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戴冠式と同盟条約締結

その後、王宮に押しかけていた暴徒たちは、軍を率いた王弟が皇帝の退位を知らせると三々五々散って行った。


その日から神罰で今にも立ち枯れそうだった作物が再び生き生きと育ち始めた。無神論者だった帝国の民たちも女神の存在を信じざるを得なくなり、女神の信徒となる事を希望する者が急増した。新たに皇帝となった前国務大臣は、全国民に皇帝自らが女神を信仰することを宣言し、神聖皇国から神官たちを招いて教会を新設する事を約束した。


帝国の騒乱も収まり新皇帝の元新たな政権がスタートし、神聖皇国も落ち着きを取り戻し始めたころ、アンナの神聖皇国国王と神官長就任が発表された。戴冠式には帝国の新皇帝とアンドレアスも招かれ、同時に帝国と皇国の間で軍事同盟を結ぶことが決定された。


戴冠式に出席するために皇国へと出発する前日、王弟は王宮の端に作られた塔の階段を一人で登っていた。最上階の部屋の前には衛兵が一人立っていた。


王弟がその衛兵に目配せすると、衛兵が黙って部屋の鍵を解除した。

王弟はその部屋の扉をノックしてドアを開けた。


「兄上、アンドレアスです。」


王弟が部屋に入ると、さほど広くもない簡素な部屋に置かれた、これもまた簡素なベッドの上に前皇帝が腰かけていた。


その姿は見る影もなく痩せ衰えており、アンドレアスが入ってきても正気の無い目を向けるだけだった。


「兄上。ご機嫌麗しそうでなによりです。」


嫌味を込めた将軍の言葉に、前皇帝は「ふん。」とだけ答えた。


前皇帝は捕縛されたのち、取り調べを受け皇太子殺害の罪で裁判にかけられた。国務大臣の用意した動かぬ証拠もあったが、側近たちも次々と前皇帝を裏切って皇太子や他の王族たちの暗殺について証言したため、前皇帝には極刑が下される運びとなった。しかし、女神信仰では死刑が禁止されていたため、新皇帝の意向で前皇帝は生涯王族用の牢に幽閉される事が決まったのだ。


黙ったままの前皇帝を無視して、アンドレアスは一人で勝手に話し始めた。


「この度は兄上から下賜されたアンナ妃の件でお礼を言いに来ました。」


前皇帝は不思議そうな顔をして王弟を見た。


「私は明日、神聖皇国の戴冠式に出席するため出発するのですが、兄上はだれが神聖皇国の新しい王となるかご存じですか?」


「何がいいたいのだ?神聖皇国の王族は全て葬ったはずだが?」


「ええ。アンナ妃以外はね。」


「まさか…?」


「そのまさかです。アンナ妃は神聖皇国の王となる事が決まりました。彼女程女神の御力を操る能力を持った王族は過去にはいないと言われています。」


前皇帝は王弟が何を言っているのか理解できていない様子だったが、しばらくすると何か思い当たったらしく顔を青ざめさせた。


「なんだと…?それでは今まで帝国に下された女神の神罰はあいつの仕業だったというのか?」


王弟は深い微笑みを浮かべただけで、肯定も否定もしなかった。


「兄上が彼女の力をモノにしていれば、この帝国だけでなく、世界の覇者になれたかもしれませんね…。」


「そ、そんなばかな…。」


前皇帝は呆然としたまま動かなくなってしまった。そんな前皇帝を残し、王弟は彼の終の棲家となる牢獄を後にした。


(まあ、アンナ妃が兄上のモノになっていたとしても、兄上の愚かな野望などには手を貸さなかったであろうがな。)


アンドレアスは自分が何故わざわざ兄の元を訪れてこのような事を言ったのか、自分でも分からなかった。アンナ妃が最初に嫁した先が兄の後宮であったという事実を不快に感じていたからかもしれない。



その後、皇国の戴冠式が神殿で厳かに行われた。


儀式用の純白に金糸で刺繍が施された神官服に身を包んだアンナは、その少女めいた姿形のせいか、清楚ながらも神々しさを醸し出していた。そんなアンナに大司教から王冠が授与された。


戴冠式の後は王宮のバルコニーに立ち、皇国の国民の前で新王のお披露目がなされた。アンナはバルコニーの前に集まった皇国の国民たちに熱狂的に歓迎された。


アンナが片手を上げて国民の声援に答えていると、真っ青に晴れた空から、突然大量の純白の花びらが降って来て、国民たちを更に熱狂させる事となった。


この事態にはアンナも驚いて空を見上げた。


「女神たちもアンナ様の就任を祝福されているようですな。」


「大司教様…。そうなのでしょうか?」


アンナは内心、これはドールのいたずらに違いないと思った。


戴冠式の次の日には、帝国との軍事同盟の調印式が執り行われた。長々と書かれた同盟文書の最後にアンナと新皇帝が署名をした。その後の晩餐会は、アンナが疲れているだろうからと、人数を絞って開催され、帝国からは新皇帝および王弟とその側近が出席した。


