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モブですらない令嬢は、推しスチルを最前列で拝みたい! 〜ヒロインでも悪役令嬢でもない私のイベント鑑賞計画〜  作者: キモウサ


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第十五話:親密度1作戦、始動

 「……確か、親密度ってありましたよねぇ?」


 そうアデルが聞いてきた。

 確かにゲームの中には親密度というものがあった。


 ヒロインが攻略対象とのイベントをこなすと親密度が上がっていくのだ。

 

 ゲームが始まったときは、攻略対象の親密度は全員ゼロ。

 

 イベントごとに親密度が1ずつ上がっていって、最高が5だったはずだ。


 最初の入学式のイベントだけは別。

 

 プレイヤーが事前に入力した生年月日や、選択肢の中から選んだ好きなものなんかから、相性がいい相手が選ばれてイベントが起こる。


 ん? っていうことは、本来なら入学式で、アデルと相性がいい攻略対象とのイベントが起こるはずだったのよね。

 

 でも、あのとき、たまたま私が偽物イベントを起こしてしまった。

 

 となると、アデルと相性がいいのは騎士団長令息のルーカス・ベルンハルトなのかもしれない。

 

 いや、待って。

 あのとき、私はルーカスと広場で出くわしちゃったけど、スチルっぽいのはヴァンだったような……。


 初めて王都の通りを歩いたときも、無理やりだけどヴァンとイベントが起きた――といえなくもない。

 

 いやいや、あれは本当に無理やりだもん。


 まさかヴァンと私に、イベントが起こるはずがないよね。

 


 「それでですねぇ、親密度2くらいまでのイベントなら、見てみたいなぁなんて思ってるんですぅ。それ以上はちょっと、色々大変かな……なんて」

 


 アデルの言いたいことはよく分かる。


 親密度が上がるにつれ、攻略対象がアデルの周りに集まるようになるのだ。


 ゲームの中なら、それはそれで楽しいけど、ここは現実の世界。


 男爵令嬢のアデルに、王太子や高位貴族の令息が群がるようになると、色々と問題も出てくる。


 確か、ゲームの中では、悪役令嬢として描かれていたエレオノーラ様や、彼女の取り巻き令嬢から、ヒロインがいじめを受けていたはず。

 


 「ゲームの中では、ちやほやされて楽しかったんですけどぉ、ここでそうなると私だけじゃなくてぇ、家族にも悪いことが起こったら嫌だなって……」

 


 確かにそうだ。アデルは男爵家で、とても愛され大事にされている。

 

 義理の父親になった男爵も、アデルのことを本当の娘のように思ってくれているらしい。

 


 「アデル、あなたの気持ち、よく分かったわ。じゃあ、こうしましょう。念のため、親密度1で抑えるようにしない?」

 


 親密度1なら、それぞれの攻略対象と、一度だけイベントを起こせばいい。


 ゲームの攻略対象を、一度だけでも近くで見られるのなら、私としては十分満足だ。


 アデルも賛成のようで、ぱぁっと笑顔になる。

 


 「コレットさま、そうしましょう! じゃあユリウス殿下にはもう会ったから、次は誰がいいかなぁ」

 


 考え込み始めるアデルも可愛らしい。


 アデルと話すようになって分かったんだけど、彼女はとても善良で思いやりのある人だ。

 

 見た目が可愛いので、我儘だったり、小悪魔のようだったりするんじゃないかと思っていた。


 でも、そんなことは全然なくて、どちらかというと常識的な人。

 

 ちょっと気が弱いところはあるけれど、一緒にいて楽しい。

 


 「ねえ、アデル。私のことは、コレットって呼んでちょうだい」

 


 私がそう言うなり、アデルは満面の笑みを浮かべながらコクンとうなずいた。

 


 「嬉しいですぅ! コレットさま……じゃなくてぇ、コレット!」

 


 アデルに名前を呼ばれて、ちょっと気恥ずかしくなる。

 

