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【完結済】銀の光、金の闇 ~双子の兄と私の秘密~  作者: 米野雪子


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兄弟喧嘩




ライラックの父親、ガーディア伯爵は、憔悴して眠っている、

娘を大事そうに抱えて、慰めるようにずっと無言で背中を撫でていた。


沈黙の移動中の馬車の中、ルイスがリアムをギロリと睨む。



「リアム。この件…お前が関係しているのか?」


「あーもしかして気づいた?だから、勘の良い奴は嫌いなんだよ」


「ほお、拷問されたいか?」



ルイスは、迎えの席に腰掛けているリアムに対して、乱暴に右足を振り上げ、

リアムの左肩のすぐ横の馬車の壁へ、ドカッと靴で突き蹴った。  

その突然の暴挙に、伯爵とリアムはギョッとする。 



「ちょっ、お前、なんつーことすんだよ!

 ただでさえ狭い馬車の中で、逃げ場を奪うんじゃねぇ!」


「さっさと言え」


「…ルイス、ライラックちゃんの事になると、人格変わりすぎだろ」


「そうか、顔を蹴られたいんだな」


「待て待て待て!その…直接的に俺は何もしてないけど…

 まあ、元は俺の軽率な嘘のせいだ」



殺意ダダ漏れのルイスに睨まれながら、

さっきの侯爵令嬢との話も含めて、事の次第を説明した。



「…という訳」


「……はあ。やっぱりあの女意図的かよ。しかも、お前の虚言を真に受けて。

 リアムいい加減に、その場しのぎの都合のいい嘘をつく癖をやめろ。

 何より最悪なのは、お前はいつも周りを巻き込んで被害を広げる。

 嘘をつくのは勝手だが、一人で勝手に苦しみ、一人で勝手に不幸になり、

 一人で完結して勝手にくたばれ、阿呆が」


「ひでぇ…双子の実の弟にそんな言い草。いくら俺でも傷つくんだけど」


「他責思考の奴は、基本悪いのは全部自分以外だろ。

 何が傷つくだ、笑わせるな」


「……他責思考で悪かったな。

 でも、ライラックちゃんに迷惑かけるつもりは、本当になかったんだ。

 それに…そんなに簡単に性格は直せねーよ」


「…お前は過去に何度もこういう事して、問題起こしてるだろうが。

 俺が何度尻拭いをした?母上が何度周りに頭を下げた?

 いい歳して、いつまでもガキみたいに捻くれやがって。

 永遠に実父を恨むつもりか?過去に縛られ過ぎなんだよ!」


「…その話を今蒸し返す?」


「お前が歪んだのは、それが原因だろうが」


「俺らを捨てた奴が、今ものうのうと何食わぬ顔で、王配やってりゃ、

 ムカついて当たり前だろ!ルイスはあいつを許せるのかよ!」


「リアム、伯爵の前だぞ」


「隠さなくても、伯爵は知ってるだろ」


「リアムくん…」


「父親に捨てられたんだ、俺たち家族はっ…」


「そうだね。父上のデリー公爵が女王陛下の強い希望で王配に選ばれ、

 君たち家族は強制的に離縁させられ、父親から引き離された。

 いくら国の為とはいえ、本当に酷い暴挙だった。

 挙句に女王陛下が略奪したなんて外聞が悪いからって、世間的には、

 デリー公爵が女王に一方的に懸想して、家族を捨てた事にされたし。

 君はまだ小さかったから…そんな大人の事情など理解できなかっただろう。  

 さぞ辛かったし、悲しかったし、信じられなかっただろうね。

 それに、父親に捨てられたと、周りからも偏見や誹謗中傷で、

 理不尽な噂に晒され、悔しい思いも沢山しただろう。 

 でも、今は君は成人している大人だ。事情は…理解しているね?」


「ああ…分かっています…でも…」


「うん。まあ…それでも、許せないのは分かる。

 君たちの境遇を考えると、本当に気の毒だとしか思えない。

 女王陛下が独占欲が強く、未だに君たちとの交流を許していないからね」


「別に父親に会いたい訳じゃない…

 だけど家族を捨てた事実は、変わらない。それが許せない…」


「いい加減にしろ。いくら恨んでも、俺たち家族は元に戻れないんだ」


「俺は、お前みたいに割り切れないんだ。

 お前らはいつだってそうだ。あんな奴らに黙って従って…

 俺は、惨めくさいのが我慢ならないってんだよ!」


「じゃあ、一介の騎士のお前に何が出来る?

 王家に対抗するための手段も、後ろ盾も、権力も、地位もない、

 ただの騎士のお前に!

 奴を見返したいのなら、出世して王配の前に立てる地位を手に入れてみろ。  

 死に物狂いで努力をして登り詰めてみろ!

