第三話
普段からつるんでいる友人と、僕自身の感覚からして、ソレは、日中にはほとんど現れず、日が落ちていくほど、周囲が闇に侵食されていくほど、はっきりとした形をとると分かった。
そして、『見える』人間には何かしらの条件があるらしい。僕以外にも、何人かが、見えてる気がする、と言っていた。
とはいえ、その条件がなんなのかは、はっきりとしない。
それは置いといて。
今日はこの予想が正しいのか確認するために、町の灯りがほとんど落ちた時間帯、つまり深夜を狙って、樹までやってきた。
「……………あった」
闇に飲まれた巨木。
赤いほど赤い果実も闇と同化し、黒一色に塗りつぶされた、巨大な樹。
虫の声もなく、草木が揺れる音もなく。
全てが停止したような樹の傍らに。
ソレが、あった。
「見える…見えた」
以前馬鹿にされたような、薄い存在じゃない。はっきりと、認識できる。
元は白だっただろう、褐色の、蔦が這った四角い箱状のソレが。
慌てて近づいても、ソレは消えることなく、実体を持って僕の前に鎮座していた。
目の前に並ぶ、皹が入ったガラス窓の奥は暗く、しかし月明かりで、ベッドのようなものや、カーテンと金属棒が合わさった、仕切り台などが確認できる。
窓の横を見やれば、これまた皹が入ったスロープがあり、錆びてはいるものの手すりが設置されている。正面には、割れたタイルが並ぶ三段の階段。
そして、入り口。
巨大な皹が入ったガラス扉は完全に閉まっていて、全面に埃なのか土なのか、蜘蛛の巣なのか、とにかくそういったモノに侵食されていて、中を見通すことは出来ない。
どこからどう見ても、長い間放置されていた、診療所。
看板も、他に特徴的な、ソレが何の建物か答え合わせをするような物はないが、確信できる存在だった。
「………」
ごくり、と唾を飲み込むと、錆が浮いた扉に、汗で濡れた手を、伸ばした。