 それを軽い咳払いで誤魔化しながら、私はイベントについてまとめた手帳を開いた。



 「コホン……親密度1で止めるのなら、ユリウス殿下は子猫イベントでもう上がっているよね。殿下にはもう会わなくていいことになるけど、アデルはそれでいいの?」

 


 アデルは前世でユリウス推しだったと言っていた。

 そんなに推してたなら、もっと会いたいんじゃないかな。

 


 「昨日、直接お会いしたじゃないですかぁ。それでなんだか満足してしまってぇ。なんといっても王太子さまですしぃ、これからは遠くから王国民のひとりとして推していきたいなってぇ……」

 


 アデル……語尾がアレだけど、本当にいい子だわ。

 


 「じゃあ、ユリウス殿下以外の方と、一度だけお会いするくらいを目標にしたらどうかな。イベントやスチルは気にしないで、気楽に行こうよ」


 「この世界に来た記念ですね! なんだか楽しそうですぅ」

 


 ちょうどエルザが戻ってきたので、お茶をいれてもらいながらアデルと計画を練る。



 お茶を飲みながら、手帳にまとめておいたイベント情報をじっくり読み返してみた。

 

 今まで、情報をまとめることに精一杯で、ちゃんと読み返してなかったんだけど、大変なことに気がついた。

 


 「アデル! 大変よ!」

 「なにがですぅ?」


 「明日よ! 明日なら、残りの3人に会える……かも?」

 「かも?」


 

 絶対うまくいくとは言えない。

 攻略対象側の事情だってある。


 それに一日で全員と会うのは、時間的にかなりきつい。


 でも、事前に準備しておけば、なんとかなりそうなのだ。



 まず、一番早く会えそうなのは騎士団長令息のルーカスだ。


 明日は、王宮騎士団の合同練習日。

 ルーカスは父親である騎士団長の命令で、毎回その練習に参加している。

 

 学院から許可をもらって午前中の授業を休み、合同練習に参加し、昼休みには学院に戻ってくるというスケジュールだ。


 イベントは、その合同練習から戻ってきたあとの昼休みに、校舎の屋上で起こる。


 ゲームの中でルーカスは、合同練習で騎士団長にひどく叱られてへこみ、一人になりたくて屋上に来たと言っていた。

 

 

 「ルーカスさまの屋上イベントですかぁ。ちょっと弱ったルーカスさまが可愛いんですよねぇ」

 


 いつもは馴れ馴れしい、チャラい態度のルーカスだが、このときは落ち込んでいるらしく、いつもとは違った一面が見られる。

 


 「それでね、お弁当が必要なのよ」

 「ああ! ゲームではサンドウィッチでしたねぇ」

 


 ゲームでは、ヒロインがたまには外でお弁当を食べようと屋上にいく。

 

 そこでルーカスに出会い、なぐさめながら、一緒にお昼ご飯を食べないかと誘うのだ。

 


 「分かりましたぁ! 明日はサンドウィッチを作って持ってきますぅ。安心してください。こう見えてもお料理はわりと得意なんですぅ」

 


 これでルーカスに会う準備はできた。


 

 次に会えそうなのは、王立学術院長官の令息、エリオット・フォルスターだ。


 エリオットはユリウス殿下の側近の中でも少し異色の存在。

 物静かで発明が得意という設定だった。

 

 小柄で、赤毛の巻き毛が可愛らしい。

 同級生というより、弟的存在のキャラだ。


 そんな彼の抱える問題は、お兄さんが優秀すぎること。

 すでに王立学術院で実績を上げ、どんどん出世している兄に引け目を感じているのだ。

 

 

 「エリオットさまですかぁ。もしかして池ぽちゃイベントですぅ?」

 


 池ぽちゃイベント――その言葉のとおり、池にぽちゃんと落ちてしまうイベントだ。


 授業をたいくつに感じたヒロインが、こっそり授業を抜け出すところから始まる。


 学院の中をぶらついているうちに、小さな池にたどりつく。

 そこで出会うのが、やはり授業をさぼっていたエリオットだ。


 エリオットは、風を吹き出す小さな道具を発明した。

 

