第十話 国境を越えるために
俺達は一人と一匹で夜の街道を歩いていた。
すぐ隣を見れば同行者の蝙蝠が一匹、リチャードが側で飛んでついてきていた。
「なぁ、リチャード。一緒に歩く時でも蝙蝠の姿のままなのはなんで?」
「それは私の知名度の問題ですよ。主様、私の姿と名は少しばかり知られてる? 知られすぎています。なのでしばらくはこの方が良いかと」
俺はリチャードの言い分に納得した。
そうしてふと思った。
「ちなみにさ、こっから近い国とか街ってある?」
そう言うとリチャードが少し黙り込んだ。
そうして俺の前に飛んできて言う。
「ここから近い国だと北に20キリ進んだところにフィアルスという小さな国がありますが、主様の足ならすぐつく事でしょう」
その方向だと目的地である魔王のいる大陸へと近づける。それに、クロムウェルとも離れられる。
だからリチャードの言うとうり、取り敢えずフィアルスを目指そうと思う。
ちなみに、この世界の20キリとは約100キロの事である。
そうして目的地も決まった俺たちであるが、外を歩く弊害というのもある。
日光は相変わらず浴びれない。それに、弱いが多くの魔物とも遭遇した。
やはり重要なのはモグラ大作戦であったが、それを行おうとした自分を見たリチャードの目は……うん、恐らく忘れる事ができないだろう。
そんなこんなで到着したフィアルスの中にを入ろうとした時に問題が発生した。
「入国料金貨3枚を払え」
それを言ったのは強面の兵士だった。
もちろん今の俺はお金なんて持っておらず、門前払いされる結果となった。
「リチャード、お金持ってないの?」
そう言うと蝙蝠は少し俯いた。
「すみません主。今までに金銭が必要な場面があった? 無かったので」
そうなってくると、必然的に不正入国をせざるを得ないのだが、倫理観的にも一応異世界の勇者という肩書きはあるのであまりしたくはない。
「それに、目立つからな……」
そうこう考えても埒があかない。
そうだったらもういっそこのまま不正入国をする以外の方法がないのではないか。
というかそもそもフィアルスには情報収集、魔王がいるという場所に行くための通過点でしかない。
よって、迂回して行くというのも選択肢の一つだ。
が、しかしいつクラスメイトが魔王を倒し日記のように処分されるかわからないのであまり遠回りはしたくない。
様々な可能性に板挟みされて途方に暮れてしまっていた。
「おや? そこの君、そんなに難しい顔をしてどうしたんだい?」
とそう声をかけられる。
人の声に反応してリチャードはすぐさま俺の服の中に隠れた。
驚いて振り向くとそこには茶髪の小太りの男性が馬車を引いていた。
「あ〜、それが今からフィアルスに入りたいんですけど、金貨が足りなくて」
彼は顎に手を当てて、少しばかり頷いた。
「そうかそうか、それは大変だったね。なら僕に任せてくれないか?」
その言葉に驚き目を丸くしたが、冷静に考えると初対面の人間に助けてもらうのは悪い気がする。
「良いんですか? 貴方の迷惑になったりは……」
「大丈夫だよ。ほら、人にいい事したらいい事が帰ってくるだろ? だから僕の方にも利点がある」
そういう話ではないとは思うが、そう言うのであればお言葉に甘えさせてもらおう。
「じゃ、じゃあよろしくお願いします」
「決まりだね。じゃあ念のため自己紹介といこうか。僕はノーマン・クリート。行商人さ、君は?」
「俺は…勇人っていいます。今世界中を旅してる最中です」
とでっちあげたがあながち間違ってはいないのでそのままにしておく。
見るとノーマンは顔に笑みを浮かべていた。
「ふふふ、君は愉快な人だね。それにしても世界を……か、僕もしてみようかな。世界一周」
うんうんと頷くノーマンであったが、別に俺は世界一周する気はないので少しいたたまれない気持ちになった。
「よし、それじゃあそろそろ行こうか。時間は有限だからね」
「あの、どうやって国境を越えるんですか?」
「ん? それはね――」
――そうしてまた強面の男の前に立っていた。
「入国料金貨3枚を払え」
先程も聞いた決まり文句をもう一度耳にしながら隣に立つノーマンを見る。
ノーマンはこちらの視線に気づくと片目を瞑りこちらに視線を合わせて一歩前に出る。
そして、一枚のカードのようなものを懐から取り出す。
「これでどうだい? 商人の認定を受けていたら国境間の行き来は金勘定は発生しないだろ」
「商人認定の札か……確かに」
「それじゃあ僕らは通らせてもらうよ」
ノーマンが馬車とともに国境を渡り俺も通ろうとしたところで剣で道を遮られる。
「彼は商人だが、貴様は商人ではないだろう?
「彼は僕の護え……」
「関係ない。入国料を払ってもらう」
そう言ってノーマンの言葉を遮ったが、その通りだと思った。
たとえ護衛でも人は人。金を払うのは至極当然のことで――。
「じゃあ君は、ここを通る石や木の葉にもお金を払えと言うのかい?」
「何…?」
男は目を細めて背後のノーマンを凝視した。
「彼は石や木の葉と同じだよ。僕の身を守る道具でしかない」
「何を言っている。護衛を引き受けているのだから何かと契約はして、道具などと……」
と男はこちらを振り向いた。
ぐるぐるとコマみたいだと思ったがその背後、こちらに向かってウインクをするノーマンに気づく。
そのノーマンの意図に気づき少し呆れたがふと顔を真顔に変える。
「なんだ? 道具に言葉や感情を求めてるのか? そんなものは不要だ」
と言う。それを聞いた男は目を見開き、ノーマンと俺を交互に見る。
「どうだい? 僕の護衛という名の道具は……通らせてくれる気になったかい?」
俺から見ても明らかに思い切り歯を食いしばっていた男だが、両目を瞑る。
「わ、わかった。通そう」
そうして、やっとフィアルス入りを果たせた。
いくらか進み、検問所が見えなくなるところまで行くとノーマンが大きく息を吐いた。
「ふぅ、どうにかなったね」
「どうにかなったね……じゃねぇよ! 危ない橋渡らせやがって!」
そうやって詰めるとノーマンは身体の前で両手を出す。
「そんなこと言ったって、それ以外には方法は無かったと思うんだけど」
「ぐ、それはそうだけど」
まぁ、ノーマンのおかげで国境を越えられたから感謝しかない。
「それに、君の演技良かったよ。旅が終わったら演者にでもなってみたら?」
そう言うノーマンを思い切り殴りたくなったがとてつもない地獄絵図が広げられる気がするからやめる。
何はともあれ、そうして国境を越える事ができた。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字やアドバイス等ございましたらコメントお願いします。




