尻尾の秘密
※初回投稿で最終話だけ、駆け足気味に書いてしまい、短調でつまらない文章になってしまいました。現在は、大分追記して書き直し済みです。ご迷惑おかけしました。
“精霊騒動”が終わり、私は、その後何事もなく平和に過ごしていた。
実技試験も終えて無事に貴族学院も卒業した。
お父様は、まだ伯爵家の当主ではあるが、
相変わらず王宮の財務省務めが忙しく、今は私がほとんどの伯爵家の
公務と執務と領地経営・管理を後継ぎとして、頑張ってこなしている。
その傍ら、保存魔法と付与を生かして、今でも時々商会と懇意にし、
ちょっとした収入源にしているのだ。
そして私は、ボルドー侯爵令嬢のミランダ様からの謝罪を受け入れた。
でも、前と変わらずに、彼女と友人関係を続けることは出来なかった。
私がショックを受けないようにと、ルイスお兄様とリアムお兄様は、
置き去りにされた件の詳細を私に、あえて何度も説明しなかった。
私も馬車の中では、意識が朦朧としていたし、全て聞いていた訳ではない。
お兄様達の残酷な生い立ち以外の話は、正直よく覚えていなかった。
その後、私が忘れていた記憶が戻ったり、精霊騒動などで、
大変な騒ぎになったから、それどころじゃなかった、とういうのが現状だ。
改めてミランダ様の口から語られた理由と謝罪に、私は虚しさを覚えた。
リアムお兄様の嘘の断り文句を間に受けて、私に嫉妬し、
わざと一人きりにして怖がらせ、少し意地悪するつもりだったと、
申し訳なさそうに告白してくれた。
勿論、私はリアムお兄様に特別な感情はない。むしろ苦手だ。
彼女は、私の社交辞令の曖昧な返事も真面に受け取ってしまい、
私が許せなかったそうだ。
私が大事にしていたお守りの腕輪を取り上げたのも、同じ理由だった。
あの時は、短略的で深く物事を考えられず、どうかしていたと。
そして、時間を置いてに迎えに行くつもりだったのに、馬車の車輪が壊れ、
あんな事になって、本当に申し訳なかったと謝罪された。
私は、それを聞いて、何とも言えない気分になった。
エリザベスお母様が、言っていた通りだったからだ。
“令嬢達は、好意を寄せた男性の為なら何でもするのよ。
平気で笑顔で裏切るし、迷わず足を引っ張って、残酷に突き落とすし、
貴族同士で同性の親友を作るのは、本当に難しいの。
もし裏切られたら、自分が悪かったとか、自分のせいだとか思わなくていいわ。
相手の制御できない、恋心の暴走に巻き込まれただけなの。
恋愛というものは、女性の生存本能が強くなりすぎて、なりふり構わず、
攻撃的になり、思考と感情をおかしくするの。
だから、あまり傷ついては駄目よ。
それでも仲良くしたいと思うのなら、止めないけれど、
でも、自分にとって許容できない、酷いことをされたら離れた方がいい。
一度許してしまうと、あなたの立場は下になる。また同じ扱いをされるわ”
間違いなく…ミランダ様は私を下に見ている。
高位貴族社会というのは、本音と建前を使い分けて相手を欺いて、
自分が優位に立つ。そういう世界。
所詮、私とは合わない世界の方なのだ…
一番悪いのは、リアムお兄様のくだらない虚言なのだけど。
虚言の件で、ルイスお兄様にも後頭部思いっきり叩かれてたし…
でも、友人だと思っていたのなら、本当なのか私に直接確かめて欲しかった。
そして今現在は、お互いの近況を知らせる程度の手紙のやり取りをする
距離感を保って、知り合い程度の関係になっている。
ミランダ様は時々お茶会に誘ってくれるが、私は行くつもりは無かった。
でも、招待状を偶然発見したルイスお兄様が、顔は平静を装っているけど、
“尻尾” が信じられないほどの、荒ぶった動きをして千切れるんじゃないかと
ハラハラしたし、気が気じゃなかったので、やめておいた方がいいだろう。
彼は、私が倒れている所を見つけて救出しているから、他人事ではないし、