 でもそれを兄や父親から「なんの役にも立たないガラクタだ」と否定されてしまう。


 落ち込んでいるエリオットを励まそうと、ヒロインはちょうど風に吹かれて舞い降りてきた一枚の木の葉に、その発明品から出る風を向けるのだ。


 木の葉は風に煽られ、くるくると空中で舞う。

 それを見て、エリオットが楽しそうな顔をする。

 

 ヒロインはもっとエリオットを喜ばせようとして木の葉を追いかけ、結局、池の中に落ちてしまうのだ。


 これが池ぽちゃイベントと呼ばれる理由。

 

 エリオットは慌ててヒロインを助けるんだけど、騒いでいるうちに明るく笑えるようになり、元気を取り戻すというシナリオだ。

 


 「そう、その池ぽちゃイベントよ。だから、エリオットの顔を拭いてあげるハンカチが必要なのよ」

 


 スチルは、池ぽちゃしたヒロインを助けようとして少し濡れてしまったエリオットの顔を、ハンカチで拭いてあげるシーンなのだ。

 


 「任せてください! ハンカチならたくさんありますぅ」

 


 それなら大丈夫そう。

 授業をさぼらないといけないけど、そこは……まあ、アデルに任せよう。

 


 残ったのは、アルベルト・リヒテンベルク宰相令息だ。


 アルベルトは落ち着いた金茶色の髪を、きっちり横に流して、細い眼鏡をかけている。

 見るからに宰相令息らしい、知的で理性的な印象だ。


 自信満々の態度で、いつも上から目線の発言が多い。


 そんな彼も人知れず、悩みを抱えている。

 実は彼、絵を描くのが大好きなのだ。


 将来、父親と同じように宰相になることを期待されていて、本人もそのつもりでいる。

 

 でも、内心、絵で世界から認められたいと願っている。


 アルベルトの立場では、そんなことは無理なので、何事にも気力が湧かず、なにをやっても面白くないのだそうだ。

 

 それで態度も高慢になり、発言に嫌味も混じりがちということらしい。


 そんなアルベルトがヒロインと出会うのは、放課後の図書館の一室。

 

 同じ本に同時に手を伸ばした二人は、そこで少し言い合いのようになる。


 そこでヒロインが手にとろうとした本についての知識を披露する。


 アルベルトはヒロインの知性に驚き、自分はもっと真剣に学ばなければいけないと気づくのだ。


 そして、未来の宰相として自覚を持ち始めるというストーリーだ。

 


 「アルベルトさまなら、図書館イベントですよねぇ? なにか必要なアイテムってありましたっけ?」

 


 アルベルトのイベントには、必要アイテムはなかったはずだ。

 ただ会って、少し話をして終わりだったはず。

 


 「アルベルトのイベントにアイテムは必要ないかな。じゃあ、明日の予定をおさらいしようか」

 


 アデルが可愛らしい仕草で指を折りながら、予定を確認していく。

 


 「まずは昼休みに屋上でルーカスさまと会って、サンドウィッチを食べますぅ」

 


 そうそう。騎士団長令息ルーカス・ベルンハルトには、サンドウィッチが必須アイテム。



 「次は授業をさぼって、エリオットさまと池ぽちゃイベントですよねぇ? ハンカチが必要ですぅ」

 

 

 王立学術院長官令息エリオット・フォルスターは、ハンカチが必須アイテム。

 


 「もしかして、思った以上に濡れてしまうかもしれないから、着替えもあったほうがいいかも」

 

 「そうですねぇ! 着替えも持ってきますぅ。でぇ、放課後、図書館でアルベルトさまと会いますぅ」

 


 アルベルト・リヒテンベルク宰相令息のイベントに、必須アイテムはなし。

 図書館に行くだけでいいから気が楽だ。

 


 「よし! 明日は頑張ろう!」

 「はい! 頑張りますぅ!」

 


 私とアデルは、ガッチリと手を握りあった。

 明日は、一挙に三人、攻略しちゃおう。


 絶対、大丈夫! ……だよね?



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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