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【完結済】銀の光、金の闇 ~双子の兄と私の秘密~  作者: 米野雪子


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3/19

嵐の夜




同居してから、1ケ月が経った。


私は、お忙しいお父様の代わりに、

ミュレル様とお兄様達で、朝食と夕食はご一緒するようになり、

話す機会と仲良くなれる時間を沢山作った。


ミュレル様の “尻尾” は、いつも表情と連動して動き、

ルイスお兄様は、無表情でも “尻尾” はブンブン動く。

でも、リアムお兄様の “尻尾” は相変わらず無反応だった。

何度かお茶会もしたが、表情と反して不動の “尻尾” は変わらなかった。


そして、お父様に貴族学院の単位を取得して、

在宅学習への移行の了解も貰った。既に学院にも申請済みだ。

それに向けて授業後の放課後に図書館で猛勉強をしつつ、ふと時計を見ると、

そろそろ商会でバイトの時間。

今日は、装飾用の花束が沢山あって、それに保存魔法をかけるのだ。


机の上の教科書とノートを片付けていると、誰かが向かい側に座った。

顔を上げると、満面の笑みのエスタ・デイジー男爵令嬢。



「うふふっ、やっと見つけたぁ」


「……あの、何か?私もう帰りますの」


「え?あれれ?忘れちゃった?リアム様紹介してって言ったじゃん。

 もう1ヶ月も経ったけど。あなたナカナカ捕まらないんだもの」


「考えておきますと言っだけですわ。リアムお兄様もお忙しいですし」


「え~、酷くない?同じ邸に住んでるんだよね?

 いつでも言えるでしょ?」


「その前にお聞きしたいのですが、

 なぜ、あなたの要求を私が叶えなくてはいけないんですの?」


「え~と、私は前からリアム様と知り合いになりたかったしぃ、

 ちょうど義理の妹が同期生で、近くにいるのを利用したって感じ?

 それに、知り合いは居ればいるほど、貴族の世界では有利なんでしょ?」


「貴族間は、特に上位貴族は派閥がありますのよ?

 誰も彼もに声をかけるのは、お辞めになった方がいいですわ。

 それに、あなたの顔と氏名は知っていますが、クラスは別ですし、

 私にとって、その程度の存在で、友人でもないただの顔見知りです。

 そこまでする義理はありませんわ」


「何それ、面倒臭い。そんなしがらみ関係なく、

 みんな仲良くすればいいじゃない。

 ん~じゃあ、私と友人になってよ!それならいいでしょ?」


「お断りします。自分本位ですし、動機が不純ですわ。

 私にも友人は選ぶ権利がございますもの」


「え?ちょっと、あんまり難しい遠回しな言い方しないでくれる?

 良く分かんないんだけど…」


「とにかく、リアムお兄様の紹介も、友人の件もお断りします。

 もう迎えの馬車が来ますので、失礼しますわ。ご機嫌よう」



図書館で大きな声で話す、デイジー男爵令嬢から素早く離れた。

ベラの言う通り、しつこい令嬢だ。

いつも “尻尾” が激しくバッタンバッタンして目障りだし。


自分は取り巻きを侍らせているのに、リアムお兄様までなんて…

どれだけ節操無しなのかしら。

周囲に親しいと思われたくないから、あまり近づいて欲しくないわ。




* * * * * * *




「綺麗な花束が沢山ですわ」


「今日は少し多いのですが、お願いできますか?」


「ええ、勿論です。何か催しですか?」


「はい。隣町のバラ祭りの装飾で使うそうです」


「そうなんですね。ふふっ、お花大好きなので楽しい作業になりそうです」



商会へバイトに来ると、事務所の中がバラで一杯の花畑になっていた。

今日はこれに保存魔法をかけるのだ。

このバイトでは花と食材の保存が多く、そのお陰で、

沢山の食材と花の名前を覚えられて勉強にもなる。

そして、私はこれがきっかけで、花や植物が好きになったのだ。


一つ一つに保存魔法を施して、終わったものから隣の事務所に並べていった。

少し香りが強いけど、バラって完璧なフォルムで本当に美しい。

色香漂う、花の女王って感じ。

こんな妖艶な女性になってみたいけど、私は所詮ライラックなのだ。

ライラックも可愛くて好きだけど…やっぱりバラのような女性は憧れるわ。



「お嬢様、そろそろ暗くなります。それに、雨が降りそうです」


「あら本当?じゃあ、急ぐわね」



なんとか今日のノルマをこなし、残りは明日にすることにした。

商会から出ると、低く広がる圧迫感のある暗い雲が空を覆っている。

私は、あの暗い空間を見て、背中がゾクリとした。




* * * * * * *




風が強くなり始めた中を走る、馬車の窓から空を見上げる。


時々、何も見えない暗闇と、

風に激しく吹かれる葉擦れの音が怖くなる。

私は、これが子供の頃から苦手だった。


これは、なんなのだろう…


だから私は、いつも嵐の夜は酷く恐ろしく感じて、

密かに震えながら大泣きしていた。


左手首の腕輪をそっと撫でる。

エリザベスお母様から、怖くならないお守りだと貰った物だ。

小さな赤い魔石がポツンと埋め込まれた、銀のシンプルな腕輪。



「風が強くなってきたわ。今夜は、嵐になりそうね…」


「はい、御者に急がせます」



ポツッ…ポツッポツ…タンタンタンッ………ザァ────…



雨が…降り出してきてしまった。

ああ、苦手だわ。この暗闇。



ゴロゴロゴロゴロ…‥ カッ!ピシャ───────ンッ‼︎



「きゃあああっ!」


「お嬢様、大丈夫です!ただの雷です。御者、急いで!」



ベラは私の手を握り、馬車の窓のカーテンを閉めた。

馬車は益々速度を上げ、風に押されながらゴトゴト激しく揺れる。


心臓が早鐘を打ち、私は手で耳を塞ぎながら家路を急いだ。




* * * * * * *




「あれー、今日遅いんだね。ライラックちゃん」



玄関ホールに駆け込むと、リアムお兄様が立っていた。

彼も帰ったばかりなのだろう。ローブを脱いで、それをメイドに渡している。



「ただいま帰りました。今日は商会にバイトだったんです」


「ああ、そっか。保存魔法でバイトしてるって言ってたっけ。

 貴族令嬢なのに働き者だね」


「リアムお兄様も、帰ったばかりですか?」


「うん、そう。あれ?どうしたの?震えてるね。大丈夫?

 雨に濡れちゃって寒かった?」


「い、いいえ。これは…何でもありませんっ。ご心配なく」


「お嬢様、早くお部屋で着替えましょう。

 少し濡れてしまいましたし、風邪を引いてしまいます」


「あ~もしかして、雷怖い?ご令嬢ってそういう子多いよね?」


「……ええ、…そんな所です」


「ふ~ん?」




パタリ。


え……?


リアムお兄様の “尻尾” が、初めて 揺 れ た。


まるで、何か面白い物を見つけて、


喜んでいるように。






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