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修行ー再び

アンナは大司教の部屋の長椅子に横になったが、あまりにも色々と考える事がありすぎで中々寝付けなかった。少しウトウトしたところで扉をノックする音で目が覚めた。


「アンナ妃入っても良いか?」


「ええどうぞ。」


アンナは慌てて立ち上がり身づくろいをした。


「休んでいる所をすまない。」そう言って、王弟が一人で部屋に入って来た。


「今日の夜、荷物を持ち込んで神官控室を執務室に整えてから、これからの事を大司教も交えて話し合うつもりだが、その前にアンナ妃の要望を確認しておきたいと思ってな。」


長椅子に腰かけたアンナの向かいに一人掛けの椅子を持ってきて王弟が座った。

アンナは王弟が自分の事を気にかけてくれているのが嬉しかった。


「私の要望は一人でも多くの皇国の民を救いたい、それだけです。」


「救い方にも色々あるだろう?まずは現在帝国の占領下にある神聖皇国をどうするかだ。帝国を退け、以前のように独立国家として王族が治めていきたいか?」


アンナは「皇国の民を出来るだけ救う」というのは、草の根運動のように一人ずつ助けるようなイメージだったので、いきなり独立とか王族が治めるとか言われてもピンとこなかった。


「そのような事が可能なのでしょうか…?王族が治めると言っても、今や王族は私しかいませんよね?」


「そうだ。おまえが王となり、神聖皇国を治めるつもりがあるかという事だ。女神の御力をどの程度使いこなせるかにもよるが、おまえの話が本当ならば、御力をもってすれば帝国を退ける事は可能であろう。」


王弟の真剣な眼差しに、アンナはたじろいでしまった。正直に言えばとても自分が王となって国を治めるなど無理だと思ったが、ここで逃げるような事は言ってはいけないと感じた。


「今の私に皇国を統治する能力があるとは思えませんが、大司教様や生き残った大臣たちを集めて助けて貰えればできない事はないと思います。・・・・私はかつての神聖皇国を取り戻したいです!」


(そしてできればアンドレアス様にはずっとそばにいて貰いたい。私と共に皇国を立て直して貰いたい!)


アンナはそう思ったが、口に出すことはできなかった。


「アンナ妃の希望は分かった。その方向で作戦を立てよう。」


王弟はニヤリと笑うと、「面白くなってきたな。」そう言って部屋を後にした。


夜も更けたころ、アンナは神殿の扉を開けるために再び呼ばれた。

遠視の御力を使い、鏡で扉の外の様子を確かめながら神殿の扉を開閉した。続々と物資が運び込まれ、小一時間ほどで神官控室は立派に執務室の体をなしていた。

デールやミモザとも合流出来てアンナは喜んだ。


「アンナ妃、そこに掛けてくれ。」


アンナは言われた場所に腰かけた。

昨日神官たちが座っていたテーブルは会議テーブルとなり、既に王弟とその配下たちが席に着いていた。


神聖皇国側では大司教が席に着き、他の神官たちは会議テーブルを囲んで立っていた。


「それでは会議を始めます。」


進行役はデールのようだった。

王弟は腕と足を組み、目を閉じてデールの話を聞いていた。


「まずは今までの経緯についてまとめます。」


デールが簡潔に説明していく。すでに執務室にいる皆には周知されているようで、驚きを示すものや質問を挟むものはいなかった。


「最終的な目的ですが、神聖皇国の帝国占領下からの脱却、帝国に送られた奴隷や捕虜たちの奪還という事でよろしいですか?」


デールがアンナを見つめて言った。

アンナが大司教を見ると、大司教はアンナを見つめ返し大きく頷いた。


「ええ。それでお願いします。」


その後は神聖皇国の現在の状況の確認に移った。


「それでは神聖皇国側には戦える兵は殆どいないという事だな。」


「はい。元々若干の神殿兵がいるだけだったのですが、それらの者たちは真っ先に帝国軍に捕まってしまいました。処刑されたのか捕虜として帝国側に連れて行かれたのかは不明です。」


