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【完結済】銀の光、金の闇 ~双子の兄と私の秘密~  作者: 米野雪子


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魔術師団医療部





「貴族学院からお嬢様宛に、卒業資格取得証書が届きました。旦那様」


「そう、か…」


「流石ですね、お嬢様は…」


「そうだな…元気にしているだろうか」


「入院してから1週間ですね」



卒業資格取得証書が、ガーディア伯爵邸に伝達鳥で今日届いた。


本人がこの場にいないのが、残念だが…


ガーディア伯爵と侍女のベラは、

寂しそうに、よく晴れた窓の外を仰ぎ見た。




* * * * * * *




「聞こえるかな?ライラック」


「はい」


「何を思い出したのか、今日は言えそうかい?」


「はい…」


「ゆっくりでいい。無理だったら途中で辞めていいからね」


「はい」





全て思い出した。


私が何も考えずに、可哀想だからって犬を助けたから…

それが全ての元凶だった。


当時7歳の私は、家族でピクニックに行った森の中で、

傷ついた犬を見つけて家に連れ帰り、傷を治してあげた。


しかし、それは “死の森の精霊” の化身で、

犬だと思っていたそれは、狼だった。


私はその子を可愛がり、すっかり情が移ってしまい、

森に返そうと説得する両親を困らせ、その子抱き締めて嫌がり大泣きした。


そして、知らぬうちに精霊に気に入られ、番としての印をつけられてしまった。

私の “尻尾” が見える能力は、この時に授かったものだった。


なんとか説得され、森に狼を返して、

その2年後の9歳の時、嵐の夜に “死の森の精霊” は私を迎えに来た。


運悪くこの日は、お父様は出張で不在。


お母様は娘を連れて行かせまいと、私をしっかり抱きしめた。

しばらく言い争っていたが、どうしても娘を渡さないお母様は痺れを切らした

“死の森の精霊” の怒りを買い、背中を爪で傷つけられて、死の呪いを受けた。


精霊の呪いは、魔法でも解く事はできない。

そして、お母様は5年後に亡くなった。





「私が死ぬべきだったの…

 それか、精霊と一緒に行っていれば…

 お母様は死なずにすんだ」


「ライラック…」



ルイスは、笑わなくなった彼女を悲しそうな瞳で見ながら、

力なく俯くライラックの手を取った。



「私は、間違いを犯しました。

 そのせいで、お母様は呪われて命を落とし、

 その原因である私は、あろう事か、その事を忘れていたのです。

 私、自分が許せない…」


「人間は間違いを犯すものだ。

 それに君は怪我した犬を助けただけだろう?