アンドレアスはアンナの右横の席に着いていた。ここに来て初めてアンナは王弟と身近で話す機会を得た。


「アンドレアス様。お久しぶりです…。」


アンナは話したいことがたくさんあるような気がしたが、胸がいっぱいで言葉が出てこなかった。


「アンナ妃も息災なようでなによりだ。もうアンナ妃と呼ぶのは不当だな。陛下と呼ぶべきか?」


「いいえ。是非今まで通りお呼びください。」


二人はその後しばらく他の人と会話しつつ食事を続けていたが、アンナは意を決し気になっている事を王弟に聞く事にした。


「アンドレアス様は今後どうされるおつもりですか?」


「そうだな。実を言うと既に将軍の職を辞する許可を得ているのだ。これからは南領に引きこもっておとなしく領地経営に勤しむつもりだ。」


アンナは南領と聞き、帝国の王都より更に遠くに王弟が去ってしまう事を悲しく思った。


するとアンナの左横で二人の会話を聞いていた皇帝が口を挟んだ。


「おいおいアンドレアス。そういう訳にはいくまい。お主はアンナ陛下の配偶者として皇国の発展と軍備強化に尽くすことになっているではないか?先ほど署名した同盟条約に書かれていたであろう?」


「「ええ!」」


王弟とアンナは驚きのあまり同時に声を上げてしまった。


「アンナ妃!これはどういうことだ?」


「私が内容を確認した時にはそのような事は書かれていませんでしたよ?」


アンナは慌てて先ほど署名した同盟文書を持ってきてもらい、王弟と二人で内容を確認した。すると、最後の方に確かに帝国のアンドレアス元将軍を神聖皇国の王配とする旨が書かれていた。


しかしアンナは事前に同盟の内容を何度も確認しており、その時にはこのような事は書かれていなかったのだ。


アンナは戴冠式の前日に、聖遺物の部屋でドールと話していた事を思い出した。


「ああ。ついに明日戴冠式を迎えてしまうのね…。」


「アンナ様。この国の王位を継ぐのはお嫌ですか?」


「そういう訳では無いけど…これまで大司教様や大臣達が力になってくれて何とかやっていける自信もついてきたわ。でも、アンドレアス様とは離れ離れになって二度と会えないと思うと…素直に戴冠式を喜べないのよ。王族がこんな考えではダメよね…。」


「思い切ってアンドレアス様に、結婚を申し込まれたらどうですか?今なら新皇帝の許しも得られるでしょう。」


「そんな…強制するような事はしたくないの。アンドレアス様にはとてもお世話になったし、今まで苦労してきた分幸せになってほしいのよ。」


深くため息をつき落ち込む姿を見せるアンナをドールは不思議な微笑みを浮かべて見守っていた。


(これはきっとドールの仕業に違いないわ!)


「皇帝陛下!これは何かの間違いなのです!」


「何が間違いですか?私はこの内容が条約に含まれていることは元より承知していましたよ。」


そう言って皇帝は微笑んだ。


「これは私が皇帝になってすぐの事なのですが、女神の使徒が私の夢に現れましてね。アンナ陛下にはアンドレアスの力が必要だから二人が結ばれるように取り計らうよう命じたのです。」


「私の夢にも現れましたよ!」


「私もです!」


晩餐会に参加していたアンドレアスの側近たちも次々に皇帝の言葉に同意した。


「それにアンドレアス将軍が田舎で大人しくなんてしていられる訳が有りませんからね。私もアンドレアス様の結婚と共に神聖皇国に移る予定でして、準備も抜かりなく進めていますよ。」


デールが言った。


当の本人たち以外は全て周知の事実だったらしく、二人の婚約など今後の予定について両国間で話合われ始めた。


アンナとアンドレアスは呆然としたまま見つめあった。するとその時、アンナの耳にドールの声が聞こえてきた。


(アンナ様。今ですよ!自分の心に素直になってアンドレアス様に求婚するのです!)


アンナはその声にハッとし、アンドレアスを見つめると勇気を振り絞って求婚した。


「ア、アンドレアス様…ずっとお慕いしておりました。迷惑かと思いますが私と結婚してくださいませんか?自信はありませんがあなたが幸せになれるよう精一杯努力しますので…。」


アンナはそれだけ言うと真っ赤になって俯いてしまった。とてもアンドレアスの顔を見る勇気はなかった。


「ははっ。なんて顔をしているのだ…。」


王弟は少し笑った後、アンナの両手を握った。

アンナが驚いて思わず顔を上げると、


「アンナ妃こそ奴隷の子である俺などでいいのか?王の配偶者にはふさわしくないであろう?」


アンナは王弟の顔があまりにも真剣だったので驚いてしまった。


「アンドレアス様がいいです!アンドレアス様でないと嫌です!」


王弟はその言葉を聞くと少し照れたように顔をしかめ、アンナの頭の後ろに両手をまわしてアンナを抱き寄せた。


「すべては女神の思し召し…か…。」


その後1年の婚約期間を経て、アンドレアスは神聖皇国の王配として皇国に移った。皇国でも将軍職に就き、帝国との軍事同盟をより強固にすべく力を尽くした。


皇国は今までの風習を覆し、王位と神官長は基本的に王女が相続するものと定められた。二人の間に生まれた姫たちは聖遺物の部屋でドールに導かれながら女神の御力を使うための修行に励んだ。


女神の御力に守護された神聖皇国はその後も末永く繁栄を続け、女神教は広く大陸全体で信仰されるようになったとのことだった。


おしまい。


これでおしまいです。

なかなか恋愛要素を出せずにすみませんでした。

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