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聖遺物の使い方

ドールから神聖皇国の成り立ちについての話を聞いたのち、アンナは聖遺物についての説明を受けた。


まず二人が向かったのは入り口から見て一番左手前に立っている女神像だった。


「こちらは先ほどの話にも登場した、第一の女神モノトリア様の像です。」


その像の前の台には緑色の宝石で作られた麦の穂の形をした遺物が置かれていた。


「モノトリア様は豊穣の女神です。この麦の形をした聖遺物には植物の稔りを促す力があります。」


アンナは物珍しそうにその聖遺物を観察したのち、そうっと手で触ってみた。すると聖遺物からジンワリと熱のようなものが感じられた。聖遺物は小ぶりのメロン程の大きさと重さで、両手で簡単に持ち上げる事ができた。


「この御力はどのように使うのですか?」


アンナは聖遺物を元通り台に戻して聞いた。


「使い方をお見せしましょう。」


そう言うとドールは左手を上に向けた。するとその手の平に土で満たされた植木鉢が現れた。ドールはポケットを探って数粒の小麦の種を取り出すと、その植木鉢の上にパラパラと蒔いて軽く土で覆った。ドールはその植木鉢を床に置くと、左手で聖遺物に触れながら、右手を植木鉢の上にかざした。


「小麦よ、われの命に従い芽を出して育て。」


すると植木鉢に植えられた小麦から芽が出て、ぐんぐん育ちだした。そしてあっという間に実を付けて首を垂らした小麦がそこに現れた。


アンナは驚きのあまり口を開けたまま呆然とするしかなかった。


「これが一番簡単な御力の使用方法ですね。聖遺物に触れながら植物に育つよう命じます。今回はほんの少しの小麦でしたからわずかな力でこのように早く実りましたが、量が多くなると必要な力も増え、成長も遅くなります。実を言うと先ほどのように言葉に出して命じる必要は有りません。アンナ様に伝わりやすいよう言葉にしましたが、大切なのはイメージです。麦が芽吹き育つ姿を想像しながら心の中で命じます。では早速アンナ様もやってみてください。」


「え!私もですか?私は既に遠視の御力を授けられているので他の力は使えないのではないですか?」


「御力を一つしか使えないという事は有りませんよ。まあ最近は御力を聖遺物から自分の体に移して使っていたようですから、その者の力量によっては一つしか使えなかったかもしれませんね。」


アンナは兄から聞いていた話とあまりにも違うので困惑してしまった。


「本来御力はこの場所で使うか、聖遺物を目的の場所に持って行って使います。持って行って使うのが一番簡単ですが、聖遺物を奪われたり壊される危険があるので、過去の王族たちは専らこの部屋で御力を使っていました。」


「ここから離れた場所に御力を及ぼすことができるのですか?」


「勿論できますよ。しかし、御力を及ぼす場所のイメージを強く念じる必要がありますので、その場で行うよりは少し難易度が上がります。遠視の御力をすでにお持ちでしたら、その力と組み合わせて他の御力を使うと便利ですね。」


「同時に二つの御力を使う事も出来るのですか?」


「できます。例えばこちらの2番目の女神であるジークリンデ様は天候を操る御力をお持ちですが、その風の力と遠視の力を合わせる事で、目的の人物に言葉や手紙を届ける事ができます。」


アンナはジークリンデ像の前に置かれた、黄色い宝石でできた太陽の形をした聖遺物を見た。


(その技をマスターすれば、アンドレアス様が求めていた離れた人に言葉を伝える事もできるのね…。)


「まずは一番簡単なものから試しましょう。」


そう言うと、ドールは植木鉢をもう一つ取り出して麦の種を蒔いた。


アンナは左手で豊穣の聖遺物に触れながら、右手を植木鉢の上にかざした。


(芽よ出ろ、芽よ出ろ)


目を閉じて、先ほどドールがやってみせたときの麦の様子を思い浮かべた。

すると聖遺物から暖かい流れがアンナの左手を通して体に注がれるのを感じた。注がれたあたたかな流れはアンナの体を流れる気と交じり合い、お腹のあたりで渦巻いている。アンナはそれを右手の方へ流れるようイメージした。気の流れはアンナの右手の先に集まり、一定量を超えると掌から放出されて植木鉢に注がれているようだ。


すると、ドール程スムーズでは無いものの、植木鉢から小さな芽が出て、するすると成長し出した。


(麦よ実れ、麦よ実れ)


