表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

16話『指令』

「お前の父親は、ほぼ半身が黒化している。だから恐らく、──事実上の半身不随となるだろうな。あの黒化をどうにかしない限り」


 呼吸が、止まる。

 半身、不随? それは、身体が半分動かないということか……?

 だが何故だ。俺の眼は見えるし、頭痛こそ起きるが能力も使える。なのになぜ親父の身体にはそんな支障が……!

 俺の左眼を触る動作で伝わったのか、安藤が口を開いた。


「身体が半分化け物のモノになっているんだぞ、動かないのは

 当たり前だ。むしろお前は運が良かったと言っていい。抑制注射のおかげか、眼が黒に染まっただけで済んでいるのだからな」


 本当のところはどうか分からんが、と漏らす安藤だが納得はできない。いや、納得できないんじゃなく、認めたくないだけか……。


「ちくしょうが……」


「……ひとまず、俺の住処に行くぞ」


 後ろを向いて風呂場から出ていき玄関口に向かう安藤の背を追う。


「親父はどうするんだ。行くのはいいが、あまり長居はできないぞ」


「心配はない。眼帯と頭痛薬を渡すだけだ。住処の場所の案内も兼ねてな。お前の父親もそんなにすぐ起きはしないだろう」


「ならいいが……」


 俺の返事を聞くが早いか、扉を開けてもう真っ暗な外へと足を踏み出す。幸い、見回りから帰ってきたままの格好だったので、そのまま俺も安藤の後へ続いた。




 家を出て、しばし無言で歩き続ける中ふと思い出したことを尋ねる。


「そういえば、お前と二度目会ったときのことなんだが」


「二度目? 二度目といえばお前が敵対心剥き出しで声を掛けてきたときのことか」


 それは妙に悪役っぽかったお前が悪い。口には出さないが。

 言葉数の少ない全身黒色の素性不明人なんざ敵と思って当たり前だ。というか敵というより不審者だろ。

 まあそれは置いといて。


「あの化け物はなんだったんだ? 俺はてっきりお前の後ろで待機してんのかと思ったんだけど」


「そんなわけあるか。あれは化け物に抑制注射を打っただけだ。化け物に注射を打てばしばらく固まるからな」


 なるほどな。あれは動かなかったんじゃなくて動けなかったわけだ。


「だが、なんでそんなことを? お前は普通に動いてる化け物でも仕留めてたじゃねぇか」


「化け物について調べるためにな。化け物は殺せば消えるが、生きてる化け物から剥いだ細胞なんかはそのまま残る。あのときはお前らのせいで採取の一つもできずに帰る羽目になったが」


「謝らんぞ、悪いのは黒幕っぽかったお前だ。そもそもお前が注射をしたときに説明の一つでもしてればこんなことにはなってねぇんだからな! あんときは別に夢宮、レボルスの奴と仲間だったわけでもねぇし」


「それについては深く詫びるしかない。だがあのときのお前が信じてくれるとも思わなくてな。下手をすれば敵だと認識されてしまうと考えた結果、あのときは注射を打って去ったのさ。まあ結果的には結局敵視されることになったが」


「詫びてねぇじゃねぇか」


 俺のその言葉は無視して、安藤は変わらない速度で歩いていく。疲れているからか付いていくのが精一杯の俺なんてお構いなしだ。

 と、そこで安藤が突然立ち止まり、真横の民家を指差す。

 その動作だけで、何を言わずとも何が言いたいか分かった。

 ここに来るまで約二十分。安藤が指差すあの赤茶色の民家こそが、間違いない。


「ようやく着いたか」


「ああ、ここが私の住処だ。これから幾度か来ることになるだろう。よく覚えておけ」


 どう見ても一般宅にしか見えない安藤の住処の玄関をくぐると、その中は、

 白、白、白。どこを見ても一面真っ白な一つの空間になっていた。具体的に言うのであれば、よく分からない機材や、鉄製であろう机もあるが、大体は真っ白な壁しか眼に入らない。なんでカーテンまでも白にしたのか……。


 住処の中に入り、開口一番の言葉は、


「ひっろ。広すぎんだろ。壁とかどこやったんだよ」


 壁、そう壁だ。本来あるであろう部屋を区切る壁なんかが何一つない。先程表現したように一階自体が一つの空間、一つの部屋になっているのだ。

 俺の疑問に、安藤はこう返答した。


「邪魔だから全部ぶち抜いた。幸い風呂なんかは二階にあるからな」


「意味分かんねぇよ……。邪魔でぶち抜く必要性を感じねぇ」


「部屋から部屋に移動するのは面倒だろう。それに、色々と実験するには広い部屋が必要だったんでな」


 実験なんてよく分からないことを言われれば、無関係な俺は黙るしかない。

 だがしかし。


「お前、一体何者なんだ。化け物やレボルスに対抗してる奴ってのは分かるが。研究者とかそんなやつか?」


「俺の素性など別に問題ではないだろう。お前の用は眼帯と頭痛薬のはずだ」


 さらりとはぐらかし、机の方に向かっていく。その後ろに付いていくと、安藤は机の横に置いてあった大きめの鞄から頭痛薬と白い眼帯を取り出した。

 頭痛薬はいいにしてもなんで眼帯なんて非日常的なものが、そんな簡単に取り出せるんだ……?


