9ー15
日本時間9時10分 講師生活15日目 1限目
欠損部分回復薬を完成させる上での絶対的に必要となる組み合わせが気になるけど、今は臨時講師として3人の教え子を教えないと。
どうしても組み合わせ変化を色々と試行錯誤したい気持ちに駆られるけど、するべき事をしよう。俺はそう自分に言い聞かせて、少しばかり早くにクラスへと向かった。
前日までの14日間の間に、俺は教えられる限りのほとんどを教え尽くしている。後は実技での実践ばかりだけど、とりあえず1限目は座学にしよう。
(ただなぁ、もう座学で教える内容はほぼ全て教え終わっているからな。今更、なにを教えようかで悩むことになるとは)
強いて授業を行うとすれば、昨日の“移ろいの森”に関する授業でも行おうか。実技に関しては、中級魔法薬から上級魔法薬の中の初級編くらいまでを教えるかな。
「おはようございます」
「おはようございます。本日も早いですね」
「ははようございまーす」
クラスの扉を開けると同時に、エリク、ララ、ロラの3人の声が出迎えてくれた。
「おはよう」
手早く出席確認を行ってから、俺は1限目の授業内容にする事にした“移ろいの森”に関しての説明を書いていく。森の中に入った経験がないから、薬草が生えているかは不明だ。
ただ、希少魔獣が生息しているだろう事は間違いようがない。一応の知識なら俺も持っているし。という事で教えられる限りで書き出す。
「“移ろいの森”かぁ。ほとんど知識ない」
「確か森の中の時間が、かなりゆっくりだとしか聞いた事がないですね」
「森かー。薬草授業かなー?」
――リーン、ゴーン、リーン、ゴーン
エリク達が本格的にお喋りを開始しようとした直後に、授業開始の鐘が鳴り響いた。俺も書き終わったタイミングで振り返る。
「改めておはよう」
「「おはようございます」」
「おはようございまーす」
「俺はこの14日の間に、必要なだけの知識を教え込んできた。かなりの速度と情報量でな。エリク、ララ、ロラ。3人とも優秀で授業に付いてこれたから、もうほとんど教える内容が思い付かない。
そこで1限目は薬草から離れて、希少な魔獣素材が手に入る可能性が最も高い“移ろいの森”に関して簡単な授業を行う」
「簡単……ですか?」
「え?私達、短期間でほとんどの知識を覚えさせられたんですか?」
「シャルトル先生、教え上手ですねー」
「エリクとララの疑問は当然だな。ロラに関しては放置しよう。コメントのしようがない」
「酷いー!」
「酷くはない。“移ろいの森”に関しては俺も知識が多くないんだ。遭遇したこともないから、知っているのは目撃した人物の話や、実際に森に入った経験のある人物の話のみ。
ララの疑問に対する答えだけど、今なら3人とも同級生たちに対して講師の立場で教えることができるぞ」
「「講師の立場……教えられる」」
エリクとララが物凄く嬉しそうな表情だ。悪いんだけど、その表情を1度だけ壊させてもらうとしよう。
「ただし、座学に限った話でだ。実技に関してはまだまだ教えるべき内容がある。まぁ、実技は他の講師陣でも教えられるから問題ない」
俺はこれだけ言ってから、3人が知っている“移ろいの森”に関する情報を聞いていった。全員が大体、非常に珍しい森で、遭遇も目撃もあまり話を聞いた事がないという。なので、俺の知識を教える事にした。
「“移ろいの森”が初めて確認されたのはいつなのか。これに関しては明確な記録が残っていない。ただし、古い遺跡なんかの壁画をを見ると、およそ500年以上前から存在していると伝えられている」
「……500年以上も前なんて」
「凄すぎます」
「その遺跡の壁画を見たいですー」
「残念ながら遺跡と壁画は、ずいぶん昔に崩壊している。ただ、壁画を書き写した物なら王城の書庫にあるぞ」
