表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャルトル家のタケル  作者: 七夕 アキラ
9章 臨時講師編(仮)
185/189

9ー12


 日本時間9時 講師生活14日目 1限目


 禁書庫で欠損部分回復薬の手掛かりを入手してから、早くも5日が経過。タルブ伯から翼竜(ワイバーン)郵便で絶滅していたはずのセルゲン草が、山のように送られてきた。

 ただ、残りの薬草に関しては捜索中の状態。それとプレジール公爵に頼んで冒険者達に聞き取りを頼んだ“八頭白黒熊”の目撃情報と生息域情報はなし。


 もしも目撃か生息域に関する情報があれば銀ルピー1枚という好条件にも関わらず、これっぽっちも話がなかったという。なので、“八頭白黒熊”に関しては諦める事にした。

 ただし灼熱土竜に関しては直接、赤竜連山に出向いて地中深くに潜っていたのを赤竜の協力で呼び出す事に成功。全部で121体もいた。


 なので思い切って、その血と涙を回収させてもらいましたよ。血に関して大瓶に3つ分。涙に関しては、ちょうど眠っていた時だったようで苦労せずに回収が出来た。

 その量、何と2リットル。普通に考えると多すぎなんだけど、今回は事前情報も事前知識もない魔法薬(ポーション)作成だから足りないという事態は避けられるはず。


 それとセリーヌの実家であるボーヴェ子爵家からも昨晩、部分欠損回復薬の失敗レシピが届いた。失敗したレシピでも良いから、少しでも情報を蓄えておきたいところ。

 なので、俺としては非常にありがたい。まだ読めていないけど、持ってきてあるから2限目が始まる前にでも読もうと思う。


 それと、今日の1限目は実技テストだ。ただし、成績に直接関係するものじゃない。俺が個人的に用意した、少しばかり難しい魔法薬(ポーション)

 中級薬草と一部上級魔獣素材を用いた、普通に作るとなるとかなり難しい物。


「少し時間は早いけど、先に行って準備しておくかな」


 俺は職員室を出て実技室と向かう。この途中、他の講師の生徒達がチラチラと視線を向けてくるけど無視。完全に無視します。到着すると、既にエリク達の姿があった。


「シャルトル先生?」


「おはようございます」


「おはようございまーす。どうしたんですかー?」


「おはよう。1限目の準備に来た」


 俺は自分の影からこれからの実技テストで使う薬草と、下級竜の血が入った小薬瓶6本を取り出す。ちなみに鮮度保存の対策もばっちり。これらを机の上においてから、俺は黒板にテスト用の魔法薬(ポーション)に関して書く。

 どの材料をどう使うのか、加工や下処理に実際に作成する時の手順に注意事項などだ。特に混ぜ合わせる時における注意事項は入念に。それと中級竜の涙が入った小瓶もを机の上に用意する。


 書き終わると同時に、エリク達に道具を準備するようにと指示を出す。3人が準備を開始したのを確認してから、9個の10分砂時計を用意。

 黒板にどうして10分砂時計を使うのかの解説を詳細に書き直したところで授業開始の鐘が鳴った。


「出席確認は必要ないな。今回は急だけど、魔法薬(ポーション)作成テストを行う。成績には反映されないけど、魔法薬師を名乗りたいなら作れるようになっておくように」


 エリク達がゴクリと息を飲んで頷いたのを確認してから、俺は黒板に魔法薬(ポーション)名を書いた。“自然魔素変換魔力薬”と。


「これは自然に存在している魔素を体内に取り込んで魔力へと変換させる魔法薬(ポーション)だ。作り方も難しく、材料も揃いにくいから、あまり知られていない。

 しかし、これを作ることができれば、魔法薬師として名前を知られる大きな1歩になるだろう。心して作るように」


「「「はい!!!」」」


 俺が今回、3人の教え子に作らせるのは言った通りの物だ。このファンタジー世界において、普通に存在している魔力の源とも言えるもの。

 ただし人や動物、そして魔獣にも視認する事が出来ない。魔素は魔力の元でもあるけど、実際は人や動物などから自然放出されている魔力が、極端に薄くなっているだけに過ぎない。


 その薄くなっている魔素を体内へと吸収すると同時に、再び魔力に変換する事が可能な魔法薬(ポーション)を作るのが今日のテストだ。


「材料を取りにこい。1度失敗しても、再挑戦ができる量を確保してある」


 エリクとララは目をキラキラさせた状態で、ロラは成功させる気満々の表情で取りに来た。渡し終えたと同時に、俺は砂時計を3つずつ置いていく。

 厳密に時間厳守であり、同時平行での下処理が必要な工程が重なっているからだ。


「それでは各自、黒板内容を見ながら作業開始!」


 俺が言った直後、エリク達は一斉に黒板に視線を向ける。今回、2限目が座学なので書き写している余裕はないだろう。そこで、詳細説明を書いた紙を用意しておいた。

 自分の影の中から引っ張り出しながら、様子を見守ると3人とも素早く行動している。それでいながら、決して焦った感じもない。


 俺も見本用に作るべく、道具と材料を揃えて作業開始。まず最初に自然にある魔素を集める、ルーベン草の下処理から。細かい切れ目を入れて、便利魔法の乾燥(ドライ)で余計な水分を抜く。

