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シャルトル家のタケル  作者: 七夕 アキラ
9章 臨時講師編(仮)
184/189

9ー11


 日本時間14時


 屋敷で昼食を済ませた後に、俺の元へ陛下から王城に来るようにという指示を伝えに使用人が来た。同行者はナナミとシャロン、護衛にアルフォンスとダルフ、イルフ。

 王女姉妹の専属メイドさんズは屋敷に残っている。何人かは同行したいと言ってきたけど、同行したのはシャロンの専属メイドのシルヴィだけ。


 王城に到着すると、出迎えの騎士やら使用人達やらがかなりの人数だった。一体どうしたんだろうと思いながら、陛下が待つという私室へと案内されたのは、身内扱いだからかもしれない。

 もしくは、俺を呼び出した時点で謁見の間は使えないと思っているのかも。もしくは、あまり聞かれたくない(たぐ)い話の可能性もあるか。


 そして陛下の私室へと案内されて、入室すると物凄く微妙な表情をした陛下と宰相にリックが待っていた。他には使用人が数人だけ。


「陛下、なにかあったのか?」


「お父様、また城内で毒物関係ですか?」


「お父様、王立魔法薬学院におけるタケル様に関する評価やお話などはありますか?」


「少し落ち着け。今日、タケルを城に呼んだのは聞きたい事があったからである」


「聞きたいこと?」


「うむ。この新聞は見たか?」


 渡されたのは俺が今朝読んでいたのと同じ物だ。


「これなら、薬学院で授業を始める前に読んでいたけど」


 俺が素直に答えると、陛下は21ページを開くように言ってきた。そのページに何が書かれているか、俺は知っている。しかし、どうして開かせたいのかが疑問だ。


「21ページっと」


 俺がページを開くと、そこには記憶にある通りの内容だった。赤竜によって帝国と皇国の騎士団に、かなりの被害が出たと書いてある。


「これがどうしたんだ?」


「タケル、赤竜を打ち負かした事があるのだったな」


「そうだな。とりあえず一方的に(ボコ)っておいたけど。それがなに?」


 陛下は完全にうつ向いて、宰相は顔を両手で覆う。リックは無言で無表情。


「お父様?どうかされまして?」


 質問を無視されたナナミが少しばかり冷ややかな視線を向ける。すると、その直後に陛下はビクっとした感じで、先に質問に答えた。


「城内でのトラブルは一切ない。だから、心配しなくて()いぞ」


「そうですか。それなら()かったです」


「うむ。それと学院からはタケルを臨時ではなく正規講師として招きたい。だから余にも説得を行えと学院長から手紙が来ておる」


「流石はタケル様です」


 シャロンの方へと視線を向けると、物凄く嬉しそうに、誇らしそうな表情をしていた。陛下に視線を戻して、俺は自分を呼んだ理由を聞き出しに掛かる。


「それで陛下。俺を呼ぶってことは、城内の重要人物が体調でも崩したのか?」


「違う。聞きたいのはこの記事の事でな」


 陛下が赤竜のページを指でトントンしながら、少しだけ眼光を鋭くして見てくる。


「タケル、赤竜を怒らせて向かわせたりはしておらんだろうな?」


 ナナミとシャロンが「そんな事をする人じゃない」と横から口を挟む。しかし、陛下から向けられる冷たい視線に黙り込んでしまった。


「安心していい。怒らせたりなんかしていない」


 そう。怒らせたりは。


「そうか。ならば――」


「怒らせてはいないけど、命令はした。帝国と皇国が進めている戦力増強は、同時にトゥーロンを攻めるための戦力かもしれない。

 もし敗北すれば帝国や皇国が我が儘したい放題。ナナミやシャロン、他の婚約者達にも危険が及ぶ可能性だって十分にある。だから、その戦力を排除するように命じた」


 陛下達は真っ青な顔になり、宰相は卒倒。


「「「さ、宰相閣下!お気を確かに!!」」」


 慌てて使用人達が宰相に声を掛けて、その身体を揺すったりして何とか意識を取り戻させようとする。


「宰相くん。俺が、いつ、寝ていいなどと言った」


 どんなに揺すぶられても反応しなかった宰相が、俺の直接聞いただけでも縮み上がるような冷たさを持った声によって一瞬で復活。


「はい!寝てなどいません!!気絶なんかしていません!!!」


 宰相が顔を真っ青にして、ガクガクブルブルと震えるもんだから皆「え!?」って顔をしている。


「それで陛下。赤竜の件に関して、なにか問題があるのか?」


「大いにな。赤竜連山はトゥーロン王国にある。だから、2か国から猛烈な非難があった」


「非難?」


「うむ。どうしてトゥーロンだけ被害がないのかとな」


「そうか。よし、今度は赤竜に国全体を燃やすように指示するか」


「待て待て待て!!余計な事をするでない!!」


 俺の過激発言に陛下が大慌てで止めてきた。


「なんでだ?ナンテールの第一皇子は、ナナミを寄越せと言ってくる。方々の女に手を出しておいて、この上まだだぞ。断ればナナミだけじゃなくて、俺の婚約者たちにまで魔の手が伸びる。

