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化け物の勇者  作者: 豚瓦福
第一章 夢と絶望のハッピー学園生活
28/31

27.トラブルメイカー


「普通に飯も食わせてくれねェの」

「文句の前に足を動かしなよ」

「そう言ったってよ、文句も言いたくなるだろ!マラソンの次は宝探しだァ!?馬鹿じゃねェの、ガキかよ」



 ウルフィはケッと唾を吐き捨て、気分を落ち着かせるために拾った木の枝を空に向かってぶん投げた。皆、苛つきも空腹も限界間近だ。


 地獄の山下りを終えたユーシャ達一年生を待ち受けていたのは、見るだけで涎が溢れる肉の山、そして捕食者から守るように肉を囲む鎖だった。


 新入生歓迎会二種目め、宝探し。

 野外炊事場周辺のどこかにある宝——昼食引き換え券を探す、子供の遊びのようなもの。文字だけ見れば楽しいレクリエーションだ。けれど、状況が良くなかった。

 山下りによる疲労から一年生達の足はとうに限界を迎えており、歩くだけでも一苦労。加えて、辺りは木、木、木。どこにあるかも分からない宝を求めて雑木林を練り歩くことは、疲労困憊の少年少女にとって苦行でしかない。


 言い渡された時、当然ながら彼方此方からブーイングが飛び出たが、反論虚しく宝探しは決行されてしまった。

 昼食にありつけないのは死活問題だ。仕方なしに一年四組の面子で集まって、宝探しを始めた。 



「気持ちは分かるけれど、今はお宝を探す方が大事。見つけられないとご飯が食べられない」



 エイユは涼しげな表情でウルフィを諫めるが、直後、ぐううと腹の虫を響かせ、背中を丸めてよろよろ遊歩道から外れると、少し離れた獣道に顔を向けた。その視線は虚ろで、何処か遠くを映している。



「獣の足跡……肉……」

「それより良い肉が待っているから。ほら、宝探し再開だ。すぐ見つけて飯にするぞ」



 コイツはもう限界そうだ、とユーシャはエイユに肩を貸し、引っ張っるようにして無理矢理動かす。


 この場には五人居るが、早くも二人が戦力外だ。エイユはエネルギー切れで、もう一人、ウルフィはといえば、木の根っこに蹲って「うおおおお!」と興奮した声を上げている。彼が大切そうに両の手のひらで包み込んだ先には、紫と緑の縞模様のキノコが生えていた。ユーシャは山育ちなのでよく知っているが、あれは毒キノコだ。即死するほどの毒性はないが、三日は下痢になる。



「オイ!このキノコ絶対食えっぞ!」

「食えるか!いや、食えるかもしれんが、確実に腹を壊すだろうその見た目は!大人しく先輩方を探して、さっさと宝のヒントを貰うぞ」

「食えるのに……」

「じゃあ勝手に食べとけ。地図によると、この辺りに先輩が居るみたいだけど」



 セイバに首根っこを掴まれ肩を落とすウルフィを横目に、ヒイロは地図を広げる。


 闇雲に宝を探すのでは一日かけても終わらない、雑木林の各所に宝の在処を知る先輩方が待ち受けており、何かしらのミッションをクリアするとヒントをくれるというのだ。


 ヒントではなく答えをくれ、と思うのは、急きすぎているだろうか。


 辺りを見回すが、人の気配はない。



「ふむ、もう少し先だろうか……ヴっ!?」



 セイバが先に進もうと一歩前に出たその時、突如として漁網がセイバの身体を包み込み、まるで獲物を船上へ巻き上げるかの如く木に吊られてしまった。



「な、何だこれは!」

「暴れないで、降ろしてあげるから」

「む、硬い。切れない」



 吊り下げられたセイバの周りに集まり、やいのやいの言い合いながら解放しようと試みるが、網を切ろうにも普通のナイフでは切れないほど硬く、罠の構造が想像以上に複雑で、すぐに助けることはできないでいた。



「くっ、まんまと罠に嵌まるとは何と不甲斐ない……セイバ・カタブッツ、一生の恥だ……」



 ブツブツ呟くセイバはひとまず置いて、作戦会議に入る。

 どうする?いっそ枝ごと切り落として運ぶか。誰が運ぶんだよ。死霊なら担げる。


 決まりだ。四人は顔を突き合わせて頷いた。



「よし、取り敢えず木からは降ろしてやるから」

「おー、この罠に嵌まったんは今日三人目や、おめでとう」



 待っていろ、の言葉は、ぬっと現れた女——ミタマによって阻まれる。

 ミタマはユーシャ達の間を縫うように歩くと、網に囚われたセイバの頬を突いてにんまり嗤った。


——コケにされている、このセイバ・カタブッツが!