口では言わないけど、ミランダ様が好きではないようだった。
すっかり浮ついた恋心から目が覚めたミランダ様は、
リアムお兄様への想いはもう無くなり、自分への戒めのつもりなのか、
慈善活動を積極的にしていると、手紙に書いてあった。
そして、既に政略結婚が決まっており、公爵家に嫁ぐ予定だそうだ。
デイジー男爵令嬢のエスタ様は、相変わらず奔放にしている。
取り巻き貴族令息達の援助で、様々な国へ旅をしているらしい。
一度彼女から手紙が届き、精霊を殴り飛ばして結果的に恩があるので、
社交辞令で当たり障りないお礼と返事をしたら、また向こうから、
返ってきてと、何だかんだと文通が続いている。
色々な国のことを知れるから、これはこれで結構楽しいし、
何より、彼女のあけすけな性格は、今の私にはホッとするのだ。
執務作業をしていると、コンコンとドアがノックされて返事をすると、
ルイスお兄様が顔を出して入って来る。
「ただいま、ライラック」
「お帰りなさい。ルイスお兄様」
「…まだ仕事してるの?夕飯は?」
「うん。これ、やってからにしようと…」
「ったく…ほら、明日にしなって!」
「え…ちょっ…ひゃあっ!」
ルイスお兄様は、スタスタと私に近づいてきて書類を取り上げて、
私をヒョイッと抱き上げ、その場でくるくる回った。
魔術師のローブが舞って、まるでダンスでもしてるみたいなルイスお兄様に、
上目使いで見つめられ、思わずときめいてしまう。
「もっ、もぉ〜何してるのぉ⁉︎ 目が回るっ‼︎ 」
「ふふっ、植物図鑑やっと完成したよ。初版貰ってきたから見たい?」
「えっ、本当⁉︎ 見たいです‼︎ ルイスお兄様」
私は、抱き上げられた状態で足をジタバタさせる。
ルイスお兄様は、綺麗な銀色の瞳を細めて嬉しそうに笑う。
表情が豊かになって、益々綺麗さと格好良さが爆上がりで、
ご令嬢達が、リアムお兄様並に騒ぎ出してるみたいで、心配になってしまう。
「来年結婚するのに、いつまでお兄様呼びする気?」
「あっ、ごめんなさい…つい癖で…」
「まあ、いいけどさ」
「それより、図鑑見せてください!図鑑!」
「はははっ、まったく…」
そうなのだ。私とルイスお兄様は今現在婚約していて、
そして、来年結婚する。
彼は副師団長になっており、魔術師の仕事を続けながら、
私が主導で領地経営して、お兄様は婿として補助するというていで、
二人で伯爵家を継いでいく予定なのだ。
そして、なんとリアムお兄様も、騎士団の副団長補佐になったのだ。
なんでも、女王陛下の前に立てる地位に上り詰めて、
見返してやろうと、二人で約束していたらしい。
授与式で、どんな顔するか楽しみだと、二人で凄く悪い顔をしていた。
* * * * * * *
騒動が収まり、私が元気になって間も無く、
ルイスお兄様から話があると言われ、彼に愛を告げられたのだ。
結果的に私も受け入れて、私たちは婚約した。
「…ライラック、初めて会った時から好きだった。
心から嬉しそうに、フラワーボールを抱きしめる可愛い君を見て、
今まで感じたことのない感情が沸いてきて…今思うと、一目惚れだった。
そして、俺が作った腕輪が左腕から見えた時、運命だと思った。
君の悲惨な依頼指示書の詳細を読んだ時から、俺は他人ながら胸が痛み…
ずっと忘れられなくて…あの日から俺の頭の片隅に、いつも君が居た」
「それは、その…同情とかでは…なくてですか?」
「正直最初は、そうだったと思う。
でも、君と話しているうちに…どんどん惹かれていった。
俺が無表情でも無愛想でも、君は普通に接してくれたし、
ライラのその偏見のない平等な優しさが、生き抜くために感情を殺した
俺の心を少しづつ…溶かしてくれたんだ。
そして、どんなに小さな事にでも、そこから幸せを感じられて喜ぶ、
