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秘密の部屋に入った。そこは、奥行き一メートルほどのスペースだった。棚の上に置かれたランプが、淡く室内を照らしていた。
彼女は、そこにいた。
簡素な棚に、並べられて。
手近な、高さ十センチメートルに満たない小瓶を手に取ってみた。
くるくると表情を変え、見開いたり、細めて微笑んだり、いつもキラキラしていた、彼女の目。瞼はなく、眼球からは視神経が伸びて、薬品の中に浮かんでいた。
部屋中を埋め尽くす、彼女だったピース。
彼女の脳。彼女の、骨。
どうして、こんな、ひどい事を。
涙が、溢れて。
少し離れた場所に、ぽつんと置かれた瓶の中身が、きっと、答え。
手足を縮め、丸まった、体に不釣り合いなほど大きな黒く丸い目を持った、胎児。へその緒が伸びる様は、彼女の眼球に似ていた。
冷風機が稼働していた。室外機を設置すれば、どこにエアコンがあるのかと怪しまれてしまうからだろう。密室のせいか、送風音がかなり大きく響く。壁越しに聞こえていたうめき声は、このせいだ。
親戚の家で、似たタイプのものを使っているから、知っている。冷たい風が出てきているということは、中に保冷剤が入っているはずだ。その親戚のおばさんは、保冷材がすぐに溶けてしまう、と、不平を漏らしていた。つまり、誰かがこの冷風機の保冷剤を凍らせて管理しているのだ。
そんなことができる人間は、一人しかいない。
足元で、がたり、と音がした。
薄暗闇から見上げる顔。山城先生。
僕はそれを、無表情に見下ろしていたはずだ。
「いけない子だ」
這い出して、口の端をあげながら言う。
「ここには、入っちゃいけないって言っただろう?」
「どうして、こんな、ひどい」
「ひどい?」
先生がゆらりと立ち上がった。部屋は狭く、僕と先生の間は、三十センチメートルも離れてはいない。
「彼女はね、両親から虐待を受けていたんだ。家に居場所がなくて。
ここが、彼女の居場所なんだよ。
先生だけが、彼女を守ってあげているんだ。大事なひとなんだ。
けれど、ねえ。他の男を引き込むなんて。母親になったっていう自覚が足りないよ。まあ、彼女もまだ若いし、友だちがいない、こんな暗い場所にひとりでいるのは、寂しいのだろう」
山城先生は、穏やかな目で手を伸ばし、僕の後頭部に触れた。生物室のカギをくれたときと同じように。
「君の頭蓋骨は、美しいねえ。本当に、理想的な形をしているよ。
わかっているよ。君も、居場所がないんだろう?」
恐怖で、体が動かない。後頭部を撫でる手が、ゆっくりと下りてきて、うなじをなぞり、ちく、と、鋭い痛みが走った。




