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【完結済】銀の光、金の闇 ~双子の兄と私の秘密~  作者: 米野雪子


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12/19

銀の激昂





「あ、あのっ突然申し訳ありません。

 あなた方が、窓から見えましたのっ…それで…ラ、ライラックさんは?」


「…見つかりました」


「ああ、良かったです…」


「意識不明で倒れているのが、良かったって?」


「おい、ルイス…侯爵令嬢に向かって…」


「い、いいのです。リアム様。こちらが悪いのですもの。

 あの、違います、ルイス様。見つかって良かったって言いたかったのです」


「あんな場所に、なんで置き去りにした?」


「申し訳ありません…忘れ物を取りに行って…すぐ戻るつもりだったのです。

 でも、馬車の車輪が壊れてしまい…」


「ありえないだろ…ふざけるな。一緒に戻れば良かっただけだ。

 短時間でも、あんな天候の中に…あんな場所で、

 普通、令嬢を一人きりにするか?侯爵家ではそういう教育してんのかよ⁉︎」


「ルイス!お前、やめろって!」


「…ライラックの腕輪がない。もしかして、あんたが持ってる?」


「は、はい。お預かりしています…こちらに…」



差し出された腕輪を見て、ルイスは目を見開き、

乱暴にその腕輪を引ったくる。

驚いたミランダは、後ろに下がり尻餅をついた。



「きゃあっ‼︎」


「腕輪まで、この子から奪ったのか‼︎ 」


「お嬢様!」


「ち、違います!採取の時に泥で汚れるからと、お預かりしただけでっ…」


「手袋があるから腕輪なんて汚れないし、外す必要なんてない。

 それに…あんた、本当に淑女教育受けてんの?

 未成年の令嬢が、身内から贈られたアクセサリー外す意味分かってる?」


「そんなっ古い習わし、今は意味など関係ないのでは?

 ただのアクセサリーではないですか!

 あなた様こそ、女性に対してなんて乱暴なっ…無礼ではありませんか‼︎」



侍女が信じられないと言う態度で、ルイスに食ってかかって反論し、

小刻みに震えているミランダを抱き起こす。

ルイスは全く動じず、怒りに満ちた鋭い銀色の瞳を向け言い返す。



「古い新しいなんて関係ない。

 これは、彼女の亡くなった実母の愛と祈りが込められている。

 死してなお、娘の健やかな成長を祈り、家族との絆、親愛、そして守護、

 我が子を永遠に愛し、守り抜く意味があるんだ。

 それを第三者のお前ごときが軽々に取り上げて、

 その願いと想いを汚した挙句に、親との繋がりを引き裂いたんだぞ」


「知らなかったとはいえ…大事な物だったのですね…私が浅慮でした。

 申し訳…ありませんでした」


「もう、出て行ってくれ。あんたらの懺悔や言い訳なんか、聞いてる暇はない」


「ルイス、落ち着けって。…あのさ…ボルドー侯爵令嬢、悪いんだけど…

 今はライラックちゃんの容体を優先したいんだ…

 とりあえず一旦、退室してくれるかな?

 謝罪や詳細は、後日聞かせてもらうから…ごめんね?」


「は、はい。…わ、私が悪いのです…私がっ…

 申し訳ありませんでしたっ……ううっ…ぁっ…」



ボルドー侯爵令嬢は、ルイスの容赦ない口撃と非難に耐えきれず、

その場で泣き崩れた。泣きながら、何度も謝罪を繰り返すが、

要領を得ない一方的な謝罪に、ルイスは益々苛立った。



「泣くなら、どこかへ行け。ライラックの体に障る」


「…っ、……で、でもっ、私、謝りたいのです…ううっ…」


「目の前のライラックの姿が見えないのか?

