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生物室の目  作者: 羽月
7/12

P6

 狭い、と思った。

 ものが雑然と置かれているから、ではなく。隣の理科室と、こちらの生物室では、互い違いに半分ずつ、予備室が設置されている。それぞれの教室の、壁の間のスペースの、廊下側半分が理科室に、窓際半分が、生物室と仕切られたドアに繋がっている。声が聞こえていたのは、明らかにこちら側、生物室の準備室があるべき場所から。なのに、狭すぎる。声のしていたはずの場所は、準備室の壁の向こう、ということになってしまう。

 理科室側の準備室が、広くとってある? 耐震強化のための柱か、構造壁が、この間に入っている?

 どちらもあり得る。けれど、おかしい。なにか、引っかかる。

 天井を見上げて、はっとした。壁と直角になっているあたりの色が変わっている。天井自体、長年の風化で黄色を帯びた灰色っぽく変色しているのに、その一部だけがまだ新しい色を残している。ちょうど、頭上にある蛍光灯をずらしたのと同じ形に。

 よくみると、壁紙の材質も違う。理科室側の準備室との境目の壁は、新しく作られたものだ。その際、蛍光灯の位置を、こちら側にずらしたんだ。

「う、うう」

 今なら、さっきよりもはっきりと聞こえる。間違いない。この壁の向こうに、彼女がいる。壁の手前には、やはり、薬品瓶の並ぶ古い棚が置いてある。どうやって入り込んだのだろう。

 ああ、そうか。確信めいたひらめきが浮かんだ。戸棚の下の引き戸をスライドさせると、予想通り、そこには何も入っていなかった。床にひざをつき、中を窺う。棚の奥の壁に指先で触れ、ゆっくりと力を入れて上下左右に揺すってみると、ぎ、ぎ、と少し軋んで左に動いた。

 ひやりとした空気が流れてきて、心臓が、締め付けられるように痛み、鼓動が激しくなる。

 こうして、戸棚の中をくぐり抜けたことがある気がした。こんな経験、したはずはないのに。強烈な既視感。思い出した。これは、夢の続きだ。熱を出していた間、みていた、夢の。

 知りたくない。みたくない。けれども、もう後には引けない。

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