「見たい」
「見たいです」
「忍び込もー!」
「ロラ、王城に用も許可もなく入った時点で一瞬で捕まって牢獄行きだ。さらに言うと魔法薬師としての自分の名前にも泥を塗ることになる」
「それはダメーー!!」
「こほん。“移ろいの森”とは一定期間毎に忽然と消えては、別の場所へと移動することから名前が付いた森だ。そして森の中は非常に魔力が満ちていて、時間そのものも非常にゆっくりだと言われている」
「ゆっくり、ですか?」
「そうだ。例えばだけど――」
俺は昨日の話の中にあった、森の中に迷い込んでしまった子供が60年後に森の外に出た事。その時、ほとんど姿が変わっていなかった事などを教えた。
「す、凄い」
「外見がそんなに変わっていないなんて」
「若いままでいたいー」
「おいおいおい。俺が陛下から依頼されて作っている魔法薬の材料の中には、希少なユニコーンの血もある。通常ユニコーンとはそう簡単に見つかる存在じゃないのは有名だ。
ところがだ、昨日、新しく我が家の領になった場所の湖近くで“移ろいの森”が確認された。そして、そこにはユニコーンの姿もあったんだよ。
無事にユニコーンを発見して、その血も回収することができた。ちなみに、森の中は非常に魔力で満ちていると言われている」
「魔力で」
「満ちている」
「凄すぎー!」
「俺もそう思う。1度くらい、内部を調査してみたいものだけどな。だけど入ったら――」
3人それぞれの反応を見ながら、俺は授業を進めていき授業終了の鐘が鳴る。“移ろいの森”に関しての授業はここで終了となり、俺は職員室へと戻る事に。エリク達はどんな魔獣が生息しているかなどの話で盛り上がっていた。
□
2限目 実技室
授業開始の鐘の音を聞きながら、俺は実技室の扉を開けた。エリク、ララ、ロラの3人は既に道具の準備を終えている状態だ。
普段、実技をする時は黒板に作る魔法薬種類に、その材料や素材、手順に下処理を含めた諸々の注意事項を書いてからなんだけど。
「どうした?自分たちで作ってみたい魔法薬でもあるのか?」
俺が問うとエリクは気まずそうに、一方でララとロラは楽しそうに笑みを浮かべながら言ってきた。
「惚れ薬の作り方を教えていただきたいんです」
「他のクラスの子達が、完成させて既に何人かに試したんですよー」
「それで、自分たちも作ってみたいと。エリクは?」
「2人とも話を聞いてくれませんでした。自分は思考集中薬を作りたいんです」
もしかして、多数決的な感じで強制的に決められたのかもしれない。そうだとしたら、エリクが物凄く可哀想だ。俺はそう思いつつも、生徒達からの初めての作りたい魔法薬リクエスト。
これは応えてあげたい。特に何を作らせようかとも考えていなかったから、ちょうど良いかもしれない。そう思う事にした。
「そうか。ララとロラは初級、中級のどっちを作りたいんだ?」
「「中級!!」」
俺は頷くとチョークモドキを手にして、黒板に中級魔法薬に該当する惚れ薬に関しての情報を書き出していく。今回使うのは、薬草を取り扱っている薬屋でなら普通に売っている物を使おうかな。
特に注意らしい注意はないから、いつもより情報量は少なめ。ただし、解除薬も書き出しておく。王国の法律には特に記載されていないけど、闇市で犯罪用にも販売される事がああるため、解除薬も必須なのです。
「今回使うのは、非常に簡単で楽に作れる物だ。クーデレル草と、好転草を使う。それと解除薬も作らせるからな。トク草とトキ草を用意するように」
2名だけ作れるのが嬉しいのか、スキップ状態だ。今にも鼻歌を歌い出しそうな感じ。エリクは「本当に作るのかー」と落胆していた。