君の純粋で素直な心が本当に愛しくて…それを失いたくなかった。
そして、これが愛情だと自覚したんだ。こんな気持ちのまま…
兄でいるのは耐えられそうにない…」
「ルイス、お兄様…」
「迷惑なら、独立して伯爵家を出ていくから…
返事を…聞かせてくれないか?」
ああ、ルイスお兄様の “尻尾” がっ、すっごく下がってプルプルしてるわ…
めちゃくちゃ緊張なさっているのね。
「本当に…わ、私で、いいんですの?」
「…え?」
「私も好きです…ずっと側にいてくれたのが、ルイスお兄様で…私…
凄く嬉しかったし、安心してました」
「それって…え?」
「私もルイスお兄様が好きです。
兄としてではなく…一人の男性として…」
「……うん…ありが、とう…」
“尻尾” がユラリと揺れ、パタパタ動き出す。
「では、ルイスお兄様は、私の入婿になるんですね?」
「そうだね、婿入りするよ」
「ふふっ」
「ライラック、愛している」
「私も、ルイスお兄様を愛してます」
いつも一番側にいて、私を支えてくれたのは、この人だった。
嵐が怖くて眠れなかった時も、陽だまりのような温かな優しで包んでくれた。
私が抱えきれなかったお母様への罪悪感も払拭してくれたのは、この人だった。
いつだって…私を守ろうと必死だったのを朦朧とした意識の中で覚えている。
こんなの…好きになるなって方が難しいわ。
ルイスお兄様に愛を告げられて、私は嬉しい反面こうも思った。
“あわいの告げ部屋” は、私を救う存在、あるいは、将来の夫として、
ルイスお兄様を選んだのかしら、と。
じゃあ、やっぱり私たちの出会いは、ルイスお兄様のいう通り、
運命だったのだろうか。
ルイスお兄様に、ぎこちなく抱きしめられ、
窓ガラスに映る自分の姿に、エリザベスお母様を想う。
私が抱きしめられているけど、お母様も抱きしめられているみたい…。
ねえ、お母様、見えている?
私、自分の人生を生きて、幸せになれそう─────。
* * * * * * *
「お前は、平気だったのかよ?」
以前、ルイスに女王陛下に父親を奪われた時に、
どう思ったのか聞いてみた。
そうしたら、あいつはいつもの無表情を少し崩してこう言った。
「俺だって平気じゃなかったさ。
でも、理不尽さや悲しみより、怒りが強かったんだ。
感情を殺して、つけ込まれないように無表情の仮面をつけた。
気がつかなかったか?俺は、父上を取り上げられた時から、
魔力が強くなったんだ。怒りを魔力の研鑽に全て注いで力に変えた。
そして、魔術師団の中で功績を上げて、勲章をもらう授与式で、
あのクソ女王の前に立って、父親を奪い取ったその息子が、
立派に大成しているのを見せつけてやろうと思ったんだ。
それが…俺なりの復讐だ」
「マジかよ…何それ。超格好いいじゃん。益々俺バカみてーだわ」
「ふふっ、お前の気持ちも分かるから、俺は成人するまでリアムの素行に
口出ししなかったし、放っておいたんだ。
だが、どんどん捻くれて悪い方へ爆進するお前を見て、頭痛くなったけどな。
でも今は王配殿下の父上に、守ってくれたあなたのお陰で、
俺は立派になりました、という姿を見せたいんだ」
「そうか…なるほど。出世もするし、いい事だらけだな」
「お前も頑張れよ。それで、俺たち双子そろって授与式出てやろうぜ?」
「うん…目立つ地位にいれば、クソ女王も無闇に手出し出来ないしな…」
「クソ女王がどんな顔するか、楽しみだろ?」
「はははっ、お前本当にいい性格してんな。最高だぜ‼︎ 」
そして、それは実現した。
ルイスは魔術師団の研究部の副師団長、
リアムは騎士団の副団長補佐、二人揃って最年少出世で、
優秀でしかも見目麗しい双子に誰もが注目した。
「ルイス・リン・ガーディア殿、
リアム・デル・ガーディア殿、前へ」
謁見の間の授与式で、名前が呼ばれた双子を見て、