 謝罪なんて、今気を失っている彼女には届かない。

 まずは、回復させないといけないんだ。

 あんたがライラックに、何を思ってこんな事したのか知らないが、

 罪悪感を解消する為の自己満足に、こっちに無駄な時間を使わせるな」


「で、ですがっ、私はっ…」


「静かにしろ。出て行け」



ルイスの低くて落ち着いた声が会話を遮る。

問答無用で言い放ち、クルリと踵を返してルイスは背を向け、

ベッドで眠るライラックの側に椅子を引いて座った。



「お嬢様…さ、行きましょう。ここにいてもご迷惑になります。

 では、ガーディア伯爵令息のお二方…お騒がせして申し訳ありませんでした。

 ライラック伯爵令嬢のご回復をお祈りします。…では、失礼いたします」



バタン



「あのルイスって方…優秀な魔術師らしいですが…

 なんて乱暴で、無礼なんでしょう…お嬢様、大丈夫ですか?

 先ほど転倒されましたが、お怪我は…」


「…いいのよ。あの方は、私がライラックさんに何をしたのか、

 大体察しが付いているみたいだし…責められるのは、当然よ…」


「お嬢様…」


「どうしたら…どうしたらいいのかしら…私…

 嫉妬を抑えきれず…こんな子供じみた意地悪をして、

 ライラックさんを傷つけてしまったわ…」


「とにかく…お互い落ち着くまで、離れていましょう…

 伯爵令嬢も、そのうち目を覚まします」


「ええ…。…そうだわ…お父様に馬車の故障で宿に泊まると、

 伝達鳥で伝えておいてくれる?」


「畏まりました。さ、戻りましょう」



侍女は、ルイスたちの部屋のドアを一瞥して、

自分たちの部屋へ引き返して行った。




* * * * * * *




「なあ、ルイス、何でボルドー侯爵令嬢が、

 ライラックちゃんを置き去りにしたの知ってたんだ?

 俺は宿で偶然会った侯爵令嬢に助け求められて、救出に行ったんだけど」


「先に、ガーディア伯爵…ライラックの父上に、伝達鳥で知らせろ。

 今日俺たちが宿に泊まること、そして今のライラックの状況を説明して、

 明日迎えの馬車の手配と、あと服の汚れが酷いから着替えも持ってきて

 欲しいと。俺は今、氷魔法でライラックの頭の熱を下げてるから、

 手が離せない」


「分かった。行ってくる」



リアムは宿の受付で、伝達専用の便箋を購入して、

必要最低限の内容を書き、それを封書に入れ住所を書いて、

窓を開けて放り投げるように手放した。

そして、封書は鳥の姿になり、嵐の中をフラフラ飛んでいく。



「伝達鳥飛ばしてきた。嵐だからフラフラして時間かかるが…」


「ああ、ありがとう。さっきの答えだが…

 薬草の買い出しにきた時、ボルドー侯爵の馬車にライラックが

 乗っているのを偶然見たんだ。でも、すぐ引き返してきて…

 その時ライラックの姿が見えなかった。

 あんな山しかない道から引き返してくれば、変だと思うだろ?

 それで嫌な予感がして、馬を借りて探しに行ったんだ」


「相変わらず凄いな、お前の洞察力。

 そのお陰でライラックちゃん、早めに見つけられたけど」


「予感が当たって欲しくなかった…

 あんな叫んでも、誰にも届かない場所で…可哀想に…

 たった一人で、怖かっただろうに」


「しかし、お前の言う通り、一緒に戻れば良かったのになぁ。

 軽く考えていたのかもしれないが…その辺は俺も分かんねーわ。

 でも、彼女も悪気はなかったと思うぜ?

 偶然色々重なっちまっただけで…それに本人も言ってたけど、

 腕輪は、単純に汚れないよう預かっただけかもしれないだろ?

 お前、幾ら何でも怒りすぎだって…あんなに泣かせて可哀想に…」


「ふん。あの令嬢の忘れ物って何だったんだろうな?

