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生物室の目  作者: 羽月
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P7

 秘密の部屋に入った。そこは、奥行き一メートルほどのスペースだった。棚の上に置かれたランプが、淡く室内を照らしていた。

 彼女は、そこにいた。

 簡素な棚に、並べられて。

 手近な、高さ十センチメートルに満たない小瓶を手に取ってみた。

 くるくると表情を変え、見開いたり、細めて微笑んだり、いつもキラキラしていた、彼女の目。瞼はなく、眼球からは視神経が伸びて、薬品の中に浮かんでいた。

 部屋中を埋め尽くす、彼女だったピース。

 彼女の脳。彼女の、骨。

 どうして、こんな、ひどい事を。

 涙が、溢れて。

 少し離れた場所に、ぽつんと置かれた瓶の中身が、きっと、答え。

 手足を縮め、丸まった、体に不釣り合いなほど大きな黒く丸い目を持った、胎児。へその緒が伸びる様は、彼女の眼球に似ていた。

 冷風機が稼働していた。室外機を設置すれば、どこにエアコンがあるのかと怪しまれてしまうからだろう。密室のせいか、送風音がかなり大きく響く。壁越しに聞こえていたうめき声は、このせいだ。

 親戚の家で、似たタイプのものを使っているから、知っている。冷たい風が出てきているということは、中に保冷剤が入っているはずだ。その親戚のおばさんは、保冷材がすぐに溶けてしまう、と、不平を漏らしていた。つまり、誰かがこの冷風機の保冷剤を凍らせて管理しているのだ。

 そんなことができる人間は、一人しかいない。

 足元で、がたり、と音がした。

 薄暗闇から見上げる顔。山城先生。

 僕はそれを、無表情に見下ろしていたはずだ。

「いけない子だ」

 這い出して、口の端をあげながら言う。

「ここには、入っちゃいけないって言っただろう?」

「どうして、こんな、ひどい」

「ひどい?」

 先生がゆらりと立ち上がった。部屋は狭く、僕と先生の間は、三十センチメートルも離れてはいない。

「彼女はね、両親から虐待を受けていたんだ。家に居場所がなくて。

 ここが、彼女の居場所なんだよ。

 先生だけが、彼女を守ってあげているんだ。大事なひとなんだ。

 けれど、ねえ。他の男を引き込むなんて。母親になったっていう自覚が足りないよ。まあ、彼女もまだ若いし、友だちがいない、こんな暗い場所にひとりでいるのは、寂しいのだろう」

 山城先生は、穏やかな目で手を伸ばし、僕の後頭部に触れた。生物室のカギをくれたときと同じように。

「君の頭蓋骨は、美しいねえ。本当に、理想的な形をしているよ。

 わかっているよ。君も、居場所がないんだろう?」

 恐怖で、体が動かない。後頭部を撫でる手が、ゆっくりと下りてきて、うなじをなぞり、ちく、と、鋭い痛みが走った。

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