79.よこせ
「まぁ、ずっとそんな感じだったが」
こいつは、誘拐されても変わらなかった。楽観的なのか何なのか知らねえが。
――不幸を嘆いても仕方ねえってのは同感だがな、それでもちょっとは動揺するだろ?
「え?なにが?」
「なんでもないさ。お互い、不幸が続くな」
「まぁまぁ。結局、僕はあんまり変わってないから。慣れたよね」
そんなことに慣れてどうするんだ。捕らえた俺の言えた義理じゃないからな。言葉にはしなかった。
「で、晴れて同じ立場だ。情報共有といこう。一先ずここどこだ?」
「さぁ・・・。たぶん・・・森?」
「森ねぇ・・・。隠れ家にでも連れ込まれたか」
聞いた後に、じっくりと周囲を観察する。乗っているのは、馬車。おそらく、俺たちが乗ってきた物を再利用している。外の景色は見えないが、時たま布の隙間から、たしかに木が見える。
――森ってのは本当のようだな
帝国で森といえば、ある程度、場所は限られるが・・・木だけで判別なんてできやしない。知識があればできるのかもなと。思考を中断する。
「俺たちにやれることは、なさそうだな。一応、なにか他にわかったことはないのか?」
ユイトが手を拘束されながら、首だけを傾げさせて考えている素振りを見せる。
「ん~。・・・ないよ。ずっと森ってことぐらいかな...」
「そうか・・・。ん?ずっと森?」
馬車の速度はかなり出ている。この速さでどれくらいかはわからないが進んでいるのなら、とっくに森を抜けてもおかしくない。それか、目的地に到着してるかだ。
「どれくらいの時間、森が続いてるんだ」
「・・・半日くらいかなぁ。感覚になるけど」
――・・・なら帝国じゃねえな。
どういうことだ。いったいどこに向かう気だ?広い森って言ったら・・・。
「自然種に渡す気か」
「え?でも、魔人族っぽかったよね」
理由なんて知らん。あいつが魔人族かどうかも疑わしい。
見た目なんていくらでも変えれるだろうからな。俺もよく変えてるしな。――俺の場合は例外か。
「君も変装してただろ?それと同じことさ」
「そっかぁ・・・」
・・・悠長だな。なにか考えでもあるってか?
「どうする気なんだ?」
「え?どうする・・・?」
なにも考えてないのか?それなら、逆に怖いくらいに落ち着いてやがるが・・・。
だが、こいつのことばかり考えても仕方ねえ。俺は俺で逃げだす算段を立てなきゃならない。といっても・・・俺に魔力なんてないからな。手足を拘束されちゃどうにもならんか。なら・・・
「なぁ」
どうするの返答を考えていたのか、虚空に向かって視線を向けていたのを俺に変更した。
「なにができるんだ?魔法は使えるのか?身体能力は高そうだったが」
おそらく使えるとは思っている。今は、実際にできることを詳しく知っとくべきだ。
「・・・今は言ってもいいのか。もちろん使えるよ」
「そうか、なら、魔法でなにかできることはないか?枷を壊すとか鍵を作り出すとかな」
俺の提案にかなり驚いたような表情を見せる。――変なこと言ったか?
「で、できたよ・・・。でも、できなくなっちゃった...」
できなくなった・・・?
「どういうことだ」
「ボスさんに嵌められてた枷は・・・外せたんだけど・・・どうやら、付け替えられたみたいで・・・こっちはなんでか無理だったんだよね・・・」
あぁ、そういうことか。まっ、魔法が蔓延る中ならそういった類の枷もあるわな。なら、他に・・・できることは・・・。
「ねぇ、どうしてボスさんの枷は外せたのにこっちは無理なの?」
「俺が知るわけねぇだろ?そういうもんもあるんだろうさ」
「ボスさんの枷と似てるのに外せない・・・」
「枷なんて見た目は一緒だろ。あんな安物ならできたんだろうがな。どうやら奴ら、金の使い道に枷を選ぶ程の拷問マニアらしい」
痛いのは御免こうむりたいとこだな・・・。外す方法か・・・到着した時に外すかもな。なら、その一瞬だけが勝負所か?
「もし、僕が枷を外して逃げ出そうとしたらどうしてたの?」
こいつ・・・呑気だなんだと優しく言い表してたが、馬鹿なのか?そんなこと今どうでもいいだろ。
「そんなのもう一度捕らえるしかねえに決まってるだろ?だから、俺が見張ってたんだよ」
「そ、そう・・・」
逃げ出そうとはしてたってことか。なら、なんで逃げなかったんだ?
いや、毒されるな。今は、逃げるための計画をより良くするのに集中するんだ。
「どうしよう・・・」
今更これからを考え始めたのか。もしかしたら、俺を頼りにしてたのかもな。なら、無能で悪かったな。
「枷を外される一瞬に賭けるしかないかもな」
「外されるかな?」
「さあな、他の方法も考えつつ天にでも祈るさ」
世界さんよ汚泥に塗れた俺に、たまにはなにかプレゼントでもくれよ。
その時、まるで願いが届いたかのように馬車が・・・停車した。
「到着だ」
どうやら、贈り物は品切れらしい。




