楽しいランチ
「うわ~、今日も美味しそうです」
「食堂は慣れたかしら?」
「はい、温かい食事っていいですね」
「ふふっ、ではいただきましょう」
ミランダ様と一緒に、憧れの食堂でのランチも、もう何度目だろうか。
ランチはセットで3種類あり、私はオムレツセットを頂き、
ミランダ様はビーフシチューセットだった。
パンとサラダも付いて、私は温かくて美味しい学食に毎回大感激した。
私とミランダ様の組み合わせが珍しいのか、
いつも周りの人たちの視線が突き刺すように集まり、少し居た堪れなかった。
しかも、食事中にミランダ様は、高位貴族のご子息やご令嬢に声を掛けられ、
その度に私を丁寧に紹介してくれた。
な、何か落ち着かないけど…皆さん穏やかに挨拶をしてくれたし…
凄いなぁ…ミランダ様、ちゃんと貴族同士の横の繋がりもあるんだ。
「ごめんなさいね。落ち着かないわね」
「い、いいえ。大丈夫です」
周りの目線に晒されながら、ヒソヒソ声が微かに聞こえてくる。
特にご令息方は、ミランダ様をじっと見ている人が多い。
やっぱり美人だから…人目を引くのだろう。
「なあ、あそこだけ…すげー美しい眺めなんだが…」
「あの二人いつ親しくなったんだ?」
「お二人とも素敵…」
「ねえ、見て。可愛いと美しさが、融合していますわ」
「おい、お前話しかけてみろよ」
「俺はガーディア伯爵令嬢のが好みだなぁ」
「はあ?ボルドー侯爵令嬢だろ?」
「ミランダ様、今日もお美しい…」
ああ、やっぱり落ち着かない…
ちゃんと淑女マナーを思い出して綺麗に食事しなくては。
気にし始めたら、ぎこちなくなってしまう。
せっかく、オムレツ美味しいのに…
「デザートのアップルパイも追加で取ってあるから、食べましょう」
「わあ、嬉しいです。私、これ大好きなんです」
「ふふっ、…そういえば、今日だったかしら。卒業資格試験」
「はい、放課後に別館で試験です」
「応援してるわ。頑張ってね、きっとライラックさんなら大丈夫よ」
「はいっ、ありがとうございます」
そうだ、今日は大事な試験なのだ。
頑張らなければ。
私はしっかりランチを平げ、大好きなアップルパイも食べて、
放課後に備えた。
あ、そういえばリアムお兄様にお礼の品を渡したのを
言い損ねてしまった。
* * * * * * *
「リアム様?」
「……ああ、こんにちは、お嬢様」
「また、お会い出来て光栄ですわ。お仕事ですの?
それともライラックさんに会いに?」
貴族学院に通っている、第三王子の忘れ物を届けるよう言われ、
教諭に手渡し廊下を歩いていた所を令嬢に呼び止められた。
どっかで見たことあると思ったら…ボルドー侯爵令嬢か。
男に絡まれていた、美人さんだ。
確か、ライラックちゃんと友達になったんだっけ。
まさか…俺に近づくために、利用してないよな?
「仕事です。もう済んだので帰ります。
ああ、素敵な青い革の手袋、ありがとうございました。
ライラックちゃんから、受け取りました」
「まあ彼女、渡してくれたのですね。良かったです」
俺は微笑みながら、嬉しそうに頬を染める令嬢を冷めた目で見ていた。
ああ、これは完全に俺に興味があるわ。
この間の男爵令嬢といい…こいつら、この顔好きだよなぁ。
“あいつ” の顔が。
「授業は大丈夫ですか?移動中なのでは?」
「はい、もう終わりました。手袋使ってくださいね。
お仕事でも使いやすい、デザインと色を選びましたの」
「いやあ、素敵すぎて使うの勿体無くて…」
「いえ、是非使ってくださいな。革は使えば使うほど、
使い心地が良くなりますのよ」
あー、上物だから質屋にでも売ろうと思ってたのに…
しかも、大きなお世話で内側にイニシャル入ってんだよな。
「そうですね。使わせていただきます」
「あの…今度、“冬至祭” がありますよね?」
「ええ。その祭りで、俺は警備担当で仕事なんです」
「そう、なのですね…大変ですわね」
「お嬢様は、参加するのですか?」
「いえ、まだ決めていませんわ」
「ライラックちゃんは、ルイスと行くようですがね」
「え…?」
「俺の双子の兄です」
「まあ、そうなのですね…ああ、魔術師団にご所属でしたわね」
「ええ、あいつは…魔力量が多いから」
「でも、リアム様は努力して騎士になられたんでしょう?
