【第十一話 『麻雀』】①
主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。
戦術家だが感情に流されやすい。
この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望している。
今は、自分の目指すべき「誠」という人格態度を磨いている。
現在3人目のチームメンバーを探している。
親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。
知らない物の値段を当てる特技がある。
裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。
少年:太陽水瓶座、月蟹座。早生まれで少し体が小さい同じ学校同級生。
最低限の単位だけ取ってゲームセンターに入り浸っている。
あまり仲のいい人がいないが、すごい才能をもっている。
一度リゲルの誘いを拒絶した。
【第十一話 『麻雀』】①
◆再会と偶然の卓上
帰り道、風が少し冷たくなっていた。
昼の余韻――あのライブのことを、ふたりとも言葉に出さなかった。
語れば何かが壊れてしまう気がしたし、逆に、語らずにはいられない予感もあった。
その狭間のなかで、リゲルはふと口を開いた。
「……あの子にさ、ゲームで勝てる方法って、ないのかな」
「は?」
ハクが聞き返す。
「……昨日の子。戦術機の対人ゲーム。たぶん、俺たちじゃ絶対勝てない。でもさ――」
リゲルは少し間を置いた。
「……もし、運の要素が強いゲームだったら、もしかしたら……って思って」
ハクは苦笑しつつも、即座に否定はしなかった。
「運のゲームね。……じゃあ、麻雀かな?」
「……電子卓、あったよな。昨日のゲーセンに」
思いつきではあるけれど、無力感をごまかすにはちょうどいい反撃の発想だった。
ふたりは、再び昨日のゲームセンターへと足を向けた。
ゲームセンターの奥。
派手なパネルの灯りの影に、昨日も見かけた軽食コーナーがあった。
そこで、彼はまた一人で座っていた。
日曜日なのに、制服のままだった。
まるで“服”という機能を選択しただけのような、そんな着こなし。
少年の指先で、一本のペットボトルが静かに回っていた。
そのラベルが、リゲルの目に留まる。
ミントグリーンに近い、青緑の淡い光沢。
銀の縁取りの中に、こう書かれていた。
《URANIX》
その下に並ぶのは、コードのような文字列。
#C0FFEE
「……なんだあれ」
リゲルが小さく呟く。
「#C0FFEE……コード? っていうか、コーヒー?」
「色がコーヒーじゃないし、ラベルも不思議チョコミント。……なんか、面白い」
そう言って、リゲルはふらりと自販機に向かった。
URANIX/ウーラニックス #C0FFEE
冷感チョコミント × シトラス酸味 × 高カフェイン × ブドウ糖配合。
――天王星からやってきた、思考の異物。
「……なんか美味しそう!」
興味半分でボタンを押す。
落ちてきたボトルは、液体が完全に無色透明だった。
ふわりと立ちのぼる香りは、ミントと柑橘系、そして、かすかにチョコ。
ひと口、飲んでみる。
甘味が舌先に触れ、すぐに引く。
ミントの冷気が口内を駆け抜け、レモンのような鋭い酸味が後を追う。
数秒遅れて、脳の奥にピリリとした覚醒感が残る。
「……いや、たぶん――火星と冥王星の間くらい。でも、好みの味かも」
「……ハクもどう? 気分が98度変わるよ?」
「俺は遠慮しておくよ。頭が冷えすぎて、今日一日喋らなくなりそうだし」
ふたりの笑い声は小さかったが、少年の耳には届いていたようだった。
「――また君らか」
その声には、呆れも怒りもなかった。ただ、事実としての確認だけ。
「スカウトなら断るよ。昨日も言ったよね。アバター戦はやらないし、仮にやったとしても、誰のチームにも入らない。」
「今日はそういうのじゃない。……ただ、ゲーセンプレイヤーとして遊びに来ただけ」
「ゲーセンプレイヤーとして?」
「うん。たまたま見かけた。それだけ。声をかけるのは、ちょっと迷ったけど……」
少年はふっと一度だけまばたきをした。
そして、ほんのわずかだけ首をかしげる。
「――ふーん」
それだけで、話は途切れた。
その沈黙を破ったのはハクだった。
「なあ、麻雀やらない?」
「――俺、麻雀も強いけど?」
「それなら好都合だ。でも――俺たちがふたりで組んでると思われるのは、さすがにフェアじゃない」
「だから、“そっち”も。仲がいい人、ひとり連れてきてよ。これで構造的には対等だから」
少年はほんのわずかに、視線を泳がせた。
無言のまま立ち上がる。
――思っていたより、小柄だ。
制服のラインが頼りなく見えるのに、姿勢は不思議と整っていた。
歩く背中はまっすぐで、緊張も緩みもなかった。
少年は軽食コーナーを離れ、奥のテーブル席の方へと消える。
数分後。
彼は一人の青年を連れて戻ってきた。
年上だろう。
私服で、黒いパーカーの裾から白いシャツが少しはみ出している。
髪は整っていないが、妙にきれいな目元だけが印象に残った。
「……あの人、知り合い?」
リゲルが小声で問うと、ハクは首をかしげた。
「んー……違う。たぶん、いつも麻雀で同卓になるだけの人、じゃないかな」
なるほど、と思った。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
「――じゃあ、そろったね」
少年がそう言ったとき、その声だけは妙に澄んでいた。
◆激闘の手前で
椅子が、わずかに軋んだ。
電子卓の四辺、それぞれに腰を下ろす四人の気配が、静かに卓の中央へと集まっていく。
その場だけは妙に輪郭が濃く、薄明かりの下で別の空間が生まれたようだった。
リゲルは、自分の席――北家の位置に腰を下ろした。
その正面、南家の席に座るのは少年だった。
まるで、そこに座ることそのものが、すでに意志の表明だったかのように。
「……正面、か」
リゲルは、ほんのかすかに息を吐いた。
視線を上げれば、彼の瞳とまっすぐぶつかる。
だが少年は、まだ手元の牌にも、リゲルにも目を向けていなかった。
ただ、卓の中央を淡く見つめている。その焦点の曖昧さが、かえって静かな覚悟を感じさせた。
自動配牌の駆動音が、小さく鳴る。
「……ま、がんばってね」
東家、親のハクが、誰にともなく軽く言う。
「――うん」
リゲルが応じる。
少年は黙ったままだった。
ただ、彼の右隣、西家の青年が、視線を卓からそらさぬまま、淡々と席に背を合わせる。
四方の椅子が、完全に止まる。
表示ランプが点灯し、開局の電子音が鳴った。