 セイバは上下関係を重んじるタイプではあるが、それは先達が尊敬に値する人物である時の話。

 己を貶める悪意ある嘲笑に、一瞬にしてセイバの頭に血が上り、歯を剥き出しにして食ってかかった。 



「先輩が道中に罠を仕掛けられたのですか!何故、一年生が通る道でこのような危険な罠を設置されたのです。下手すれば怪我をしてしまいます」

「怪我なんか幾らでもすればええよ。ウチからしてみれば、アンタら一年には危機感が足りん。これが遊びやなかったら死んでるで」



 セイバはなおも何か言いたげだったが、目を細めるだけで強者の凄みを見せるミタマに気圧されてしまい、口篭もる。



「会長はんが言うてはったやろ。これは元々訓練や。新入生歓迎会なんて名前で騙しとるけどな、ひよっ子がぽっくり死んでしまわんように、先輩が世の危険を教える行事なんよ。ミッシークに入学してくる子なんかは特に、地元で鼻を高く高くしすぎて足元が見えてないからな」



 そう言いながらセイバの鼻尖を人差し指でグッと押し、



「ま、可愛がり半分やけどなー。可愛らしいやん、ブーちゃん」



 豚鼻にされたセイバはカッと頬を赤らめた。

 そんな様子にミタマはカラカラ笑って、



「ミタマお姉様が降ろしたるわ。ちょっと待ちいや」



 ユーシャ達があれ程手こずった網罠を、いとも簡単に解いてみせたのだった。


 半刻ぶりに地に足着けたセイバは、自由の身となるや否や木剣を召喚。無表情でフーッと長く重い息を吐くと木剣を勢いよく振り上げ、これはマズいと咄嗟に羽交い締めにした。離せと暴れるセイバを力で抑える。



「くっ、殺せ……!カタブッツ家末代までの恥……!かくなる上は、恥を上塗りする前に私はこの手で……!」

「落ち着け!ミタマ先輩をまともに取り合うな!あの人は、俺もそれほど知らないが、多分人を揶揄って遊んでいるんだ!気にする方がおもちゃにされるぞ!」



 自分で自分の脳天をかち割ろうとするセイバを必死に宥めるうちに、ミタマは「諦めて来た道戻るんも手やでー、ほなー」と消えてしまった。


 彼女が去った跡、畳まれた漁網の影に隠すように、紙に包まれた饅頭が五つ、綺麗に並べて置いてあった。意地悪なんだか優しいんだか、よく分からない先輩だ。


 ともかく、とんだ嵐、とんだ台風に遭遇したことには違いない。出来れば二度と会いたくない、そんな気持ちを抱いてしまうほどには、問題を起こす厄介な先輩だった。





 ミタマの罠を越え、ユーシャ達はお宝を求めてさらに奥へと突き進む。

 すっかり意気消沈のセイバを、今度はウルフィが「ホラ行くぞ」とけしかけた。しかしウルフィの声にも覇気はなく、「大丈夫か」と問うと、代わりにゴキュ!ギュルルルル!と腹の音が応えた。心なしか、げっそりと頬が痩けている。


 

 歩けど歩けど宝のヒントをくれる先輩も、何なら同級生とも巡り会わない。お互いを励まし合い、軽口を叩いてここまで来たが、いよいよ無言で足を前に出す作業を続けている。


 本当にこの道で合っているのか、もう戻った方が良いのではないか。鬱々とした気分を晴らすように、眼前の景色が一気に開けた。


 視界を遮っていた若葉は、澄み渡る青へ。

 ユーシャが吹き抜ける風の心地よさを感じながら深呼吸していると、ヒイロは何やら難しい顔をして地図とにらめっこを始めた。



「どうしたんだ?」

「おかしい、川なんて地図には描いてないのに。こんな分かりやすいものをわざわざ省くとは思えないし、まさか宝探しのエリア外に出てしまったとか?」



 顎をしゃくって、切り立った崖と崖を結ぶ古びた吊り橋を指す。崖下からは確かにせせらぎが聞こえるるが、地図をひっくり返しても太陽にかざしてみても、どこにも川は描かれていない。


 ユーシャとヒイロは目を合わせ、共に涙を溢して熱い抱擁を交わした。言葉は無くとも気持ちは同じだ。皆よく頑張った。もう帰ろう。

 エイユはそんな二人からピッと地図を抜き取り、じーっと地図を眺めると、



「お宝」

「ああ、野外炊事場に戻って土下座して食べさせてもらおう」

「違う。お宝はこの先。道は合っているのに、何で諦める」

「は?」



 意味が分からずに訝しげにして見せると、エイユは地図の上側、何も描かれていない余白を指差す。



「ユーシャ、蝋燭くらいの火を出して、炙ってみて」

「あ、ああ。蝋燭くらいの火を灯して」



 ユーシャは言われるまま、焦がさないように注意を払って地図を炙ると、余白からじわりとセピア色が浮き出てきた。二つの境界線と、それを繋ぎ合わせる吊り橋。そして地図の隅、吊り橋の先には、煌めく宝石の絵。



「嘘だろ!?炙り出しってアリ!?やっぱり天才だよエイユって」

「隠された道ということか!よく分かったな」

「……マジか、スッゲぇ」



 完全な姿となった宝の地図に驚き、口々にエイユを褒め称える。

 


「やっぱり。吊り橋の向こうに人の気配がする。間違いない」



 褒められたエイユはフフーンと得意気な表情になって、皆を急かした。



「早くごはん食べたい。行こう」



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