 それに記憶阻害をかけたのは俺たちだ。君が忘れていた訳じゃない」


「それは、私を守る為でしょう?守られる価値なんてないのに…」


「正しいことだけして、生きている人間などいないよ。

 間違えるからこそ、そこから学び、次に生かして進化していく。

 俺だってそうだ。人は沢山間違って…周りに迷惑をかけて生きていくんだ」


「でも、命を奪う間違いは、あってはいけないわ…とても、罪深いことです」


「いいかい?君のお母様は、命をかけてライラを守ったんだ。

 そんなお母様に、謝ったり、自分が死ねば良かったなんて

 言っちゃいけない。それこそ、彼女の死が無駄になる」


「分かってます…分かっているの…でも、でもっ…どうしても…

 お母様には生きていて欲しかった…もし私がいなくなったとしてもっ」


「…子供に先立たれたり、行方不明になった親が、

 どんな気持ちになるか知っているかい?」


「…あ……」


「ずっと後悔するんだ。ああすれば良かった、こうすれば良かった。

 何で気がついてやれなかったんだと、何度も何度も考えて…

 そして、全て己のせいだと自分を責め続ける。

 行方不明はもっと悲惨で残酷だ。微かな希望にすがり、愛する我が子を

 永遠に探し続けるんだ。そして、何度も最悪のことを想像して、

 その痛みに心が壊れていく。親にとっては生き地獄だよ。

 まるで自分の身を切る痛み…いや、魂を削る虚無に変わり、

 何をしても、何も感じない廃人のようになる人達を俺は何人も見ている。

 職業柄そういう依頼が、時折あるから…正直、俺も辛くて逃げたくなる。

 でも、救える命もあるんだ。だから…続けていられるんだよ」


「ご、ごめんなさっ…私…」


「謝らないでライラック。

 聡明な君なら、お母様の愛を感じられるはずだ。

 だから、生きてくれ…自分の為に生きられないのなら…

 君を愛しているお母様のために、お父様の為に…そして俺の為に。

 生きていてくれるだけで、君はその人達の心を支えてる存在なんだ」


「ルイス…お兄様っ…」



届いただろうか。

深淵の底に沈もうとしている君に。


ルイスは、肩を震わせて泣き崩れるライラックを強く抱きしめた。


それに、まだ油断できない。腕輪を外している時間が長すぎたのだ。

気配を消していたライラックを探して、精霊が嗅ぎつけてくるかもしれない。

そっちも対策を急がなければ。




* * * * * * *




「は?何でここにいんの?」


「おい。お前、あからさま過ぎだろ」


「先触れは?」


「ちょうど近く来たんだよ」


「やっぱ、付き合ってんの?」


「違うってんだろ。ここに来る時に、中庭で鉢合わせたんだ」


「迷惑なんだけど。まだ治癒中だし」


「あのっ、申し訳ありません。面会させろとか言うつもりはありません。

 これを…ライラックさんに渡していただけませんか?」


「…何、これ」


「学食のデザートのアップルパイです。ライラックさんがお好きだったので…

 これをお見舞いにと思いまして…」


「……分かった。でも彼女、まだ安定してないから、

 様子によっては渡さないけど、それでもいい?」


「はい」



ミランダから箱を受け取り、さっさとルイスは応接室を後にした。



「ありがとうございました。リアム様」


「いや、俺こそ、この間…酷いこと言ってごめん」


「いいえ。私も人の事を非難する資格など…ありませんもの」


「でも、偉いね。こうやって償おうとしてるんでしょ?」


「……許して貰おうとは思っていません…でも、私どうかしていたんです。

 初めての恋に浮かれて…愚かなことをしてしまいましたわ。

 これくらいで、ライラックさんの傷が癒える訳でもありませんもの」


「それは本当に俺が悪かったんだし…俺も今まで誤解して捻くれてたし…

 その考え方改めようと今奮闘中。お互い頑張ろうね」


「はい、そうですわね」



ボルドー侯爵令嬢を学院に送り届け、俺は騎士の仕事に戻った。


ライラックちゃんの過去に何があったのかは、俺はまだ教えて貰えていない。

ルイスに信用されていないから、仕方ないが。


何度か面接したが、一切笑わなくなったライラックちゃんを見て、

俺は自分のした稚拙な愚かさに、本気で自分を律しなければと思った。


みんな心配して、俺をどうにか道を外させないように、してくれていたのに…



“ お前は、ガキみたいに、

悪戯に騒いで問題を起こしているだけだ ”


“ この蝙蝠野郎が ”



あの野郎…いっつも確実に大ダメージ与えて、えぐってくる

言葉ばかり俺に吐きやがって。だから嫌いなんだ。


まあ、全て本当の事だから刺さるんだろうけどな…。

俺は、父親に捨てられてから、自分を偽り、心を殺して、

人の顔色を伺って分析し、人に嫌われない術を会得した。

そして、自分の外見を利用して、笑顔で人を欺いて生きてきた

ゲス野郎になったのは事実だ。


でも、ルイスだって辛かったはずなんだ。

そうだ……なんで忘れていたんだ。

俺は自分のことばかりで、全然気がつかなかった。


あいつが、あんな無表情になったのは、

父親に捨てられた時からじゃないか。




* * * * * * *




ライラックの精神状態は、あまり良くなかった。

魔法で治癒を施しても、一時的に良くなるだけで、

本人の生きたいと思う力が弱すぎる為、すぐ元に戻る。 


魔法は永続的ではないし、万能ではない。

生きてくのに必要なのは、本人の心持ち次第なのだ。


このまま延命し続けても、本人は幸せなのだろうか…

時々俺はそんな悲観的なことが頭に浮かび、その度に払拭した。


俺がこんなに弱気でどうする。


今の彼女には、自分が生きていていい、理由が必要なのだ。


そして、彼女の母親から預かっていた物を見せようと、

ライラックの元へ向かった。


これは最後の手段にしたかったが、

このままじゃ…ライラックは衰弱死してしまう。



「ルイスお兄様、どこへ行くのですか?」


「ライラックに見せたい物があるんだ」


「見せたいもの?」


「うん」



二人は今、円柱の魔法塔の螺旋階段を登っていた。

ここには、魔術師団の研究部がある。

関係者以外立ち入り禁止の厳重な建物。

ルイスは、ライラックの手を引き、一番上の部屋を目指していた。






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