「薬草を揃えたな?先に惚れ薬を作ってもらおう。まず最初に、クーデレル草を軽く火石で炙る。軽くだぞ。炙って甘い香りが出始めたら、その時点で終了。
次に好転草を小さい計量コップの中へ。水を下から2番目の線まで入れるように」
俺は今回作らず、3人の進捗状況を確かめるだけに集中する。それぞれが炙るクーデレル草から、甘い香りが立ち上ぼり始めた。
「この段階で火石から出る火から遠ざけるように」
3人は速やかにクーデレル草を火からすぐに離した。そして火石への魔力供給を中止。次にハート型の好転草を指示通りに小さい計量コップに入れて底から2番目の線まで水を入れていくのを確認。
「好転草が完全に水を吸い込むまで、しばらく放置。水を吸って、好転草の色が桃色になるまで待機だ。この間に解除薬も作ってもらう」
「「「はーい」」」
「まずトク草に魔力を流して色が水色になるまで供給を続ける。水色になったら、風石でゆっくり乾燥させること。この時に便利魔法の乾燥は使わないように。
一気に水分が抜けると、効果がかなり弱くなるから。それと風石を使う時は飛んでいかないように、金網で前後を挟んでから」
好転草の色が変わるまでは、最低でも10分は掛かる。それまでには、トク草の乾燥も終わるだろう。金網でトク草を挟んで、3人が風石に少なめの魔力を少しずつ供給していく。
すると、供給を受けた面が微風程度の風を発生させて、ゆっくりとトク草の水分を飛ばしていく。砂時計を使って計っていないから分からないけど、およそ7分前後で完全に水色になった。
「色が水色に変化したら、もう風を当てなくていい。それとそろそろ、好転草が桃色になるぞ」
俺が促すと3人の視線が一斉に移動。徐々に桃色に染まっていくのを見て、ララとロラの2人は嬉しそうだ。エリクは少しずつ変化していく色に魅せられたように動きを停止。
「完全に変色したな。計量コップから取り出して、横2センチ幅で切るんだ。次に小鍋に水を入れて、火石で沸騰させる。沸騰したら先に好転草を少しずつ入れて、最後にクーデレル草を投入。
完全にお湯に溶けるまで、ゆっくりと攪拌させたら、冷めるまで放置。冷めたら自分の血を数滴入れて完成だ」
3人が冷めるまで待つ間に、俺は解除薬の方へと話を戻す。
「解除薬の説明に戻る。トキ草を便利魔法の乾燥で余計な水分を抜く。カラカラになったらトク草と一緒に小鉢で粉末にするように。最後に水石から発生させた水を入れて、錠剤の型に流し込んで自然乾燥を待つ。
これだけで解除薬は完成だ。ただし、相手に飲ませる直前に、魔力を流しておくように。そうしないと、効果ゼロだからな」
特に、とロラを見て言っておく。自分でも確信がある訳じゃないけど、ロラは解除薬の完成させ方を教えても、完成させなさそうな予感がするからだ。
その後、完成した惚れ薬を前に2人の女子生徒は見事なまでの笑みを浮かべ、エリクは「気になる相手いないし、ムダになったかな」的な苦笑を浮かべていた。
ララは純粋に気になっている相手がいるんだろう。一方のロラは何だか転売しそうな感じだ。
「ロラ、血を入れるだけで完成の惚れ薬を決して他人に譲ったり、闇市に流して金儲けしようなんて考えるなよ」
念押しと言うか釘を打っておくと言うべきか。俺がこう言った直後、一瞬だけビクゥ! っと反応していたのは見間違いであって欲しいと思う。
教えた魔法薬を悪用されるのは、本当に悲しい事だからね。エリクとララが、ロラに冷たい眼差しを向けた。
――リーン、ゴーン、リーン、ゴーン
直後に授業終了の鐘が鳴って、俺は再度のロラに悪用、転売しないよう注意を行ってから職員室へと戻った。この数日後、薬学院内でやたらとカップル誕生が相次いだけど、俺は関係ない。関係ないったら関係ない!!!!