 権力を使ってやりたい放題になるぞ。それだったら、そんなバカが俺と正面切って争うことになったらどうなるか。身の程を弁えさせるだけだ」


 逆らってはいけない、敵対してはいけない相手。俺がそうだと理解させるには、最も手っ取り早い手段だ。


「そこまで言うならば止めはせん。しかし、両国の国民には被害を出さんようにしろ」


「陛下!?」


「父上!?」


 正気を疑うような視線を向けられて、陛下は仕方ないだろうとばかりに首を振る。俺としてはこれ以上、この話を続けるつもりはない。なので、別の話題に移らせてもらおう。


「それより陛下、シャロンを介して禁書庫にある最も古い薬草辞典みたいな物を頼んでいるんだけど。そっちはどうなっているんだ?」


「む?かなり探させたが、2冊程度しかない。それに禁書庫の本だ。そう簡単に外には出せぬ」


 こう言ってくるだろう事は、分かりきっていた。外に出せないなら、中で読ませてもらうのみ。


「なら陛下、禁書庫に案内してくれ。外に出せないなら、中で読ませてもらう」


「お父様、禁書庫にタケルを立ち入らせたくないのでしたら、わたしかシャロンの城内の私室に届けさせてください。そうすれば、禁書庫の外ではあっても城内です」


「お父様、タケル様は真剣に四肢を失った騎士達を日常生活に戻そうとされています。タケル様に突然の依頼をされる事も多いのですから、誠意をお見せください」


「……。()かろう。城内にあるナナミかシャロンの私室に届けさせる。ただし、無条件ではない」


 陛下の「無条件ではない」発言に、ナナミとシャロンがジト目を向ける。そこには、借りがばかりを作って全く返せそうにない父親への呆れと愛想を尽かしたよう感じが。


「そ、そのような目をするでない。過去の辞典の中には、他の薬草と混ぜ合わせるだけで、人命を容易に奪う事が出来る物もある。それを悪用せぬようにと言うだけだ」


 愛娘2人から向けられるジト目に、陛下はタジタジ状態。リックは特にコメントなし。しかし、俺に向ける視線には「後で時間を作ってくれ」と言う要求が含まれていた。




 日本時間14時55分


 城内にあるシャロンの私室で待つ事数十分。本が届くまで待っている間に、ダルフとイルフはすっかり寛いだ様子。それぞれの主人の膝上に頭を乗せて撫でられている。

 アルフォンスは護衛としてかなり神経を張っていたけど、シルヴィが淹れた紅茶を飲んで少しはリラックス状態へ移行。それでも、異変があればすぐに行動を起こせる状態なのは、雰囲気から何となく察する事が出来た。


 ノック音がしてアルフォンスが応対に出ると、やっと届けられた。俺が視線を向けると、アルフォンスが持ってきたのは本じゃなくて巻物。


(古すぎだろ)


 俺がそう思ったのは、かなり変色していてタイトルらしき文字を読み取るのも困難な程だったからだ。


「タケル様、100年から140年前の薬草に関してのみ書かれているそうです」


「俺が今知りたい薬草の時代としては、ちょうどいい頃だろ。全く問題ない」


 俺はアルフォンスから受け取った巻物を、早速調べる事にした。紐を()いて、シュルルルっと伸ばしながら目を通していく。


「これは地域別にまとめてあるのか」


 簡単な地図と一緒に、当時そこを治めていただろう人物の名前がある。俺はそれを流し読みしてから、欠損部分回復薬に使われた薬草名を探し出しに掛かる。

 長さ70メートルもある巻物をどんどん伸ばしては、隅々まで目を通して確認を行う。文字が読みにくくなっている場所もあったけど、2時間を掛けてようやく1つの薬草を見つけ出せた。