大司教をはじめとする神官たちはずっと神殿に籠っていたので外部の状況を把握できていなかったので、帝国に潜んでいた王弟の配下が皇国の状況について答えていた。


「何をするにも俺の軍隊と連携する必要があるな…。アンナ妃、帝国首都と南領にいる配下たちとの連絡体制を築きたい。早急に遠視の術で連絡が取り合えるようにしてほしい。」


「分かりました。すぐに聖遺物の部屋に籠って特訓します!」


その日からアンナの特訓の日々が始まった。

王弟たちも何やら忙しそうで、夜、神殿を出入りするときだけはアンナが呼ばれたが、あとは何をしているのか不明だった。


「アンナ様、声を離れた場所にいる人に届けるには、風を自在に操る必要があります。まずはこの蝋燭の火を消してみてください。」


ドールはアンナのすぐ横に火を灯した蝋燭を持って立った。アンナは左手で二番目の女神ジークリンデ像の下にある太陽を模した聖遺物に触れながら、右手を蝋燭の方に向けた。


豊穣の聖遺物に触った時と同様、温かな流れが左手を通して体内に流れ込んで来たので、その流れを右手に導く。


(風よ吹け、風よ吹け。)


アンナは風が蝋燭の火を消すイメージを思い浮かべた。すると、アンナの右手からそよ風が噴き出し、ドールの髪をその風でなびかせつつ、蝋燭の火を消した。


「アンナ様、すばらしいです!強さの調整は申し分ありませんので、次はもう少し的を絞って、蝋燭だけに風が当たるようにイメージしてみてください。」


アンナは蝋燭の炎に集中して風を吹かせた。すると今度はドールの髪をなびかせることなく蝋燭の炎のみを消すことができた。


ドールは次々とアンナに課題を出し、アンナは順調にその課題をクリアしていった。その日が終わるころにはアンナは聖遺物の部屋の中であれば自在に風を吹かすことができるようになった。


次の日は部屋の外まで風を届ける練習をした。聖遺物の部屋でアンナが起こした風は、不思議な事に閉まったままの部屋の扉を通過する事ができた。


部屋の外でレギンに火のついた蝋燭を持ってもらい、アンナは遠視の力で鏡にレギンの姿を映し、その場所まで風を運んだり、その場所で風を発生させたりして蝋燭の炎を消す練習をした。


3日目はいよいよ声を風に乗せる訓練が始まった。


「アンナ様、発した言葉を風で包むようなイメージをしてみてください。」


声を乗せる訓練は中々うまくいかなかったが、声もまた風の一種であるとイメージすることで、何とか成功することができた。


アンナは神殿の執務室にいる王弟を鏡に映しながら、声を発し、その声を王弟に届けてみた。


「アンドレアス様、今日は何時に執務室に伺えばよろしいですか?」


少しのタイムラグの後、アンナの言葉は無事王弟に届いたようで、驚いて周りを見回す王弟の姿が鏡に映った。


「アンナ妃、言葉を届ける術を習得できたのか?」


「ええ何とか。このくらいの距離であれば殆ど時間差なく届けられますけど、帝国首都や南領まで声を届けるのにかかる時間を確認しないといけませんね。」


アンナ達は王弟の配下と協力しながら、声を届ける実験を行った。その結果、最も距離がある南領でも10分以内に声を届けられることが分かった。この事によって、神聖皇国奪還作戦は大いに進展することになった。


しばらくすると王弟は帝国首都に戻り、神殿にいるアンナ達と連絡を取りながら、来るべき日に備えて着々と準備を進めていった。


1か月ほどでアンナは遠視の御力と天候を操る天象の御力をすべて習得することができた。


少し時間が空いてしまいました。

今週はもう一回アップできるように頑張ります!

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