で一枚だけ萬子のドラを抱え、そのまま中張牌を整列させていく。
五巡目――少年の捨て牌に二筒が並ぶ。
河は静かだが、牌の並びは美しく、乱れがない。
リゲルは、軽く息を吐いた。
(この親――構えが早い。テンパイまで、あと数牌もない気がした)
七巡目、少年の手が止まった。
一瞬、牌に触れた指先がわずかに躊躇し、それから前へと滑った。
「リーチ」
静かな声だった。
だが、卓の温度が一段、下がったような錯覚すらあった。
リーチ棒が前に出される。
その動作に迷いはなく、型通りでいて無駄がない。
誰も反応しない。けれど全員が、体のどこかに緊張を走らせていた。
リゲルは、自分が切ったイーソーを思い出していた。
(あれが通ったことで、相手に与えた情報――)
(あの牌を見て、絞られた待ちがあるとすれば……)
ハクは現物の1索に指をかけ、それから手を戻した。
青年は、6萬のスジの9萬を処理しながら目だけを鋭く動かしている。
通りそうな牌は増えていたが、それが「安全」か「通してしまうか」は、別の話だった。
巡目が一つ、また一つ、流れていく。
その間も、少年は一度も姿勢を崩さなかった。
和了することも、和了しないことも、すべてすでに通過した結果であるかのように、淡々としていた。
そして――十一巡目。
少年が手の中から一牌を横に倒す。
「……ツモ」
それは、勝利の声というよりは、機械が最終工程を完了させた報告のようだった。
【リーチ・ツモ・タンヤオ・ピンフ】
4翻・2600オール。
表示が光る。
リゲル、ハク、青年――それぞれが2600点ずつを差し出す。
リゲルは、静かに卓を見下ろしていた。
(最善ではあった。だが――)
打ち負けた、という感覚ではなかった。
ただ、卓の上に“無音の削り”があった。
そして、それに触れた者が全員、確かに同じ重さを背負わされた。
点棒表示が戻り、卓が再び巡り始める。
積み棒が一本、赤く灯った。
◆東二局 一本場
【東二局 一本場・親は少年】
卓に一本場のランプが灯る。
少年は表情を変えずに配牌を受け取り、そのまま手牌を整えた。
その横顔には、勝ちへの執着というよりも、「ここを保つ」という意志のようなものがあった。
リゲルは配牌を確認し、何も考え込むことなくイーソーを河に置いた。
あまりにも自然な初手。特筆することもない――ただ、それだけだった。
その直後、ハクの手が素早く伸びる。
「ポン」
河に出た白を即座に鳴いたその所作は、軽やかだった。
まるで最初から、その一枚を引き抜くために配牌を整えていたかのように。
以降、局は静かに進行した。
リーチもなければ、大きな副露もない。
卓の表面には大きな変化は見られなかったが、誰の手も止まらなかった。
音のない時間が淡々と重ねられていく。
そして――七巡目。
少年が河に九索を滑らせた、その瞬間。
「ロン」
声が落ちた。
強くも、柔らかくもなく、ただ「止める」ためだけの音だった。
ハクが牌を開く。
待ちは發と九索のシャボ。
リーチもない。ただ、淡々と構え、黙って待ち続けた形だった。
【1000点+1本場 300点=1300点】
少年はわずかに目を伏せ、音もなく点棒を差し出した。
その所作には未練も、落胆もない。
ただ、そこにあった“流れ”が途切れたことを、そのまま受け入れているようだった。
リゲルは小さく息を吐いた。
静かな和了だった。
けれど、その静けさが、かえって印象に残った。
少年の親番が終わる。
わずか1300点。
だが、局の流れは、確かに一段落ちた。
◆東三局
配牌が滑り込み、牌山の音がいつもより鈍く響いた。
誰の手元にも、明るい色はなかった。
リゲルも、配牌を整える手の中で、わずかに眉をひそめていた。
端牌ばかりが並ぶ。
順子も刻子も兆しがなく、牌同士が互いに背を向けているようだった。
(……これは、ひどい)
その感覚は、卓全体に共有されていた。
ハクは早々に南を切り、少年は索子の九を三連続で落とす。
青年も、動かず、打たず、ただじっと機会をうかがっていた。
巡目だけが、無言で過ぎていく。
五巡目、七巡目、九巡目――
誰も仕掛けず、誰も声を発しない。
電子卓の音すら、どこか湿って響いていた。
そして十四巡目を越えたあたり。
少年が河に打ったローピンに、青年が小さく声を出した。
「チー」
驚くほど抑揚のない発声だった。
けれど、それは明らかに“生きるため”の一手だった。
青年はすぐに八筒を切ると、表情を変えずに構えを取る。
牌姿に役はない。ただ、形がそこにあった。
その数巡後――リゲルもまた、ハクのイーソーに手をかける。
「ポン」
迷いのない鳴き。だが、そこにも役はなかった。
ただ、“沈みたくない”という意志だけが透けて見えた。
残りの牌は数枚。
終局の音が鳴る。
流局。
テンパイは二人。リゲルと青年。
どちらの手にも華やかさはなかった。
けれど、その姿は逆に、卓全体の重さを最も的確に映していた。
点棒の受け渡しが行われる。
リゲル +1500点、青年 +1500点。
少年 −1500点、ハク −1500点。
沈黙のまま、卓が回る。
華やかさはなかった。
だが、沈まない者だけが、次へ進む。