「セルゲン草、他の回復系の薬草と混ぜて使うことで、効果を大幅に高める、か。当時の場所はっと」


 俺が記憶している限りの国内地図と、古い地図を照らし合わせて重なりそうな領土を脳内確認。


「っあ。タルブ伯爵領の最北領土だな」


 記憶内の国内地図と、完全に当時の地図が重なった。俺はシルヴィに書く物を指示しようと顔を上げる。俺と視線があった彼女は、シャロンに許可を取り羽ペンとインク瓶。そして羊皮紙を持ってきてくれる。

 インク瓶の蓋を開けて、羽ペンの先を少し浸してからセルゲン草の名前と効果、生えていた場所をメモ。


(絵とか特徴がないから見つけるのは難しいだろうけど、解析(アナライズ)持ちを動かしてくれれば発見可能かもしれないな)


 タルブ伯爵には王子権限で探すように命じるとしよう。さて、次だ次。俺は残りの10メートルに目を通して行き、書かれていない事に落胆する羽目になった。

 それでも、すぐに思考を切り替えてもう1本の巻物へと視線を向ける。


(あっちには残りの種類がありますように)


 内心で神頼みをしてから、俺は1本目の紐を結び直して2本目を確かめる事にした。1本目よりも長くて、伸ばしてはすぐに丸めるの繰り返し。

 これを繰り返しながら目を通していくと、1メートル地点で発見。


「アーブ草、神経伝達を素早くする、か。これがどうして欠損部分回復薬に使われたのかは、また改めて考えるとして、とりあえずメモメモっと。加工方法は粉末にして服用なのか」


 アーブ草の名前と効果を書いて、ついでに地図も書き写す。今度のは残念ながら記憶になかったけど、バスティア伯爵か、ボーヴェ子爵に聞いてみよう。


(バスティア伯爵は薬屋を自分で開いているし、セリーのところのボーヴェ子爵なら薬草の事だから情報があるかもしれない)


 羊皮紙に書き写して、すぐに次の薬草を探しに掛かる。時間が掛かるかもしれないと思っていたけど、意外とすぐに発

見する事が出来た。


「テロル草、千切れ掛けた場所に、小鉢で擂り潰した時に出た草の水分をを掛けると瞬時に治せる、か。……え!? 昔はこんな薬草あったのかよ!?」


 考えもしなかった効果に驚いて、羽ペンを落としそうになった。慌てて掴んで巻物にインクが落ちるのを阻止。


「す、凄いわね。掛けた瞬間に治せるなんて」


「そ、そんな薬草があるなんて考えた事もありませんでしたね」


 ナナミとシャロンもかなり驚いているようだ。地図を見る感じだと、ほとんど当時の様子と変化していない場所に心当たりがある。


「この場所、イエール伯爵領だな」


 正確にはイエール伯爵領の極東地域。これはリュシーにも聞いてるかな。何か知っている可能性もある。また次の薬草を探し出し始めて、今度は64メートルくらいの場所で発見する。


「ミッティ草、欠損した四肢を密着させた状態で使うと、超速再生が始まるのか。加工方法は……記述なし。うむむむ、まだ現存しているなら回収したいところだな」


 地図を見ると俺の記憶が妙に刺激を受ける。


(今年以内に見たことのある場所だよな。確か……そうだ。バニョレ子爵領。市中心から離れた場所か)


 俺が覚えている景色の中には、薬草らしき物などなかったと思う。それでも地図が正確なら、帰宅した後にでも不死鳥に聞いてみよう。


「さてと、他にはいくつ記録が残っているか見つけないとな」


 最後の長さ97メートル地点で、ようやく使えそうな薬草があった。


「ローレン草、魔獣素材と合わせることによって、再生力を向上させる、ね。どんな魔獣かが書いていないな。それでもヒントにはなるか」


 地図にはリエヴァン公爵と書いてある。陛下から公爵に探し出すように命じさせて、少しでも手掛かりがないかを確かめないとな。


(そうだ。赤竜に灼熱土竜がまだ生息しているか直接聞くのを忘れていた)


「屋敷に戻ったら不死鳥に、確認させるとしよう」


 俺とアルフォンスは素早く巻物を丸めて紐を結び、それを陛下の元にシルヴィに運ばせた。しばらく、思考時間を取りながら、タルブ伯爵へと届けさせる手紙の内容を思考。

 イエール伯爵に念話(テレパス)を入れて、翼竜(ワイバーン)郵便を使わせてもらうか。そうすれば早く届くだろ。シルヴィが戻ってきたのを確認して、俺達は屋敷へと帰る事にした。




