神殿にて
次の日アンナ達一行は神殿のある神聖皇国の首都に到着した。首都には王弟の配下と思われる者たちが待機しており、荷馬車を受け取るとどこかに移動させていた。
アンナ達は案内の者に連れられ、裕福な商家を思わせる屋敷へと移動した。
「ここは我々が皇国首都に忍ばせている配下の隠れ家です。」
デールがアンナ達に説明してくれた。
一行は各自が滞在する部屋に案内され荷物を置いたのち、直ぐに打合せのためリビングに集まった。
「それで神殿の様子はその後どうなっている?」
「はい、特に変わりは有りません。神殿の扉は固く閉ざされたままです。昼間は扉の前に一応兵が詰めていますが、夜間は見回りの兵が1時間おきに通るだけです。」
「では忍び込むのは夜間の方が良いな…。」
王弟はくるりとアンナの方を向いた。
「アンナ妃、早速今夜にでも神殿に忍び込みたいのだが可能か?」
「ええ。大丈夫です。」
「では今から早めの夕食を取り、仮眠をしたのち夜中の12時にここを出る事にする。」
王弟の言葉に配下たちは早速準備に取り掛かった。
神殿に行くのはアンナ、レギン、王弟、および見張り役である王弟の配下の計4名となった。
アンナが夕食後仮眠を取っているとミモザに起こされた。
「アンナ様、そろそろ支度を致しましょう。こちらの目立たない服装にお着替えください。」
ミモザに手渡されたのは、黒っぽいシンプルなワンピースとスカーフだった。
アンナが着替えて玄関ホールへ行くと、そこには支度を済ませた3名が既に待機していた。皆黒っぽい目立たない服装をしている。王弟が腰に差しているのはいつもの長剣ではなく、短剣だった。
「アンナ妃来たか。では出発するぞ。」
王弟の隠れ家から神殿までは歩いてもそれほど時間は掛からないとのことだったので、移動は徒歩になった。暗くてよく分からなかったが神殿までの道もやはり寂れているような気がした。ひっそりと静まり返った屋敷群の中、数か所騒がしい家もあったが、多分帝国の兵たちに接収された屋敷なのだろう。
アンナはその光景に物悲しい気持ちになったが、念願の神殿に行けることだけを心に思い描き、気分を高揚させるよう努めた。
しばらくすると神殿に到着した。石造りの巨大な扉の前には両側に松明が灯されており、扉を不気味に浮かび上がらせていた。
以前はあれほど神聖だと感じた神殿だったが、今は恐ろしく異様な雰囲気を醸し出している。
神殿の扉が見える木陰に王弟の配下がもう一人身を忍ばせていた。
「到着お待ちしておりました。たった今巡回の兵士が通りましたので、あと1時間は見張りは来ないはずです。今すぐ行くのが良いでしょう。」
アンナ達は素早く移動して神殿の扉の前に立った。実を言うとアンナは扉が開いている神殿にしか来たことがなく、扉を開けた経験が無かった。
神殿の扉はあまりにも巨大で数人の力ではとても開きそうになかった。両開きの扉はそれぞれに金の輪をした取手が取り付けられていた。
まずは王弟が両方の取手を掴んで押したり引いたりしてみたが、扉はビクともしなかった。
「アンナ妃、どうやって開けるか知っているか?」
「すみません。私は開けたことがなくて…。取り敢えずやってみます。」
アンナが扉の両方の取手に手を掛けるとすぐに金の取手が眩い光を放った。そして重さを感じさせないスムーズさで、ゆっくりと音もたてずに扉は内側へと開いた。
驚きのあまり皆目を見開いて立ち尽くしてしまったが、見つからないよう慌てて神殿に入り扉を閉めた。扉はレギンが軽く手で押すだけで簡単に閉まった。どうやら扉を閉める事はだれにでもできるらしい。
神殿の扉の内側は礼拝堂の前室となっている。レギンがランプを掲げて周りを確認していると、奥から何やら人の気配がした。
「そこにいるのはだれだ?」
王弟が短剣を構えて誰何すると、暗闇から老人が姿を現した。
「神殿の扉を開く事ができるとは…そちらこそ何者じゃ?」