 ちらりと視線を3人に向けてみる。すると、この便利魔法が使えないエリクは、風石を利用して水分を飛ばし始めたところだった。


(ララとロラの2人は順調そうだな)


 次に集めた魔素を体内で魔力変換させる事ができる、ベール草を火石で軽く炙る。熱を加える事で、変換速度を上昇させられる為だ。

 小鍋に水石から発生させた水を半分まで注ぎ、炙るのに使った物よりも、少し大きめの火石を用意。これに魔力を流して中火くらいに。


 そしてこの間に、魔力回復を促すニルカ草を千切りにしておく。このニルカ草は人間が持つ魔力回復速度を活発化させる成分が含まれているのです。

 ちなみに魔力の自然回復は個人差が激しく、枯渇寸前まで魔力を使っても1日経てば全回復している人物もいる。またたまにいるらしいけど、枯渇寸前から完全回復まで1ヶ月を要する人間もいるんだとか。


 最後の薬草は、体内の魔力循環を均一にして魔力暴走を防いでくれるユロング草。“自然魔素変換魔力薬”は服用から最短で6時間は効果がある。

 周囲の魔素を集め続けて、それを魔力へと変換する効果が。ただし、これには1つの危険性もある。人間が保有可能な魔力量は、完全に個人差だ。


 元々魔力の少ない人間が飲んだ場合、魔力を消費させずにいるとどんどん体内に溜まり続ける事に。分かりやすく言うと、風船に空気をずっと入れ続けている状態。

 風船は限界を超えてまで空気を入れると破裂するけど、人間は破裂しません。その代わりに魔力暴走が起きて命の危険に関わる事態に発展する事も。


 そうなるリスクを下げるのがユロング草なんですよ。おっと解説はこの辺にして、さっさと下処理と加工を終わらせないと。

 ユロング草は沸騰し始めた小鍋に入れて、しばらく煮続ける事で成分が抽出されます。ただし、これはこの成分抽出が終わる瞬間の見極めが重要。


 少しずつユロング草の色が薄れてくるんだけど、その代わりに鍋の中が草の色になってくる。草は成分が完全に抜けると水色になるんだけど、お湯の色はもう少し濃くなるので注意が必要。


(ちゃんと注意していれば、ここら辺までは問題なし。本当に厄介なのは下級竜の血と混ぜ合わせる時なんだよなぁ)


 ユロング草の色が完全に水色になったのを見て、用意していたトングで素早く取り出す。そして、火石への魔力供給を()め、千切りにしいておいたニルカ草を小鍋へ。

 ゆっくりと攪拌(かくはん)させて、ニルカ草が溶けるのを待機。完全に溶けると、ここで色は色の濃いエメラルドに。冷めるまでの時間待ち。


 下級竜の血を使う時までは時間は問題はない。なので、エリク達3人の進行状況を確認する事にした。エリクはちょうどユロング草を煮ているところ。

 ララは俺と同じで小鍋の熱が覚めるのを待っている状態にある。そして今は黒板内容に視線を向けて下級竜の血を混ぜる時の注意事項を読んでいるようだ。


 ロラは千切りにしたニルカ草を入れて、ゆっくりと攪拌(かくはん)させ始めた直後。進行速度に多少の差はあっても、今のところは順調な様子。

 エリクは風石でルーベン草を乾燥させている時間が掛かっているから、2人に比べて遅い。だけど、これは問題ないだろう。現時点で質問が出てこないのは、理解していると判断するべきか。


 俺はそう考えながら、小鍋に触って熱が取れているかを確認。


「次の工程に入るとするか」


 火で軽く炙っておいたベール草を小鉢で擂り潰して粉末状に。ルーベン草の切れ込みに粉末にしたベール草を少しずつ入れる。

 そうしたら、ユロング草とニルカ草の成分が溶け込んだエメラルド色の抽出水を、スポイトを使って上から一滴ずつ掛けていく。


 水分が浸透すると少しずつ4種類の薬草が混じった抽出水が垂れてくる。これを用意しておいた空の中瓶へと垂らしていき、後は下級竜の血と中級竜の涙を入れる段階にまで仕上げた。