ご立派ですわ。尊敬いたします」
「ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です」
俺の───何を知っている?
当たり障りのない社交辞令と、空っぽな偽善だらけの言葉と会話。
ああ、もう、うんざりだ。早く切り上げて帰ろう。
「あ、あのっ…お暇な時でいいのです。
時間がある時に…会っていただけませんか?」
「…それって、個人的にデートしてくれってことですか?」
「…はっ、……はいっ。リアム様の事を知りたいのです。
もし、婚約者や恋人がいらっしゃるのなら…身を引きますわ」
「………………」
「ご迷惑…でしょうか?」
あ─────…‥面倒臭いな。
こんなに食い下がってくるとは思わなかった。
そうだ。
ライラックちゃんを利用するか。
「あ~、…ほら、ライラックちゃんって義理の妹じゃないですか」
「え?ええ」
「彼女は婿を取って、伯爵家の後継になる予定なんです」
「はい、彼女もそう言っておりました…」
「で、その婿っていうのが…俺か兄が婿候補っというか…
どちらかが選ばれる予定なんです。まだ決まってませんけど」
「…は?…」
「彼女次第なんです。
俺達の母親は所詮後妻なので、向こうに主導権があるんですよ。
だから、それが決定するまで、他の人と付き合う訳にはいかないんです。
ライラックちゃんの機嫌を損ねると、追い出されかねないので…」
「そう…なんですの?
そんな事…彼女一言も言っていませんでしたわ…」
「外聞悪いでしょう?一応義理とはいえ、兄妹ですし…
これ内密なんです。他言無用でお願いします」
「はい……では、ライラックさんが、もしリアム様を選んだら…」
「まあ、そう言う事になりますね」
「リアム様は、それで…いいんですの?」
「仕方ないです。俺たちは選択できる立場じゃありませんので。
そういう事情で…大変光栄なお誘いなんですが、申し訳ありません」
「………そう、ですの…」
ボルドー侯爵令嬢は、目を見開き、口を固く閉じて、
両腕で抱えていた教科書を強く握りしめた。
* * * * * * *
「では、時間は60分。試験、初めっ」
「はいっ」
ルイスお兄様から貰った、
カバンに付けたお守りを一瞥して、テスト用紙に目を移す。
昨日の夜、寝ようとしたら、部屋のドアがノックされたのだ。
「は、はいっ。どなた?」
「夜遅くにごめん、ルイスだ」
「えっ、ルイスお兄様?ち、ちょっとお待ちになって!」
な、何かしら?
上着を羽織って足早にドアを開ける。
そして彼は、黙って何かを差し出した。
掌には、小さなアメシストのキーホルダーがあった。
私の瞳と同じ…ピンクががった美しい紫。
「これ、お守り。…その、気休め程度だけど。
落ち着きや、直感力、不安の暖和に効果がある水晶で、
試験に効果があるように、ライラックにと思って…」
「これを…私に?」
「うん。カバンに付けて欲しい」
あら、ルイスお兄様ったら、
緊張して “尻尾” がピーンとしてプルプルしてらっしゃるわ…
「本当に、ただの気休めだけどね」
「いいえ、心強いです!ありがとうございます‼︎
ルイスお兄様!私頑張りますわ」
単位取得の試験は、順調に進んでいた。
猛勉強の成果でスラスラ解けたし、自分自身でもテストは上手くいったと思う。
テスト用紙を渡した教員も、ざっと目を通し、大丈夫だろうと言ってくれて、
あとは卒業資格取得証書を貰えば、私の貴族学院通いは終わる。
最近ミランダ様と仲良くなって、少し学院生活が楽しくなったけど、
それ以外は相変わらずだし、やはり早く領地経営と管理を学びたいわ。
お父様やミュレルお母様、ルイスお兄様にいい報告が出来そう。
あ、ついでにリアムお兄様にも。