「大司教様!」
レギンが声を上げて、その人物の元に駆け寄った。
「大司教様!ご無事だったのですね!」
レギンはその老人の足元に跪き、神官服の裾に縋りついた。
「その方…レギンか?生きておったのか。」
「はい。私と共にいらしたお方は帝国の人質になっていたアンナ王女です!アンナ様が神殿の扉を開けてくださいました。」
レギンが目に涙を溜めたまま答えた。
「おお・・・・アンナ様・・・・よくぞご無事で・・・。」
大司教はヨロヨロとアンナの元に近づいてきた。
アンナも大司教の側に駆け寄り、両手を握った。
「大司教様…ご無事で良かったです。なぜこちらにおられるのですか?他に逃げ延びた神官たちはいらっしゃるのですか?」
アンナは立て板に水のごとく次々と質問を浴びせた。
「感動の再会中悪いが、どこか落ち着いて話せる場所は無いのか?」
王弟が横から口を出した。
「おおこれは失礼をした。レギン、そちらのお方はどなたかな?」
レギンが答えづらそうにしていると、王弟は自ら名を名乗った。
「俺はアナストシア帝国の王弟で将軍のアンドレアスだ。」
大司教は一瞬目を見開き驚いた表情をしたが、直ぐに平常心を取り戻した。
「大司教様。アンドレアス様は帝国の王族ですが、今は私に力を貸してくださっているのです。」
王弟は(別に力を貸している訳ではない)とでも言いたそうな顔でアンナを一瞥したが、話をややこしくしないために黙っていると決めたようだった。
「これは大変ご無礼を致しました。私は神聖皇国で大司教をしておりますシュテファン・ヒッツと申すものです。ここには他にも侵略から逃れた神官たちが数人おります。」
大司教について神官控室へ行くと、それほど大きくない木のテーブルの周りに5、6人の神官や司教たちが腰かけていた。大司教が入ると皆立ち上がり頭を下げた。
部屋の奥には寝具が畳んで置かれている所を見ると、皆この部屋で寝起きしているらしい。
アンナ達一行もテーブルに着き、大司教からこれまでの話を聞く事にした。
大司教とここにいる神官たちは、帝国の侵略が起きた際、いち早く異変を感じて神殿の扉を閉じたのだそうだ。
「神殿には女神の御力を宿す聖遺物が保管されています。まずはそれらを守らねばと思ったのです。」
女神の御力と聖遺物という言葉に王弟がピクリと反応をした。
「実を言いますと、神殿と王宮の間にはいざという時のための王族専用の抜け道があるのです。私たちはその抜け道を通って王族の方々も神殿に来られると信じていました…。しかし、何時まで待っても王族の方々は来られませんでした…。大広間の歓迎式典で皆殺されてしまっていたのです…。」
その言葉を聞き、そこにいる神官たちは俯いて涙を流し始めた。
「今まで二ヵ月もの間どうやって生活していたのですか?」
「神殿は王族のための避難場所でもありましたから、ある程度の食料は備蓄してありました。また、井戸も有りますので飲料水にも困りませんでした。いよいよ食料も尽きてくると、王宮へ通ずる抜け道の扉から食料を差し入れて貰っていました。扉は鉄格子になっていて、開閉は出来ませんが、隙間から食料を手渡しすることはできたのです。」
「王宮から…。」
「はい。王宮にはまだ下働きの者たちが少ない数ですが残っております。その者たちが帝国の兵の目を盗んで差し入れをしてくれております。」
アンナも今までの事を大司教たちに説明した。兄のアリウスがアンナを訪れて神の御力を渡した下りでは、神官たちは(レギンまでも)嗚咽を上げて泣いていた。
「大司教、あいにくこちらはあまり時間が無いのだ。早くその聖遺物とやらがある場所に案内して貰えないか?」
王弟はアンナ達がなかなか聖遺物や女神の御力の話をしない事にしびれを切らしたようだ。
今週何とか2回目の投稿が出来ました!次回はいよいよ女神の御力の秘密が明らかになる…はずです。