 日本時間20時


 屋敷の玄関前に翼竜(ワイバーン)に乗った人物が降りてきている。俺がイエール伯爵に念話(テレパス)で、翼竜(ワイバーン)郵便を使いたいと頼んだら、時間が遅くなっても派遣すると言ってくれていた。

 王都内は明かりに満ちているから安全飛行が出来るにしても、夜に空を飛ぶのは危険じゃないだろうか。もし夜でも飛ぶんじゃ大変だろう。


 そう思っただけで実際に言葉にはしない。彼らも仕事だから、ちゃんと自分達で配達速度や時間を調整していると思いたいのでね。


「回収に来るのが遅くなってしまってすみません」


「いやいや。暗いのによく飛んで来てくれた」


 乗り手はつい最近に成人したばかりの少年。見習い期間を終えて、一人前として認めてもらえたらしい。


「いえ。この時期は夜でも明るい方なので、問題ありません。ですが、これ以上は暗くなって危険ですので今日は受け取りだけになります」


「わかった」


 俺はタルブ伯爵とバニョレ子爵宛の手紙を持たせた。リエヴァン公爵の方には陛下から手紙が出される事になっている。なので、俺は自分が担当する2人の当主の分しか書いていない。


「確かに受け取りました。配達は明日の早朝から出発します。早ければ明日の夕方前には届けられると思います」


「わかった。それじゃ頼んだぞ」


 ちなみに普通ルピーの支払いは、翼竜(ワイバーン)郵便の支店などで荷物を出す時に同時だという。ただ、貴族や大商人相手は、無事に届け終わった証明としてイエール伯爵家から請求書が届く事になっているんだとか。


「それでは夜分に失礼しました」


 乗り手の少年は、郵便鞄に手紙を2通ともしっかりと入れてから一礼して翼竜(ワイバーン)に乗って飛んでいく。とは言え、明るさを考えるとイエール伯爵の屋敷に向かったはずだろう。

 俺は屋敷に入ってリビングへ直行。そこではセリーヌにしっかりと捕獲された状態の不死鳥がいた。


「赤竜から報告は?」


『ないよ〜。うぅ〜、最近の鳥類魔獣は見境なさすぎるよ〜』


「赤竜連山に飛んでいくだけならまだしも、勝手に他国の鳥類魔獣の縄張りに入るからだろうが」


『聞いてよ〜。ぼくはね〜、彼らに仲間を見ていない〜?って聞いただけなんだよ〜。それなのにさ〜、いきなり攻撃してくるなんて〜』


 どうして不死鳥がセリーヌに捕獲されているのか。それは実に単純だ。俺が赤竜に帝国と皇国の戦力を削いで来いと命じたのを聞いていたらしく、仲間の不死鳥を探すためとか言って、後を付いていったらしい。

 そして、赤竜が俺によってたん瘤3段重ねにされた八つ当たりの為に一暴れしている間、不死鳥は様々な鳥類魔獣に声を掛けていたそうだ。


 ところが、鳥類魔獣のほとんどは会話は愚か、種族間の言語らしきものもなかったと。不死鳥曰く、昔の鳥類魔獣は普通に対話が出来たとか。信じられん!!

 まぁ、それはともかくとして。赤竜が先に帰ってしまったのに気付かず、声を掛け続けた結果が大量の鳥類魔獣に襲われるという事態に発展。


 しつこい追撃を受けながらも何とか逃げ帰り、ちょうどフラフラと飛んでいたところをセリーヌが捕獲。そのまま連れ帰ってきたという訳です。


「あっそ。それで?成果は?」


『お、怒らないよね〜?』


「無断で屋敷を出たことに関しては、後でたっぷりとお説教だな」


『そ、そんなぁ〜』


「成果の方は?」


『何も〜、なしで〜す』


「はぁ。赤竜の方は?」


『灼熱土竜なら〜、今でも連山にいるって〜。ただし〜、かなり深くに巣を作っているから〜、あまり地上には出てこないってさ〜』


「ちょいと捕獲に行くか」


 ちなみにナナミとシャロン、リュシーにノエルの4人は一緒に入浴中です。大浴場みたいな感じに広いので、大人数でも入れる。こほん、それはともかく。


「俺の方は少しばかり、手掛かりを得た。本格的に欠損部分回復薬を作るのも、可能になるかもしれない」


 俺は王城の禁書庫にあった巻物から情報を得た事を話して、不死鳥にも覚えがあるか確認。残念ながら、どれも分からないとの返事。

 仕方ないので、情報が集まるまでは臨時講師に専念する事にした。

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