20.入学おめでとうパーティー
放課後になり、ユーシャはそわそわとした面持ちでエイユと二人、人気の無くなった教室に居た。ラストとフランが、ユーシャとエイユの入学祝いにちょっとしたパーティーを開いてくれるというのだ。
当初は入学式当日に行うという話だったが、色々あってユーシャが保健室送りになってしまったため、日を改めて本日がパーティーの日となった。
「ユっちー、シャっちー、迎えに来たよ!」
ニコ!と底抜けに明るい笑みを浮かべながら扉の前で手を振るフラン。カラフルな髪は猫耳を模したように結われており、真白の制服はフリルやリボンが彼方此方に足され、原形を留めていない程魔改造されている。相変わらずのド派手さだ。
彼女はちょいちょいとユーシャ達を手招きすると、大仰に天を指差した。
「それじゃあ、部室までフラン先輩が案内するからね!ゴーゴーレッツゴー!」
◇◇◇
カルガモの親子のようにフランの後ろを着いて歩く。
何せ入学二日目なので、地図を見ながらか誰かに案内してもらわないと学園内もまともに歩けない。
植物園や闘技場、何故か屋根が吹っ飛んでいる小屋に目移りしながら、歴史研究部の部室へ向かう。
「結構遠いんですね」
「そりゃあ、歴史研究部は部員二人の超零細部だからね。部室も学園の隅だよ、隅!」
校舎から随分と離れ長い坂を下ると、鮮やかな黄色で埋め尽くされた花畑。季節外れの向日葵が咲いている真ん中に、ぽつんと立つ石碑が見えた。
あの石碑は、何だか悲しい気配がする。ざわりと胸が締め付ける感覚に後ろ髪を引かれながらも、「こっちだよ」とユーシャを呼ぶ声の方、花畑がよく見える位置にある二つの小屋のうち一つへと爪先を向ける。
ユーシャとエイユが小屋の入り口に立つと、そそくさと中に入ったフランと中で待っていたラストがパーティークラッカーを鳴らした。
「ようこそ、歴史研究部へ!」
「よく来てくれたね、二人とも。さあ、おいで」
クラッカーから飛び出た金のテープをくぐり抜けると、真正面には「入学おめでとう」と色紙を切り貼りして作られたウェルカムボード、色とりどりの生け花。「ようこそミッシークへ☆」と吹き出しの付いた猫の絵は、恐らくフランが描いたものだろう。
こじんまりした部屋の中は、歓迎されていると一目見て分かるほど丁寧に装飾が施されていた。
ユーシャは面映ゆい気持ちになり、「うぇへっ」と奇声が漏れて慌てて口元を腕で覆い隠した。きっと口角がゆるゆるになって、気持ち悪い顔になっている。
エイユに白い目で見られつつ、ラストのエスコートで席に着く。テーブルの上には焼き立てのキッシュに熱々の煮込みハンバーグ、極厚のステーキまで、豪勢な料理が所狭しと並んでいた。
育ち盛りのユーシャとエイユは匂いだけで食欲が堪えきれず、ヨダレをごくりと飲み込んで瞳を輝かせた。
「すごい、めちゃくちゃ豪華だ……!」
「ハンバーグがある。昨日よりお肉がいっぱい」
「昨日はまだ作りかけがほとんどだったし、ユっちーはガッツリ系が好きって分かったから。頑張って作りました、主にラスト先輩が!」
「手作り!?」
ユーシャは思わず大きな声を上げた。イケメンな上に金持ちでエリートで料理も出来る貴族なんて、属性を詰め込みすぎではないだろうか。
ラストがあまりにも気安く接してくれるのでつい気を抜いてしまうが、この目の前に御座すラスト・リリンベルンはナロ王国筆頭貴族たるリリンベルン公爵家現当主というとんでもない肩書きを持つ人物だ。現役学生であるとはいえ、国の重鎮であることに変わりはない。
とろ火虎の迷宮内でフランと出会った事から始まり、ここまで不思議な縁が続いているが、本来ならば時間を共にすることもあり得ない身分差だ。それを、同席すら通り越して手作りの料理。いち平民が食べてしまっていいものか。
ラストのことだから、貴族のお嬢様から凄まじい人気を誇っているだろう。いや公爵様なのだから、複数人の婚約者が居たりするかもしれない。彼女達を差し置いてユーシャが手を付けてしまっては、嫉妬に駆られて暗殺者を差し向けられたりしないだろうか。
しかし、この肉汁滴る料理の数々を前にして我慢するのは無理がある。だってすごく美味しそうだ。絶対食べたい。身体が空腹を訴え、無意識に腹を押さえた。
勝手に顔を青くしたりヨダレを垂らしたりするユーシャに、ラストはクスリと優雅に口角を上げた。
