第九話 同族嫌悪?
というわけで王都とは逆の方へ進み始めたのだが、洞窟の中とは違い外に出ることの弊害が発生した。
それは日光である。
物語の中の吸血鬼も弱点が日光であることが多いがこの世界でも同じらしい。
洞穴を見つけて避難し、試しに日の光の中へ手を伸ばしてみたが、灼けるような痛みに手が侵食されボロボロと灰になっていくのを見て急いで手を引っ込めた。
その傷は再生に丸一日を要したことから日光こそが最大の天敵であることを察した。
そこで、俺は考えた。日光を遮る場所がなくても過ごせる方法。それは……
「うらぁ!」
地面に渾身の一撃をお見舞いし、空いた穴に入って土を被せる。
そう、これこそが最適解。穴がなければ穴を作ればいい理論。
俺はこれを『モグラ大作戦』と名付けた。
俺はモグラ大作戦のおかげで順調に進むことができた。
道中の魔物も大した事は無いし、これから順調に快適な旅になると、そう思った矢先。トラブルが起こった。
「あなた……同族ですか? 同族ですね」
コウモリのような翼が生えたそれは黒髪で犬歯が発達し、空を飛んでいた。
それは俺のことを同族と呼んだ。その事から考えられるに、あいつも吸血鬼という事だ。
「それじゃあなに? お前も吸血鬼?」
すると、あいつはどこか呆けた顔をして両目を閉じた。
「やはり、なるほど、合点がいきましたね。貴方は同族。それに王の匂いがする? しますね」
「王の……匂い?」
身体中を嗅いでみたがどこからも異臭はせず、どこからその匂いを感じ取っているのかわからなかった。
だがその王、というのは先日の彼、インテグレドのことだろう。
「はい。王の血その気配、匂いです。王の血は特別ですか? ですからね」
「特別……?」
「おや? その反応……もしかして、なりたてですか? なりたてですね」
そう言った刹那、眼前の吸血鬼の姿が消える。
代わりに奴の身体があった位置から無数の蝙蝠が飛び去った。
その光景に俺は自分の目を信じる事ができないほどだったが、すぐさまよく目を凝らす。
蝙蝠らはいずれもまばらに飛んでおり、こちらに飛んできているのは数匹といった数であった。
「おや? 背中がお留守ですが?」
突然聞こえてきた声に応じるようにすぐさま振り向いたが時すでに遅く、背後から斬撃を受けた後だった。
「っく、どうやって……」
こちらからの問いに答える事なく、また蝙蝠を展開する。
とりあえず飛んでいる蝙蝠を数十匹程殴り殺した。
その蝙蝠全てに通じる事であったが不可解な事に気付いた。
「手応えが……ない?」
そう、蝙蝠を殺す時の感触が無く代わりに手の中で光の泡となり消えた。
そうして再び来る背後からの斬撃。
その一撃に顔を顰めるが、歯を食いしばって耐える。
元よりダメージを負っても傷はすぐに修復する。
吸血鬼と吸血鬼との戦いにおいて重要な事は持久力であると悟った。
それは、あの洞窟の狼との一戦からきているもので、ダメージを受ければ受けるほど修復が遅くなる。
ならば、どれだけ相手の手札を先に潰し、完封できるかが鍵となる。
ならば、すべき事は観察そして分析である。
そして、俺はよく目を凝らす。蝙蝠の羽の一枚一枚、細胞の一つ一つが見えるほどまで――
「――!? そこだぁ!!」
俺は多くの蝙蝠のうちの一匹を殴りつける。
すると、周りの蝙蝠は泡になって消え、代わりに殴りつけた蝙蝠があの吸血鬼となった。
「くっ、どうしてわかったんですか?」
「あ? ただお前だけが違ったように見えた。それだけだよ」
そう、それだけなのだ。俺があいつの本体を見抜けた理由は。
恐らくあれらの蝙蝠は魔力で精巧に作られたものだったのだろう。
それほどまでに動きが、質感が洗礼されていた。
本当に理由がわからないが、自分が殴った蝙蝠だけが他とは何かが違うように見えた気がしたから。
それだけの感覚な問題なのであった。
息を一つ吐いて眼前の吸血鬼に近づく。
そうして立てないでいる奴に渾身の一撃をお見舞いしてこの戦いを終わりにしようと拳を握り締め振り抜こうとした時だった。
吸血鬼は両手を上に上げ、
「すみません、まいりましたか? まいりました」
と言う。その光景に俺は目を瞬かせ唖然とする。
「参った? 降参ってこと?」
そう言うと、吸血鬼は小さく頷いた。
「えぇ、そのとうり降参です。元より貴方とは戦うつもりは無かった? 無いですからね」
その言葉に俺はどうしても首を傾げてしまう。
先に戦いを仕掛けてきたのは彼の方で今更何を言っているというのだ。
「つもりは無かったって、先に攻撃してきたのはそっちだろ」
「それは結果論というやつですよ。それより、貴方に聞かなくてはならない事がある? ありますからね」
「俺に?」
彼は立ち上がってこちらに向かってくる。
その様子を見て俺は身構えるがそれが杞憂だと知ることになった。
彼が片膝をついて頭を垂れた。
「私らは王、その眷属様に代々仕えてきた一族。故に貴方のこれからする事その全てに肯定し、忠誠を誓いましょう」
「は? 急に……ってか、俺のこと攻撃した奴が忠誠? 何言ってやがんだ」
「わかっております。故に貴方様に名前を頂きたい次第。疑わしいと思いますが、吸血鬼の間における名付けは眷属にする等、様々な重要な意味がある? ありますからね」
「名前……?」
あさましくも名付けを頼み込んできた彼だが眷属にするという事は、こちらに逆らい辛くなる可能性からとても惹かれた。
加えて、彼は到底眉唾で物事を言っているような感じはしない。
それに、利用できるものはなんでも利用する。裏があるのは分かりきっているから。
俺は彼の今までの言動、仕草から名前をつける。つけた名は――
「――リチャードでどうだ?」
「リチャードですか、承知しました」
「じゃあ、リチャード。これでお前は俺の眷属って事でいいんだよな?」
「ええ、」
そう言うとリチャードは懐から紫色の宝石をはめたネックレスを差し出した。
「これは?」
「今はまだ、言う事はできかねますがこれから必ず必要になるかと思いますか? 思いますかと」
「ありがたく受け取っておくよ」
受け取ったネックレスを首につける。
これまでの言動や仕草から嘘をついているようには見えなかったから取り敢えずは信用した。
そうしてこの瞬間、吸血鬼と吸血鬼。人と蝙蝠とのコンビが誕生したのだった。
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