 しばらく見ていたが、馬車で適当に街をフラフラしていたけだったぞ。

 そんなに、あの令嬢の肩を持つなら、リアム、お前が聞いてみろよ」


「……それは、ライラックちゃんが回復したら聞いてみる」


「そういえば、噂になっているぞ。お前とあの侯爵令嬢が親しいって。

 だから庇うのか?」


「は?え…なんだよそれ、違うって!俺断ったし」


「断った?」


「ああ、2回しか会った事ないんだ。それも仕事中の偶然で騎士として、

 対応してただけで、親密度なんか全然高くなかったのに。

 したら…付き合って欲しいって言われてさ。

 俺、興味なかったから、ちゃんと断ったんだ。

 だから、今回のことには関係ない、はず…………ぁ……」


「何か心当たりあるのか?

 お前…変な振り方したんじゃないだろうな?」


「……いいや。ところで、その腕輪なんかあんの?」


「ライラックの実母からの贈り物だ。これには魔力が込められている」


「魔力って、気休めのお守り腕輪じゃなくて?」


「訳あって、加護と記憶阻害の付与をつけてるし、

 ライラックは、常時付けるように言われていたはずだ。

 それなのに…あの女が取り上げやがって…」


「加護と記憶阻害?なんだそれ?」


「この腕輪は、俺が14歳の時に仕事で付与したんだ」


「は?…ルイスそんな前から、ライラックちゃんと知り合いだったのかよ」


「俺は貴族学院に通いながら、魔術師として仕事もしていたからな。

 その時の仕事で、よく覚えているんだ。

 これは、腕輪に付与しただけだから直接は会っていない。

 でも、自分でやった物だから、彼女と初めて会った時に分かったんだ」


「加護はわかるが……記憶阻害って何?彼女に必要な事情があるわけ?」


「ああ。なぜ、それがライラックに必要なのか、何があったのか、

 経緯や状況や症状が、依頼指示書に詳細に書かれていたから俺は知ってる。

 だが、魔術師としての守秘義務がある。

 それに、お前口が軽いし、信用出来ないから教えない」


「ひでぇ…俺だって、ライラックちゃん心配してるのに」


「あの女は、何か隠している。

 さっさと謝って、根本的な問題を誤魔化そうとしてるのがミエミエだった。

 どうせ追求しても、貴族特有の世間体や体面にこだわって、

 否を認めないだろうけどな」


「あの女って、ボルドー侯爵令嬢?

 お前…大体察しがついてるな?だからあんなに激昂したのか?」


「うるさい。お前はあの女を庇ってたから同罪だ。この蝙蝠野郎が」


「……悪かったって…マジギレすんなよ、おかっねぇなぁ」


「俺は付きっきりでライラックの看病するから…

 リアムはベッドで寝てろ。ああ、その前に魔力で服乾かしてやる」


「魔法って便利だよな…お前もびしょ濡れじゃんか。自分を先やれよ。

 俺も起きてるよ。魔力ないから、お前みたいに看病は出来ないが、

 見守りぐらいはできるって」


「………ああ…」



ガタガタと暴雨で窓が激しく揺れ、

ガラスにぶつかっては落ちていく、滝のような雨。

真っ暗な雲は流れ、木々はしなり葉が飛び交って渦巻き荒れ狂う。


もう少し遅かったら…探しに行くのも難しかったかもしれない。


窓から、ライラックの寝顔へ視線を移す。

息をしていなければ、死んでいると錯覚しそうな、生気のない寝顔。




“お友達が出来そうなんです”


嬉しそうに俺に報告した、彼女の笑顔が頭をよぎる。




あの侯爵令嬢は、恐らく悪意を持ってライラックを置き去りしている。

馬車の故障は偶然だろうが…

遅かれ早かれ、ライラックを傷つける存在になっていた。


ライラックは感受性の強い子だから、薄々気がついていたのかもしれない。

初めての友人が、自分から離れていくかもしれないと。


だから、それを取り戻したくて…引き止めたくて、

信頼の証として、侯爵令嬢に大切な腕輪を預けたのだろう。







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