50 察しのいい王子様による自白をせまる方法
……あつい、と思った。
私は夏みたいな暑さと、息苦しさを感じる。
それでいて離れがたいほどにその熱が優しくて。
守られているこの感覚を、無くしたくなかった。
まるで、子供の頃に母親がずっと抱きしめて眠ってくれた時のようだった。
だからすがりつくように腕を伸ばす。
すると抱きしめ返してくれる。
ほっとしながら思う。
どうしてこんなに自分は甘えているんだろう。
弱っているからだ、と自分の中から答えが返ってきた。
なぜ弱っているのかと考えたところで、不意に自分が風邪をひいたことや、雨の中を馬で走ったこと、民家に泊めてもらったことを思い出し――。
瞼を開いた。
木目の天井と梁が見えた。
部屋の中は明るくて、はっきりと見える。
窓はカーテンが開けられて、陽の光が入ってきている。雨は上がったみたいだ。
それからゆっくりと、私は自分の状況を確認する。
寒気はもうない。暖かい布団の中から出た後も寒く感じるかどうかはわからないが。だるさもなくなった気がする。
暑かったせいか、少し体が汗ばんだようだけれど、それもわずかだ。
そして横にいる人をそっと振り向く。
閉じた瞳を彩るのは、白金の睫。うっすらと日に焼けた頬にも、まとめているはずの淡い金色の髪が乱れ掛かっている。
そうだ、私、レゼクと一緒に寝て……。
いや、寝てって表現はなんか違うような。
添い寝?
でも添い寝もなんかいい年齢の男女としては、なんか間違ってる気がするし。
妙なことをぐるぐる考え始めていたら、肩を掴んでいたレゼクの手が動く。そして私の頭がレゼクの胸に押しつけられた。
驚いた瞬間に、肺一杯に吸い込んでしまったのは、たぶん彼の匂い。
明らかに自分のものではない女性のとも違う匂いに、嫌悪感ではなく、頭がくらりとする。
「う、うそ……」
こんな状況で、レゼク相手にこんな妙な気分になるはずがない。
わ、わたし病気だ。
いや、きっと病気だからだ。
心が不安定になったから、こんな気分になってるだけに違いない。
「うるさい」
呟くように告げられ、頭を二度かるく叩かれる。
それでふっと自分まで眠くなりかけ、私は気づく。
――もしかして私、あやされてる?
そう思うと、とたんに私はふっと気持ちが楽になる。レゼクはお母さん代わりに看病して、それが居心地いいだけなんだ。
そーかそーかと納得したところで、今が何時なのかが気になり始める。
早く目的地へたどり着かなければならない。
あの雨風で、昨日は敵味方双方とも足止めをくらっているはずだ。今日はすぐに出発して、早く助けに行かなければならないのに。
「そっちだけじゃない……。王宮のみんなも」
私がカールとの賭けには負けたことになれば、王宮に残っている人達をカールがどうするのかわからない。
皇太后陛下にまでその手が伸びたら……レゼクの秘密まで暴かれてしまう。
そうなれば秘密を守る方法が、一つしかなくなる。
「死ぬぐらいしか……」
私が死んだとしたら、賭けは元からなかった物になる。
それしか打てる手が思いつけない。
思わず苦渋のつぶやきをもらしたその時、頭の後ろにあったレゼクの手が、頬に添えられていた。
「どういうことだ?」
息を飲む。
視線を動かせば、既に起きていたらしいレゼクと目が合った。
私は激しく動揺した。背筋が凍るような感覚に襲われ、水色の瞳から目をそらせない。
「なんで死ぬなんて言葉がでてくる?」
「ずっと……聞いてたんですか?」
まさかずっと起きてたのに、狸寝入りしていたのか。
「お前の声で起きた」
しれっと言われる。
「思えばお前の行動はおかしかった。城を出発してすぐに着替えていたのも、すぐに襲撃が来ることを予期していたような行動だ。お前は出発直前に、何かしらの情報を得て、それに備えたんだろう? それは俺にも係わることじゃないのか?」
尋ねられるが、答えるわけにはいかない。
黙っている事がより疑惑を深めるのにも気づかず、私はうつむいてしまった。
「気のせいです」
「強制的に聞き取ってもいいのか?」
レゼクはカールとは違う。
心の中で思い浮かべたことを覗くことはできなくても、恐ろしく察しがいい。
「で、できるんですか?」
ただみんなのために頑張ってるつもりの私としては、それを今崩されたくない気持ちが出てしまい、思わず反発してしまうような言葉になる。
「すぐに音を上げると思うがな」
レゼクが起き上がった。
そして思わず逃げようとした私をつかまえて――脇腹をくすぐった。
「ぷはははははははは!」
普段ならコルセットがあるため、それほどくすぐったくはなかっただろう。しかし今の私って寝間着代わりのワンピースしか着ていない。
だからよけいにくすぐったくて、暴れる。
レゼクの手をふりほどこうとするが、その手を両手とも掴まれて、抵抗のしようもない。
「やっ、ちょっとやめっ、お願いだから! ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「強情な奴だな。まだ足りないのか」
くすぐったくて息が絶え絶えになった私は、もう笑う気力もなかった。
「お願い……もう、だめ……うぷぷぷ」
「ならとっとと言え」
「わかりましたっ。言いますから! お願い許して……くけけけ」
そこでようやくくすぐる手がひっこんだ。
荒く息継ぎしていた私は、ふと気配を感じて横を向いた。
そして凍り付く。
扉を薄く開けて、サンナ達母子が部屋の中を覗いていた。彼女達は私と目が合うと、にやっと笑って静かに扉を閉めてしまう。
次に私は、自分とレゼクの状態について再確認する。
基本的には、レゼクが私をくすぐっていただけだ。
けれど場所が悪い。寝台の上でレゼクが私を取り押さえているっていうことは、組み敷いているようにも見える。
あの母子が何を勘違いしたのか手に取るように理解できた。
「うわ……」
私は顔を覆って、深いため息をついたのだった。




