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私、ニセモノ令嬢から帝国皇子の愛され侍女になったようです  作者: 奏多


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49 暖房になったレゼクの事情

 やがて穏やかな寝息を立て始めたリリを見て、レゼクはため息をつく。


「一体こいつは人を何だと思ってるんだか……」


 自分を暖房扱いした女の頬にかかる髪を指先でよけ、耳にかけてやる。

 するとみじろぎするので抱え直した。


 その時に、ふと、比べてしまったのは遠い昔に抱きしめた他の人の腕と背中だ。

 

 出会って間もなくは、対応の仕方がわからずにすげなくした。

 それでも少しずつ、兄のように見守る気持ちになれて。

 でも彼女の父親がいなくなって、初めてそれが庇護欲からのものではなかったとわかった。


 自分のせいでランヴェールの皇帝に見つかり、死なせかけた時、どれほど自分を呪っただろう。

 あれからずっと、長い年月を過ぎてもまだ、この帝国を滅ぼしたいと思っている。


 それほどまでに後悔するほど、彼女はか細くて、本当に戦い方なんて知らないような人だったから。

 二度と彼女につながる人達が、同じような目に遭わないように。

 ずっとレゼクはそう思って来た。

 

「だが、また聖女に出会うとは思わなかった」


 あの時の聖女とは違って、リリは自分で身を守れるぐらいに強い。

 その分、その体は筋肉がついて固い気がする。

 それでも確かに男とは違う柔らかな感触があり、体の丸みもそれほど損なわれていない。

 掌に伝わる柔らかさに、レゼクはため息をつく。


「トールと組ませなくて良かったようだ」


 彼は普通の人間だ。

 こんな状況になった時に、近づかずに突き放すことができないだろうし、口づけひとつを耐えることが苦行になってしまうだろう。


 レゼクとて女性に興味が無いわけではないが、自分もそのうち始末をつけるつもりだというのに、誰かとどうこうなる気が起きないだけで。


 でも、聖女だからかリリ相手だと調子が狂う。

 問題を解決するのに、苦労していたから、ついその手を借りたいと思ってしまった。

 原因の一つは、目的を率直に話しているというのに、リリが完全に仲間だからと心を許して頼ってくる。

 そんな対応をされるとは思わなかったのだ。

 利用するなんてと非難されたり、危険性を十分に説明しないまま巻き込もうとしたことに怒るだろうと考えていたのに。

 だからこそ、どう接するべきなのか、戸惑うのだ。


 リリは意に介した様子がほとんどない。


 素直じゃない人物に「はいはい、でもちゃんと約束通りに守ってくれるんでしょ?」と言っているかのように、殺されそうになっても、巻き込まれてカールに目をつけられても、決してレゼクを責めることもなく、怖がることもなかった。

 

 自分が聖女だから、というのもあるだろう。

 秘密を打ち明け合った相手だから、という仲間意識のせいかもしれない。

 でも自分が殺されそうになって、までそんな風に思えるだろうか。


 それを考えると、思い出す存在がいる。


「お前は……どうだったんだ」


 レゼクに「僕はもう死んでしまうから」と、何もかも悟ったように告げた、自分と一つ違いの少年。


 彼の存在は、以前から知っていた。

 同じ騎士の力を持っているのに、彼は病がちで。

 死なないようにと大切に守られていても、病魔は彼から離れることはなかった。


「だから、後を頼んでいいかい?」


 その言葉が、初対面のレゼクに対してするりと出て来たのは、同じ能力を持つからなのか。

 だから、仲間意識が湧き出してレゼクを最初から信用しようと思ったのだろうか。

 聞きたくなったけれど、彼はもういない。


 ただ……彼がそんな風に託すのには原因があった。

 でもリリは、レゼクが頼んで協力してもらっているだけなのだ。

 それでも、仲間だと思えるのか。

 死にそうになったことさえあるのに。


 ややしばらくして、やっぱり聖女だからこそなのかもしれない、と思い直してしまう。

 一度決めたら、万の兵士を前にしても一歩も引かない。

 それがレゼクの知っている聖女だ。

 リリは、レゼクに協力すると決めた以上は仲間として信頼することにしたのだろう。


「思い切りは良すぎると思うが……」


 レゼクも、即刻飛び降りてこの世を去る決意をするとは、想像もしなかったのだ。

 あまりに潔すぎて、あの時は生まれて初めて度肝を抜かれた気がする。


 だからこそ、その信頼に値するようにできるだろうか、とレゼクは思う。

 さもなければ、リリはあっさりとレゼクを見限って、どうにかして雲隠れでもしていなくなってしまいそうだ。

 それぐらいに、予想外なことをしかねないと思っている。


「まだ掴めていないんだ。どうしても知らなければならないのに」


 かつて、騎士が聖者のような力を振るえるようになった理由。

 騎士ではなかったはずのウルスラ妃の弟が、聖者のような力を持つことができた理由。

 それを、破壊しなければ。

 また、同じようなことが起きてしまう。


 無意識にきつく抱きしめすぎたのか、リリが苦しそうに唸る。

 慌てて手を緩める。

 さっきよりも、体が温かくなった気がする。


 深い眠りに落ちてゆく彼女と額を触れ合わせ、熱を測る。

 熱さも少し引いたようだ。治りつつあるのかもしれない。


 ほっとしながら、レゼクは自分も眠ることにする。

 明日もまた、リリを抱えて馬を走らせることになるかもしれないのだから。

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