第七話
完成。
その単語に、歓喜する自分がいた。
漠然と、彼が、彼らが何を目指していたのか理解した中で、その単語は、まさに救いだった。
他人のことだと言うのに、僕は、嬉しくて嬉しくて嬉しくて、歓喜に体が震えていた。
ノートが震えてるのは何故か、と疑問に思うまで、震えていた。
『つまりこれは、××××の××を隔離し××に浸らせることができる物質。色の濃さは浸った長さと強さに比例する。
そして完全に熟した之を、××を喰らうことで中の××××はその××を、次代へと繋げることが出来る。
之を喰らった××××が複数集合することで、樹という、分かりやすい形をとり、現れる。
中心となった××××たちが、次代以降の××××を掬い、集め、樹とし之と成る』
読み進める速度が、目に見えて上がっていく。
早く結末を、この、結末を僕に。
『彼の、×××××からのアプローチとは完全に間逆の、一つの超自然的な手法。だからこそ、輪から外れ、完成されている』
『今頃、彼女も××に浸っているだろう。そして、彼女は未来永劫××でいるのだろう。
この仕組みは完全に独立し完結している。他者に害されることもあるかもしれないが、彼らも今日まで私たちの研究を理解し協力し支えてくれた。
彼らが伝え守る限り、ここは××であり続けることができるのだ』
『そしてわたしもいまからいまからかのじょをおい××をくらい××へ』
「………」
最後には震えた字で、そして途中で途切れた文字は線となってノートからはみ出ていた。
興奮のあまり、ペンを握ったまま動いたような、そんな勢いで。
「………」
読みきった。
いくつもの折り目を丁寧に戻し、最後に、ゆっくりとノートを閉じる。
埃にまみれた机の上へ、戻す。
「………」
今、僕の前にあるのは、一冊のノートと、一個の果実。
熟して熟して、触れた瞬間崩れそうなほど赤い果実。
いや、この表現だと誤解がある。
正確に言えば、僕の前にあるのは、この古びて黄ばんだノートと、その横に、最初から置かれていた、熟した果実、だ。
僕が幾日もかけてこのノートを読みふけっている間、ずっと存在していた果実。
朽ちることもなく、虫が湧くこともなく、一ミリも動くことなく、その不変な存在を主張し続けていた。
「そうか…」
日記、日誌を読み進めていくうちに、薄々感じてはいたが。
「そうか」
『××を掴み、××という世界を与える』と表現されていた『ソレ』だ。完成された『ソレ』だ。
持ってきた懐中電灯で之を照らすことも出来るが、それをやっては……ならない。××を破壊しては、ならない。
懐中電灯を消し、窓から差し込む月灯りで確認すれば、熟した表皮から、影のような薄い黒が透けて見える。
それは××××が×を×××て××××た形にも、見えなくはない。
いや、そうにしか見えない。この手記を最後まで読んでしまっては、そう捉えることしか、できない。
「………」
そんな、今にも崩れそうな果実を、両手で慎重に掬い上げる。
予想以上に温かく、しっかりとした表皮に包まれたソレを、ゆっくり、目の間に持ってくる。
「………」
重さはあるが、匂いは無い果実。
「………」
それを、その中心を、まじまじと見つめ。
「………」
口を、開き。
「………」
表皮に、歯を、つきたて。
「………」
小さく一呼吸し。
「………」
そして。
「……っ」
噛み千切った。