 湧いた疑問を飲み込んで、差し出されたその二つをありがたく受け取る。眼帯も普通の薬局に売ってるタイプの白いやつだから付けてても言い訳に困らなさそうだ。

 頭痛薬については今は一回分しかないらしく、明日には用意しておくとのことだ。この一回分は能力を使うとき、つまりは明日の見回り前に飲んでおくのがいいか。


「んで、これだけか? だったらもう帰るが」


 親父も心配だしな。

 安藤は首を横に振る。


「まだだ。俺達の目的とお前に課す指令を言っておく」


「方針はいいが指令ってなんだよ。もう俺が部下みたいになってんぞ。違うからな」


「まあ黙って聞け。とにかく、俺達の目的は化け物を生み出した者、つまりは能力を人類に与えた者を見つけ出し、話を聞くことだ。これは分かるな?」


 机の引き出しからノートを取り出し椅子に座る安藤。そしてノートに犯人と書いてそれを丸で囲んだ。


「話を聞くというか、皆を化け物にしないための方法を聞くんだろ?」


「ああ。それで、この犯人の候補は今のところレボルスのトップが怪しいと思っている」


 犯人という文字の下に書かれた、レボルストップの文字が犯人に線で繋がれる。


「そういえば、怪しいと思ってるならなんで聞きに行かないんだ? まあ馬鹿正直に答えるとは思わねぇが、それでも反応である程度は分かるだろ」


「それが出来たら苦労しないんだがな。色々とある些細な問題は置いておくにしても、無視できないほど大きな問題が一つ」


 顎に手を当て神妙な顔をする安藤へ、静かに尋ねる。


「……それは何だ?」


「単純に組織の住所が分からん」


 ……開いた口が塞がらないとはこのことだ。

 相手が能力者を全力でぶつけてくるから戦力が足りないとかそういう話かと思ったら、まさか住所が分からないからどうしようもない等と小学生みたいなことを言い出すとは。


「調べろ、馬鹿か。このネット社会で調べられないことなんてあるかよ」


「私を馬鹿にし過ぎだ。それぐらいとっくにやってるに決まっているだろう。……秘匿されているんだよ、奴らの本拠地は」


 そんな馬鹿な。結成時にはテレビにまで映っていたような組織の住所が不明なわけ、とスマホに指を走らせるが確かに何も情報は出てこなかった。


「出ないだろう? だからそれを知る必要がある。じゃあ質問だ。目的地が分からず場所を知りたいがネットは使えない。その状況で目的地に辿り着くためには何をする?」


 つまりはネットなしで迷子になったときの対処法ということか?

 そんなもの、一つしかない。


「知ってる人に尋ねるしかねぇだろ」


 安藤はここで初めて口元に笑みを浮かべ頷いた。


「正解だ。じゃあ身近でレボルスについて知ってる人といえば?」


 瞬時に思い至った問題の唯一解、それは俺のよく知っている同級生のあいつ。


「おいおい、お前まさか指令って……」


「そのまさかだよ。まあ直接聞けと言っているわけではない。恐らく口を開かないだろうからな。しかし資料ならどうだ? 本拠地の住所なんかが載っている資料、そんなものを持っているとしたらわざわざ聞くまでもない」


「盗ってこいってことかよ……!」


 レボルスの下に夢宮という文字が書かれ、夢宮からレボルスに向かった矢印が書き足された。


「確か夢宮と言ったな。あの小娘の家から資料を盗ってこい。これはお前にしかできないことで、これができたとしたら目的へ辿り着くのは秒読みだ」


 ノートには更に俺の名前が付け足された。

 しかし簡単に言ってくれるな。夢宮の気難しい性格からして、少しでも察された瞬間蜂の巣になるのは間違いない。

 その上これは、いやこいつと手を組んだ時点でそうなのだが、夢宮への充分な裏切り行為だ。


 眼を閉じる。ゆっくり、ゆっくりと、自分が何を優先すべきかを考え、そして。

 一つの答えを出した。


「成功の確約はできねぇ。だが挑戦はしてみる。……これでいいか?」


「ああ。代わりと言ってはなんだが、お前の父親のことは任せろ。それに充分な支援も送る。あの身体が治らない限り働けないだろうからな」


「それはマジで助かる。すまん」


 少しだけ頭を下げ、安藤に礼を言う。するとペンの走る音が聞こえてきた。

 顔を上げるとノートには、今まで書かれた全ての上へ重ねるように俺の名前がでかでかと書かれている。


「礼には及ばん。全ての鍵はお前なのだからな。そのお前の心配事を減らせるのだとしたら安いものだ」


「その期待に応えられるかは分かんねぇけどな……」


「構わん。可能性が少しでもあるなら、それだけで今までとは違う話になるのだからな。それより、そろそろ帰った方がいいのではないか? お前の家を出てからそろそろ四十分は経つが」


 安藤の言葉にハッとなりスマホを取り出すと、確かに四十分ほど経過していた。親父がいつ起きるか分からないが、あまり長く家を空けておきたくはない。

 帰りの時間も合わせて一時間。今帰るのがちょうどいい塩梅だろう。


「じゃあ、帰らせてもらうぞ。色々とありがとよ」


「ああ。眼帯は付けて帰れよ。夜だからそうそう気付かれないとは思うが」


「おう」


 左眼を隠すよう眼帯を付け、安藤の家から外へ。

 今更になって感じてきた安藤からの期待の重みと親父への心配を誤魔化すように、夜の路地を駆け抜け自宅を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