呪い
「……嘘…」
こんな山奥の森の中で…置き去りにされた?
で、でも、すぐ戻るって行ってたし…
あ、そうだ。
ミランダ様が戻るまでに、薬草を沢山見つけてビックリさせよう。
戻って…来るよね⁉︎
少し不安になりながらも、私はミランダ様を信じて、
薬草探しを始める事にした。
* * * * * * *
「お嬢様…」
「大丈夫よ…少し、頭を冷やして貰うだけだから…
少ししたら迎えに行くわ」
「で、ですが…ご令嬢をあんな山の中に一人きりにするなど…
何かあったら…それに、天気も悪くなってきましたし…」
「大丈夫だと言ったでしょう?
あんな見通しのいい草原なんて、獣はおろか、盗賊もいないわ!
もう黙ってちょうだい!」
「は、はい…」
「適当にその辺を回れと御者に伝えて」
「畏まり…ました」
大丈夫よ…これくらいの意地悪。
一人きりで寂しい思いをして、少し怖い目にあって、
自分がどんなに、あの双子の兄弟に酷い事をしているか、
思い知るがいいわ。
あんな…純真無垢な可愛い顔をして、内面は全然違ったのだわ。
リアム様を…あの美しい双子を天秤にかけているなんて…
なんという図々しさと傲慢さなのかしら。
* * * * * * *
「……………」
今、ボルドー侯爵家の馬車が戻ってきたが、
その中にライラックの姿はなかった。
そして、どこを目指しているのか、ぐるぐると街を回っているのだ。
すれ違った、ボルドー侯爵家の馬車を見送り、ルイスは嫌な予感がしていた。
ボルドー侯爵令嬢は、以前令息に絡まれている所をリアムに助けられ、
どうやら懸想しているらしいと噂されている。
同僚にリアムはボルドー侯爵令嬢と付き合っているのかと聞かれる程に。
学院内で、親しげに声を掛けた所を多数の子息と令嬢に目撃されている。
ライラックと親しくし始めたのも、リアムに礼の品を彼女が手渡した頃から。
…念のため見に行ってみよう。何もなければそれでいい。
確か、この道は1本道のはずだ。
馬を借りに、魔術師団に一旦帰ろうと、
ルイスは薬草の買い出しを中断して、足早に引き返した。
* * * * * * *
全然…見当たらない。
本当に、ここが薬草の群生地なのかしら。
私は一度立ち上がり、腰をトントンした。
周りを見渡すも、馬車は戻ってきていない。
どうしよう…どんどん空が暗くなる…
ポツ、ポツッ……ポツッ…ザアアアアアア────…‥
「あ、雨っ?…嘘っ、やだっ。と、とりあえず、木の下へっ…」
ゴオオオオオオオォォ────ッ…
風が強くなり、雨も本降りになって来た。
大きな木の下へ急いで逃げ込み、立ち尽くす。
「ミランダ様…遅いなぁ…何やってるんだろう」
空を見上げて、左腕の腕輪を縋るように触る。
あ、腕輪無いんだった。
…やっぱり預けるんじゃなかった。
私ったら、友達でいたいからって、
どうしてミランダ様の言うことを聞いてしまったのかしら。
馬鹿だなぁ…大事な腕輪なのに。
同性の友人なんて初めてで…どうしたらいいか、分からないんだわ。
でも…自分らしくいられない、相手の機嫌を取る関係は嫌だ。
だから、少し考えた方がいいかもしれない…
それに、あの “尻尾” の動きと、一瞬の冷たい目。
もしかして…嫌われちゃったのかな…
やっぱりリアムお兄様に近づく為に…利用されちゃったのかもしれない。
女同士で仲良くするのって、特に高位貴族令嬢は難しいって、
お母様も言ってたし…私、少し浮かれすぎていたかもしれない。
少し、涙がでそうになり空を仰ぎ見る。
体がブルリと震え、両手で肩を抱く。
…やっぱり怖い。
どうして、こんなに不安になるんだろう。
暗い…空…
ああ…嫌だ。
あの暗い雲が…広がってくる…
葉擦れの音がして…風が強くて…
嫌、嫌……怖い……また、何か思い出しそう…
ああ、そうだわ‥‥
雨が殴りつけるように降っていて、
葉擦れの音が煩くて、窓がガタガタ揺れていて、
赤い瞳が…私を見ていた。
────だめよ。思い出しては駄目
悲鳴を上げた私をお母様が…私を強く抱きしめて、
何か言い争っていて………
赤い瞳の大きな影は、咆哮をあげて激昂する。
────ライラック、考えては駄目よ
大きな影が…お母様を……
────これは夢よ、ただの怖い夢
血…が……お母、様が……悲鳴、が……
身体中が総毛立ち、
震える両手で頭を押さえ、目を見開いた。
──── 忘 れ る の
「…あっ、…あああっ!
きゃあああぁっ‼︎ ……いやあ、あああぁぁっ、いやぁ────‼︎
お母様っ、お母様ああああぁぁ───っ‼︎」
──── 私 の せ い だ
お母様は、病気じゃなかった。
私を庇って、
“精霊の呪い” を受けたのだ。
暗い雲を広げた空の下。
ライラックの悲痛な叫びは、豪雨の音にかき消され、
誰の耳にも届かない────。




