閑話.「長の配役」
「お呼びとのことで参りましたよ。長老」
「すまんの、呼び立てて」
「そんなそんな、この程度の距離。いつでも応じますとも。して...ご用件は?」
「お主、魔人族を連れておるの?」
「はい」
堂々とした振る舞いで頷く、誤魔化す。なんてことはしない。隠したいことではあったが、いずれはわかることではあった。
「お主の想いはわかる。皆同じ方向を向いておる。ただ、先を行き過ぎた。それだけの話にできる」
言外に魔人族を連れてくるのはやりすぎだと注意される。そして、今なら間違いだったで済ますこともできるのだと。
「わかっています。罪は私一人だけで被りましょう」
「解放する気はないということかの?」
「そうなります。現状、不甲斐ないばかりですが、我々では不十分な部分が多々あります。少しでも多く、これから先、必要になっていくことでしょう。一つを掴み取るだけでも容易なことではありません。だからこそ、先駆けとして私が見つけましょう。新たな光を。たとえ、闇の中から拾った物だろうとも皆が使えば光には変わりありませんから」
ここでユイト達が聞いていれば、こんなにも真剣で熱弁する人物をとても同一人物だとは思えなかっただろう。
その語りを当然の如く受け入れる長老。
「お主の熱意は誰もが知っておる。認めてもおるとも。じゃが、ただでさえ、我々はやりすぎておるのだ。これ以上、敵を作ってどうする。世界の未来は、似た運命を辿るだけではないかの」
「仰る通りです。ただ、一点、長老と私での違いがあります。私は信じているのですよ。溝は産まれるでしょう。苦労も絶えないと思います。ですが、必ずや晴れやかな未来が訪れる。それは、私ではなく未来の自然種が作り上げる。そんな世界を。その未来には、長老もいますから」
「我らは動かない。それは知っていよう。若い者達が悲惨な目にあうやも知れん・・・。その未来に我々は存在できるのかの。世界は、多くの種族を代償に捧げることになってしまうのではないか。不安じゃのう」
「耳の痛い話です。実は...ご存知かもしれませんが、本当に私一人の独断なのです。あの者達には反対されました。見誤ってはならないとね。その通りだと思います。そこで決まったのです。この者達に任せても未来は安泰だと。であれば、冒険は老兵の役割かと。私もそろそろ歳なので」
「知っておる。皆が決めたこと。ましてや、破命の守護者が決めたことに我らが何かを言う権限はないの。お主一人の独断だからこそ、こうして説得しておるのだ」
「さすがです長老。ですが、私も仮初の守護者として決めたこと。独断とはいえ、長老に命令される権限もなくなるはずです。誰もが尊敬する長老のお呼びとあってここまで来ましたが静止を振り切らせてもらいます。知らせることも止めはしません。その間に少しでも礎を築いて見せましょう」
「そうか...そうじゃの...言うべき立場ではないの。我らは、幸せになってほしいのぉ。皆に」
「それも、皆が知っていること。申し訳ありません。私以外でどうか叶えて頂きたい」
「自然種が滅んでもかの?」
「滅ばないようにです」
深く、地面と水平にとても綺麗に頭を降ろして締めくくる。それでも、長老はなんとか別の道へと導きたい思いが身体に現れている。もしかしたら、頭を下げたのはそれを直視しないためという意味もあるのかもしれなかった。
「ずっとこのままでいたかった。と思ってしまうのは、歳のせいなのかの・・・」
「私も同じ想いです。それを、世界が許してくれませんでした」
自然種の総意ではない。ただ、根は同じ。信じる者がいて、動く者がいるただそれだけ。しばらく、無言の時間が続く。長老はこれ以上言うことがあるか模索しながら、もう一人は、長老の言葉をしっかりと全てを聞いてから出ようと決めているから生じた時間。
打ち破ったのはどちらでもなく。第三者であった。
「失礼します!襲撃者です!」
入って来たと同時に簡潔に伝える。そうして欲しいと命じられているからこそ、場の状況を顧みない。
「話はここまでかの。急いで対処を頼む。守護者よ」
「はい。失礼しました」
敢えての言葉を気にする時間はない。退室してから、詳細を聞きながら対処へと向かう。
一人でぽつんと残される長老。いつも通り、普段通りの日常。たとえ緊急時であっても長老は動かない。何もしない。それこそが、長老の役割なのだ。
知恵、経験が豊富であり、優秀な者が未来の長老へと襲名する。もはや、名前さえもない。
だが、不幸ではない。人々の尊敬を集めている。当然、それは自身の実績を元に集めた物で長老だからという理由ではない。そんな人物からの助言を欲しがる者は数多い。
今回は呼び出したが、それは滅多にないこと。応じる義務はないのだが、断る者などいない。断ったら失礼だからなんてことにもなりかねないのはそうだが、少なくとも、今回は違った。
なら、長老とは助言を送る者ということか。概ね合っている。でも、自然種であれば全員が少し違うと不機嫌に訂正することだろう。
長老とは、元々実権を握り種族を導いていたが、長命種であるが故に何千年と同じ立場の者が亡くなるまで座っていた。ただ、老いた長老はもはや役割を果たせない状態になることも多く。導くには不十分な存在に成り果ててしまう。
であれば、そうなる前に退けばいいのではと思うだろうが、皆が長老を頼りにしていたのだ。退くなんて選択肢は全員が許してくれない程に絶対であった。
そこで、長老達が集まり決定したのは、立場を維持しつつ権限は皆無。種族の未来は他の優秀な若い者達に新たな立場を作り任せた。そして、長老の助言をいつでも受けれる状態にすることで、いずれ長老という存在すら自然と無くなるだろうと予想されていたのだ。
それが・・・いつまで経っても無くならなかった程に長老とは、皆の心の拠り所なのである。
「平和であることを祈ろう。ご先祖様のご加護を・・・」
そんな長老は、長老という立場の自分よりも絶対の存在へと平和を願い続けている。未来永劫の平和を――