女王陛下は、徐々に顔を強張らせていた。
目の前で綺麗な礼をとり、不適に微笑む美しい双子の兄弟。
かつて、ある家族から無理やり強奪した夫、
王配殿下と、そっくりの顔 ────────。
屈辱で笑顔を歪ませながら、
震える手で勲章を双子に授与した。
女王陛下は惚れた弱味で、今や王配殿下なしでは居られない依存状態。
彼の長年の献身という名の洗脳に、完全に支配されている。
今や国家権力を握っているのは、王配殿下と言っても過言ではない。
美しい色気のある王配殿下の優しげな言葉や笑顔の裏には、
誰より計算高く、巧みな心理誘導を用いて、心の隙間に入り込み、
相手の欲望を煽って、正常な判断力を奪って支配する。
女王を拒絶しない飼殺し状態を彼は全て計算して、実行している。
高位貴族の武器、相手を欺き自分が優位に立つ、
それを問答無用に行使している、恐ろしい性質を隠しているのだ。
授与式の後、目の上のタンコブの存在が、表舞台に出てきてしまい、
女王は相当荒れたらしいが、それも彼に一瞬で諫められたそうだ。
そして、後方で控えていた王配殿下は、
女王陛下が前を向いているのをいいことに、自分の息子達の功績を喜び、
誇らしげな満面の笑みで、授与式を見守っていた。
そして、我が息子達の方へ視線を合わせ、小さく頷き微笑んでいた。
双子の兄弟は、前門の女王陛下の青ざめた顔と、後門の嬉しそうな王配殿下の
あまりの温度差に、肩を震わせ笑いを堪えていたという。
* * * * * * *
「お嬢様ー、ウェディングドレスの採寸のお時間です。
仕立て屋の方々がお見えですよ」
「はーい、今いくわ、ベラ。ルイスお兄様、私ちょっと席を外しますわ」
「俺が執務やっておくから、もう君はそっちに集中したら?
ウェディングドレス姿、楽しみにしてるよ」
「えー採寸終わったら戻ってきますわ。
そういえば、お兄様は、魔術師団の制服なんですよね?」
「そうだよ」
「私も着飾った格好いいお兄様見たかったのに…」
「披露パーティーでは、新調したスーツ着るから楽しみにしてて」
「まあ、本当ですか!楽しみにしています!
そうだ、ウェディンドレスのデザイン選びに、ミュレルお母様が、
同席してくれるんだったわ。経験者に色々教えていただこうと思って。
急がなくてはっ、もう行きますね」
「あ、そうだ。いい加減、お兄様呼び禁止ね」
「え…」
「ほら、言ってみてライラック」
「ルイス…おに…」
「ん?」
「ルイス…様」
「うん。良くできました。慣れてね、ライラ。
ふふっ、真っ赤になっちゃって可愛い」
そう言って、彼は私の額に口付けを落とす。
ルイス様こそ、クールな顔して “尻尾” が歓喜してグルングルン
荒ぶってるのバレてますわよ。
「またイチャついてるー。俺は、まだ恋人も出来てないってのに!」
「お、お帰りなさい、リアムお兄様」
「お帰りリアム。お前は作らないだけで、モテてるだろ?」
「だから、俺の外見じゃなくて、中身を見て欲しいっての‼︎」
「贅沢言うな、身の程知らずが」
「ああ⁉︎ オメーは結婚決まってるからって余裕だなぁ‼︎」
「まあまあ、涙拭けよ」
「ライラックちゃん、ルイスが虐める!」
「うふふふっ」
闇を纏っていたリアムお兄様は、今ではすっかり鳴りを潜めて、
ルイスお兄…ルイス様と、同じ光を纏って輝いている。
そして、仲良く言い争っている双子の義兄は、
両方ともシンクロするように、
“尻尾” が、同じ動きで仲良くブオンブオン揺れている。
私はそれを眺めながら、笑いを堪え、
可愛い〜‼︎ と心の中で悶えている。
そして、今でも私が “尻尾” が見える特殊能力を知っているのは、お父様だけ。
多分この秘密は、他の人には言わないと思う。
これは私だけの楽しみ。
私だけの “秘密” だ。
完
最後まで、ご拝読ありがとうございました。感謝いたします。