「高学年になるほど時間に余裕が出来るからね。喜んで貰えて何よりだよ。君達のために作ったのだから、心ゆくまで食べてほしい。ちなみに私は料理担当で、フランは部室の飾り付け担当だ」
「道理で。制服もアレンジしてますし、フランさんってセンス良いですよね」
「うん。お花、可愛い」
「もうっ、褒めてもラスト先輩の料理しかでないよっ!ほら、食べよ食べよ。ラスト先輩、乾杯の音頭!」
フランは照れを誤魔化すように忙しなく手を動かしてグラスにジュースを注ぎ入れ、手渡す。急かされたラストは苦笑を零して、グラスを掲げた。
「縁合って出会った二人が、我等がミッシーク精霊術学園の後輩になってくれて本当に嬉しいよ。ミッシークはなかなか個性豊かな場所だから、慣れるまでは大変だと思うけれど、困ったことがあれば何時でも私達を頼ってほしい。それじゃあ、これからの二人の未来が良きものであることを願って。乾杯!」
「「かんぱーい!!」」
硝子同士がぶつかり合う小気味良い音を合図に、和やかなパーティーは始まった。
この暖かな部屋に居る人は、ユーシャにとってはほんのひと月前に出会ったばかりの人達だ。数奇な縁の巡り合わせで、こうして同じテーブルで食事に舌鼓を打っている。
人生とは不思議なものだ。何処に転機があるか分からない。フランやラストとの出会い然り、エイユとの出会い然り。
今思い返して見ると、エイユとの出会いは本当に最悪だった。魔物と死霊に挟み撃ちされたと思いきや実は助けてくれて。綺麗だなと思って見蕩れていたらいきなりひっくり返されて。財布をすっからかんにされて——
ふと気付けば、大皿に山盛りあったハンバーグが残り二つになっている。
もう?
横からハンバーグを掠め取ろうとするエイユと目がかち合い、火花が散る。
コイツ、ハンバーグばかり食いやがって。俺はまだ一個しか食べていないのに!
一瞬憤慨したユーシャだが、俺は大人だからがっつくことはしない遠慮が出来る男、と探るように前をちらっと見ると、先輩二人がニコニコ笑顔で「どうぞ食べて」と大皿を指し示していた。
食い意地が張っていると思われたことに気恥ずかしさを感じながら、エイユとハンバーグを一個ずつ分ける。
「「うまっ」」
エイユとも、ここまで縁が続くとは思いもしなかった。先輩もクラスメイトも良い人ばかりで、自分は本当に人に恵まれている。この縁を大切に、出来れば長く長く続けていきたい。ユーシャはそう思いながら、ハンバーグを噛み締めた。
あれほどテーブルを埋め尽くしていた料理は見事に空になり、粗方片付けを終えた食後の休憩中。
「ところで、お二人は入る部活はもう決めたのかなー?」
フランは頬杖をつきながらニマニマ笑った。答えは分かりきっているとでも言うかのようだ。ユーシャとしても、答えは決まっているのだが。
「勿論、歴史研究部に入ります」
「私も」
エイユも続いて入部を宣言する。
フランは手を叩いて喜びを露わにした。
「その言葉、待ってました!本当に嬉しい!……でも。こんな早くから決めちゃって、他の部活を見るつもりはある?ミッシークは兼部オッケーだからねー。フランも薬学部と掛け持ちしてるし」
「高学年になると他の部活をまじまじと見ることもないからね。折角の機会だ、色々と見て回るのもいいんじゃないかな?」
兼部。考えても居なかったことだ。
とはいえ、折角ミッシークに入学したのだ。色々な物に触れ人と出会い、自分の可能性を広げていくのも良いかもしれない。
今のユーシャが、数々の出会いによって燻っていた草刈り冒険者から少しずつ変わっている様に。
隣へ目を遣ると、ユーシャの気持ちが伝わったのか伝わっていないのか、エイユは表情の読めない星空の瞳を細めて頷いた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
拙い文章ですが、楽しんでいただけましたら幸いです。
余談ですが、「10.勇者の迷宮」にて披露したフランの精霊術「融身誘毒」は体内に取り込んだ液体を鎧に変換する術です。
戦闘時は毒液を取り込み攻撃力を高めていますが、液体なら何でも鎧に変換できるため、フランは専ら一発芸に使用しています。
パーティーの最中、フランは肉汁を「融身誘毒」し、ユーシャとエイユを爆笑させました。フランがどんな姿だったかは、ご想像にお任せします。




