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【完結済】銀の光、金の闇 ~双子の兄と私の秘密~  作者: 米野雪子


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金の暗澹






「はい、どなたですか?」


「こんな朝早く、すみません」


「リアム様…いいえ、どうなさいました?

 もしかして…ライラック伯爵令嬢に何かありましたか?」


「いいえ。まだ目を覚ましていませんが、

 今は熱は下がって容体は安定してきてるって、ルイスは言っているので、

 大丈夫だと思います」


「そう、ですか。とりあえず良かったですわ…こちらの不手際で…

 大切な妹君に、本当に申し訳ないことをいたしました」


「いいえ…こちらこそ、昨夜はルイスがあのような態度で…

 申し訳ありませんでした」


「いいえ、ご家族が危ない目にあったのですもの…お怒りは当然です。

 こちらこそ、お嬢様に危害を加えられたとカッとしてしまい、

 大変失礼な物言いをしてしまいました…」


「…まあ、それはお互い様って事で。

 それで、ボルドー侯爵令嬢は、起きてます?

 少し聞きたいことが…いや、確認したいことがあるんですが」


「申し訳ありません。昨夜なかなか寝付けなかったようで、

 まだお眠りになっています」


「そうですか…起きたら知らせて貰えま…」


「…リアム、様?」


「お嬢様、お目覚めですか?今リアム様が…」


「えっ、あ…あのっ、今起きたばかりで酷い格好なのです。

 身支度したいので少しお待ちになって貰ってもよろしいですか?

 すぐ、いたしますので…」


「いや、こちらこそ突然申し訳ありません。

 俺は宿の食堂でお茶でも飲んでるので、身支度ゆっくりしてください」


「は、はいっ」



バタン…



高位貴族令嬢は、こんな時でも外面を気にするのか。

それは気にするのに、ライラックちゃんの様子を一言も聞きもしなかった。


リアムは、小さくため息を吐き、

トントンと階段を降りて宿の食堂へ移動した。




* * * * * * *




嵐も過ぎ去り、窓の外は晴れ渡っていた。

まるで昨日の嵐など、なかったように。

付きっきりだった俺は、一睡もしていない。

リアムは少し用事があると言って、さっき部屋を出て行った。


ライラックの寝顔は、昨日より大分生気が戻ってきたように感じた。

熱も下がったし…後は目を覚まして、ゆっくり休めば問題はないだろう。

身体に関してはのことだが。


彼女は少なからずショック状態で気を失っている。

今現在、精神的にどれくらいの深刻なダメージを受けているのかが、

一番の問題だった。


封印した記憶をどこまで思い出しているのか…

腕輪を外したくらいでは、その効力はすぐに失われないはずだが、

記憶阻害を持ってしても、あの出来事が起こった嵐の夜の恐怖だけを

彼女は忘れなかった。


嵐の中一人きりで放置され、守護の腕輪もない状態で恐怖に呑み込まれて…

間違いなく、記憶が戻る要因の引き金になっている。




「………っ、……」



小さな呻き声と身動ぎした音で、ルイスは弾けるように顔をあげる。

すると、ライラックは瞼を震わせながら薄く目を開いていた。



「ライラック…良かった。…具合は…気分はどう?」



宝石のようなピンクがかった紫の瞳から、ポロポロと涙が流れ落ちる。

彼女の瞳は、ぼんやりしていて何処も見ていない。



「…ライラック、聞こえるかい?