 今のお前は、ガキみたいに、悪戯に騒いで問題を起こしているだけだ」


「腹立つな…お前はいつだってそうだ。

 正論で相手をねじ伏せて、逃げ場をなくす。さぞ気持ちいいだろうな」


「論点ずらしするな、負け犬」


「少し…いいだろうか、二人共」


「はい。どうぞ、ガーディア伯爵」


「女王陛下の苛烈な性格と、横暴さに臣下達もいつも振り回されて、

 不満が出ている。特に恋情絡みは、自分の感情を自制できない方なんだ。

 彼女がおかしな真似をしないように、それを抑えてくれているのが、

 君達の父上、王配殿下なんだ。彼なりに、国や君たちを守っているんだよ」


「…ただの綺麗事にしか聞こえない。あいつは俺たちには何も言わねぇし」


「そうだね…実は……君たち家族は女王にとって邪魔だと判断されて、

 処刑されて排除される寸前まで行っていたんだ。

 それは流石に残酷すぎるし常軌を逸していると、臣下達と側近、

 そして君たちの父上の協力の下で、なんとか否決させて止めたんだ」


「なんだ…それ…知らないぞ?」


「あんまりな権力乱用だったからね。秘匿にされていたんだ。

 私は近くで仕えているから分かる…

 デリー公爵は、変わらず君たちを愛しているし、大事に思っている。

 夫が居ない君たち家族が、親族の先を転々として、

 何とか暮らしてこれたのも王配殿下の采配だった。

 しかし、それを女王が知ってしまって、高齢の低位男爵を母上に縁づけて、

 屈辱を与えようと画策していたんだ。

 そして、私に保護して欲しいと彼に頼まれ、今回の偽装結婚に至ったんだよ」


「そうだったんですか。そこまでは俺もわかりませんでした。

 話していただいて…ありがとうございます。ガーディア伯爵。

 そして、改めて御礼を言わせてください。本当に感謝しております」


「………そん、な…本当に?」


「事情があって離れただけで、君たちは捨てられていないし、

 勿論見捨てられてない。デリー公爵は、君たちを女王から守っているんだ。

 君たちと全く接触しないのは、そういう事情だ。

 それだけは覚えていておいて欲しい」


「なんだよ…それ…何でっ、俺、馬鹿みてーじゃん…」


「君は、幼少の時に父親を突然取り上げられ、沢山傷ついたのだろうね。

 そして、傷つくことに臆病になり、それを避ける為に、

 今までその場凌ぎの都合のいい嘘をついて、自分を守ってきたんだろう。

 複雑な環境で育った知恵だと思うが、もうやめたほうがいい。

 悪気がなくても、君のついた嘘で、現にライラックはこんな事になり、

 ボルドー侯爵令嬢も一時の感情で間違いを犯し、恐らく苦しんでいる。

 行き着く先は、嘘で嘘を重ねないと成り立たなくなり、

 取り返しがつかなくなる。自分の意思で、納得してそれ以上道を違えるな。

 そして、自分を大事にして欲しい。デリー公爵の献身を無駄にしたらダメだ」



リアムは両手を顔に覆い、肘を膝の上に置いて前屈みで俯いた。

ルイスは、腕を組んでその様子を静かに見ている。

そして、穏やかな微笑みを浮かべている、ガーディア伯爵の腕の中の

ライラックが微かに身動ぎして目を開いていた。



「……今の…話…本当…なの?」


「ライラック⁉︎ 起きていたのか?」


「ミュレル…お母様と、ルイスお兄様…リアムお兄様…

 可哀想……何も、何も悪く…ないのに…酷い……怒るのは…当然だよ」


「ライラック、ちゃん…」


「リアムお兄様…ルイスお兄様…私…

 お二人の…辛さに気づけなくて…………ごめんなさい」


「いや、いいんだ。ライラックちゃんには関係ない事だし…

 君が謝まる必要はない。

 それより、ごめん…俺の嘘のせいで…こんな目に合わせて」


「ううん。私…ミランダ様に…やっぱり嫌われていたのね…

 何となく、分かってたの…リアムお兄様が…目当てだろうなぁって…

 友達できるかも、なんて…浮かれて…馬鹿みた…い」


「ライラックは悪くない」


「…ルイスお兄様。

 ミュレルお母様と二人とは…

 私は、違うの…こうなって…当然なの…」


「思い出さなくていい。忘れるんだ、ライラック」



ガーディア伯爵は、優しく娘の頭を撫でて宥めているが、

ライラックは、自分を許さなかった。



「だって、私は…

 お母様を殺しちゃったんだもの…」



ライラックは、また眠るように気を失ってしまった。

まるで、生きる気力を無くしてしまったように。


伯爵邸に到着して、侍女のベラが大事そうにライラックをベッドに寝かせ、

今にも泣き出しそうな顔で、献身的に世話をしている。


ルイスが、魔術師団管轄の医療部の申請をして、

来週からライラックはそちら預かりの入院になる。


彼女は起きていても無気力で泣いてばかりで、

一向に良くならなった。



そして、ライラックから笑顔が消えた。







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