アンナの植木鉢の麦がドールが育てたものと同じくらい実ったところでアンナは聖遺物から手を離した。すると右手から放出されていたあたたかな気の流れも止まった。


「一度でできるとはアンナ様はすばらしいですね!才能がお有りです。」


アンナは帝国での修行ではあまり褒められることが無かったので、ドールの言葉がとても嬉しかった。


その後は他の女神の御力について順番に説明を受けた。5番目の女神の御力である「予知」の御力と、7番目の女神の御力である「暗黒」の御力は既に失われてしまったそうだ。「暗黒」の御力が何を表しているのかアンナには分からなかったが、何やら恐ろしい予感がしたので詳しく聞くのは止めておいた。


中央の女神像の裏には書棚がしつらえてあり、様々な巻物や書物が収められていた。

巻物の一つを開いてみると、過去の王族が記した女神の御力に関する情報が書かれていた。御力を自分の体に取り込む儀式などもこの中のどれかに書かれているのだろう。


「ここに収められている書物は殆どが最近のものですよ。昔は殆どの王族が私を見る事が出来ましたから、このような記録を残す必要が無かったのです。分からない事は私に聞けば良いのですからね。」


という事は、アンナもこれらの書物を読む必要はないという事だ。

アンナは巻物から目を離してドールに尋ねた。


「ずいぶんと時間が経ったような気がするけど、今は何時頃でしょう?」


「今は朝の6時を少し過ぎたところです。」


ドールは何も見ずに答えた。


「大変!日が昇る前に戻る約束だったのに。もう日は出てしまっていますよね?」


「ええ。既に日の出から30分以上は経過しています。」


日も差し込まない地下の部屋にいるのに、ドールには正確な時間や日の出が分かるようだった。


「一度戻ってみんなにここでの事を報告しないと…。でもこのような強大な力を私のようなものが使っていいのかしら…。女神の怒りに触れそうな気がするわ…。」


「女神たちはこの国とこの国の王族を守るためにオクタビア様に力を授けられました。使い方を誤らなければ大丈夫ですよ。」


「そうよね。この国の民を救うために使うのですものね。また御力の使い方を教わりに来るのでその時はよろしくね!」


「ええ。お待ちしております。いつでもいらしてください。」


アンナは証拠の品として麦の植木鉢を持って聖遺物の部屋から出た。

部屋の外ではレギンが壁にもたれて眠っていた。待ち疲れてしまったのだろう。


「レギン起きて。戻るわよ。」


レギンは目を覚ますと慌てて立ち上がった。涎を垂らしていたらしく口を袖で拭っている。


「アンナ様、申し訳ありません。うっかり寝てしまいました。何か成果は得られましたか?その手に持っている小麦は何ですか?」


「長旅で疲れているのですもの寝てしまうのも無理ないわ。成果はたくさんあったけど、部屋に戻ってから話すわ。」


アンナとレギンが神官控室に戻ると、そこには不機嫌そうな王弟が待っていた。


「アンナ妃!遅かったではないか!もう夜が明けてしまったぞ。」


「申し訳ございません。新しく知ることがあまりにも多かったので、時が経つのを忘れてしまいました。」


「まあ良い。早速報告してくれ。まずはその麦は何だ?」


「この事も含めて、順にご報告いたします。」


アンナは聖遺物の部屋で自分に起きた出来事を漏らさず報告した。しかし聖遺物を部屋から持ち出せる事は伏せておいた。脅されたりして何か無理な事を強要された場合の保険である。あの部屋に入れるのは自分だけなので、あの部屋に入ってしまえばアンナがしたくない事はせずに済むからだ。


アンナの報告には大司教をはじめ、神官たちも驚きを隠せなかった。今まで伝わって来た神聖皇国の創世神話ですら違うと言うのだから、信じられないのも無理はない。


王弟は何を考えているのか分からない無表情でアンナの報告を聞いていた。


「以上です。…それでこれから私たちは何からすれば良いかを話し合いたいのですが…。」


王弟はため息をつくと、


「考えをまとめる時間が必要だな。まずは各自休んでくれ。夜になったらアンナ妃に神殿の扉を開けて貰い俺は一度隠れ家に帰る。その後、必要なものをこの神殿に持ち込むこととする。この場所を我々の隠れ家にした方が色々と都合が良さそうだ。」


アンナは神官控室とは別の大司教の部屋に案内され、そこで休むことになった。部屋の外では王弟の配下が見張りに立ってくれるとの事だった。


もうしばらく続きます。

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