 もう怖くないから、安心していい。

 どこか痛かったり、苦しい所があるか?」



彼女は、力なく口を動かすが声が出ていない。

しばらく口を小さく動かしていたが、かすれた小さな声を絞り出した。



「…わた…し………のせい」


「え?」


「…たしの…せい、で、……お母さ…が…死んだ…」


「何を言って…」


「……私の………せい、なの………

 私が………死ね…ば……よかった、の…」




彼女は絶望していた。


ああ…全て思い出してしまったのか。



ライラックの細い手を優しく包み込んで、

ルイスは祈るような格好で俯き、自分の額にあてがった。

そして、彼女にこう言った。



「違うよ。不運な出来事が重なっただけなんだ。

 ライラック、君のせいじゃない」



そして、コンコンと静かにドアがノックされた。




* * * * * * *




「お待たせいたしました」


「いいや、こっちこそ早朝にごめんね」



すっかり身支度を完璧に整えて、髪まできちんとセットされた

ボルドー侯爵令嬢が食堂に姿を現した。

淑女の嗜みなのだろうけど…こんな時でも完璧にやるんだねぇ。

大変だな高位貴族令嬢って。



「どうぞ、座って」


「は、はい。では、失礼します」


「何か飲む?」


「では、紅茶を…」



配膳係に注文して、すぐに紅茶が運ばれてくる。

平民用の宿屋だから、食器のカップも安っぽい。

高貴な彼女と釣り合っていない組み合わせに、思わず笑いそうになる。



「…昨日ルイスが余裕なくて辛く当たって、怖かったよね?ごめんね。

 どうやら、あいつ君の馬車にライラックちゃんが同乗してるの

 偶然見かけたらしくてさ、山に入って行ったのに、すぐ引き返してきて、

 変だと思ったら、ライラックちゃんの姿が無くて…

 嫌な予感がして、馬借りてすぐ探しに行ったんだって」


「そう、ですか…あの時、ルイス様も街にいらしていたのですね」


「戻ってきた馬車が街をしばらくうろついていた事にも、

 不信感があるらしくてさ。

 …所で、わざわざ引き返すほどの忘れ物って何だったの?」


「…え?…あ、あの…」


「あのさ、今の聞いて分かると思うけど、ルイスって洞察力が凄いんだよ。

 君がわざとライラックちゃんを置き去りにしたと思っているんだ」


「………わ、私……」


「本当はどうなの?嘘言っても、あいつは見抜く。

 魔術師だから魔力行使されたら、逃げ場がなくなるよ」



ああ、もう隠し通せないわ。


侍女はあえてこちらの私情や思惑は、言う必要はないと言っていたけど…

でも、誤魔化そうとすればするほど、そのうち辻褄が合わなくなって、

もっと酷い事になる。嘘を重ねるとまた嘘を重ねなくてはいけない。


そんな悪循環は嫌だし、苦しいだけだ。


そして、私はもう自分の良心の呵責に耐えられなかった。

素直に話してしまおう。そして…懺悔しよう。



「…………嫉妬、したのです…」


「嫉妬?…君が?ライラックちゃんに?」


「はい。……リアム様…おっしゃっていたじゃないですか…

 彼女が伯爵家の後継者で、あなた方を夫として選ぶ権利があると…

 私、リアム様に好感を持ち始めていましたし…

 二人を手玉にとっている彼女が許せなくて…それで…私…

 少しの間一人にして…怖がらせるつもりで…意地悪をしてしまったんです。

 馬車の故障は本当に偶然で、こんな大事にするつもりは、ありませんでした」


「え、あれ、本気にしたの?」


「…は?あ、あの…」


「あー、嘘だろ。俺の嘘がきっかけで、こんな事になったの?

 やばい…ルイスに殺される」


「嘘、だったのですか?」


「うん。俺この顔であの職業で、良くご令嬢が寄ってくるんだよね。

 彼女達は俺の見目しか見てないし…正直迷惑だったんだ。

 君を傷つけないように、円滑な断り文句のつもりだったんだけどなぁ。

 まさか、ライラックちゃんに矛先が向くとは予想外だった」


「そん、な…酷い…どうしてそんなっ、ちゃんと断っていただけば、

 私だって諦めます!どうしてハッキリ言ってくださらなかったのですか?」


「君こそ2回しか会ったことのない男に、なんで懸想できるの?

 俺のこと何も知らないだろ?」


「だから、もっと知り合う為にっ、お付き合いをと…」


「どうせ、この顔に惹かれたんでしょ?

 俺、この顔嫌いなんだよね。実父にそっくりで。

 悪いけど俺は、君が目をキラキラさせて思い描いているような、

 優しい男じゃないよ。自分の理想を勝手に押し付けないでくれないかな」


「で、では、なぜあんな周りくどい断り方をしたのですか?」


「高位貴族令嬢って面倒なんだもん。

 こっちは仕事上親切にしてるだけなのに、一方的に勘違いするし。

 自分の意思で断ると、納得しないでうるさく泣き喚いたり、

 不名誉な噂流したり、権力使って囲い込もうとしてきたり…

 ほんと色々でさ。おかげでこっちは、すっかり女嫌い。 

 だから、俺の意思じゃない断り方すれば、相手も傷つかないし…

 いい考えだと思ったんだけどさ。これでも気を使ってるんだよ。 

 それに、今回の君のその心理がよく分からないんだよね。何で諦めないの?

 しかも、憎しみが俺じゃなくて、なんでライラックちゃんに向くの?

 ライバル消したり、嫌がらせした所で、自分が愛される保証なんてないのに」



この方は…何を、言っているの…


私が愚かなことは認めるけど…なぜ、こんな他人事なの?


こんな方…だったなんて。


私………なんて、見る目がなかったのかしら。


グラグラと自分の幻想が崩れ、

この男の残酷な本性に晒されて目眩がしていた。


リアムの華やかな、美しい金髪と碧眼。


だが、その碧い瞳の奥は、暗澹たる深い闇を抱えていた。

何もかも諦めて、何も望んでいない、陰鬱で共感性もない、

何も感じない空虚な心の持ち主。

よく分からない存在が、美しい人の形を保ち、人のフリして目の前にいる。


その対比が恐ろしく、ミランダは背筋が寒くなった。



そして、二人のなんとも言えない長い沈黙を破るように、

食堂にルイスが入って来て口を開く。



「リアム、帰るぞ。ガーディア伯爵が迎えにきた」


「マジ?早いな。ライラックちゃんの容体はどう?」


「目を覚ました」


「そっか、とりあえず良かった」


「目を覚まされたのですか? 私、お会いしたいです」


「駄目だ。話ができる状態じゃない」


「え…?」


「まだショック状態で、精神が非常に不安定なんだ。

 恐らく、魔術師団管轄の医療部預かりになる」


「そんな…」


「もう伯爵とライラックは、馬車に乗り込んで待機している。

 リアムも早く準備しろ」


「あ、俺たちの馬はどうすんの?」


「伯爵家の使用人が、後で乗って連れ帰ってくれるそうだ。早く来い」


「ああ、すぐ行く」



ルイスは、いつも通りのクールな態度で、

クルリと踵を返してローブを翻し、スタスタと食堂を後にした。






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