「っあ!」


 不意に上がった声に視線を上げると、ロラの表情が失敗を物語っていた。ゆっくり攪拌(かくはん)させ続ける手を途中で止めてしまったようだ。


「ロラ、やり直しだ」


「うぅー、ここまでは順調だったのにー!」


 悔しそうに地団駄を踏んでいるけど、見なかった事にしよう。本番のやり直しが可能なテストでも失敗や地団駄なんか踏んでいたら、あっという間に失格だけどね。


「先生」


「あの、ちょっと()いですか?」


 ララが挙手して声を掛けてきた。


「黒板を見てもわからなかったか?」


「はい。その説明をお願いしたいんです」


「説明?」


「はい。どうして下級竜の血が先で、中級竜の涙が後なんでしょうか?」


 竜種の材料を使って魔法薬(ポーション)を作るのに、最も注意するべき点。あえて、書かなかったけどララは気になったようだ。これの質問をして来るという時点で、中堅の魔法薬師としてなら活躍が出来るだろう。


「いい質問だな。エリクとロラも作業しながらでいいから、聞いておけ。2限目でも説明を入れるから、聞き逃しても問題はない」


「聞きます」


「はーい」


 エリクとロラも小鍋から視線を外して、チラチラと俺の方を見てくる。


「竜種の血肉、涙はそれだけでもかなりの効果がある。主な理由としては、人間や他の魔獣よりも魔力を多く保有しているからだ。

 あまり知られていないけど、竜種の中でも特に魔力が多く含まれているのが血。血に含まれる魔力量は中級竜の涙よりもかなり多い。

 それだけに効果も強いけど、混ぜ合わせるのが実に厄介なのが問題なんだ」


「問題……ですか?」


「そうだ。いきなり強い魔力を含む血を、いきなり完成間近の魔法薬(ポーション)に混ぜた場合は、ほぼ100パーセント失敗する。

 完全に魔法薬(ポーション)と混じり合わないからだ。だから慎重に少しずつ混ぜる必要がある。これに対して涙はかなり早く溶け込みやすい。

 先にしっかりと血を混ぜ合わせた状態のところに、涙を入れる事で成分の異常化は起きにくい」


 俺は説明をしながら、4種類の薬草の抽出水に下級竜の血をスポイトで一滴ずつ入れていく。もちろん、しっかりと時間を置いて。


「最初から涙を入れても問題はないけど、後から混ぜた場合は混ざりにくい。先に涙に含まれる魔力が溶け込んでいるからだ。

 だけど、先に血を入れておけば魔力に妨げられることもなく、すぐに馴染む。だから、先に血を混ぜるんだ」


 説明を終えてから俺は1滴ずつ、慎重に入れていき解析(アナライズ)も使って完全に混ざったかを確認していく。そうして、また血を1滴垂らして解析(アナライズ)の繰り返し。

 そして仕上げに小薬瓶へと移してから、中級竜の涙を上から1滴ずつ落として10分砂時計をひっくり返す。


「さぁ、そろそろ俺の方は完成手前まで来た。エリクたちの方はどうだ?」


 俺は3人の進捗を見て回りながら、どこまで出来ているかを確認する。黒板にも書いてあるけど重要だからと注意点を改めて話ながら、完成まで気を抜かないようにと指示。

 そして、俺自身も自分が作っている“自然魔素変換魔力薬”の魔法薬(ポーション)状態を把握しながら、中級竜の涙を入れる作業を4回。やっと完成した。


 俺の次に完成したのがララで、エリク、ロラの順で無事に完成。そして3人が完成させた“自然魔素変換魔力薬”を解析(アナライズ)して品質チェック。


「全員、合格水準だ。俺が注意を促したことを抜いて考えても初めての魔法薬(ポーション)をいきなり完成させることができたのは誇っていいぞ」


「「「やったーーーーーーーーー!!!!!!」」」


 かなり嬉しかったようだ。何度も万歳しながら「やったー!」を繰り返す。普通に微笑ましい光景だ。ただし、今はまだ授業が終わっていない。


「静かにしろ。他のクラスはまだ授業中なんだ。さて全員が完成させたから、この“自然魔素変換魔力薬”を作る上での注意点と、飲ませたり、飲んだりする時の注意点を書いた紙を渡す。授業終了までにしっかりと読んでおくように」


 ついでに黒板に書いてある内容よりも、さらに詳細に書いてあるから書き写さなくて良いと付け加えておく。早速読もうとする3人に、使用した道具の手入れと片付けを行うように指示。

 俺も素早く道具を綺麗に洗う。特に下級竜の血が入っていた瓶は、水道水をしっかりと使って洗い、専用洗剤で綺麗にして終了。


 そして、ちょうどこのタイミングで授業終了の鐘が鳴り、俺は持ってきていたボーヴェ子爵家の欠損部分回復薬のレシピに目を通して2限目が始まるまでの時間を過ごすのだった。

端末異常でデータが消えてしまい、一から書き直しました。その影響で、いつもより短めになっています。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