□
3限目 クラス
クラスに移動して、やたらとニマニマ顔をしているロラにジト目を向けた後、俺は黒板に“不死鳥の涙とユニコーンの素材利用”を書いた。
もう教える事がないような状態における、最後の授業的な感じで上級魔法薬にしか使えない2種類の超高級で、入手が難しい材料に関して教える事を決めましたよ。
「これから教えるのは、上級魔法薬の中でも上級編に位置する魔法薬を作る上で必要な知識を教える。不死鳥の涙と、ユニコーンの血、涙、角に関してだ。
ちゃんと覚えられれば、3人ともレシピを見ながらでも上級魔法薬の中級編までなら作れるようになるからな」
エリクが背筋をピシィ! っと直して、ララはニマニマ顔のロラの頭にチョップ。完全に授業モードへ切り替える。これと同時に授業開始の鐘が鳴った。
「エリク、不死鳥の涙はどんな魔法薬になるかわかるか?」
「主に上級の生命薬と魔力薬になります」
「20点の回答だな。ララ、補足しろ」
「回復系だけではなく、解毒と解呪薬にも用いられます。ですが現在、不死鳥の涙は入手困難な状況にあります」
「正解。70点回答だな。ロラ、不死鳥の涙が入手困難な理由は?」
「不死鳥と生活をして、その涙を回収し王国に販売していた魔法薬師が殺されたからでーす。その時に不死鳥も何者かによって、連れ去られました」
「ようやく満点回答だな。次の問題だ。ユニコーンの血はそれだけでも非常に価値がある。その理由は? エリク」
挙手していたけど、俺に名前を呼ばれて手を下ろしながらエリクは答えた。
「非常に残り少ない寿命でも、たった1滴だけで数年を生き延びる事が可能です。また、10滴も飲むと数十年単位で寿命が伸びます」
「正解。その代償はなんだ?」
「定期的に血を飲まないと、伸びた寿命は元通りになります。また、元々あった寿命までもが一気に消耗される事態になってしまいます」
「その通り。それでも、魔法薬の材料になっている理由はどうしてなのか。 ララ、答えてみろ」
「魔法薬に入れた場合は、血そのものが薄まるからです。あくまでも、ユニコーンが持つ特殊な力を混ぜる結果になります」
「よろしい。ロラ、不死鳥の涙とユニコーンの涙の違いは?」
「不死鳥の涙は生命薬、魔力薬、解毒に解呪になりまーす。でもユニコーンの涙は、体内にある魔力の流れを正常にする程度の効果しかありません」
「よろしい」
「ユニコーンの角は、幽鬼などを追い払う力がある。ただし、魔法薬にした場合に、この力は必ず失われる。その理由とは――」
分かりやすく教える事為に言葉を選らびながら、俺は不死鳥とユニコーンの素材を使った魔法薬を使う際の注意事項も話していく。
そして授業時間が残り半分を切ったところで、黒板に簡単なテストを書き出した。ただし、問数が多くて詳細回答を求めるようにしたから、残り時間を使いきるにはベスト。
そう判断して、今回は一切のヒントも相談権も与えずに完全な自力での思考と回答を行わせた。授業時間を示す砂時計が残り5分にまで減ったところでテスト終了。
答え合わせをしていき、エリクが89点、ララが92点、ロラが83点という成績。本人達には言っていないけど、成績反映させようと思っている。
今度、改めて本格的なテストを行って、その結果次第では講師見習いとしてアデライド学院長や、陛下にも推薦しておくとしよう。
「今までに教えた内容をしっかりとお復習しておくように。近々、成績に反映させるテストを行うからな。とりあえず座学のみ。ただし、今までに教えたことを全て出すつもりだから、対策をしっかりな」
「「「鬼畜過ぎるーーーーー!!!!」」」
クラスを出る時に3人が叫んだ内容は、他の講師と生徒達にも聞かれていて、講師陣から何があったのかを問われたよ。話したら講師陣からも「スパルタっていうレベルを超えていますよね」とのコメントをもらう事に。
アルフォンスが御者をする馬車に乗って、いつもよりも少しだけ急いで屋敷へと帰宅。飛び付いてきたヴォルフ達、モフモフ集団を気が済むまで撫で回しておいた。
その後、昼食を済ませてから、セリーヌなりの見解が入った失敗理由を聞き、完成させるべく行動を開始。第六騎士団の騎士達だけじゃなく、他の騎士団の騎士達も同僚の負傷を気にしているだろうしね。
次話を最終話とする事にしました。
いつもと同じ文字量か、それとも少し多いかは書き上げてみないと分かりません。




